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【完結】どすこい令嬢の華麗なる逆襲~全てのフラグをぶっ壊せ!~  作者: いづかあい
第7章 ルールとは、壊す為にある

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親子

(この場所に立つと、いつも憂鬱な気持ちになる)


遠く見える海から潮の香りが混じった風がこちらに流れてくる。

ざわざわと揺れる髪を抑えながら、静かに墓前に立つ父の後姿を、ユリウスは静かに見つめていた。



それは、今日の朝のこと。父から急遽呼び出しがあった。

どこからかグランシア邸にいると聞きつけたフォスターチ公爵は、わざわざユリウスに伝令の者を派遣してきたのだ。


父からの呼び出しなど、滅多にないこと。それだけでも驚いたものだが、その呼び出しの要件に更に驚いてしまった。


「‥ゲオルギウス様は、毎年、この日になるといつも必ず向かわれるんですよ」


そう、長年フォスターチに仕えていた執事が笑った。

馬車で行くのかと思ったが、全くの予想がないことに父は馬を駆っていくと言い出したのだ。


(どういう風の…いや、元々、父は聖騎士でもあったはずだ)


父と言えば、普段から黒い服を着て邸宅にこもり切りの姿しかユリウスは知らない。

ただ、外に出て馬を駆る姿は毅然としていて、衰えなど全く感じさせない姿に驚いた。

結果、親子二人護衛もつけず、母の墓参りと至ったのだ。


「‥父上、護衛はつけなくてよかったのでしょうか」

「お前がいるだろう」

「…そ、そうとも言えますが」


(な、何か悪いもでも食べたのだろうか?!)


どこか落ち着かず、ユリウスはただ黙って白い馬で駆ける父の後ろについていった。


フォスターチの墓地につくと、相変わらず無駄に煌びやかな大きな墓石が二人を出迎え、ユリウスは思わず顔を顰める。

ゲオルギウスはちらりと、その墓を見上げた後、すぐに奥の母と兄が眠る墓石まで歩いていった。


ユリウスの母の思い出は、実はあまり多くない。

鮮烈に覚えているのは、母が自決したあの雪花が舞う夜の日の出来事だ。

母が心を病む前、リオンもまだ健康だった頃に一緒にいたはずなのに、その幸せな記憶よりもそうじゃない記憶の方が色濃く、まるで上書きされてしまったかのようだ。


(リオン兄さまが病で伏しがちになった頃も、母はそちらにつきっきりだった)


ふと、以前カサンドラ、それにアードラと三人でこちらに来た時のこと思い出す。

あの時の出来事も相まって、少なからずこの地に対しての嫌悪感はある程度払拭したものの、やはり何度も来たいと思うような場所ではない。


「お前は滅多にこちらに来ることはないそうだな」

「‥ええ、そう頻繁に来る必要がある場所ではありませんから」


ゲオルギウスは持っていたオレンジ色と紫色の薔薇の花束とをそっと二つの墓に添えた。


「‥‥リオン兄さまの花束も持ってきていらしたんですね」

「ここは、私の後悔と懺悔が眠っている場所だ」

「…後悔と懺悔?」


それ以上は何も答えず、ゲオルギウスは二つの墓を見つめていた。


(父らしくない言葉だ)


ユリウスにとっての父は、威厳があって、いつも迷うことをせずに歩ていく、そんなイメージだった。


「‥父上、あなたは何を後悔し、何を懺悔しているのでしょうか」

「‥‥」


しばらくしゃがみこんでいた後姿は、やがてゆっくりと立ち上がり、こちらを振り返った。


「ユリウス、ファルケン・ビショップには、もう会ったか?」

「!!!」


ざあ、と強い風が吹きあがる。


「‥‥おじい様は亡くなっている筈です」

「そう思うか?……最近、植物園の方に頻繁に足を運んでいるそうだな」


ファスターチ家が管理する私有地である植物園の鍵は、執事が管理している。

フォスターチ家の統括執事であるサングリストは、長年ゲオルギウスに仕えていた腹心でもある。

知っていて当然と言えば当然だろう。


「‥‥正直に言います。私は何度かファルケン・ビショップ・ファスターチと名乗る人物に何度も遭遇しております」


時には命を狙われたり、 友人を襲おうとしたり‥と、決して良い遭遇の仕方ではない。


(どういうつもりだ?‥父は、奴とつながっているのか)


真っすぐ見つめるユリウスに、ゲオルギウスはふっと笑った。


「そのような目をするようになったのか。大したものだな」

「…?」

「神殿に努めていた頃のお前は、いつも心ここにあらずと言った様子で、死んだ獣の目をしていてた。今は‥そうだな、猛獣とまでいかないにしても、猟犬位にはなれたようだな」

「……」


(猟犬…それは、褒めているのか、けなしているのか?)


