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最果ての流れ星  作者: 谷池 沼
『泥だらけの流れ星』編
33/39

17 知恵を絞れ

 小惑星の崩壊を受け、再び艦橋で緊急ミーティングが行われることとなった。

 作業方針やスケジュールを一から考え直さなければならないため、今回は作業従事者だけでなく、艦橋要員や機関科員も含めた全体ミーティングである。

 ユウキも当然のごとく叩き起こされ、ミーティングに出席だ。結局2時間足らずしか眠れなかったので、寝入りばなを起こされたような気分である。もちろん、猛烈に眠い。

 あくびを噛み殺しながら艦橋に入ろうとしたところで、バシンと背中を叩かれた。

 「痛って!」

 「お疲れみたいね。目が覚めた?」

 ユウキに続いて艦橋に入ってきたのは機関科のクレアだ。

 「こっちは休憩明けだよ。これで疲れたとか言ってたら整備班に笑われる」

 「ならもうちょっとシャキっとした顔をしないとね」

 言いながら、クレアはユウキの横に並んだ。なんだかずいぶん近い。肩が触れあいそうな距離。化粧水の匂いだろうか?微かに良い香りがする。

 この程度で変に意識するなど馬鹿げているとは思いつつも、先日の寝酒時の会話が頭をよぎる。『・・・私にもチャンスあるのかしら?』とか・・・。こちらをからかって遊んでいるだけだと思っていたが、本当にそうなのだろうか?もしかしたらクレアは・・・

 不意に、反対側の肩に誰かがぶつかり、ユウキの妄想を中断させた。

 見れば、むすっとした顔のエミリアだ。

 「この状況で何鼻の下伸ばしてるの。シャキっとしなさい」

 かけられた言葉にも鋭い棘を感じる。

 「いや、伸ばしてないから」

 一瞬、女性二人の視線がユウキの前で交錯した。火花が散ったような気がしたのはきっと気のせいだろう。

 うかつなことを言うと墓穴を掘りそうだったので、何も言わず、二人に挟まれたまま集合場所であるCICに近付く。

 既にウィルやガービン中尉も含め、大半のメンバーが集まっていた。

 メインモニターには、崩壊した小惑星が写し出されている。

 「これはまた派手に壊れたものね」

 ユウキも、起こされる時に小惑星が割れたとは聞いていたが、映像で見るのは初めてだ。機関室のコントロールルームに詰めているクレアもそうなのだろう。

 「これはなかなか厄介そうだな」

 「そうね。もう核魚雷で吹っ飛ばした方が早いんじゃないかしら」

 「そりゃ後続艦隊の仕事だよ」

 と言いつつ、エミリアの言うこともわからなくはない。

 小惑星は、ほぼ球形の核を残して文字通りバラバラの状態だ。もはや『動かす』という段階ではないような気がする。

 副長がCICの回りに集まったクルー達を見て、シートから立ち上がった。

 「大体揃ったようだな。スカリー班長、状況の説明を頼む」

 「説明も何も見ての通りなんだが・・・」

 呟きながらも中央に進み出たスカリー班長は、メインモニターの映像を示しながら説明を始めた。

 「ブースターの爆発によって、見ての通り小惑星が崩壊しちまった。中央にある球状の部分は、鉄などの金属でできた核だったものだ。割れて散らばってるのは岩石質の部分だな。破片がもっと散らばってくれりゃ危険針路から外れる物もあったんだろうが、崩壊がゆっくりだったんで、核も含めて大半の部分がシュライク軌道上に到達する針路のままだ」

 スカリー班長の表情には隠し切れない疲労がにじんでいる。

 「残り作業時間は12時間ちょいってとこだ。その間にできることを考えて貰いたい」

 「小惑星がこのような状態になった以上、後続艦隊による破壊作戦が行われるのは確実だ」

 副長が説明を引き継ぐ。

 「基本方針は、破壊作戦の負担を少しでも減らすこと。特に、あの核の部分は完全に破壊するのが困難と思われるため、我々が排除しておかなければならない。先にスカリー班長に確認したが、作業班に残された手はブースターをぶつけて爆発させる手段だけとのことだ。あとは、こちらが持つ機材で何とかするしかない。我々に何ができるか、皆知恵を絞ってくれ」

 副長は改めて一同を見渡す。

 最初に手を挙げたのは操舵長のペレイラ中尉だ。

 「とりあえず、ブースターは持って帰っても仕方ないですし、核にぶつけて少しでも針路変更を図るべきだと思います。それで針路変更できなければ、アナンタのスラスターで押せばいいでしょう。艦首スラスターも併用すれば、小惑星の近くに留まったまま噴射を当て続けることができます」

