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【完結】どすこい令嬢の華麗なる逆襲~全てのフラグをぶっ壊せ!~  作者: いづかあい
第5章 与えられた役割の中で

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ナイトの突撃

「あンッの‥生意気の小娘が!!!」


バキィ。

フラムベルグ家の専用控室にて。

カシルと他の姉妹二人が見守る中、レジエンナの持つ扇子は、虚しい抗議音を鳴らしながら真っ二つに割れた。


それを見て同じくハニーブロンドの三女のリンジーはびくりと肩を震わせ、三姉妹で唯一の既婚者である黒髪の長女ユリアは呆れたようにため息をついた。


「ちょっとよしなさいな、レジー。…全く、それだからいつまでたっても貰い手が見つからないのよ」

「うるさいわ!!お姉さまも直接会えばわかるわよ!!少し位いい家柄だからって調子に乗って…!なぁにが自由のご身分が羨ましいですわー☆よっ!!」


粉々に砕け散った扇子の木枠はそのまま床に叩きつけられ、無残な姿になり果てた。


「レジー姉さま。あまり怒って暴れると、ボタンが飛びますわよ。‥無理して小さいサイズにしているんだから気を付けないと」

「余計なお世話よリン!!」


更に砕け散った木枠をヒールのかかとでゲシゲシと踏みつけると、さすがに憐れに思ったのか、傍に控えていた使用人がその残骸を回収した。


「でも、カサンドラ様の意見もあながち間違っては…」


カシルが言おうとすると、ギロリと睨みつけられたレジエンナの視線を受けて小さくなった。


「このままじゃ済まさないわよ…!ちょっと、ユリア姉さん!何かあの子に仕返しできるようないい手はない?!」

「仕返しって貴方‥あちらの方が格上なんだし、一応カシルの想い人でしょう?」

「そうなのっ?」


二人のやりとりを冷めた瞳でみていたリンジーは途端にキラキラと目を輝かせる。


「ああ、勿論‥何とかして彼女を振り向かせて‥僕だけしか見えないようにさせてやるんだ」


しかし、リンジーが思い描いた恋愛小説のようなロマンチックな返答ではない。

すん、と肩を落とすと顔を顰めた。


「カシル、頭大丈夫?その発言、恋愛小説においては二流の悪役どころか、官能小説の病んで振られる主人公の恋敵そのものよ」


あまりにも具体的でかつ的確な指摘に、カシルは少したじろいだ。


「な、なんだよ。僕のどこが‥」

「でも、カサンドラ様って貴方の二つ上で、わたしと同じ年齢よね…恋愛小説とかお好きかしら」

「聞いてないし…」


フラムベルグは、一男三女の四人姉弟である。

上から長女のユリア、次女のレジエンナ、三女のリンジー。そして長男カシルである。

一番下と長女の年齢差は12歳。カシルとリンジーは年齢は二つしか離れておらず、仲が良い。

同じようにレジエンナとユリアも互いに馬が合うらしく、喋り出すといつまでも話が終わらない。


「それにしても、いい男揃いね…」

「でしょう?!小娘のくせにあんなに引き連れて、生意気よね!…ちなみに私はやっぱり筋肉質の方が好みね。ヘルト様とか超好み。」

「あら、男は多少M気質(いじめがい)のある方が可愛いわ。…あの紫の子なんかいいわね」


嫉妬と妬みと欲望が入り混じった呟きをする姉二人を、リンジーは汚物を見るような瞳で見つめ、静かに首を振る。

リンジーは三姉妹においては、二人の姉をいい意味でも悪い意味でも手本にしてすくすく成長した。よって、真逆で生きる方がよりよい未来を掴めるという結論に達したのだ。


「ああ、ヤダやだ‥ああいう大人には絶対なりたくないわ!!まるで猛獣じゃない」

「…リンジーの発言もどうかと思うよ」


物色するように見つめる肉食姉(にくしょくあね)二人を横目に、草食タイプの二人も窓からそっと様子を窺った。

カサンドラは聖女ヴィヴィアンとなにやら話しており、二人でどこかに移動するのが見えた。


「ちょっと、私行ってくる!!」

「あ、リンジー!ぼ、ぼくも!」


そうして、フラムベルグ三女リンジーはナイトのごとく、カサンドラに向かって走りだした。


**


「向こうの応接室の一つが解放されているみたい。あちらに行きましょうか」

「そ、そうね。あの」


ヴィヴィアンはちらりとユリウスの方を見る。


「本日はカサンドラ様の護衛兼エスコート役です。何か不都合でも?」

「いいえ、別に…」

「ユリウスも仕事ですもの。…構わないでしょう?」

「あなたがそう言うなら」


(うーん‥どうしようかな、ユリウスもアードラとある程度は情報共有しているって話だし)


とはいえ、肝心のヴィヴィアンは私と二人で話をしたいようだ。

応接室に向かいながら歩いていると、どこからか躍り出たレイヴンに前を阻まれた。


「ヴィー、どこに行くんだ!‥俺から離れるなんて」

「レ、レイヴン様‥わ、私はずっと一緒にいてほしいとお願いした覚えはありませんわ!」


おや、これは。

どこかで見たことある風景だ。


(あれだ、レアルドの時と一緒だ‥)


ヴィヴィアンは本当にあしらうのが下手というかなんというか‥そして私はどうしてこういう場面に遭遇するのだろう。

私の横にユリウスが臨戦態勢で並ぶと、ヴィヴィアンは私の背に隠れてしまった。


「え っと、ヴィヴィアン?」

「お願い、助けてカサンドラ!」


そんなお願いされても。

どうしたものかと考えて居る間もなく、レイヴンは私の後ろのヴィヴィアンをぎっと見つめた。私にしがみつく彼女の手が一層強くなるのがわかる。


うーん‥私を挟んでの痴話げんかは勘弁してほしい。


「なぜ逃げるんだ‥俺はこんなに君を想っているのに!!」

「いや、それが重すぎるからヴィヴィアンも逃げるのでは?!」

「なんだと貴様!!」


あ、しまったつい本音が!

