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最果ての流れ星  作者: 谷池 沼
『泥だらけの流れ星』編
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23 再び日常へ

 2日後、ルーデン基地戦闘機整備工場。

 「2機とも上面装甲がちょっと傷んでたから替えておいたよ。あとは流体装甲タンクのフィルターの交換。機体構造には特にダメージはないから心配はいらない。しかし、整備の面から言えば、あんな非常識な使い方はもう遠慮して欲しいな」

 「いや、あんな場面はそう何度もあるもんじゃないですよ」

 「同感ですね~。ともかく、整備ありがとうございました~」

 預けていたグリフィンの整備完了報告は、予想よりずいぶん早かった。

 アナンタは現在、先日の出動に伴う代休扱いで当直勤務員以外は皆休みなのだが、忙しい中整備を依頼した手前、「休みが明けるまで預かっておいて」などと言えるはずもない。

 アナンタの当直員からガービン中尉、スミス中尉に連絡が入り、諸々の調整を行った結果、艦を寝床にしている航空班・整備班の独身組により機体を受領することになった次第である。

 休日出勤とはいえ、整備工場からアナンタまで機体を運ぶだけの簡単かつ短時間の仕事だ。しかも、休日勤務にかかる手当が付くとあれば、交際相手もいない独身男女からさして不満が出ることもなかった。

 「そしたら、引き渡し手続きをするんで担当の人は事務所まで来て貰えるかな」

 「じゃ私行ってきますんで~、皆さんは搬送準備をお願いしますね~」

 手続き関係は整備班の担当だ。シャルミナが個人用携帯情報端末(PMIT)を取り出しながら、相手側担当者と共に工場脇に建てられた事務所棟に向かう。

 「さ、私達も行きましょ!」

 2機のグリフィンは、整備工場前の駐機場に並べて駐機されている。エミリアが待ちきれないといった感じで先に立って歩きだした。

 「慌てなくてもジークは逃げないぜ。どうせシャルミナの手続きはもうちょっと時間かかるだろうし・・・」

 「まあはしゃぐ気持ちはわからなくもないさ。愛機が無事退院してきたわけだからね」

 ウィルとユウキはゆっくりと後に続く。

 「なんかエミリアが最近ジークに異常な愛情を注いでるように見えるんだがな・・・。お前の病気が染ったんじゃないのか?」

 「病気ってなんだよ?俺は別にどこもおかしくないぞ」

 「メカフェチって名の病気。心当たりあるだろ?」

 「俺はフェチじゃない!」

 「じゃ、あれも正常だってのか?」

 ウィルが指差す先には、ジークの機首を撫でながらにこやかな笑顔を見せるエミリアがいた。

 「普通だろ?機械ってのは名前を付けたら一気に愛着が増すんだよ。ウィルもいつまでも『一番機』なんて呼んでないで何か名前付けてやれよ」

 「考えとくよ」

 ウィルは気の無さそうな返事をすると、一番機のコクピットに向かった。ユウキも一つ肩をすくめると、ジークの元へ向かう。

 この前格納庫で洗った時点で汚れはほとんど落ちていたので、見た目には特に変わりはない。装甲板を撫でた時の手触りも完全に元通りだ。

 グリフィンの『毛皮』の久々の手触りを堪能していると、コクピットから呆れたような声が降ってきた。

 「ユウキ、いつまでもジークを撫でてないで早く上がってきなさいよ」

 エミリアは既にシートに座り、インカムを装着している。

 「そんなに急いでも仕方ないって。どうせシャルミナが戻ってくるまで出発できないんだからな」

 「そんなだらしない顔でグリフィンを撫でてるとこ見られたら変な人だと思われるわよ」

 なんだか理不尽な誹謗である。先程のエミリアの姿を鏡に写して見せてやりたい。

 だが確かに、いつまでも戦闘機をなでなでしている男というのは、はたから見たら不気味かもしれない。

 ユウキは収納式のタラップを上ると、パイロットシートに着いた。手早く個人設定をロード。

 複数のパイロットで機体を使い回す基地航空隊と違い、ジークのシートやペダルの位置、操縦桿やスロットルの感度は、ユウキの設定のまま変わることがないので、いちいち個人設定をロードする必要はないのだが、コクピットに着いた時の手順は既に体が覚えてしまっている。まさしく、『無意識という名のオートマチック』である。

