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【完結】どすこい令嬢の華麗なる逆襲~全てのフラグをぶっ壊せ!~  作者: いづかあい
第7章 ルールとは、壊す為にある

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白と黒②


「‥つまんないなー」


ヒュウと、下から吹き上がる風がアードラの髪の毛を揺らしている。

屋根の上で寛ぎながらため息をつくと、吐く息は白く吹き上がる風と一緒に空に消えていく。


普段ならカサンドラと一緒にいる筈のアードラだったが、今日は許されなかった。

と、言うのも‥本日は、ハルベルン帝国に住む国民たちにとっては国を祝う重要な日である。特に貴族ともなると、その意味合いが違ってくる。


(情報交換、損得利益、それに力関係‥その全てを確認し合う日、か)


そんなわけだから、ご主人様であるカサンドラは朝から夕方まで、侍女たちにつきっきりで磨き上げられており、まともに会話をすることさえできなかった。  


元々カサンドラは美人なんだし、あれ以上無理して着飾らなくてもいいのに、とアードラは本気で思うのだが、どうも周りがそれを許さないらしい。


しかも本日ご着用のドレスというのが、どうやらユリウスからの贈り物だということらしく、二人はそろいの衣装でこの祝いすべき日に参上するわけなのだ。

はっきり言ってアードラにとっては面白くないことだらけである。


「いつまですねてんだよ、アードラ」

「…ノエル」


見れば、下の窓からノエルが顔を出し、ワインの瓶を持って手招きしている。


「屋根にいるとか、お前って鳥よりも猫みたいだよな」

「一応人間だけど?」むっとしてアードラは答えると、そのままノエルの元に降りたった。

「ていうか、お前、人んちの上で何してるんだよ。‥この寂しがりやめ」

「うるさいな。ノエルこそ不満とかないわけ?今頃ご主人様はユリウスとヘルトと一緒にいるんだよ?」


アードラのもっともな指摘にノエルは苦笑いで返した。


「仕方ないだろ。オレはハルベルンでも指折りのギルドの統領と言えど、没落した貴族の一族のなれの果てだからな」

「そうなの?」

「まあ、今は今、昔は昔ってね。高貴なお姫様にお近づきになる為には、別の場所で頑張るしかないんだよ」


とか何とか言いつつ、ノエルの持つワインの瓶は既に半分くらい減っている。


「…それ、赤ワイン?」クンクンと匂いを嗅ぎながら、アードラはノエルからグラスをもらった。

「そうだな。…飲むか?」

「僕は白の方が好きなんだけど」

「じゃ、飲むな。…全く身分と言うのどうしようもないものだからな…」


ノエルはそう独り言ちると、くいっと残っていたグラスのワインを飲み干した。

ちら、とノエルの顔を見る。既に結構出来上がっているようで、もしかしたら彼にとってはやけ酒のようなものかもしれない。


「こんなめでたい日に一人酒、なんて僕より可哀そうだね」

「‥お前に言われるとなんだか腹立つな」


そんな他愛もない会話をしていると、突然二人の目の前に一羽の白い鳥が舞い降りた。


「アードラ!」

「?!」

「…おいおい」


ふたりの目の前に現れたのは、本来なら王宮にいる筈のヒューベルトの姿だった。

豪華な白の装束は、贅の限りを尽くしているのであろう。金糸の刺繍が施された胴衣(ダブレット)は、周りの雰囲気とあまりにそぐわない。


「何でお前がここにいる?!」明らかに怒気を含んだように言い放つヒューベルトに、アードラはやや呆れ気味でため息をついた。


「それはこっちのセリフだよ。本日のご主役であらせられる皇太子殿下様が、こんな辺鄙な場所に何のご用ですか?」

「お前はカサンドラの使い魔だろう?!なんで傍にいない?!」


アードラはヒューベルトとあまり関わった記憶はないのだが、それでも今の彼はどこか『らしく』ない程感情をあらわにしているように見える。


「‥何それ。君、ヒューベルト?ラヴィ?どっち?」

「‥そんなことはどうでもいい!カサンドラがレアルドといなくなったんだ!」


ヒューベルトは血相を変えてそう言うのだが、アードラはどこか冷めた瞳で見返した。


「あんたは本当にどうしたいわけ?」

「‥何?」

「サンドラを守りたいのか?‥ヴィヴィアンはどうしたんだよ」

「‥それは‥」


アードラの強い眼差しに、思わずヒューベルトはたじろぐ。

そのまま何かを言い澱むようにして、再び口を閉ざした。


「…だんまりかよ」

「まだ、話せない」


短くヒューベルトがそう言うと、アードラの怒りは頂点に達した。


「‥‥都合のいいときだけ彼女の前に現われて、心配して助言して‥そのくせ、こうやって何かあった時は他の奴を頼って彼女を守ろうとする。‥ふざけるなよ!!あんたは…」


なおも食って掛かろうとするアードラの肩を、ノエルが制した。


「落ち着け、アードラ」

「でも!ノエル!こいつ…」

「…あんたがラヴィの原型(オリジナル)か?」