 「ブースターをぶつけるのはいいが、破片が飛び散るぞ。そこは大丈夫なのか?」

 スカリー班長が懸念を口にする。

 「今更だな。細かい破片が少々増えたところで、後続艦隊の核魚雷で消し飛ぶよ」

 「そうだな、でかい塊をどかすのが優先だ」

 ペレイラ中尉の意見に、スミス中尉も賛成の意見を述べる。

 「では、一番機がブースターの搬送と点火役をやります。アナンタの飛行甲板から直接発射するわけにはいかんでしょう」

 申し出たのはもちろんガービン中尉。

 ブースターが爆発すれば、ブースター自体の破片や小惑星の破片が飛び散るため、パワーローダーでの船外活動は危険だ。その点、十分な装甲を持つグリフィンであれば少々距離が近くても破片の衝突に耐えられる。

 「よし、核に対する対応はそんなところか。他に意見はないか?」

 「主砲を打ち込んでも良いのでは?」

 意見を述べたのは主砲一番砲塔の砲手を兼ねる砲術長のメルダース少尉だ。

 「どうかな?砲弾の質量が軽すぎる。効果は限定的だろうね」

 アナンタの主砲は口径130ミリ。砲弾は一人で運べる程度の重さしかない。副長の言う通り、その程度の質量を少々ぶつけても、直径100メートル近くある金属の塊は動かないだろう。

 「弾なんてぶち込んだら核まで割れちまうかもしれんぞ・・・つってもブースターをぶつける時点で割れる可能性はあるんだけどよ」

 スカリー班長も懸念を口にする。

 「核に対しては先のペレイラ中尉の案でいこう」

 最後は艦長の鶴の一声で決定。

 「あとは破片だな」

 破片と言っても、小惑星の表面を覆っていた岩盤であり、大きい物は一辺100メートルを越える。質量も数百トンどころか、1000トンを越えるものも複数ありそうだ。

 エミリアが手を挙げた。

 「二番機が空いています。核への対応と同じような感じで、グリフィンのスラスターで押せると思います」

 「そうだな、全部排除するのはとても無理だが、少しでも減らしておけば後続が楽だろう」

 ガービン中尉も賛成の声をあげる。

 ユウキはエミリアの提案について考えてみた。

 確かに不可能ではない。サブスラスターをメインと逆に向ければ、アナンタと同じように破片の脇に留まったまま噴射を当て続けることはできる。

 ただ、スラスターから噴射されるプラズマは、温度も速度も途方もない代物だ。金属の塊である核ならば耐えられるかもしれないが、脆い岩盤からなる破片では割れてしまう可能性が高い。

 それならば・・・。

 ユウキは挙手して発言を求めた。

 「二番機で破片を排除するのには賛成です。ただ、破片を割らずに移動させることを考えるなら、直接機体で押した方がいいと思います」

 「直接って・・・機体をぶつけて押すってことか?」

 呆れたような顔をして声を挙げたのはウィルだ。

 「ぶつけるというか、接触させて押せばいい。機体構造が歪まない程度に加速を抑えるとしても、ある程度時間をかければ破片を割らずに動かせると思う」

 「そうね、スラスターで押すとしても、どうせサブスラスターの出力以上では押せないものね。グリフィンの背中か腹を破片に接触させて、サブスラスターで加速するならいけると思うわ」

 エミリアも納得してくれたようだ。

 「なら一番機もブースターを使いきった後はその作業に加わろうか。ブースター6本をぶつけるだけならそれほど時間はかからないだろうからね」

 ガービン中尉もオーケーである。

 「よろしい。破片の排除は無理をしない程度に行ってくれ。どのみち最後には後続の艦隊に任せざるを得ないからな。他に意見はないか?」

 副長の問いかけに挙手する者はいない。

 「ああ、言い忘れたが、作業員の面々と整備班は作業開始後は船外活動をしないこと。破片が当たると危険だからね」

 スカリー班長以下作業員達は微妙な表情だ。これまでの苦労が無駄に終わった上、今後の出番はもう無いとなると、不完全燃焼もいいところだろう。

 「艦長。いかがでしょうか?」

 副長が艦長席を仰いで尋ねた。

 「問題ない。かかろう」

 いつも通りの短い返事。

 この無口な艦長は、ベルタン大尉がいなかったらクルーと満足に意志疎通できないのではないかと思えてしまう。いや、ユウキが知らないだけで、日頃はもっと喋っているのだろうか。

 「よし、それではタイムリミットまで最善を尽くすとしよう。では、解散!」

 艦橋の出口に向かうユウキに、ウィルが声をかけてきた。

 「よう、ユウキ。やっとまともな仕事が回ってきたな」

 「そうだな。しばらく座って見てるだけだったもんな。ホントにやっとパイロットらしい仕事ができるよ」

 「岩を押すのがパイロットらしい仕事なのかしらね・・・」

 「グリフィンを操縦するんだからパイロットらしい仕事でいいんだよ」

 「そうそう、アイギス級のグリフィン乗りならこんな任務普通普通。『なんでも屋』の称号は伊達じゃないぜ」

 さて、これから12時間は忙しくなりそうだ。

 ユウキは改めて気合いを入れつつ、格納庫へ向かうのだった。

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