謎、そしてまた、謎。
「あ~すっきりしたぁあ!!」
ヴィヴィアンたちを廃墟の教会に残し、私は歩きながら大きく伸びをする。
アードラは鳥から人型に姿を変えて、私と一緒に並んで歩き出した。
「‥ありがと、ヴィヴィアンを助けてくれて」
「ん?いいのよ。それよりも公共の場でまんまとレアルドにやり返せたわ!!それが何より!」
「いやぁ、ホント逞しいご主人様で‥でも、良くあそこまで堂々とできたね?一歩間違えれば本当に不敬罪になるところだろう?」
「大丈夫。剣を抜かれたとき、ああ本当に正気じゃないのね、と思ったからできた作戦だから」
そう、あの状況に出くわした時、私の頭に浮かんだのは『好機』という二文字だった。
あの様子からして、レアルドが明らかに異常なのは火を見るよりも明らかだろう。
まともな精神状態の彼ならあんな簡単に剣を抜くことも、失態をさらすこともなかった筈だ。
(まあ、過去にカシルが私にやったあの騒動を真似てみたんだけどね)
大勢の目撃者に、大立ち回り。退路を断つ逃れようのない状況を作ることで、こちらの優位に事を運ぶ。
「あの状況ならたとえ不敬罪とか言われても、それを弁護できる被害者でもあり目撃者のヴィヴィアンとバルクがいるもの。さすがの権力も及ばないでしょう」
「そこまで考えていたのならいいけど‥」
そう、最近忘れがちだったけど私は元法学生。
この世界にも法律とかそう言うものはあるので、グランシア家の書斎でそれ関連の本はしらみつぶしに読み漁ったから、ある程度理解はしているつもりだ。
そしてもう一つ、ヘルトコーチの特訓の成果ね!この成果を報告できないのは少し残念だ。
「‥でも大丈夫?ヴィヴィアンを信用するの?」
「うーん…自信があるわけじゃないけど、今回の件で少しか懲りたんじゃないかな?」
このアードラという鳥は、ヴィヴィアンに対して心配したり疑ったりして忙しい。複雑なのね。
(それにしても‥ヴィヴィアン)
そう、以前の彼女ならゲームだから、とか言って、彼らを人とも思えない扱いをしていただろうけど、今日はどこか違った。
運動音痴(予想)のバルクの様子をずっと気にしていたし、私にもちゃんとありがとう、と言ってくれたから。なんだか、大丈夫な気がする。
「それより、早く戻りましょ。‥少しか落ち着てるかな?」
「大丈夫じゃない?‥それよりご主人様ぁお腹すいた」と、アードラが情けない声をあげた。
アードラは鳥形態の時、ろくにご飯を食べない。
と、言うのも…グルメだかなんだか知らないけど、鳥の餌はおいしくないらしい。そりゃあまあ、鳥が食べるものであって人間が食べるものじゃないものね。
かといって生肉やら虫を食べるわけにはいかず…割と頻繁に人型形態に戻っている。だから私は夜食と称して、アリーにこっそり持ってきてもらったりすることも少なくない。
「はいはい、まあ確かに。よし、とりあえずご飯を食べてから、ラヴィ探し、再会よ!」
そう、動くとお腹はすくものだ。
私達は、とりあえずメイドちゃんたちに教わった、街で有名な喫茶店に向かって歩き出した。
先ほどと同じ場所に戻ってみると、…さっきの出来事などまるでなかったのように、街は普段の姿を取り戻していた。
人々はせわしなく歩き、恋人たちは手をつないでいる。
まあ、他人のことなど興味はないものだし、ましてやレアルドからしたらあの場にいた全員の記憶を塗りつぶしてしまいたいところだろう。
「ねえねえ、僕たちも恋人同士に見えるのかなー?」
「‥どこぞの金持ち令嬢とその従者の間違いじゃない?」
「‥君はほんと、つれないねえ」
とはいうものの、ちらりと横に並ぶアードラを見やる。
少し長めの前髪から覗く瞳は青で、どこかミステリアスな雰囲気を漂わせている。
すっと伸びた鼻は筋が通っていて、元々中性的な顔立ちだし、肌も白いせいか黒ジャケットに赤いリボンタイというスタイルのコントラストがとても良く映える。
ううむ、眼福だ。
「‥アードラは背が高いね。一体いくつ位の設定なの?」
「さあ?前言っていたじゃない、僕たちにはモデルがいるんじゃないかって。それに基づいてるんじゃないかな?」
そうだ、元々彼はシステムの一端だったんだっけ?