 準備はすぐに完了した。後はシャルミナを待って移動するだけだ。

 といっても、ここは重力―回転運動による疑似重力だが―も大気もあるコロニー内なので、飛んで戻るというわけにはいかない。一気圧の環境下で、スラスターをちょっと強めに吹かそうものなら、衝撃波で周囲に甚大な被害を与えてしまう。

 帰り道は、脚部に内蔵されたモーターで地上を走行し、重量物搬送用の大型エレベーターで港湾ブロックに移動することになっている。

 「ジーク、調子はどう?」

 「システム、機体ともにオールグリーン。問題はありません」

 エミリアの質問に、ジークがいつもの女性音声で答えた。

 気のせいか、ジークは他の機体と比べてよく喋る。特に、今の質問も含め、通常なら『意図が明確でない』と判定され、スルーされるような質問に対しての反応がとても良い。

 AIである以上、その学習・育成には多少の個体差が生じるものだが、ユウキは今まで複数の機体に乗ってきた中で、ここまで個性のあるAIに出会ったのは初めてだ。

 エミリアはそこが気に入っているらしく、今も後席から「うん、賢いわね~」などという呟きが聞こえてきている。

 「お待たせしました~」

 いつもの間延びした声に顔を上げると、個人用携帯情報端末(PMIT)を振りながら小走りに戻って来るシャルミナの姿が見えた。

 シャルミナは、一番機に駆けよると、その後席に乗り込む。これで出発準備は全て完了。

 「よ~し!それじゃ我らが母艦に帰るとしようぜ!」

 2機のグリフィンはモーターの音だけを響かせながら、静かに動き出した。



 「明日からまた訓練開始だな」

 格納庫の床に一番機を固定しながらウィルが感慨深げに言った。

 「そうだな、やっと日常が戻って来るって感じだよ」

 「二人とも大袈裟ね。出動と休暇合わせても一週間程度しか経ってないわよ」

 「そんなもんだったか?なんか濃い任務だったからもっと経ってるような気がしてたぜ」

 「確かにそうですね~。起きて活動してる時間が長かったですからね~・・・はい、固定完了~。次はジークをお願いします~」

 4人はぞろぞろとジークの下へ移動する。

 「しかし、この時期に一週間も訓練できなかったのは痛いんじゃないのか?もうすぐ『戦競』だぞ」

 『戦競』とは、『戦闘技能競技会』の略である。年に一回開催される演習で、各艦、各部隊対抗の競技会形式で行われるものだ。実戦を想定した総合演習とは異なり、艦砲射撃技能や対戦闘機戦闘、索敵技能などというように演習項目が細分化されており、それぞれの部門で1位を決めるという、ある意味宇宙軍全体参加の運動会的なイベントである。

 「『戦競』って、俺たちの出番あるのか?」

 「そうね、出れるとしても何に出るのかしら?」

 固定作業の手を止めることなく、ユウキとエミリアが疑問の声を挙げた。

 戦闘機・攻撃機隊が絡む演習は、対戦闘機戦闘演習、対艦攻撃演習である。それ以外にも、毎年航空部主催で考案される『エキシビジョン・マッチ』なるものもあるが、こちらは正式な演習項目ではない。

 通常の基地航空隊であれば、部隊内で最も技量の優れた者を代表選手として出場させる形になるのだが、アナンタの場合そもそも2機しかいないわけで、出場資格があるのかどうかも不明だ。