私がうっかり大売出しで販売した喧嘩をレイヴンは見事にお買い上げされてしまった。


残念ながら私の中のレイヴン・クロム情報はさっぱりだ。こいつにもシークレットフラグとやらはあるんだろうけど、あまりに関わり合いがなさ過ぎて、何がこいつの心の琴線に触れるのかとんと検討が付かない。

そうしているうちにも、レイヴンの顔はみるみる怒りに満ちていく。


(まずい、二の句が思い浮かばない‥さすがに詰んだ?!)


しかし、意外な人が突破口を開いてくれた。


「レイヴン・クロム。…君は正気か?」


ユリウスが私の前に進み出ると、レイヴンの表情からすっと怒りが消えた。


「!ユリウスしさ…っあ ええと」

「…女神神殿に努めていた時、君の姿をよく見た。敬虔な信仰心で毎日祈りを捧げていたのを覚えている。」

「お、覚えていてくださったのですか…」


言って、レイヴンは手刀で右からAの文字を示し、そっと胸に手を当てる。


(おお。アロンダイトの祈りの印…初めて見た)


あちらの世界で言う十字を切るような仕草だが、これは本当に女神信仰者しか使わないものだ。

考えてみれば、グランシア公爵家は神殿とあまり関りを持とうとしない。その点、フォスターチ公爵家はそちらの方面に権力が強いようだし、そういうものなのかもしれない。


「今の君の貌は、ハルベルン原典第7章43節…女神が地に封じたという悪魔そのものの顔をしている。…気付かないのか?」


(ハルベルン原典…そんなものがあるんだー…。聖書みたいなものかしら)


なんだか、この二人のやり取りは昔見た悪魔払いの映画のようだ。

ユリウスがレイヴンの相手をしてくれたので、私は後方に下がった。若干ふるえるヴィヴィアンの手をぎゅっと握ると、強く握り返された。


「…もう嫌…!()()()()に帰りたい‥」


ぽろりと、彼女の心の本音が飛び出てきた。彼女の言う()()()()というのは、きっと。


「…‥ヴィヴィアン」

「私はヴィヴィアン・ブラウナーなんかじゃないっ!!いい加減()()をみて恋をしたふりをするのはやめて!!!私は女神様の生まれ変わりでも何でもないのよ!レイヴン・クロム!!!」

「…!」


(うわあ、ヴィヴィアンがついにキレた‥)


今までこうもはっきりと振られた登場人物はいるだろうか…いや、いない気がする。

彼女の過去の言動からも、ヴィヴィアンの自業自得感は否めない。けれど、それを凌駕するほどの彼らの想いを彼女は受け止めきれないのだろう。


だって、彼らは生きている人間。‥一度に複数の人間を平等に愛せる人間なんて、きっといない。いたとしたら神さま位だわ。きっと。


「‥何故…どうして‥!」


ゆらり、とレイヴンが動く。


‥そういえば、大事なことを忘れていた。ゲームの中で主人公に振られた攻略対象者はどうなるんだろう。いや、勿論ここはゲームの世界じゃない。


でも、まだそこかしこにゲームの世界の名残があるような気がしてならない。

まさか、逆ギレて彼女を殺そうとするとかしないわよね?!


思わず、私が前に出てヴィヴィアンをかばうと、私の目の前にユリウスがさらに立ちはだかった。


次の瞬間、バリン!という何かが割れる音が周囲に響く。

続いて、甘くてくらくらしそうな濃厚な香りが充満する。


「カサンドラ!?」


騒ぎを聞きつけたのか、ヘルトの声が聞こえてくる。

しかし、それよりももっと大変なことが起ころうとしていた。

見れば、ユリウスは手で顔を覆っているが、ところどころ濡れている。


「ユリウス、大丈夫?!」


せっかくの白い制服が汚れてはいけないと、持っていたハンカチで彼の顔を拭いた。

と、同時にユリウスが顔をあげ、目がばっちりと合う。


「馬鹿!!サンドラ!!そいつの目を見たら…」


え?アードラ??

どこからか聞こえた声に振り返るが、姿は見つけられない。辺りを見渡していると、私の視界は急に大きなものによって遮られる。


「え?」

「‥カサンドラ様‥!」


はい?

今まで聞いたことのないような甘い声が耳元で囁かれる。

ぞぞぞっと背筋に悪寒が走る。危険を感じて逃げ出そうとしたが、それは絡みつくユリウスによって失敗に終わった。…どころか、完全に腕の中に閉じ込められてしまった。


「え?あ あの ちょぉ?!はなし…!」

「いいや、離さない…!私は、貴女が」


熱っぽく至近距離で見つめられて、私は固まってしまった。


(な…ななな何が起こって?!)


ああもしやこれが例の薬の効果?!うっそでしょ!!


「ご、ごめん――――!!スキル怪力!!!」


久々に力を使ったわ。

申し訳ないけど腹に一発‥と思ったのに!


「…甘いですよ」


にやりとユリウスは笑い、私の渾身の一撃はがっちりと防御されてしまった。

しまった!!この人も趣味が訓練の体力バカだってことを忘れていた!!防御するとかどんだけ筋肉質なのよ?!

しかし‥


「落ち着け、バカユリウス!」


低い声が聞こえると同時に、ユリウスの身体はぐらり、と傾く。

そしてその後ろには。


「アードラぁ??」

だった。



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