三人目登場、そして。
今日はとても天気が良くて、風も気持ちがいい。
本邸の庭園とは全く違って、こちらの別邸の庭園に植えてあるものはまた種類が違って明るい色合いのものが多く見える。
そして、そこにずらりと並べられたお菓子に、綺麗な(見るからに高価そう)な茶器の数々。
「ようこそお姉さま!僕のお茶会に!!どうでしょう、姉さまの席には薄赤色の薔薇を置いてみました‥綺麗でしょう!!」
と、にこにことクレイン。はい、かわいい。
「‥はしゃぐなクレイン。お前がホストなんだから、もっときっちりエスコートするものだろう」
相変わらず真面目なコメントで、指導も忘れない熱血トレーナーヘルト。
最近では、私のスケジュールのみならず、弟のクレインの訓練スケジュールまで組み立て、実行しているのだから、筋金入りのお兄ちゃん気質なんだろう。
そして。
「へえ!なるほどねえー。これじゃあヘルトが隠したくなる理由も納得だねえ!やっ、はじめまして、レディー・カサンドラ」
紫髪の男は流れるようにさっと私の手を取る。あまりにも自然で手慣れているせいか、私はされるがまま、ただただ立ち尽くすだけである。
「……あのー…クレイン、ヘルト兄さま、こちらの方は…」
「‥一応俺の友人だ」と、最高潮に眉間にしわを寄せながらぶっきらぼうに一言だけヘルトが答えた。
友人。…友の人、書いて友人。そうか、ヘルト、友達いたのね…。
いや、そうじゃなくて。目の前の紫髪の青年は、にやりと笑った。
「やあ、また会ったな。‥オレの名前はノエル・シュヴァル。ヘルトの唯一の親友兼‥」
「僕のししょーです!!」
そう言って、クレインを肩車しながらノエルは笑っていた。
「だよなー。俺の一番弟子だもんなー」
ノエルってヴィヴィアンの攻略対象の一人の?!あのノエル・シュヴァル?
(なんだってここに居るのよ?!いるなら予告してくれないと困るわ!!!)
短めの紫色の髪を後ろに無造作に束ね、貴族の茶会というのもあってか、黒いジャケットに、タイの代わりに胸元に赤いハンカチ。なんというか、どちらかというと固め?なヘルトとバルクとはまた違ったクレバーなタイプのようだ。
「し、ししょ―…って?」
「僕に大人の女性の付き合い方を勉強…」
ゴッ!と激しいのと弱いのと二種類の衝撃音が聞こえた。
「お・ま・え・は!!慎みを持て!!」
「いってぇ。なんでオレまで殴られるわけ?!」
うふふーと三人のやり取りをほほえましいなあと思いながら、私は内心一生懸命考えた。
(まずい‥まさかこんなところで遭遇するなんて思ってないから‥事前情報が皆無に等しい!!)
ラヴィに託された攻略本は、一応目を通しはしたもの、情報が膨大過ぎて覚えきれていない。
確か攻略が7人中トップクラスにシナリオが重いとか、難しいとかふわっとした情報しか認識していなかった。
(ああ‥いい、もうどうにかなるでしょ)
「えーと…初めまして、カサンドラ・グランシアでございます。いつも兄がお世話になっているようで」
「世話しているのは俺であって、こいつではない」
むすっとした表情のヘルトが、珍しく私の言葉を遮った。‥喧嘩するほど仲がいいって奴?
すると、ノエルはクレインを降ろした後、じっと私のことを見つめてきた。
「ふうん。カサンドラ・グランシア‥ねえ」
「‥?」
なんとなく、ノエルの金色の瞳が猫のようだとしばし見入っていたのだが。
やがて目の前にさっと大きな手があらわれ私の視線を遮った。
「‥あの?」
「‥やめろ、ノエル。彼女は何も知らないのに」
後ろの至近距離からヘルトの声が聞こえてきた。どうやらこの大きな手の主はヘルトらしいけど、なんの為…??
「おっと、怖い怖い。‥思った通り、君は違うみたいだね」
「違う?って何が‥」
「大丈夫だよ、ヘルト、彼女はどうやらオレには見えないらしい」
「…‥」
ノエルがそういうと、ヘルトの手がさっと避けられ一気に視界が広がった。
(?あれ…さっき、目が金色だと思ったのに)
見れば、ノエルの瞳は髪の色と同じ紫色の色だった。
「あの―‥何のお話しですか?」
「うん、オレ、実は人の心が読めちゃうんだよねー」
「‥‥え?」
すると。
ガランコロン、と例のゲームウィンドウが表示された。
『おめでとうございます!!ノエル・シュヴァルのシークレットフラグは全てクラッシュしました!これによって、ノエル・シュヴァルの消滅フラグルート解放条件達成です!!』
そ、そういえば‥以前見たとき、解放率残30%?だったような‥?!
