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 「黒いメンフクロウダーク・バーン・オウル」が帝都で活動を始めて2か月。G級だったランクはF級になっていた。F級からは、G級よりも難易度の高い採取、収集に加え、魔物の討伐が可能となる。

 魔物とは、この世界の神を憎む者――邪神、と呼ばれているが――が生み出したとされている。人やドワーフ、エルフ、精霊といった、神が生み出したものを襲うことをその使命とし、その力を食らう。

 俺たち冒険者は、そういった魔物たちから市井の人々を守るために活動をしているのだ。


「とはいっても……。F級で出会う相手だし、いまさら肩慣らしにもならないよなあ」


 俺の拳を受けて、大蛙(ジャイアントトード)が絶命する。

 『組織暴力(アーリマン)』の効果により、大蛙はまるで大根を折るかのようにたやすく片づけられていく。本日のクエスト達成条件は、この大蛙を15匹討伐することだったが、俺の周りにはすでに30を超える蛙の死骸が転がっていた。

 周りに魔物の気配がなくなったことを確認し、汗をぬぐう。腰の後ろにさしていた水筒を取り出し、中の水を飲み干すと、潤いが喉を滑り降りていくのが分かった。

 討伐の証である、大蛙の舌を切り取っていく。その他、薬となる脂汗を出す汗腺、傷のついていない皮などを剥いだ。簡単な鎧や盾、それに道具袋の材料になる。ギルドで買い取ってもらうか、さもなくば帝都の路上で売ってもいいだろう。

 

 パーティーメンバーは一人も増えていなかったが、特に心配はしていなかった。大体、まだF級だ。「黒いメンフクロウ」に入ってもらうにせよ、俺が誰かのパーティーに入るにせよ、「これぞ」という人材が来るとはとても思えない。今は少しでもランクをあげて、よりよい出会いを待つのみだ。

 と、頭の中でファンファーレが鳴り響いた。いくつものラッパが、華やかな音を奏でる。


「嘘だろ……大蛙でレベルアップかよ」


 スキルと同様、神から与えられた「レベル」は、いろいろな経験を詰むことで上がっていく。レベルが上がると、身体能力や精神力、技術などが向上すると言われ、また、まだ発現していないスキルを目覚めさせることがある。

 どんな経験でも、量の大小はあれどレベルアップの糧になる。冒険者の間では、魔物や人との戦いが、レベルアップの近道とされていた。

 『鑑定屋(エエモンモロタノウ)』で、自分のステータスを確認する。攻撃と素早さ、それに運の値が上がっていた。

 レベルはちょうど30。B級のパーティーでは、可もなく不可もなくといったところだ。俺が見てきた中で最もレベルが高かったのは、Aランクパーティー「飾り羽」のリーダー、マシュー・ドデンの42。次いでBランクパーティー「移り樹」のアヤで41だった。

 ダニは俺よりちょっと上で32だったはずだ。


 レベルアップは嬉しいが、もうちょっと強敵と戦った後、達成感とともにファンファーレを鳴らしてほしかった。蛙でレベルアップは、ちょっと締まらない。


「ま、贅沢はいうまい。レベルが上がるだけ御の字だ」


 俺は蛙から得た素材を袋に詰め込むと、街への道を歩き出した。

 もうすぐ日が傾き始める。今日はおとなしく帰るとしよう。


----------------------------------------------------------------


「何してんだ、あの子?」


 ギルドに戻り、討伐の証を引き渡した後、メンバー募集掲示板の前に立って何かを悩んでいる女の子を見つけ、俺は立ち止まった。

 背は平均的な女性より幾分か低いくらい、栗色の明るい髪が、首をかしげるたびに左右に揺れている。横顔だけだが、顔だちも整っているといっていいだろう。スタイルは良くも悪くもなく、実に普通。水晶のように丸い目が、真剣に掲示板を見つめていた。

 年齢は、どう見ても12~3。明らかに子供の雰囲気が出てしまっている。俺たちは二人だったから、子供でもなめられずに済んだが、この子は一人だ。悪い大人に捕まらなければいいのだが。


 彼女はどうやら、どこかのパーティーに入りたいらしい。募集の髪を一つ一つ見ては、ため息をついて次に移る。条件を満たせないのだろう。

 やがて、一枚の紙の前で動きが止まった。


「これですね……」


 意を決したように頷き、一枚のチケットに手をかけた。

 『若くて可愛い女の子募集!当方45歳Eランク』


「ちょっと待てぇぇぇぇぇ!!」


 俺が思わず出した大声に、舞台劇の女優かというくらい飛び上がる少女。

 いやだってさ、これはさすがに止めざるを得ないよ。よしんば、よしんばよ?この募集主が驚くほどいいやつだったとしても……いやだめだ。「若くて可愛い女の子募集」なんて書くやつがまともだとは思えん。

