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【完結】どすこい令嬢の華麗なる逆襲~全てのフラグをぶっ壊せ!~  作者: いづかあい
第4章 清算されていく世界

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ノエル・シュヴァル③~水鏡池~

人は溺れると、早くて2分で呼吸障害に陥り、静かに意識を失うそうです。


「!カサンドラ!!」


遠くでノエルの声が聞こえたような気がした。

ノエルに会う直前に、カサンドラ宛てに送られた手紙を見てしまったからだろうか?

鏡のように泉に映しだされたカサンドラの顔を見ると、なんだかひどく後ろめたく、目をそらしてしまいたかった。そのまま吸いこまれるように、次の瞬間、私は水の中に落ちていた。


苦しいはずなのに、息苦しさは感じなかった。ただ、私はカサンドラじゃないし、私が消えれば彼女は戻るのかなあ、なんてそんな思いが脳裏をよぎる。


(ああ、死んだかな)


そう思った瞬間…そうなるのも悪くないかも、などという妙な気分になってしまったのだ。


ノエルは本当に鋭くて、困る。

もうずっと気付いていたんだろう。…でも、私から話すのを待っていてくれたんだ。


ゆらゆらと落ちていく水の下から見る空は綺麗で、太陽の光は水を通して煌めき、昔図鑑でみた「ブルーダイヤ」の宝石みたい。


(それにしても、ドレスは重いなあ。…せっかく綺麗にしてもらったのに、悪いことをしちゃったな)


目を閉じてそんなことを考えていると、何か強い力が私の腕を引っ張った。

遠のきそうな意識が急激に戻り、喉の奥に熱いものが流れ込む。

気が付いた時には、私はもう水の中から顔を出していた。


「げほっ!げほっ…!!」

「諦めるなバカ!!死ぬ気か?!!」


ノエルらしからぬ怒鳴り声にびっくりして、目を瞬いた。


「あ‥ご ごめん」

「‥全く!!」


さぞかし重たいだろうに、ノエルは私の身体ごと泉から引き揚げてくれた。

幸いコルセットとかそういうものはしてなかったのだが、大量の水分を含んだドレスと髪は非常に重たい。


ぜえぜえ、と何度も短く息を吐き、息を整えながら一緒に少し飲み込んでしまった水も吐き出した。動くのも億劫で、少し横になるとやっと少し落ち着くことが出来た。


(私ったら…なんてこと)


一通り咳き込んだ後、ノエルの方を見やると、彼も同様にびしょ濡れだった。


「はあ‥ったく、諦めるのが早すぎるだろ‥!」


言いながら、ノエルは上着を脱ぎ捨てた。

すると、予想以上に逞しい上半身があらわになる。そういえばこの人は、体術が得意だった。

無駄のない筋肉はとても美しく見え…ってそうじゃなくて。


「っ!!!」


あわてて目をそらすのだが、おかげで今まで少し現実離れしていた意識がやっと正気に戻ったような気がする。


「大丈夫か?…意識はしっかりしてる?」

「は、はい!ノエルは‥」

「あのまま落ちるつもりだったろ?!」


今まで見たことない位のノエルの真剣な表情に、申し訳なくなってしまう。


「‥‥ちょっとだけ、弱気になってしまっただけ、なのよ。…ごめ」


言い終えるよりも先に、私の身体はノエルに抱きしめられていた。

いつものからかい半分のようなものじゃなくて、本当に苦しい位の力で絞めつけられてしまう。


「…何してるんだよ、ほんとに」


そっと、ノエルの背中に腕を回すと、その暖かさになんとなく安堵した。

そしてそのまま意識を失ってしまった。


**


「おや、どうしたんだい?!お兄さんたち。川に落ちたのかい?!」


村に戻ると、異常を察知した通りすがりのご婦人が声をかけてくれた。


「あ、すみません‥この辺で一番近い宿は」

「うちが近いから!さ、早く!!お嬢さんの顔が真っ青じゃない!まず体を拭かないと!!」


そう言ってほぼ連行される形で到着したのは、村の少しはずれにある大きなユースホステルだった。

下働きらしい従業員達があわただしく駆け寄り、それぞれタオルや毛布をくれると、空いているから、と一番日当たりのよい部屋まで案内してくれた。


「お兄さんも、今風呂を沸かしてやるから、入ったらどうだい?」

「あ、ええと」


外を見ると、空はすっかりと厚い雲で覆われ、ぽつりぽつりと雨が降り出してきたようだ。


(タイミングがいいんだか、悪いんだか)


ここまで引っ張りまわすつもりもなかったのに、と少しだけ反省してしまう。

無理に追い詰めてしまったのだろうか?…聞くべきじゃなかったか。

そんなことを、熱いシャワーを浴びながら考えた。



「そうなんです、ぼーっとしてたら落ちてしまって…」

「ありゃ、災難だったねえ!」


浴室から出ると、予想外の光景に驚いた。

なんと、『彼女』はすっかりと起き上がり、従業員たちと談笑している。

こちらの姿を見ると、全員がそろってぺこりと頭を下げた。


「‥もう大丈夫?」

「うん、心配させてごめんね。ノエル!」


けろりとした様子で笑顔を向けてくれるので、色々な意味で安堵した。


「お客様方、水鏡池(みずかがみいけ)に落ちたんだって?」

「水鏡池?」

「あっちの森の奥にある、青い池ですよ。…すごいね、あそこを見つけるなんて、珍しい人たちだ」


そう言ったのは、少し年配の‥この宿屋の支配人だろうか。きちんとしたジャケットを着こんでいる。


「珍しい?」


俺と彼女で顔を見合わせると、もう一人の別の若い女性従業員がころころと笑った。


「あの池は、別名精霊の池とよばれていて、心に迷いがある旅人を呼んでは悪戯をするっていう言い伝えがあるんですよ~。見る人によって形が変わるとか、いろいろ言われてますけど…お嬢さん達みたく池に落ちてしまう人は滅多にいないんです」

