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【完結】どすこい令嬢の華麗なる逆襲~全てのフラグをぶっ壊せ!~  作者: いづかあい
第7章 ルールとは、壊す為にある

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迫りくる闇

「はーあ、はーあ…はーは―‥う、生まれてこの方ここまで走ったことないわ‥!」


リンジーは、淑女らしからぬ様子で肩で激しく息を繰り返し吐きながら、壁にもたれかけた。

そのままずるずると座り込んでしまう。


「大丈夫か?」息ひとつ乱さぬ様子のヘルトが手を差し出すと、その手に縋って何とか立ち上がる。

「は、ハイ…でも、キッツ~…」


正体不明の影に襲われたリンジーとカシルがやってきたのは、街のはずれにある教会の廃墟の中だった。しかし、思ったよりも中の造りはしっかりとしていて、高く設計された天井のせいか広く感じる。廃墟といえど随分と綺麗な状態だった。


「こ、ここ、大丈夫なの?」


不安そうに言うリンジーとは対照的に、カシルは興味深そうにきょろきょろと中を見渡した。


「…ここは何かの、神殿‥ですか?」

「…なぜかは分からないが、あの黒い影のようなものはここに入ってこれないらしいな」


ところどころ壊れている箇所があるもの、壁を彩るステンドグラスはとても美しく、カシルは思わず見とれてしまう。


(女神とは違うものを祀っているのだろうか?)