 とりあえず、女の子の前まで進み、声をかける。


「あー、その……驚かせてごめん。パーティーを探してるの?」


 少女は突然現れた怪しいおじさんに警戒心マックスだ。そりゃそうだよね。

 ていうかこの状況、もしかして俺の不審者ぶりは45歳Eランクより上なんじゃなかろうか。泣きたい。


「そうですけど……えっと、どなたですか?」

「あー、『黒いメンフクロウ』というパーティーをソロでやってる、クリスと言います。クリス・イングブルムです」

「あ、ご丁寧にどうも。私、アリアン・ブラックと申します。パーティー登録も、参加もしていません。この街に出てきたばかりで」

「なるほど。それで掲示板をご覧になっていたんですね」

「はい。……あの」


 彼女はしげしげと、俺と手元の紙を見比べた。


「45歳Eランクの方ですか?」

「違います!」


 Fランクなんだごめんね。

 

「パーティーを探しているなら、もうちょっと怪しくないやつのほうが…」

「私、スキル一つしかないし、それも単体攻撃系だから……なかなか条件に合うのがなくって」


 ソロで動くことも考えたが、魔物や山賊に囲まれることを考えると、怖くて踏み切れないという。

 確かに彼女の言う通りだろう。女性、しかも年若い冒険者など、悪い大人からしたら格好のエサだ。

 そんなときに、単体攻撃のスキルしか……ない……んじゃ……。


「君、俺と一緒にパーティー組まない?」

「は?」

「いや、決してヨコシマな意思があるわけではなく!パーティーランクもF級だけど!君はきっと強くなるから!」

「えっと……」


 彼女が戸惑うのも無理はない。見知らぬおっさんに話しかけられ、いきなりのパーティ勧誘。はたから見れば、これこそ「悪い大人に捕まった」図なんじゃないの。

 だが俺の『鑑定屋』には見えていたのだ。彼女の可能性が。


アリアン・ブラック【木属性】 レベル:5


攻撃:14

防御:5

速度:10

精度:10

抵抗:8

運:12


【スキル1】刀山剣木(ツリーインフェルノ)

敵一体に攻撃を行い、対象の攻撃力を少しの間下げる。


 これが彼女の言っていた単体攻撃系のスキルだろう。なるほどこれだけであれば平凡な冒険者だし、売り込みができないのもよくわかる。

 しかし彼女の真価はそこではないのだ。未だ自分自身も把握していないであろう、目覚めていない力が、この少女にはある。


【スキル2】火樹銀華(ハナビ)(グレーアウト)

敵全体に攻撃を行い、少しの間敵の運を下げる。この攻撃でクリティカルが出た場合は、対象の次の行動を阻害する。このスキル使用時、クリティカルの確率が50%アップする。


【スキル3】大樹将軍(フォレストカリスマ)(パッシブ)(グレーアウト)

自分のクリティカル率が50%アップし、クリティカル攻撃時のダメージが50%アップする。


 レベルが足りていないため、スキル2と3はグレーアウトになっているが、彼女のスキル構成は控えめにいって「ぶっ壊れて」いる。

 なんだこのパッシブ。スキル2と組み合わせたら凶悪極まりない。

 すごい。こんな子とパーティーが組めたら。俺は興奮気味に話しかける。

 

「めっちゃ強くなれるよ!」

「あの……」

「一日で金貨50枚も夢じゃない!」

「えっと……」

「君ならスター間違いなし!」


 後ろの方で、「あいつ、あんなに必死になって……」とか「ロのつくコンプレックスの方ですかね……」「通報しました」などの言葉が飛び交っている。やめて!俺のライフはもうゼロよ!

 しかし、これだけの人材を逃すわけにはいかない。ずっと思い描いていた、俺のスキルを活かしてくれそうな人材に、やっとであったのだ。

 困った表情のままうつむいているアリアン嬢に対し、俺は微笑みかける。


「大丈夫!未経験歓迎!アットホームなパーティーだよ!」

「ブラックなパーティー募集ですね」


 そういって、彼女は笑った。


「なんでそんなに熱心に誘ってくれるのかはわかりませんが……。お話だけなら、聞いてもいいです」


本日、後ほどもう一話投稿させていただきます。



お読みいただきありがとうございます。


別口でこんなんも書いてます。


愛する妹のためにお兄ちゃん踏み躙っちゃうよ人倫

https://ncode.syosetu.com/n8254gc/


こっちは、とりあえず切りのいいところまで書き終わってます。

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