表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/92

6

「Eランクへの昇格審査について説明させていただきます」


 コカトリス討伐から戻ってきた翌日。

 俺とアリアン嬢は、ギルドの受付にて昇格審査の話を持ちかけられた。

 受付嬢は、Gランクの頃から変わらず、コリンさんという人が対応してくれている。たまに違う人が受付する場合もあるが、コリンさんが休みだから代わりに、と教えてくれた。


「Eランクへの昇格審査では、これまでのFランク相当ではなく、Eランク相当の依頼を完遂していただきます」

「そうなんですね」


 アリアン嬢が、目をキラキラさせながら聞いている。俺もこんな感じだったんだろうか。若者の輝きが眩しいぜ……。


「Eランクでは、Fランクと異なり、いわゆるリーダータイプの魔物を討伐することになります。また、採取、収集などのクエストはEランクのリストには出てこなくなります。これは下のランクのパーティーが仕事を請け負うために必要なことだとご理解ください」

「はい!」

「リーダーとされる魔物は、通常種でも、周囲の魔物より強力になっていることが多いです。パーティーの壊滅率が上がるのもこのランクからです。装備等に不安があれば、必ず準備をしてください」


 コリンさんに言われて、アリアン嬢が慌ててカバンの中を確認する。かわいい。


「それでは、審査の対象について説明させていただきます。今回の討伐対象は『大抱熊(ハッグベア)』。『抱熊(ハグベアー)』の中でもひときわ大きく、狂暴な個体がそう呼ばれます。今回は、帝国の南、ケリットの郊外で街道に出没した大抱熊を討伐していただきます」


 抱熊が一緒にいた場合は、そちらの討伐もお願いいたします、と付け加えた。

 大抱熊か。爪と牙が武器防具のいい素材になる。その昔、ダニとスタールと三人で何度も討伐に向かったことを思い出した。一時期は大抱熊が近くにいなくなってしまい、旅をしながら向かったこともあったっけ。

 ちらりと、隣に立つアリアン嬢を見ると、緊張した面持ちで受付嬢の話を聞いていた。

 いい傾向だと思う。Fランクでは敵なしという状態になっていたため、天狗になっていやしないかと心配だったのだ。


「ーー説明は以上です。何かご質問はありますでしょうか」

「俺は特にないです。アリアン嬢、何かあるか?」

「私も、大丈夫です!」


 受付嬢が頷く。


「それでは、『黒いメンフクロウダーク・バーン・オウル』に、武運のあらんことを――」

「おい!ちょっと待てよぉ!」


 受付嬢が依頼文書にギルドの印章をつこうとしたその時、後ろから突然大声が降ってくる。驚いたアリアン嬢が、大きくびくんと跳ねた。

 振り返ると、男ばかり3人のパーティーだろうか。真ん中の男は顔だちこそ悪くないが、一目見てあまり性格は良くなさそう、というのが伝わってくる。不思議なもんだ。話したこともないのになんとなくわかるんだから。

 ほかの二人も、性格は良くなさそうだった。こいつらは真ん中のやつと違い、顔だちもよくないのでもはや救いようがない。

 

「神様は残酷だな」

「ですね」

「ああん?何言ってんだコラ!」


 左の男がすごんでくるのを受け流す。このくらいで委縮していては冒険者など務まらない。血の気の多い連中の集まりだし、こんなこと日常茶飯事だ。


「アリアン。探したよ」


 真ん中の男が笑顔を浮かべ、両手を開いて近寄ってくる。


「知り合い?」

「ほら、こないだ話した『戦斧(バトルアックス)』ですよ」

「あー、君を勧誘した」

「そうですそうです!」

「無視しないでもらっていいかな?」


 手を広げた格好のまま、男がつぶやく。


「何の用ですか?」

「こないだも言ったと思うけどさ」男が髪の毛をかきあげ、斜め45度の角度からアリアン嬢を見つめる。「俺たち、『戦斧』に入ってくれないかな?」

「お断りします」


 アリアン嬢が半眼できっぱりと告げる。


「私、今は『黒いメンフクロウ』のメンバーですし。あなたのパーティーに興味もありませんし」

「でも、俺たちはEランクだよ?今よりもお金だって稼げる……」

「そのEランクの昇格審査を受けに行くんです今から。邪魔しないでもらえますか?」


 アリアン嬢は取り付く島もない。

 手を広げた格好のまま、余裕の表情を見せている男だが、その額に脂汗がにじんでいるのを俺は見逃さなかった。


「……どうしても、『戦斧』に入る気はない、ってことか」

「最初にあったときから今まで、一切ぶれずにそう言ってるんですけど。むしろ不思議です。なぜまだ私を誘うのか」

 いつものアリアン嬢からは想像もつかない、別人のように冷たい視線。それを受けて男が一瞬たじろぎ、それから平静を装って言った。


「よし。それならばこうしよう。俺たちは『黒いメンフクロウ』に決闘(パーティーデュエル)を申し込む!」


 ギルドにいたギャラリーが、おお、とざわめいた。

 アリアン嬢がこちらを振り返る。


「クリスさん。パーティーデュエルって、確か」

「パーティー間のもめ事を解決するための、まあ言ってみればギルド公認の喧嘩だな。例えばレイドの素材分配や、依頼の受注なんかでゴタついた時に使うんだ」

「俺たちはアリアンの移籍を申し込む!彼女がこのギルドに来た時、メンバー募集の掲示板を見ていたというじゃないか!つまり、本当は俺たちのパーティーに来るはずだったんだ!それを横から声掛けして、いたいけな少女を騙しやがって……許さん!」

「お前らのパーティー?」

「これだ!」


 男が取り出したのは、「世界に出ましょう!こちら単体デバフスキル持ちと単体防御スキル持ち!」の紙だった。めまいがする。

 というか、今三人ってことは、そこから一人増えたんだ。やったじゃん。

 

「アリアンの活躍を見れば、彼女が世界に出たがっていたことは明白!さあ、痛い目を見ないうちに彼女を『戦斧』に引き渡せ!」


 アリアン嬢を見ると、すごい勢いで首を横に振っている。

 俺は一歩前に出ると、男の目をまっすぐ見ながら言った。

 

「では、俺たちはお前らの解散を要求する。他人のパーティーメンバーを引き抜こうってんだ。それ位賭けてもらわないとな」


 こういう手合いは、中途半端に遺恨を残す方が面倒くさい。徹底的につぶしてやる。

 俺の要求に、男がにやりと笑った。負けるはずがない、という笑みだった。


「いいだろう。それでは、決闘だ!」


 盛り上がるギルドのロビー。パーティー同士の喧嘩は、スキルの打ち合いや駆け引きがあり、見ごたえがあるのだ。彼らにとっては、ちょっとした娯楽というところだろう。

 ため息をつきながら決闘場へと向かおうとすると、袖を引かれる。アリアン嬢が、心配そうにこちらを見上げていた。


「私たち、勝てますかね?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 文字が纏まっていて読みやすかったです!!話数もまだ少ないので全て読ませてもらいました!ありがとう! [気になる点] まだ少ないのでなんとも言えないです [一言] いえああああああ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