『これにより、大いなる意志のシステム解放率は…』
すると、また例のごとくのメッセージが流れる筈‥と思ったのに。今日は様子が違うらしい。
なんというか、この状況は…よくパソコンが陥る…そう。
「え?まさかフリーズした?!ここで?!」
こ、これはまずい。何がまずいってこの謎空間はゲームメッセージが全部流れきれないと元に戻れないのだ。通常のパソコンならスイッチを切るなり、リロードするなり、いくらでも思いつくものだが。
残念ながらここはスイッチもなければ、外的要因になりそうなものは何一つないのだ。
画面は相変わらずザザッ‥ザザッ‥と砂嵐の状態のままだ。
「嘘‥どうしよう。このままじゃ‥!」
「… …カサンドラ、気を付け‥」
すると、ザーッという砂嵐みたいな音の遠くで何かの声が聞こえた。
誰か喋っているみたいだけど、まるで電波の弱い電話みたいで全く聞こえない。
「‥誰?」
「‥屋がくる…か…ず」
ううん、違う。この声を私は知っているじゃない!この狭くて何もない世界に存在するのは、私が知る限りただ一人。
「…もしかして、ラヴィ?!ラヴィ――――!!いるんでしょーーー?!」
砂嵐のウィンドウの向こう側に向かって私は声の限り叫んだ。すると、ゲームウィンドウは派手な音を立てて硝子みたいに砕け散る。そして…
「カサンドラ!」
その割れ目から飛び出してきたのは、白い髪に赤い瞳のウサギのようなおにーさん。
ラヴィはそのまま私に駆け寄ると、ぎゅっと抱きしめた。
「ら、ラヴィ?!」
狼狽える間もなく辺りは真っ白になる。
その時、私はその白い場所にもう一人、別の人の姿が見えたような気がした。
そして…。
「!!!」
もふっとした、何か温かいものが顔に当たった気がして、あの謎空間から私は覚醒した。
「あれ?どこからきたんだこいつ」
「‥へ?」
ポトリ。私の顔に激突の後、そのふわふわした物体は私の胸にしがみついた。よく見るとそれは…
「?!…っかわいいっ!!」
「‥‥」
真っ白い、ウサギ(獣)だった。ぷるぷると震えながら必死に胸にしがみつく姿はとても可愛らしい。だが、どこからか長い腕が伸びてきて。うさぎは引きはがされてしまった。
「…せっかくのドレスが汚れる。カサンドラ」
「そうそう。こいつが雄だったら、なんかちょっとむかつくよなー。ほい、クレイン」
「わあ、可愛いですね!!でも、ノエルさんの言うのももっともだと思います!!」
そういうと、ヘルトはじたばたと暴れるウサギの首元を摘まみ取り、憮然としてそう言った。悪ノリしてか、ノエルもクレインもまたそのウサギをツンツンつついている。
(…この男共は何を言っているんだろう。)
「ちょ、ちょっと皆さん‥ウサギとはいえ生き物なんだか…」
ん?うさぎ?
ウサギって…まさか。
「… …ラヴィ?」
「!!」
クレインの腕にぬいぐるみのように抱かれたウサギはうんうんと頷いている‥ように見える。
「ん?ウサギの名前?」
「え?!あ、はい!!ら。ラヴィなんてどうでしょう?!」
あ、そういえば!ノエルは人の心が読めるんだっけ?もしかして、まずい?!
「あー、大丈夫、君の心の声はほとんど聞こえないから。」
「?!!何も言ってませんけど?!」
「顔に書いてる書いてる。君みたいにわかりやすく表情が見える人はスキだよ、オレ」
「はあ、どうも‥」
多分、俗にいう『キメ顔』というやつをされた気がする。
キメ顔とはいえ、私にはあまり効かなかった。‥なんだろ、至近距離で話したバルクもヘルトもイケメンだったし、目が慣れてきてしまったのだろうか…?
「なんだよ、つれないなー」
とか言って、なんだか随分嬉しそうにしている。‥この人、マゾなのねきっと。
「あ‥私の声が聞こえないって‥?」
「そう、目を見ればわかるはずだけど‥君からは何も聞こえない。本当だよ」
「ふうん…?」
私はいいとして‥ちらりとラヴィを見やる。
ラヴィはなんだか疲れた様子で、クレインに弄ばれている。‥助けてあげた方がいいかしら。
「‥クレイン。このお茶は、もしかして、ハーブティー?」
「あっはい。そうなんです!それはですね…」
クレインがパッと手を離した隙にラヴィは腕からするりと抜け、こちらに向かってきた。そのまま私の膝の上まで来ると、ひょこっと顔を出した。
『カサンドラ。…聞こえる?』
私はそのまま軽く頷くと、人差し指を唇の前に立てる。とりあえず、今日の成果としてはノエルをシステムの管理下から外せただけでも上等だ。
それよりも‥ラヴィの身に一体何があったのだろう‥?
**
「おや、逃げられてしまいました」
ゆらゆらと揺れる蝋燭の火を見つめながら、『帽子屋』はふっと短く息を吐いた。
椅子にゆったりと腰かけ、パイプに火を灯す。
煙がゆらゆらと弧を描くと、ゲームウィンドウが表示された。
登場人物のパラメータがのっているページには、ノエル・シュヴァルとヘルト・グランシアの名前は消えている。
「これで二人目か。‥なかなか手ごわくていらっしゃる。それで、プレイヤーの方は‥と。おや、どうやら‥もう一人、接触に成功したみたいですね」
にっこりと微笑むと、ウィンドウに向かってティーカップをかざした。
そこには、「ユリウス・フォスターチ」の名前があった。
「大丈夫?けがはない?」
「あ‥はい、大丈夫です。‥えっと、貴方のお名前は?」
ヴィヴィアンはユリウスの手にすがりながらよろよろと立ち上がった。
そっとヴィヴィアンを立たせると、神官服に身を包んだ三つ編みの青年はにっこりと笑って微笑んだ。
「はい、私の名前はユリウス・フォスターチ…このハルベルンの神官見習いでございます。貴方が、聖女ヴィヴィアン様ですね」
ヴィヴィアンの目の前に、三つの選択肢が洗わられる。
1・頬を染めて目をそらす
2・目を見て微笑む
3・うつむきながら微笑む
(これは…選択肢、2。あなたは、芯の強い女性がお好みだものね)
「はい、神官様。私の名前はヴィヴィアン・ブラウナー。‥お会いできて光栄ですわ」
いつも読んでいただいて誠にありがとうございます。評価&ブックマーク、すっごい嬉しいです!!
面白いと思っていただけるように精進します(*- -)(*_ _)ペコリ