名前のあるラヴィと彼は何が違うんだろう。そもそも、存在自体謎だ。
だって、ファンタジーだからでしょ?と言えなくもないので、なんとも言えない‥。
「じゃあ、どこかにアードラのそっくりさんとかいるのかな?」
「さあ、どうだろう?でも僕は僕だし、ご主人様の隣にいるのがそうだから。」
「ふうん…そう言うものなの?」
そう、やっぱり気になる。
彼らが一体誰の手によって作られて、何のために存在しているのだろうか?
「ねえ、レアルド…やっぱり様子がおかしかったよね。…どうしてああなるんだろう?」
「…確かなことは分からないけど、僕からすれば、ヴィヴィアンも、ラヴィも、レアルドも‥みんな同じに見える」
「同じに見える?…そう言えば、ラヴィを信用できるかわからないって言っていたね」
「そ、…システムの奴隷?みたいな。ご主人様やノエル、ヘルトやユリウスなんかは、意思を持ったNPCだと思えるから…大いなる意志の管理下から外れるってことはそう言うことなんだと思う」
「意志を持ったNPC…」
そう言えば、と思い当たることが一つある。
以前見た夢で逢った青い目のヴィヴィアン。‥夢というには、あまりにもリアルだから、そうじゃないかもしれないけれど‥彼女は元私の部屋にいて、テレビの画面を見ていた。
あの部屋は、まるで傍観者の席で、テーブルにはコントローラもあったような気がする。
「…恐ろしい話だけど、アードラの言う通り、ヴィヴィアンもレアルドも‥もしかしたらラヴィだって、誰かが動かしているのだとしたら…」
それは、実はものすごく恐ろしことなのではないだろうか?
「‥‥あまり、深く考えすぎない方がいいよ。思考が迷宮入りすると、その内宇宙意識に呑まれてしまうよ?」
「‥‥なんか、莫迦にしてない?」
「してないしてない。」
「それ本当?‥あ、ここだ」
かららん、と小気味の良いベルの音が響くと、中は想像通り満席のようだ。
「い、いらっしゃいませ!あ、少々おまちください!」
待つべきかどうするべきか、と悩んでいると、向こうから一人の若い店員さんがこちらに向かってきた。
「あ、二名で‥‥」
私が言うと、目の前の背の高いすらりとした男性の店員は笑顔で答えてくれた。
「それでは少々お待ちを…」
その笑顔がなんとも素敵な笑顔で、思わずいくらですか?なんて聞きたくなっちゃいそうだ。なあんて、思ったのだけど。
「なんだ、ラヴィじゃん」
「「え?」」
アードラの発言により、一瞬にして夢から覚めた。背の高い、すらりとした‥髪の白いって‥あ、ほんとだ。
「ら らら」
しまった、思わず噛んだ。しかし、私以上に動揺しているのはラヴィの方だった。
「え?!あ あ あのえっと!!」
「オラ新人!!席片付けて客入れろ!!」
「はいい!!」
聞きなれた声に厨房の方を見ると‥そこにいたのは、ノエルだった。
あ、そうか、なるほどここの店って。
「お客さん。ゆーっくり!してってね?」
いつものようなちょっと斜に構えたような笑顔。…のはずなんだけど。
なんだろう。今、ゾクッとした。
寒気の元は‥うん、多分ノエルのような気がする…何?何か怒らせてるの私??
「あ、どどどうぞ!こちらの席へ!」
店内は、入り口からみて左側に壁に沿ってL字型のバーカウンターが設置されており、その奥が厨房とつながっている造りのようだ。
客席は大体50席くらいで、そこまで規模は大きくないものの、メニューが豊富なのが売りだ。また、18:00になると雰囲気は変わり、喫茶店からバーに早変わりするのが特徴らしい。
ラヴィに案内されたのは…いうまでもなくカウンター。
逃げられないじゃない‥。いいや、逃げるつもりもないのだが、なんだかノエルから不穏な気配を感じてしょうがない。
「ご注文は?」
「あ、ええと‥じゃ、じゃあおすすめのランチセットで…」
「じゃあ俺、チキンセット。」
共食いか。
いや、元は人間だものね。私は思わず現実逃避よろしく、心の中で突っ込んだ。
「いいでしょ、うちの新人。社会勉強ってやつ」
「え?!あ、うん‥い、いい経験になるんじゃない?」
あれ、さっきの冷たい空気が影を潜めているように思える。で、でも油断はできない。
「そうそう、‥ってわけで、ゆっくりしてって?あとでゆーっくり話そう?」
「‥う、うん」
ゆっくりをそんなに強調しなくても‥大事なことは二度言うのね。
何を?なんて、聞き返せるほど、私の心に余裕はなかった…。




