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【完結】どすこい令嬢の華麗なる逆襲~全てのフラグをぶっ壊せ!~  作者: いづかあい
第7章 ルールとは、壊す為にある

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始まりの鐘

カラーン…コロ———‥ン

女神神殿の聖殿で、12時の合図の鐘が鳴り響く。


「?‥気のせいか??何かに呼ばれたような」


この日、レイヴン・クロムは、女神神殿に使える聖騎士として、神殿の警備にあたっていた。


(あの後…レアルド様は大丈夫だったのだろうか)


女神神殿では、その代の神巫女が女神神殿に奉じ、国の平穏と安定を祈り、女神に祈りと真心を捧げる時間がある。

それが昼の12時で、女神神殿に仕える聖騎士達は鐘の音と共にその時間には必ず聖堂で祈りを捧げなければならない。


(まあ…グランシア家に身を寄せられているのであれば、大丈夫だろうが)


いつもであれば、いち早くレアルド皇太子が訪れ、女神象に祈りをを捧げている時間となるのだが、今日はその姿も見当たらない。

先日あんなことがあったのだから当然のことだろう。しかし、そのことについて誰も触れないとなると、どこかおかしく感じてしまう。


(だめだ。…俺一人が考えたところでどうにかなるわけでもないのに)


「どうしたんだ?ぼーっとして」

「あ、いいえ。少し考え事を」


壇上にある瞼に白布をした女神像を眺めていると、年配の聖騎士の隊長が声をかけていた。


「…ロイモン隊長は、聖騎士になってどのくらいですか?」

「そうだな、正式な聖騎士として叙勲式を終えてからかれこれ15年目か」

「15年‥というと、ヒューベルト殿下を昔からご存じだったんですか?」


レイヴンが尋ねると、ロイモンは少し間が空いてから答えた。


「…ウーーン…それが不思議でなあ」

「不思議?」

「ヒューベルト殿下については、確かに子供の頃のお姿を知っているのだが‥どこか違うような気がするんだ」

「違う‥とは?」


ロイモンはそう言うと、きょろきょろとあたりを見渡し、こそっと呟いた。


「まあ、子供は大人になるものだろうから‥そんなものだろうがなあ」

「…?」


あごひげを手で触りながら、首を傾げた。


「随分と、雰囲気が変わったものだ」

「それって」


レイヴンが言いかけると、高らかと神殿の銀の鐘の音が鳴り響く。――神巫女が祈りを捧げる刻である。


先日のバロル皇帝の勇退宣言から初めての参拝となるからだろう、今日は騎士以外の一般客も多くいるようだった。

誰もがどこか不安そうな表情をしている。


(大きく事が動くときは、皆、心配になるよな)


そんなことを考えていると、鐘が止んで祭壇に神巫女・ヴィヴィアンが登場した。

どこか気まずいような…落ち着かない気持ちで見やるのだが、その姿を見て、驚いた。


「黒い神官服‥?」

「巫女というよりこれは‥」


ざわざわと神殿内が騒がしくなる。

無理もない。女神に仕える巫女は基本的に白が基調で、神官服もすべて純白で統一されている。

にも関らず、巫女に付き従う神官たちもまるで喪に服した時のように黒一色だった。


(どういうことだ…?しかも、新皇帝が発表された次の日だぞ?)


レイヴンが覚えている限り、ヴィヴィアンがこの神殿に来てからというもの、黒い服で登場することは一度もなかった。

しかも着衣のせいか顔色がひどく悪く青白く見える。


「…うっ?!」


その姿を見ていると、レイヴンは急激に眩暈のような吐気の様なものを感じ、とてもその場所に留まることは出来ず、拝殿に背を向けた。


どくどくと心臓が波打ち、自分が自分じゃないような、不快な感覚にとらわれる。

逃げるように聖殿から外に出た瞬間、先程まで感じていた謎の体調不良は嘘のように解消され、呼吸も楽に感じる。


(何だ‥一体何が?)

「!」


振返り聖殿を見るが、もう門はしっかりと閉ざされ、祈祷中は中に入ることさえ敵わない。

ただ、いつもは穏やかな空気で包まれている筈の聖殿から感じるのは、底知れぬ恐怖に似たひりひりとした感覚だった。


(中で‥一体何が行われているんだ?)


ざわざわと寒気のする身体をなだめながら、先程まで話していたロイモン隊長のことを思い出した。

四半刻後、聖殿の大きな大理石の扉が開かれた。

全ての扉から人々が吐き出されてくるが、その姿は皆生気がない。


「…?」


ふと、見慣れた人物の姿を発見し、慌てて駆け寄る。


「ロイモン隊長!」

「…ああ、レイヴン・クロム」


肩に手を置くと、ロイモンは虚ろな表情でゆっくりとこちらを見た。


(この…姿は)


