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コメディー〔現実世界〕

怠惰な人々の不満

作者: 剣月しが


 2×××年、人々は怠惰を理由に趣味を持たなくなった。


「身体を動かさなければならない」スポーツは勿論(もちろん)のこと、「文章を読まなければならない」読書、ひいては受動的なもの、例えば映画鑑賞や音楽鑑賞といったものすら好まれなくなり、あらゆる文化的活動は衰退の一途を辿(たど)った。


 そんなある日、とある科学技術大国の研究者が画期的な装置を発明した。


 その装置とは、頭の指定された箇所に心電計のような電極をつけ、スイッチを入れるだけで、微弱な電気信号が発生し、それが脳の報酬系に作用することで、ある種の快楽を得られるという代物だった。


 多くの者は覚醒剤を利用したときのような依存症があるのではないかと危惧(きぐ)したが、研究が進むにつれて、装置を利用してもただ快楽物質が出たと脳に誤解させるだけであり、不可逆的な影響や深刻な副作用などが全く起こらないことが判明したので、ついには政府の後ろ盾の下に製品化されることとなった。


 非常に簡素な作りだった快楽装置は、大量生産することも容易だったので、「簡易・迅速で廉価な快楽」を売り文句に市販され、無精(ぶしょう)なりし者を中心として(またた)く間に普及した。


 快楽の種類――「フレーバー」も多様な展開を見せ、中でも「嫌いなアイツをぶちのめす」味は、後味の爽快感が(いちじる)しいと(ちまた)で噂になり、空前の大ヒット商品となった。


「努力の後の勝利」味や、「琴線に触れる芸術」味は、特にベストセラーにはならなかった。


 また、これらの爆発的な人気に追随するように、類似品や模倣品まで現れるようになった。


 安全性が確保されていないダミー、コピー、フェイクの数々は法律によって直ちに規制されたが、「ギャンブルに勝利」味や、「琴線に触れる性癖」味といった、いわゆる「闇フレーバー」は、厳しい取り締まりを()(くぐ)るようにして、アンダーグラウンドで取引され続けた。


 ただ、そんな風にして人々の快楽装置への信頼が不動のものとなった頃、装置の売上に(かげ)りが見え始めた。


「どうしてだ! どうしてなんだ!」


 研究者含め商品開発チームは、大いに慨嘆(がいたん)した。


「新フレーバーの『初恋の成就』味や『あなたの大好物で満腹』味の売れ行きも(かんば)しくない! この快楽装置は、怠惰な人々の不満に応える画期的な発明なんだぞ! 一体何が問題だというんだ!」


 そのとき、市場の調査に出ていたアナリストが大慌てでラボに帰ってきた。


「大変です! 今、人々の間で大変なことが起こっています!」


「おい、どうした! 何が起こっているというんだ!」


 研究者が、その答えを()く。


 すると、アナリストが呼吸を整えて一言。


「人々はもう、いちいち頭に電極をつけるのが面倒臭いとのことです」


お読みいただき、誠にありがとうございました。


お楽しみいただけていたら幸いに存じます。

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