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【完結】どすこい令嬢の華麗なる逆襲~全てのフラグをぶっ壊せ!~  作者: いづかあい
第6章 二人の主人公

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建国記念日5・演者と観客

豪華な椅子と調度品が並び、わずかな酒気を帯びた空気の中、もうもうと煙草の煙が部屋(サルーン)に充満している。和やかな談笑の中にも見えない水面下で鋭利な言葉の裏に、様々な思惑と駆け引きが飛び交っている。


その一角、最も注目を浴びているのは、フォスターチ公爵だった。

ゲオルギウス・フォスターチは陶磁器製のパイプボウル(火皿)に火を灯し、マウスピースに口元をあてた。


「しばらくご不在だった皇太子さまがお戻りなられるとは、なんと素晴らしい建国式典なのだろう!」

「これでこの国も更なる女神の祝福があることでしょう。…して、公爵家としては、どちらの皇太子殿下をご指示なさるので」


ひとりの伯爵がまるで脂ぎった獣のような目で、ロッシ・グランシア公爵とゲオルギウス・フォスターチ公爵を交互に見る。


王宮のサルーンともなると、ハルベルン帝国の中枢であり、全ての情報の源がそろっていると言っても過言ではないだろう。


多くの椅子が並ぶ中、皆、爵位ごとに皆腰かけている。入り口のドアに近ければ近い程、身分が低く、発言権がなくなっていくのだ。


「我が家門が支えるのは、このハルベルンという大きな存在です。いずれ、正しきものが、正しきありようにこの国を導く‥私はそれらをただ受け入れるのみです」


ロッシはにこやかに笑って言葉を濁した。


「ハ‥ハハ。た、確かにその通りで、…そうだ!フォスターチ公爵家は…」


更に伯爵がべらべらと喋り出すと、突如ガツン!という大きな音がサルーン内に響き渡り、全員びくりと肩を震わせた。


「どの時代でも、損得でものを考え、自分の懐を潤すことばかりに熱心な人間は湧いて出るものだ。…この国の未来を想うと、嘆かわしいことだ」


シーン、とその場が凍り付く。

ゲオルギウスがギロリと一にらみすると、二人を取り囲んでいた者達は皆、愛想笑いを浮かべて一目散に逃げ出していく。


「ようやく、静かになりましたな…貴公がこのような場所に来られるとは、なんともお珍しい」

「ロッシ・グランシア。貴公こそ、妻も伴わずこちらに来るとは」


グランシア公爵は愛妻家で有名である。

どのような場面にも必ずタリア婦人を伴い、訪れるのが常だ。


「今日は公子と公女共にこちらにいるもので。」

「公子とは‥あちらのヘルト卿のことかな?」

「!」


ヘルトとユリウスは肩を並べながらこちらに向かってやってくるのが見える。


「グランシア小公爵‥あちらはユリウス公子」

「そういえば妹君は婚約されたとか」


ひそひそと囁き話が飛び交う中、ユリウスは思わず苦笑した。


「…全く、正式な発表もしていないのに、どこから流れてくるものだか‥」

「金も権力もある人間にとって、根も葉もある噂程好ましいものはないだろう」

「おっしゃる通り、暇を持て余している者達ばかりのようですからね」


サルーンの一番奥、最も豪華な椅子に座っているのは、グランシア公爵と、フォスターチ公爵の二人だった。そこを目指すヘルトとユリウス二人の道を遮るものはおらず、皆、道を譲っていく。


