夏の夜に君を想う~閑話~
「ユリウスは賢いな。僕には見えにくいものは、お前には見えるようだ」
兄は、生まれた時から少し体が弱かったらしい。
穏やかな性格で、いつも静かにほほ笑んでいるような、そんな人だった。
上の兄二人も、なぜかリオンには強く言えなかった。穏やかな印象とは裏腹にすごく頑固で強い意志を持った人だったから、一度決めたら譲らない。
よく熱を出しては、母上につきっきりで看病してもらったりして、今思えば失礼な話ではあるが、子供心に少し羨ましいと思ったこともある。
けれども、誰よりもその身体を疎んじていたのは兄だ。
思うように動かないことを羨むこともなく、誰のせいにもせずに人一倍努力していたのを知っている。
そして…ある時高熱を出し、そのまま還らぬ人となった。
(その兄と、同じような顔をした人間が今、私の目の前に現れた)
ひととおりファルケン・ビショップに恨み言を述べた後、今度は先ほど館にいた猫の姿に変えると、気を失うように眠ってしまった。
(ひとまず応急処置をして連れて帰ってきたものの、最初は鳥に、次は猫に、そして人間に姿を変えるこの生き物は一体どういう存在なのだろうか。)
ファルケンに攻撃されていたところを見る限り、どうやら自分にとって敵ではないのだろう。
自室の長いすに腰かけると、深いため息をつく。
(だめだ‥情報量が多すぎる。それに、あのファルケン・ビショップ‥あいつは何だ?)
気が付いた時には、深い眠りの底に落ちていた。
・・・
「…ッ痛」
全身を駆け巡る激痛で目覚めた時、アードラは見知らぬ家の窓辺の籠の中にいた。
右足はしっかりと薬が塗られ、包帯も巻かれているようだ。
(‥ユリウスが処置してくれたんだろうな)
とはいえ、痛いものは痛い。
動くのも億劫な上に、あの片眼鏡のせいで魔力のほとんどを使ってしまったようだ。諦めてそのまま横になった。
「驚いたろうな。…悪いことをした」
ソファーで眠るユリウスを見ると、少しだけ胸の奥になにか疼いた。
見覚えのない感情に、少し戸惑う。
(…なんで、こんな風に申し訳なく感じてしまうんだ。‥僕が何かしたわけではない)
窓の外に浮かぶ月を見て、無性に寂しく感じてしまう。
「‥カサンドラ。君が僕の名前を呼んでくれれば、すぐにこんな場所から抜け出せるのに」
そして、アードラもまた、眠りについた。
・・・
次回から、話の軸が主人公に戻ります。