「‥‥ああ。」


ノエルはじっとヒューベルトの顔を見て、ため息をついた。


「…全くあのバカ。オレが調べる間もなく、自分が知りたかったことに到達できたわけだ」

「‥‥」

「初めまして…だよな?そう警戒しないでいいよ。あいつ、元気?」


あまりにも気軽に声をかけてきたノエルに、ヒューベルトもアードラも驚いて目を見開いた。


「アードラと違って、あんたは()()()()()()してるのか?」

「…ああ。私は彼でもあり、ヒューベルトでもある」


ヒューベルトは戸惑いながらもそう言うと、静かにノエルを見返した。

僅かの間、二人は見つめ合う。やがて、ノエルはふっと笑った。


「なるほどね。…ユイナのことも、あんたがサンドラに助言をしたわけだ。なら話は早い。…サンドラがどうしたって?」

「ノエル!いいのか?こいつは‥」

「アードラ。‥お前が自分の感情の整理ができないのがわかるが、それは彼女のことを聞いてから考えろ」

「‥‥」


ノエルの言葉に、アードラはぐっと口をつぐんだ。


「…ノエルの言う通りだよ。でも、多分サンドラは今、取り立てて危険な状況ではないと思う」

「分かるのか?」

「言ったろ?僕は彼女の使い魔なんだ。…彼女が傷ついたり、何かがあればすぐわかる。今はむしろ‥どこか穏やかな感じがする」

「…それなら、いいが。危険はないんだな?」


念を押すようにヒューベルトが聞くと、アードラはふいっと顔をそむけた。


「…あんたが近付かなければ、サンドラに危険は及ばないよ」

「…‥わかった。それならいい」

「ラヴィ」


くるりと背を向けるヒューベルトに、ノエルが声をかける。

一瞬、びくりと肩を震わせるが、ヒューベルトは決してこちらを振り向かなかった。


「お前がこっちに来て働いてたバイト分の報酬まだ受け取ってないだろ。‥ちゃんと、取りに戻って来いよ」

「‥‥ノエル君、君は本当に不思議な人だな」

「よく言われる。…でも、お前たちや、アードラ程じゃあないだろう?」


どこか茶化すようにノエルが言うだけで、三人を取り囲んでいた剣呑とした空気が和らいだようだった。

それでも、ヒューベルトは此方を振り返らず、そっと呟いた。


「私がこんなことを頼める立場ではないのは重々承知しているが」

「‥なんだ?」

「しばらく王宮に近づかない方がいい。‥それと」

「まだあるの?」イラっとしたようにアードラが尋ねると、たっぷりと間が空いて、ヒューベルトが呟いた。

「…弟を頼む」

「弟‥って」


ノエルが答える間もなく、ヒューベルトの姿はその場所から消え失せてしまった。


「‥なんなんだよ、あいつ!」

「アードラ、落ち着けよ。‥彼は嘘は言っていない。事情があるんだろう」

「…それも、例の能力?」

「まあな。向こうは対策済みだったみたいだけど」


ノエルの瞳は、相手の瞳をじっと見つめるとその時相手が何を考えて居るのか、心の声が聞こえるらしい。


(‥ノエルの持つ力。魔法、ではないよな)


ふと、アードラはノエルの能力の疑問を持った。

それを言うなら、ユリウスも欲深い人間は悪魔の仮面をかぶっているように見える、と言っていたのを思い出す。


「何か、不思議な共通点でもあるのかな?」

「どうした?」

「‥いいや。とりあえず、サンドラは多分無事だよ」

「そうか、それならいいけど」


言いながら、ノエルとアードラは二人並んで、遠い王宮を見つめた。


「…ご主人様の所に行く?」

「行けるのか?」

「多分。…でも、どこにいるんだろ」


そう言ってアードラは静かに瞳を閉じるのだが、見る見るうちに顔が苦しそうに歪んでいく。


「おい?…どうした」


はぁ、と大きく息を吐くと、その場に座り込んだ。


「なんか、ヘンだ」

「変?」

「確かにご主人様の気配は感じるし、怪我がないのもわかる。けど」

「けど?」


何度か息を吸って吐いてを繰り返し、そっと目を閉じた。


「なんていうか、いる場所が凄く遠いような、気持ちが悪い感じがする」

「‥‥気持ち悪い?」


アードラにしては珍しく、額にうっすらと汗がにじんでいる。


「綺麗な清浄なものとそうじゃないものがせめぎ合っているっていうか、不快感と同時に清涼感??みたいなものが一緒に来るみたいな。…気持ちわる」

「無理するな、…なんだか良くない感じがする。あいつの話では、レアルド皇太子も一緒にいる可能性があるんだろう?…おかしなことにはならない筈だ」

「…だといいけど。うわぁ~。何これ、一体どこで何してるんだよ、カサンドラ…」


アードラを座らせながら、ノエルの表情もまた、暗くなる。


「…何かあるとわかっているのに、何もできないのは、悔しいものだな‥マリカ」


傍で見守れればそれで満足なのに。

切なく見つめる王宮では、ゆらゆらとたいまつの灯りが揺れているのが遠目からでも見える。けれどもその灯は、どこか果てしなく、決して手が届かないような距離に感じた。


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