なんとも複雑で、どう答えても鼻で笑われそうなので、ユリウスはそれ以上何も答えなかった。


「奴は亡霊だ」

「亡霊?」

「時代の亡霊、…むしろ、妄執が塊となり、勝手に独り歩きしているというべきか」

「妄執…」


実際、錬金術にのめり込んで人体生成に傾倒するなど、人間のすることではないだろう、と思う。

ユリウスにとっては悪魔といえるべきだろう。


「あの方が傾倒してた錬金術について‥あなたはどこまでご存じなのですか」


言うべきか迷いはしたが、どうせ記録係に所に行ったことも含め、全て筒抜けだろうと思った。

案の定、父は驚くこともなく、にや、と笑った。


(…本日二度目の笑みだな)


「馬鹿げた研究だ。…だが、少なくとも奴にとっては、生涯をかけた知識の結集だろう」

「…そのせいで、随分と多くの人間を陥れているようですが」


ちらりとリオンの墓を見る。

アードラは、ファルケンとの会話の内容を決して喋りたがらなかったが、ある程度の予想はついているつもりだ。


「お前にはこれを見せたことがなかったか」

「?」


ゲオルギウスはそう言うと、懐から首にかけていたネックレスのようなものを取り出した。

見れば。手のひらにすっぽりと収まるほどのクリスタル結晶だった、

それは、紛れもなく生前母が家族に送った強化クリスタルの小瓶だった、


「‥まだ、持っていらしたんですね」

すると、キラリと日の光を通して、中に白い粉末があるのが見えた。


「‥‥その粉は?」


もっていたクリスタルをすっとしまうと、いとおしそうにそれを見つめた。


「…ルエリエだ」

「母上…それは、まさか」


ふと、先日レアルド達が見たという砂時計の話を思い出した。

(骨を‥砕いた粉末)


「ファルケンは、コレに少し骨を足せば、ルエリエを()()()、そう言った」

「?!」


造るということは。

あまりにも常識とはかけ離れた告白に、思わず吐気を催し、口元を抑えた。


「その様子では、大分、奴の本性について知っているようだ」

「‥‥ち、父上はそれを…」

「承諾などするはずがない」


その言葉を聞いて少し安堵した。

しかしある可能性にさっと血の気が引いていくのを感じた。


「…もしや、リオン兄さまも」

「リオンについては、確認できていないが‥あるいは、そうかもしれない」


確認せずとも、わかる。

アードラという青年がすべてを物語っている。


「‥‥今からちょうど1年前のことだ。覚えているか?その頃に頻発していた、高名な貴族の墓荒らしの事件について」

「‥ええ。犯人が自決したので、目的が不明だったといわれるあの事件ですね」

「その時に…奴は一度だけ私の目の前に現われた」

「ファルケンが‥?」


そんなにも前から、あのファルケン・ビショップは動いていたのか。


「そして、ひとりの青年を連れてきた」

「青年…?」

「そのお姿は、忘れる筈もない。…何年も前に亡くなったヒューベルト・アスク・ルベリアム殿下と瓜二つだった」

「それは‥まさか」


(つまり、今王宮にいる『彼』がそうなのだろう。…アードラが()()であるように)

ゲオルギウスは、ゆっくりと立ち上がる。


「奴は既に実験を成功していた。‥失われた筈のエイリウスの技術と知識を結集させ朽ちてゆくおのれの身体で試したそうだ」

「———何のために」


呆然と聞き返すユリウスを見て、苦笑した。


「化け物の考えなど、到底わかるはずもない。…理解しようとすればするほど、自身も化け物に近づいていくだけだ。‥忠告しただろう、演者にはなるな、観客でいろ、と」

「‥…父上はどちらですか?‥それとも、舞台を動かす脚本家ですか?」

「私には私の贖罪がある。…少し、喋りすぎたな」


振返らずにそう言うと、長い沈黙が落ちる。

(贖罪…)


「‥‥父上たちはなぜ、殿下の帰還をお認めになったのですか?」


聞く限り、ゲオルギウスはあのヒューベルトの正体に気が付いている。

おそらく、グランシア公爵も同じように。


「何の犠牲や代償を捧げ、何に対しての罪を贖うのですか」


父と子と、二人の間にひときわ強い風が凪いだ。

永遠に続くかのような長い沈黙の後、ゲオルギウスはゆっくりと振り返る。

逆光によってその表情は良く見えないが、静かに一言だけ、呟いた。


「旧き罪———誰もが忘れてしまった、犯した過去の罪」

「…!…」


それきり、ゲオルギウスは何も答えない。


「‥一つだけ、聞かせてください。貴方は母を、愛していたんですか?」


以前カサンドラに言われた言葉を改めて思い出す。

『哀しいから、痕跡も何も一切残さなかったのでは?』

(…そう言いながらも、傍に置いている)


「…あれもリオンも、あまりにも心が美しすぎた。そして、我がフォスターチ家は‥あまりにも血で汚れすぎていたのだろう」


心が美しい、というのはそうかもしれない、とユリウスは思った。

母はどこまでも優しく、儚い女性だった。リオンも同様に、誰にでも優しく、無償の愛を注ぐことをいとわない人物だった。


「——よく、わかりました」


母が好きだったという、薄紫の薔薇がさわさわと風にそよいだ。


「…優しい人は、どうしてすぐにいなくなってしまうのでしょうね」

「‥‥‥」

「後でお迎えに上がります」


ユリウスはくるりとゲオルギウスに背を向けた。


(もし、自分が…)


愛する人を失った時、再び逢えるという悪魔のささやきが聞こえた時、自分だったらどうするだろう。

父は恐らく、愛情が深いからこそ、ファルケンの誘いは乗らなかったのだと思う。


(私も‥そうでありたい)



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