「滅多にいない‥?結構広かったように見えるけど‥」


うん、うんと頷くと、もう一人の少し年配の男性従業員が微笑んだ。


「だってすごく浅い池なんですよ、なのに溺れかけるなんて‥きっと精霊様に悪戯されたんでしょう」

「悪戯…」呆然と呟く彼女と、全く持って同感だ。

「…ひやっとする悪戯だったよ、全く…」


確かにあの池は、どこか幻想的で不思議な雰囲気のある場所だった。

底が見えない程の深さだったのも、精霊のいたずら、ということなのだろうか。


「‥水は心の不安を現します。貴方か、こちらのお嬢様‥どちらかの心を映し出したのでしょうね」

「‥‥」


彼らは食事の時間を告げると、そのまま階下に降りていった。


(心の不安…)


「なんだか魔法みたいで不思議ね。‥まあ、二度は経験したくないけど」

「‥サンドラ」

「すっかり遅くなってしまったわ。…今日はここに泊まることになりそうね」

「ごめん」


ううん、と彼女は首を静かに横に振る。


「私の方こそ。……ね、良かったら、私の話を聞いてくれる?」

「君の話?…良ければ聞かせて」

「ちょっとだけ長くなるかも。信じられないような、あり得ない話かもしれないけど…いい?」

「信じる。…‥実際、魔法を使えるウサギやら、鳥やら‥普通じゃない奴ばかりじゃないか」

「違いないわ」




気が付いた時には先程まで降っていた雨はやみ、外はすっかりと静寂を取り戻していた。

テーブルをはさんで向かい合いながら、時には笑い、‥少し緊張した表情を見せながら、彼女は色々話してくれた。

ゆったりと、流れるような時間の中で、涼し気な虫の声だけが響く。


ラヴィの事、この世界の事、ヴィヴィアンの事——…‥

アードラという不可思議な存在のことも、あの影を操る正体不明の紳士のことも。そして‥


「私は、ノエルの予想通り‥ずっとこの世界に居たカサンドラ・グランシアじゃない。あの公開裁判の時、ここじゃないところから招かれた【来訪者】というらしいわ。」

「元の君は?」

「…どうやら死んでしまったみたい。だから、私は厳密に言うと、カサンドラではないんだろうけど‥彼女が帰らない限り、私はこのまま彼女の人生を進んでいくことになるんだと思う」


どこか、あきらめに似たような、覚悟を決めたような表情で彼女は笑う。

彼女の話を、別に驚きはしなかった。ただ、ずっと感じていたある一つの答えがそこにあるだけだった。


「以前、話したことがあるよね?‥この世界には二種類の人間がいるって」

「うん、仮面舞踏会の後‥そう言っていたね」

「きっと、世界に支配されている人間とそうじゃない人間、その違いなんだろうなあ」

「…驚かないの?」


どこか不安げな彼女に笑って見せる。


「オレは、今の君に会えて嬉しい。…言ったよね、どんどん巻き込んで、関わってって」

「‥‥うん、言ってた」

「だから、やっと隣に並んで同じ景色を見れる。そう思える」


その言葉に少しだけ驚いた表情を見せたが、やがて彼女の頬に一筋の涙が零れた。


「……そこ、泣くところ?喜んでくれると良かったんだけど」

「ううん、ごめ‥ちょっと、本当に驚いて。そう言ってくれるなんて、思ってもみなかったから」

「なんで?信用ないなあ」

「そ、そんなことない!だって」


椅子から立ち上がると、彼女の傍まで生き、手で涙を拭った。

肩を抱きしめると、一瞬、彼女の身体が強張ったようだが、ふっと力が抜ける。


「美女が涙を見せるときは、隣の異性の胸を借りるもの、だっけ?」

「そうそう。…それでも止まらないときは…」


そっと身体を離すと、瞼に短くキスをした。

怒られるかな、と、少し構えるが、意外にも彼女が大人しかった。ちらりと顔を見ると、目を丸くしてこちらを見てる。…嫌じゃなさそうだ。


「‥君の名前は?」

「‥‥マリカ」

「やっと名前が聞けた」


そのまま、顔を近づけようとした…のだが。

無常にも、カランカラン!と激しいベルの音が鳴り響く。


「!!!!」

「……っくそ、食事の時間か‥!」


マリカがはじけるようにバッとはなれると、オレとの間に1メートルほどの間ができた。


(もう少しだったのに…)


「し、しょ、食事!食事に行きましょう!!」

「‥マリカさん」


ぐっと距離を詰めて耳元で囁くと、彼女は文字通り飛び上がって驚いたようだ。


「そ、その名前は、誰もいないときに呼んで?!」

「‥いいね。二人だけのひ・み・つってわけだ?」

「ち、近寄るな!!もう絶っ対!!流されないわよ!!」


耳まで真っ赤にして、捨て台詞を言って去っていくマリカの後姿をみて、つい口元が緩んでしまう。


(まあ、二人だけの共用の秘密もできたし…()()()()とはいえ、キスもできたし‥満足、かな)


帰ったら、恋敵共は目の色を変えて怒るだろうなあと、そんなことを想像しながら彼女を追いかけた。




砂吐きそうになりましたが、精進します。読んでいただき、ありがとうございます。


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