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 コリンさんの宣言と同時に、お互いに距離をとる。

 バトラムがスキルの準備に入っているのが目に入った。続いて、ストーン、デュバリーも構えをとる。

 だが遅い。

 

「『組織暴力(アーリマン)』!」


 パーティーメンバーの攻撃力を上げ、同時に敵全体の守備力を下げる、俺のスキル。

 『戦斧(バトルアックス)』のメンバー全員がスキルに抵抗できず、デバフがかかったことを、本能的に感じる。

 アリアン嬢を狙われないよう、大きく前に出た。俺ならば、彼らの攻撃を受けても死ぬことはない。


「アリアン嬢!」

「はい!砕けて散らせ!『火樹銀華(ハナビ)』!!」


 闘技場の地面から太く凶悪なツタが生え、鞭のように『戦斧』に襲い掛かる。奇妙なほどにしなったその造形は、さながら命を刈り取る死神の鎌のようだ。

 『組織暴力』により強化されたその一撃は、彼女のスキル効果によりクリティカルとしてストーン人形たちを打ち据える。腹を抉られ、げぎゃ、という意図せぬ声がバトラム人形から漏れ、そのまま動かなくなった。戦闘不能になったのだ。

 

「バトラム!くそっ、なんだこの威力!」


 悲鳴のような声が、ストーンから発せられる。戦闘不能になったバトラム以外の二人へ火樹銀華の枝が絡みつき、その動きを封じた。


「畜生!こんなのありかよ!」

「……動けん」


 これでまだもう一つスキルが発現するというのだから恐ろしい。彼女の3つ目のスキル『大樹将軍(フォレストカリスマ)』は、クリティカル率とその威力を50%アップさせる奇跡のようなパッシブだ。こういうのを、才能(ギフト)と呼ぶのだろう。

 発現したら、こんなEランクパーティーとかではなく、もっと上のランクからも声がかかるに違いない。


 少し寂しい気持ちになる。基本的に、パーティーは移籍に制限がない。能力主義のため、もっと稼げると思えば、今いるパーティーを抜けて他に行くのは当たり前だ。

 彼女が今いてくれるのは、あくまでたまたま。

 ずっと応援していた踊り子が、どんどんとメジャーになり、大舞台で踊るのを遠くで見ているような、何とも言えない気持ちになる。いや、すごい子だと思ってたし、こうなるのはわかってたはずなんだけど……。


 結局、俺はまた「いらない」と言われてしまうのが怖いんだと思う。

 今回は特に、スキルについても正直に話しているので、これでダメならもうどうしようもない、という焦りのようなものが心のどこかにあるのだ。


 ふっと、「夜の牙」時代のことを思い出す。最後は「脱退」という形になってしまったが、仲間たちと笑いあい、輝いていた日々。

 アリアン嬢のスキル構成はほぼ最強と言っていいと思うが、ダニもすごかった。パッシブこそないものの、全体攻撃スキルを2種類持っている。もともとの攻撃力も天性の才能があり、まさにエースと呼ぶにふさわしい活躍だった。

 

 歴史上、全体攻撃スキルを持った冒険者は必ずA級以上のパーティーに所属している。ダニに3つ目のスキルが発動し、それが全体攻撃スキルだった時、俺は一人で飛び上がって喜んだ。あいつと一緒に、Aランク、いやSランクを目指せると。

 そして、今や立派なAランクパーティーだもんなあ。


「さて、チェックメイトだ。お前さえ倒せば、『戦斧』にもう戦う力はない、そうだな?」


 俺は火樹銀華に拘束されているデュバリー人形の前に立っていた。

 彼のスキル『ファイヤーダンス《ナツガモエテル》』は全体攻撃の上、炎による追加ダメージがある。この場で片づけておくのが正解だ。

 デュバリーは絡みついた枝を振りほどこうと、四肢に力を入れていたが、俺が来たことに気が付くと、目線だけこちらに向けつぶやいた。


「……卑怯な男だ」

「卑怯?笑わせるなよ。純粋な実力の差だ。大体お前ら、あのバトラムとかいうのにデバフ使わせようとしてたろ?お互い様だろうに」


 デュバリーが目を見開いた。自身のスキル内容については、秘匿するのが基本だ。敵対するパーティになど、漏らすわけがない。なのになぜ。そういった驚きだ。

 そんな顔されてもな。俺は困りながら笑ってしまった。『鑑定屋』のことを話すわけにはいかない。適当に話をでっちあげる。


「そこまで驚かなくてもいいだろ?酒場に行けば、この手の話はいくらでも転がってる。知ってるかい?俺の耳はあちこちにあるんだ」


 そうして、『素手喧嘩(ステゴロ)』を発動させる。デュバリー目掛け、大きく拳を振りかぶった。


「今日で『戦斧』は解散だろうが、お前ならどこへ行ってもやっていけるさ。ああ、俺が保証してやるよ。貴重な全体攻撃スキル持ちだしな」


 デュバリー人形が口を開き、何か言いかけたが、それより早く俺の拳が腹部に突き刺さった。音にもならない空気が、人形の口から洩れる。

 デュバリー人形の体に深々と突き刺さった拳を引き抜くと、一度だけかすかに震え、人形が動きを停止した。おそらく今頃、自分の体に意識が戻った頃だろう。

 左を見ると、アリアンが動けなくなったストーンに対し、攻撃を仕掛けるところだった。長槍斧(ハルバード)を大上段に構え、気合を入れる。


「何なんだ!何なんだよ、お前ら!」


 ストーンが悲鳴を上げた。無理もない。決闘の開幕から、一切何もできずにメンバー二人がやられ、そして次は自分。Eランクのパーティーが、格下相手にここまでいいようにやられるなど、考えてもいなかったろう。

 反対に俺は、こみ上げる笑みを抑えきれない。『黒いメンフクロウダーク・バーン・オウル』では、魔物以外を相手にすること自体が初めてだった。連携がうまくいくかを心配していたが、杞憂だったようだ。


「何だもなにも。あなたが馬鹿にしていたFランクパーティーですよ。ねえどんな気持ちですか?たった二人のFランクパーティーに、手も足も出ずに瞬殺されるのは?ねえねえどんな気持ち?」

「こいつを解け!いますぐぶっ殺してやる!」

「そんなこと言われて、解く馬鹿がいると思いますか?本当におめでたい人ですね」


 怒りに任せても、状況はよくならないと考えたのだろう。ストーン人形が猫を撫でるような声を出す。


「な、なあ。落ち着けよ。わかった。アリアン、お前は強い。今回は俺たちの負けだ」

「はい。そうですね」

「とはいってもだ。俺たちも解散、てなると後々大変なんだよ。だからさ、この勝負を引き分けにしてくれたら、俺たちの手持ちから金貨100枚を払うってのはどうだ? な? 悪くない話だろう?」


 ストーンがそう言った瞬間、アリアン嬢が、一直線に長槍斧を振り下ろした。ごりっという音の数瞬後、ストーン人形の首が落ちる。


「残念。金貨100枚なら私たちでも稼げますが、あなたたちを二度と見なくて済むチャンスは今しかないので」


 同時に、コリンさんの声が響き渡る。


「そこまで!勝者は『黒いメンフクロウ』!」


 ゆっくりと、視界が暗転した。


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