結局ふたりの公爵の周囲にいた取り巻き達は名残惜し気にすごすごとその場を退き、公爵のテーブルにはヘルトとユリウスだけが残った。


「父上も喫煙具をお使いになりますか?」

「…そうだな。たまにはいいだろう」


ロッシはそう言うと、懐からブライヤーパイプを取り出した。ヘルトは備え付けのライターで火をつけると、ロッシの口から白い煙が吐き出される。



「どうした?‥二人そろって、損得利益で動く連中共に話題を提供してどうする」


たっぷりと皮肉を込めてゲオルギウスが言うと、なおもちらちらと聞き耳を立てる者たちをギロリと睨みつけた。


「父上ほどではありませんよ。ご自身こそ、このような場所に訪れるなんて、どういう風の吹き回しでしょう?」


にこやかにそういうユリウスを見て、ゲオルギウスはにやりと笑う。


「無断で決めた婚約について弁明でもしに来たのか?」

「弁明など。‥もとより父上が望まれていたことでしょう?‥カサンドラ様がこちらに譲歩をしてくださった迄のこと」

「ふ まあいい…まさか家門同士の挨拶というわけでもあるまい。グランシア小公爵殿まで連れてくるとは、どのような要件だ?」


ユリウスとヘルトは互いに顔を見合わせると、頷き、ヘルトが口を開いた。


「‥ヒューベルト殿下についてお伺いしたく。…彼は今までどちらに?」

「何が言いたい?」


煙を吐きながら、訝し気にロッシは聞き返した。


「あまりに急でしたので…。父上も、フォスターチ公爵もご存じだったのかと思いまして」


ロッシはゆっくりと煙草を味わいながら、大きく息を吐く。


「急なお帰りだと聞いているが」

「俺は、いつあの方が入学なり、遊学なりされたいたのか、全く存じませんでした。‥父上は勿論ご存じだったのでしょう?」


ヘルトの問にも、二人の公爵は一切顔色を変えることはなかった。


「それは聞いてどうする。何を疑っている?」

「‥別に。不可視な違和感というものは、得てして言葉にするのはとても難かしいものです」

「不可視な違和感…か」

「‥‥」


十分に煙草をふかしたのち、たまった灰をさらに開ける。


「その違和感は時に真偽を見極めるには必要な物だ」

「真偽‥‥?」

「…もう少しで、()()()()は終盤に差し掛かる。‥そろそろ夜会はフィナーレを迎える時間だ」


それ以上は何も言わずにロッシが席を立ちあがると、ゲオルギウスも同じように席を立つ。

去ってゆく二人を見送りながら、ユリウスはため息をついた。


「観劇‥ですか。つまり私達はあくまで()()でいろ、と。自分たちが決して()()になるなと…そう言うことでしょうか」

「うまくはぐらかされたか…全く、読めないお二人だな」




同じころ、廃棄された地下水路へと逃れた二人は、さび付いたドアにピタリとへばりつき、外の様子に耳を立てる。


バタバタと複数の人間が走り去る音と罵声のようなものがしばらく聞こえていたが、やがて静かになった。扉の向こうで去ってゆく足音を聞きながら、二人は同時に息を吐いた。


「ここは見つけにくい場所にあるし、ほとぼりが冷めるまで身を顰めましょう」

「申し訳ない。‥令嬢、お怪我は」

「けがというか…こちらこそ。力になれず、申し訳ありません」


扉の外は静まり返っており、改めてレアルドは肩の力を抜いて、大きく息を吐く。暗くて何も見えないのだが、さらさらと川の流れる音が聞こえてくるので、どこか外には通じているのだろう、と思った。


「‥ここは、確か調査書で見たな。廃棄された地下水路だったか‥よく知っていたな」

「以前弟が攫われそうになった時にも来たことがある場所です。‥と言っても私は入り口までで、中に入ったのは初めてなのですけど」


カサンドラにとってはこの裏の庭園は、以前クレインが攫われたときにも通ったことのある道だった。


(そういえば‥ゲームでレアルドのイベントにこういうシーンがあったような‥まさかね)


そろそろ戻ろうか、とカサンドラはそっと取っ手に手ををかけてみると、バキン、という間抜けな音を立てて取っ手は壊れてしまった。


「あ」

「‥!‥」


思わず二人は顔を見合わせる。


「…すみません、私のバカ力が…」

「い、いや。‥‥仕方ない。ここは前に進むとしよう。‥足元に気を付けて」


手持ちに明かりはなかったが、以前探索の際に使われたであろう松明を見つけた。


「たいまつ…でも火が」一瞬、アードラを呼ぼうかとも考えたカサンドラだったが、事情を説明するのは骨が折れそうなのでやめておくことにした。


「それ位なら」


レアルドは言いながら、パチン、と指を鳴らす。すると小さな火が起こり、たいまつは辺りを明るく照らした。


「…ま、魔法を使えるんですか?!」

「一応、ね。…川が流れる音が聞こえるところを見ると、外につながっている筈だ。慎重に行こう」


ピチャン、とどこからか水がしたたり落ちる音が聞こえてくる。

先だって、復活祭に発見されたこの古い地下道は、騎士団が隅々まで調査し、ある程度の歴史と用途を余すところなくレアルドに報告されていた。


「この通路は一体どこにつながっているだろうな?…調査隊の報告だと、廃墟に行きつくようだが」

「廃墟‥ですか?」

「かつては、王家の為に造られた緊急用の脱出経路だったと聞いた。‥この国はあまりにも平和で、いつからか廃れてしまったようだったが」


レアルドが持っていた松明で壁を照らすと、ところどころひび割れているものの、しっかりとした造りの石が積み重ねられていた。


ちら、と後方を見やると、カサンドラがヒールを脱いで歩いているのが見えた。ぎょっとして振り返るのだが、当の本人は全く気にすることもない様子ではあるものの、右足を軽く引きずっているようだ。


「足は大丈夫か?」

「あ、少し痛いですけど‥まさかここで座り込むわけにはいかないでしょう」

「そういう問題じゃないだろうに‥これを持っていてくれるか?」

「はい‥?」


持っていた松明をカサンドラに渡す。

それを見届けると、くるりと背を向けた。


「?!ちょ、なにを!」

「‥君程度なら問題はない。背中におぶさるといい」

「い、いいえ歩けますから!!十分元気ですから!!」

「そう言っても足を引きずっているじゃないか」

「そ‥それはそうですけど?!」

「ん」

「‥‥」


何度かそんなやり取りをしたものの、最終的にはカサンドラが観念する形で背中に覆いかぶさる。

人命救助とはこういうものか、などと考えながらレアルドは暗闇の向こうに向かって歩き出した。


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