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【完結】どすこい令嬢の華麗なる逆襲~全てのフラグをぶっ壊せ!~  作者: いづかあい
第6章 二人の主人公

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建国記念日・終幕の裏で

ハルベルンの王宮に数多(あまた)ある部屋の中で最も大きく、最も豪華な場所とされているのが今建国記念式典が開かれているこの【太陽の間】である。

ここでは、主に戴冠式や、王族の結婚式などが開かれ、時代の節目においても必ず使われる由緒ある大広間で、つい10年ほど前、ハルベルン王国から帝国へと名前を変え、初代皇帝としての戴冠式が行われたのもまた、この場所だった。


ユリウスとヘルトがサルーンから戻る頃には舞踏会はフィナーレを迎え、皇帝の閉めの挨拶が始まろうとしていた。


「ユリウス様!ヘルト様!」広間に戻ると、リンジーが青い顔をしてこちらに向かってきた。

「‥リンジー様?」

「カサンドラ様がお戻りにならないの‥!」

「!いつからだ?」


血相を変える二人を見て、周囲の貴族たちがざわつき始める。

レイヴンは三人を壁際によせ、テラスの方へと逃れた。カシルがその場に残り、貴族たちの目をかわした。


「どういうことだ?クロム卿、フラムベルグ令嬢」

「…おそらく、レアルド殿下を追いかけたまま帰ってきていないと思います」

「はい!お戻りになられたら私が気づくはずですもの!!」


おろおろと狼狽するリンジーの肩にユリウスはそっと手を置いた。


「‥大丈夫です。カサンドラ様はああ見えて、身体能力も優れていらっしゃいますし、護身術にもたけていらっしゃいます」


ちら、とヘルトを見ると、ヘルトも同様に力強く頷いた。


「…とはいえ、事をあまり大きくは…」


すると、突然、大広間の方から大きな歓声と盛大な拍手が聞こえてきた。


「…なんだ?!」

「カシル殿、この騒ぎは?」


ユリウスが大広間に戻り尋ねると、カシルは複雑そうな表情で答えた。


「…陛下がこの建国式を持って勇退されるそうです」

「「?!!」」


その場にいた全員が驚き、一斉に壇上の席を見上げる。


「…つまり、陛下が退くということは」

「はい…。ヒューベルト殿下が即位されるようです。…こんなに、急にだなんて」


カシルが唸るように呟くが、周囲はまるで疑問を抱くような人間も誰もいない様子で、和やかな祝福ムードに包まれている。


「レアルド殿下は?」

「そのことについては誰も触れていないようですが…同様に聖女ヴィヴィアンとヒューベルト殿下の婚約も発表されました。」


カシルはそう言うと。難しい顔をしているレイヴンを見やる。


「…こんなのは、おかしいと。誰も思わないのか?」

「レイヴン…でも、分かる。ついこの間まで、レイヴンやレアルド殿下と仲良くされていたのに、急にヒューベルト殿下と、だなんて。…それって本当に聖女とよべるの?!納得いかな」

「お、落ち着けリンジー。みんな見てる」


ヒートアップしそうなリンジーの口元をレイヴンが慌てて手で塞ぐ。

じたばたと暴れる様子を見ながら、カシルもまた、ため息をついた。


「この場合、恐らく僕らが正常な反応で、周りが異常何だと思う」

「‥どうして、そう思う?」


ヘルトが尋ねると、カシルはやや怯えた様子を見せるが、こん、と咳払いをする。


「…近年までまるで姿を見せなかった第一皇子が急に復活するのでも相当おかしいのに、いきなり勇退宣言で、帰還と共に即位…なんて、あまりに出来過ぎている」

「‥…私は神殿にお仕えしていた頃、レアルド殿下が慣れない執務に真摯に携わっていたのを見ていました。———これでは、あまりに殿下のお立場がありません」


言いながら、ユリウスの表情はどんどん曇っていった。


「こうなれば、カサンドラ様の身が心配です‥やはりあの時無理にでも」


いてもたってもいられず、広間を出ようとしたユリウスの腕をレイヴンが掴んだ。


「お待ちください、卿。‥実は先ほどから一つ気になることが」

「クロム卿?」

「…広間を警備する騎士の姿が、あまりにも少ないと思いませんか?」


レイヴンの言葉に、ヘルトもまたさり気なく辺りの様子を窺った。

今回のような大規模でかつ高尚な身分の貴族たちが集まる祝賀会にしては、いつもより騎士の姿が少ないように思える。


本来ならば、厳重な警備の元行われるはずで、普段の倍以上の人手をともなう。

しかし、ざっと見た限りその規模は半分にも満たない。


窓の外に眼を見やれば、なにやら庭園の方が騒がしく、皇帝陛下親衛隊である黄金の鎧の騎士が入れ替わり立ち替わりバタバタとしているように見えた。


「誰かを探しているみたい‥!」

「…王宮内にいるのは確かなようだな‥手分けして探してみよう」


**


皇帝陛下が宣言と共に退出すると、続けてヒューベルト、ヴィヴィアンも退場する。奥に戻る道中、ヴィヴィアンが嬉しそうにヒューベルトの腕に絡みつく。


「ふふ、これでやっとあなたと正式な婚約者になれた。…とても嬉しいわ、ヒュー」

「‥‥‥」


幸福そうな笑みを浮かべるヴィヴィアンとは対照的にヒューベルトの表情は全く変わらない。

すると、ファルケンが二人をにこやかな笑顔で迎えた。


「おめでとうございます。新皇帝陛下」


深々と頭を下げるファルケンの横をヒューベルトがすり抜けると、その後にどこかぼうっとした表情のバロル皇帝夫妻が続いていく。


「…何か気になることでも?新皇帝陛下殿」

「ファルケン。これでは、あまりに性急すぎやしないか?」


言いながら、ヒューベルトは人形のように表情のないバロル皇帝を見た。


(父上…)