その姿は、嘗て自分がヴィヴィアンに焦がれていた時の表情に似ている。

まるで生気のない、虚空を見る瞳に何が映っているのだろう。


「‥喜ばしいことだ。これから新しい世界が生まれる」

「新しい世界‥‥?」

「喜ばしいことだ。…なんて喜ばしい」


ぶつぶつとそれだけ呟きながら去ってゆくロイモンの姿を呆然と見送った。

周りに眼をやると、神殿から出て来る人間は皆同じような症状で、ぶつぶつと何かを呟きながらどこかに向かって列を組んで歩いていく。


どこか異様な光景で、未だ冷え冷えとする空気を聖殿から感じながら、レイヴンはその列を見送った。


「やはり、様子がおかしい。…ユリウス様に知らせないと…!」


その帰り道、レイヴンの目の前にずらりと自分の同輩たちが立ちはだかった。

皆、先程のロイモンと同じように正気の目をしていない。


「何か用か?」

「……」


しばらく見つめ合っていると、突如全員剣を抜いてこちらに向かってきた。


「!!!」

(相手は6人だが、こちらから剣を抜くわけには)


一撃、二撃と避けながら、退路を確保しようとする。

しかし正気じゃないとはいえ、なまじ訓練を積んだ正規の騎士達に複数同時で本気でかかってこられたら、レイヴンと一人でかなうはずもない。


「くっ…分が悪い」

「‥‥新しい世界の為に、来訪者は滅せよ」

「新しい世界に、来訪者…?!お前たち、いったい何を…」


レイヴンの声もむなしく、騎士達はうつろな表情のまま襲い掛かる。


(先ほどまで普通だったのに、なんで!)


左右に眼をやり、抜け出せるすきを窺いながら応戦するも、かつての仲間たちに剣を向けることなどできない。


そうしている間にも騎士達はじりじりと距離を詰め、あっという間に壁際に追いやられてしまった。


「!!」


見知った同輩の攻撃を間一髪で避けると、バランスを崩した瞬間を狙ってに当身を食らわし、その場を切り抜ける。


そのまま神殿の外に向かって走っていると、今度は正面の方向から別の騎士達がこちらに向かってきた。

彼らに命を脅かされるようなことをした覚えはないが、見る限り、こちらの話を聞こうとする雰囲気ではない。


「くそ‥万事休すか‥?!」


すると、遥か後方から一頭の黒い馬がものすごいスピードでこちらに向かって走ってくるのが見えた。


「クロム卿!」

「!ユリウス様」


複数の騎士を剣で交わし、伸ばされたユリウスの手を掴んだ。

そのまま馬に乗ったふたりは一気に神殿内を駆け抜け、神殿の外に向かって走り出した。


「ユリウス様、何故ここに!」

「先程の君と同じ状況だ。突然訳の分からない連中に襲われたんだ。…奴ら、先日王宮で見た黄金の騎士達と同じような目をしていたね」

「はい…神殿でも、何か異常があったように思えます」

「‥‥異常?」


ユリウスがそう言って振り返ると、後ろの方からも殺気を放ちながら、こちらに向かってくる騎乗した二人の騎士の姿が見えた。


「挟み撃ちにするつもりか」


正面から向かってくる騎士は弓を構え、二人目掛けて容赦なく矢を立て続けに放つ。


「これは、私を狙っているのか、君を狙っているのか…それとも」


一撃目を避け、ふたりは前方を見据える。


「無差別か、両方とも狙われているか‥どちらかでしょう…!」

「…君は弓が得意だったな‥!」


ユリウスはそう言うと、弓を構えた騎士達に向かって姿勢を低くしながら、相手の左腕をめがけて突進した。


「その弓、貰う」

「ぎゃあ!」


猛スピードで突進してくる馬に対応できず、左腕を下から斬りあげられた騎士はたまらず構えていた弓から手を離してしまう。

途中馬を除けて騎士から弓を剥ぎ取り、返した刃の切っ先で腰に帯びていた弓筒を奪い取った。


「あ?!」


弓筒と弓は剣に引っかかったまま空を舞い、レイヴンはそれを慌てて受け取った。


「それを使え!後ろは任せた!」

「は、はい!」


(…ユリウス様の期待にこたえたい‥!)

レイヴンは姿勢を正して矢をつがえて馬に向かって放つ。


「ヒヒィイイン!!」


馬は鼻面の脇をすれすれに飛ぶ矢に驚き、後方から追ってくる騎士達を巻き込んで派手に転倒してしまった。


「この異常はこの神殿内でだけの出来事か…?!」

「ユリウス様、私は先ほど、神巫女、聖女ヴィヴィアンは黒い装束を着て12時の祈りの場に姿を現したのを見ました!」

「‥聖女‥ね」


すっとユリウスを取り巻く空気が冷めていくのを感じ、レイヴンは目を伏せた。


「…彼女は、以前とは何か様子が違うように思えます。‥昨日の婚約にしても、まるで別人のようで‥正直恐ろしいです」

「‥卿の感想は恐らく正しい。レアルド殿下も同じようなことを仰っていたからね」

「‥…」


直接言葉を交わしたわけではないものの、いつも彼女を見ていたレイヴンだからこそ、その変化にいち早く気が付いたのかもしれない。


「今、このハルベルンでは‥一体何が起こっているのでしょう」

「‥‥一度王都に行こう。君と私はどうやら同じ状況に陥っているようだから、一緒に行動している方がいいだろう」

「はい…」


馬を走らせながら、ユリウスは軽く後ろを振り返り、目を見張る。

(目の錯覚か‥っ?)

いつもなら清浄な空気で包まれている筈の女神神殿が、どこか異様に暗く全体的に黒い霧のようなもので覆われているように見えたのだった。


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