 「でも、全部隊参加が基本なんだろ?さすがに仲間外れってことはないんじゃないか?」

 「要するにウィルは参加したいってことか。でもそりゃ俺達が頑張ってもどうにかなる問題じゃないな。上が決めることだろ」

 「ま、そりゃそうなんだけどよ・・・」

 そんな話をしている内にジークの固定は完了した。4人でやればあっと言う間である。

 「よし、終わり、と。楽な仕事だったね」

 「そうね。でも中途半端に時間潰れちゃったわ」

 エミリアがん~と伸びをしながら答える。現在時刻は午後3時過ぎ。明日朝からの訓練のことを考えると、今から遊びに行こうという気にもなれない。

 「そういやみんな、この後何か予定あるか?」

 何とはなしに、ジークの機首付近に集まった面々に対してウィルが問いかけた。

 「いや、別に予定はないな」

 「私も」

 「私も別にありません~」

 まったくもって寂しい独身達である。

 「じゃあどうだ?エミリア、シャルミナ。晩飯を兼ねて一杯飲みに行かないか?」

 「なぜ俺には訊かない?」

 「ユウキは自動的に行くことになってんだよ。で、どうだ?」

 「私は構わないわ。晩御飯のあてもなかったし、クレアも今日は出かけてるからね」

 調理担当の主計員、アカシ軍曹も休みなので、今日は艦の食堂も営業(?)していない。夕食は外で食べるか、何か買ってきて部屋で食べるかするしかない。

 「私も食事のあてはないですが~・・・。ご一緒してもいいんですか~?」

 シャルミナは一人だけ階級が違うので遠慮しているようだ。

 「もちろん構わんさ。今日の仕事のお疲れ様会を兼ねてるんだから、シャルミナも来ないと締まらないぜ」

 「じゃあ~、ご一緒させていただきます~」

 ユウキから見れば、下心だだ漏れの誘いである。恐らく、シャルミナ一人だけを誘うのはハードルが高いと判断して、ユウキとエミリアをダシに使ったというところだろう。

 「よし、決まりだな。店の希望はあるか?」

 「リバーサイド通りにいい居酒屋があるわよ。美味しいけどそんなに高くない。そこでどうかしら?」

 リバーサイド通りなら、居住区へ通じるエレベーターで降りてトラムで一駅だ。港湾ブロックにも飲食店が無いことはないが、選択肢が少ない。やはり居住区まで降りるべきであろう。

 「あんまり遠くないし、いいんじゃないか。そこで」

 「私は~、別にどこでもいいです~」

 「なら決まりだ。じゃ、四時半に桟橋待ち合わせで」

 「わかった」

 「オーケーよ」

 「了解です~」

 「それじゃ、一旦解散!」

 ウィルの掛け声で、皆格納庫を離れる。

 女性陣と別れ、自室へ戻る途中、ユウキは意地悪な笑みを浮かべながら、ウィルに声をかけた。

 「下心満載の誘いによくシャルミナが乗ってくれたな」

 「そんなにガツガツしてなかっただろ?それにお前にとっても美味しい話だろうが」

 「何のことかな?」

 ウィルも意地悪な笑みを浮かべ、肘でユウキを小突く。

 「とぼけんなよ、最近エミリアといい感じなんだろ?」

 「なな、何のことかな?」

 「まあ今日はお互い頑張ろうぜ」

 ウィルはそう言ってニヒヒヒ・・・といやらしく笑った。

 苦笑しつつも、ユウキも悪い気はしない。

 それにしても、先の小惑星騒ぎが無事に解決していなかったら、こんな日常は無かったはずである。今回は、自分達が解決したとは言い難いが、この日常を守るためにいささかの貢献ができたことは間違いないだろう。

 今日は、共に困難に立ち向かい、成果を上げた仲間達との酒席だ。しかも、気を遣うべき上官もいない。さらに、『気になる相棒』エミリアとの距離を縮めるチャンスでもある。

 今日も楽しい酒になりそうだった・・・。

 第2部はこれで完結となります。

 作者の都合により、第3部執筆の目途が立たないため、これにて連載を一旦打ち切りとさせて頂きます。

 もう少し実力をつけた後、1部・2部を改稿して3部の連載を開始したいなどと考えたりしていますが、実現できるかどうかは微妙です・・・(-_-;)

 読んで頂いた方々、本当にありがとうございました<(_ _)>

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