彼らは決められた行動と、言葉を発することは出来るが、意識は既に虚ろだった。

自ら何かをすることは不可能に近い状態で、どこかやりきれない気持ちで視線を外した。


「御安心なさいませ。王宮内は末端の使用人から宰相まで全てヴィヴィアン様の影の力で制圧済みです。いずれ聖女ヴィヴィアンの祈りによって、全て国民が影に呑まれていくことでしょう」

「‥‥レアルドがいるだろう。彼は影の影響を受けない筈だ」


ヒューベルトがそう言うと、ファルケンはにやりと笑った。


「弟君は然るべきタイミングでこの舞台から退場していただきます。…あなたの望む形で」

「‥それで、その後は?」

「新しい世界が誕生します‥そして、あなた方は新世界の叡智と恩恵を受けた最初の王となられるのですよ、ヒューベルト様、ヴィヴィアン様」

「‥‥‥そう、うまくいくかな」


思ったものと違う反応があり、ファルケンは思わず顔を顰めた。


「どういう意味です?」

「別に。ただの感想だ。…言ったはずだ。私はお前と協力関係にあるわけではない、と」


ヒューベルトの言葉にファルケンは静かに首を振る。


「今は戸惑いもあることでしょう。ですが、いずれ慣れますよ。‥さあ、お前たち。薬の時間だ」


ファルケンはそう言うと、後ろで控えていた皇帝夫妻に向かって、パチン、と指を鳴らす。

ぞろぞろと人形のように去っていく後姿を見ながら、ヒューベルトの眉間に深いしわが刻まれる。


「…ヒュー、あなた少し変だわ」

「ヴィヴィアン」

「私達、ずっと同じだったじゃない。想いも、感情も‥全部。でも、今のあなたは」

「何を考えて居るかわからない?」

「…!!」


ヴィヴィアンとヒューベルトは互いを見つめ合う。

しかし、二人の表情は真逆だった。


「ヴィヴィアン。…君は、もう元の君じゃない。‥まだ、気が付いていないかい?」


冷え切った表情でそう告げるヒューベルトの言葉は、冷たい刃のようにヴィヴィアンの心をえぐっていく、耐えられずに思わず耳をふさいだ。


「…どうして、そんな言葉聞きたくない!!」


目に一杯涙をためながら、ヴィヴィアンはヒューベルトに抱き着いた。

それを拒むわけでもなく、ヒューベルトはただ静かに立ち尽くす。やがて、するりと腕を掃うと、なおも縋りつこうとしたヴィヴィアンに背を向けた。


「‥ッあなたが気にしているあの子は、あなたの大切な弟君といるわよ!!」

「…それが?」

「分からない?…ファルケンが、レアルドを放っておくわけないじゃない!!」

「!!!」


思わずヒューベルトはヴィヴィアンの右手首をきつく掴んだ。


「いた」

「どういうことだ?君は何を知っている?」

「さあ?私が述べたのはあくまでも想像に過ぎないわ。‥それなのにそんなに慌てちゃって。そんなに心配?あの子が?」


きっとにらみつけるヴィヴィアンを乱暴に離すと、ヒューベルトはそのまま魔法で姿を消した。

その場所をぼうっと見ながら、ヴィヴィアンは腕をだらんと下げる。

ぼとり、という音と共に右手首が落ちる。


「…あーあ‥」

「うわぁ!!」


のろのろとそれを拾うと、背後から悲鳴が聞こえた。…どうやら、女性護衛騎士の一人のようだ。


「!」

「ひっ…あ…あ…」

「見たわね」


ヴィヴィアンがそう呟くと、護衛騎士の後ろについていた影の色が濃くなる。

そこから宿主のようなものが出現すると、女性騎士の口と目をふさいだ。


「‥‥ッ!!!」


悲鳴もなく、もがくこともなくただ黒い影に呑まれると、その身体は赤い光に融けて、一つの石に変化する。血のように赤い宝石がごとりと落ちると、ヴィヴィアンはおもむろにそれを拾った。


「‥治さなきゃ、彼は私を見てもくれない」


そう言うと、赤い塊をぱくりと飲み込む。

土気色をしていた肌は白く戻り、右手首も綺麗に接合した。

そのまま壁にかかってある大鏡を見ながら、自分の姿を確かめる。


「‥ふふ、なんて醜い化け物の姿なのかしら」


ヴィヴィアンの頬を一筋の涙が落ちる。

それが一体何の涙なのか、もうわからなかった。



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