中央の祭壇には天使の象もなく、天秤も剣も何も置いていない。しかし、どこか清浄な空気で包まれたこの空間は、とても落ち着いていた。


「あの―‥ヘルト卿はあの黒い化け物のこと、ご存じなんですか?」

「…そうだな。正体までは分からないが、対策方法は知っている‥としか言えないかな」

「対策‥」


リンジーは息を整え、身だしなみを正してからが尋ねる。落ち着いてから、改めて周りを見てみると、そこには自分たちに以外にも避難している人たちがいるようだ。


「私たち以外にも、こちらに避難されている人がいるのね」

「あいつらが見える人と、見えない人の違いは何だろう…?」


ざっと見る限り、避難している人間はの数はそう少なくなかった。

親子や恋人同士も見受けられるが、全体的に年齢に隔たりはなく、共通点などどこも見当たらない。ただ全員がどこか怯えたような表情をしているのが印象的だった。


「‥ヘルト卿、でも、あいつらに気が付いていない人も数多くいたみたいでした‥彼らはどうなるのでしょうか」カシルが言うと、ヘルトは目を伏せてしまった。

「なんとも言えない。‥かくいう俺も、街を歩いていたら突然襲われた。‥そこに居る子供たちのお陰で助かったようなものだからな」


そう言って、振り返ると、6人の子供たちがニカッと歯を見せて笑った。

子供たちは皆、孤児だろうか?後ろの方で眼鏡をかけた妙齢の神父がこちらのほうを見てぺこりと挨拶をした。


「あいつらね、ぱりーんてしたとこからたくさん出てきたんだ!」

「でもよわっちいんだぜ!」


その中でもひときわ元気のよさそうな男の子たちが、ぶんぶんと腕を振り回す。


「‥ここは一体どういう場所なんだ?」


カシルが少し背をかがめて一人の男の子に話しかけると、複数の子供たちが互いに顔を見合わせる。


「知らなーい…いつも人が来ないからあたしたちの秘密基地だったのよ」

「‥そうなんだ?」

「うん。でも、ここあったかっくてすき!」


この廃墟は、普段から子供たちの遊び場としてよく使われていたらしいのだが、この建物は何の為に建てられたのか、いつからここにあるのかは誰も知らないらしい。


「あいつらが苦手な理由がヒントになれば正体がわかりそうなのに‥」リンジーが残念そうにつぶやく。

「…あの黒い蛇の様な奴らは、物理的な刺激を与えれば霧のように霧散するのは分かっているが‥アレが見える人とそうでない人の基準が良くわからない」

「ヘルト様まで‥それじゃ、打つ手なしってこと?」


全員がそれに応えられず、静まり返ってしまった。


「俺が遭遇したのだってこれで二度目だ。‥随分前の仮面舞踏会に現われたものと同じのようだが‥」

「…あの、僕は一度アレと遭遇しています」

「そういえば、君も例の仮面舞踏会の参加者の一人だったな。あの時はどう対処した?」


ヘルトの質問に、カシルは何とも言えない表情を作った。


「あの時は‥カサンドラ様が…」

「カサンドラ?」


カシルはふと、あの時のことを思い出してみる。顔に熱が集まるのを誤魔化すように一度大きく息を吐くいてみるのだが。


「えっと‥カサンドラ様が、その、力づくで蹴とばしていました!‥としか」

「‥‥‥」


それを聞いて、途端に全体の空気がさっと冷たくなる。リンジーは勿論、ヘルトでさえカシルを冷たい目で見た。


「…お役に立てず、申し訳ありません‥」

「‥…あんたに期待した私たちがばかだったから、気にすることないわ」

「情報に進展はなさそうだな。俺はもう少し外を見まわろうと思う…他の様子も調べておきたい‥」


すると、突然バタン!!とけたたましく扉が開かれた。

そこから血相を変えて飛び出してきたのは、なんと、ユリウスとレイヴンの二人だった。その後ろには例の黒い物体が迫ってきている。


「ユリウス?!」

「!!レイヴン!!」


カシルとヘルトがほぼ同時に叫ぶと、やってきた二人は驚いて顔をあげた。

同時にヘルトが駆け出し、開かれた扉を再びしっかりと閉ざした。


「これは、ヘルト殿」

「‥その様子だと、お前たちも同じような目に遭ったらしいな」

「ええ。…私とレイヴンは女神神殿から正気を失った騎士達に襲われて王都に逃げてきたわけですが‥こちらはこちらで尋常じゃない状況のようで」


ふう、とため息をつくと、ユリウスは懐から赤い石を複数取り出した。


「…影に食われた者たちは皆、このような姿に‥」

「‥これは、どういうことだ?」


ヘルトとユリウスが話していると、突然バコン!と何か固いものがぶつかるような音が聞こえた。驚いて振り向くと、なんと、リンジーが泣きながら分厚い本でレイヴンの頭を叩いている。


「お、おい!痛い!痛いってリンジー!!ていうかなんで、ここに‥!?」

「もーーなんで肝心な時にいないのよッ!!怖かったんだからぁあ!!」


見知ったレイヴンの顔を見て安堵したリンジーは、ボロボロと涙をこぼしてしまったようだ。見かねたカシルが慌てて二人の間に割って入る。


「ちょ、ちょっと!何してるのさリンジー!けが!怪我するから!」


そんな三人のやり取りを見て、どこからか、ふっと笑いが漏れた。

見れば、どこか不安そうな表情をしていた人たちの顔が綻んでいる。その様子を見ながら今更赤面したリンジーは、慌ててレイヴンの背中に身を隠した。


「‥怖かったのか?リンジー」


背中にぴったりとくっ付いているリンジーのぬくもりに少しだけ緊張しながら、声をかける。


「……こ、怖くないこともない」

「いや、どっちだよ…」

「でも、一人じゃないから‥多分、だいじょうぶ」

「なら、いいけど…手、握っとく?」

「‥‥しょうがないから、握ってあげる」


そんな二人の様子を見て、子供たちがひゅうひゅうとあまりうまくない口笛を吹く。

一気に空気が和み、ヘルトもほっと安堵した。

そうこうしているうちにも、廃教会に影の化け物が寄り付かないのを聞きつけ、逃げ込んでくる者たちが増えてきた。


「…ほかのみんなは無事でしょうか」

「今は信じるしかない。…この場所以外にも奴らが寄りつけない場所があるといいが」

ヘルトがそう言うと、ユリウスは顎に手を当てて何か考え込む仕草を見せる。

「‥あの影が以前私やヘルト殿が遭遇したものと同じであるとしたら、ファルケン・ビショップが何かしら絡んでいると思います。」

「例の亡霊か」

「ええ。…ですので、私は奴を探してみようかと。それ以外にも、あの黒い物体の元となる原因を見つけれれば、状況は改善するでしょう」

「なら、俺も行こう」

「でも、この場所は」


心配そうに振り返るユリウスだったが、それにはレイヴンとカシルが笑顔で答えた。


「大丈夫です。…これでも僕は騎士の端くれですから」と、カシル。

「ご安心ください。この場所と皆さんは私が必ず守って見せます!」


レイヴンの声に応えるように、子供たちは一斉に声をあげた。


「まかせとけ!」

「わるいひとをやっつけて!!」

「大丈夫です!私も頑張ります!!」


リンジーはすっかりと調子を取り戻したらしく、ぐっと握りこぶしを見せる。

もう片方の手はレイヴンにつながれたままだったが。


「ああ。‥頼む」

「気を付けて!奴らは光が作る影に寄りつきます。‥夜になっても状況が改善しなかったら、決して明かりをつけないように闇に紛れてください」

「分かりました。1,2,3で扉を開けます。‥お二人とも、気を付けて」


レイヴンとカシルが頷くと、掛け声とともに扉が開け放たれる。

ヘルトとユリウスはそのまま外に飛び出した。


「それで、ユリウス。亡霊を探すのは良いとして、見当はついているのか?」


走りながらヘルトが尋ねると、ユリウスは目の前に迫る影を打ち払いながら答えた。


「‥一度、王宮にある女神神殿に戻ろうと思います」

「お前たちはそこから逃げてきたのではないのか?」

「…レイヴンの話では、12時の礼拝の時間から周りがおかしくなったと言っていました。ならば、怪しいのはやはり王宮にある女神神殿でしょう」

「‥危険では?」

「いいえ、この国でも指折りでの騎士である貴方がいれば、そう難しくないかもしれません。」


ユリウスが信頼を込めてヘルトを見ると、ヘルトから思わず笑みが零れた。


「そこまで信頼されているのなら、仕方がないか」

「少なくとも、この影たちを抑えられる方法の手がかりはあるはずです‥!」


言いながら、ヘルトは何かを気にするように遥か後方を見つめた。


「‥カサンドラ様なら、恐らく大丈夫でしょう」

「?」

「今はレアルド殿下とノエル殿が付いているでしょうから」

「…そうか」


こうして、二人は何かを振り切るように女神神殿に向かって走り出した。



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