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最果ての流れ星  作者: 谷池 沼
『泥だらけの流れ星』編
29/39

13 到着

 小惑星まで残り3000km。アナンタは最終の減速行程に入っていた。

 ここまで近づくと小惑星の状態もよく見える。

 目標の小惑星は、直径200mを少し超えるぐらい。所々が突き出した歪な球形をしており、たちの悪いことにゆっくりと回転していた。

 回転軸は進行方向に対してほぼ直角。星系の天頂方向から見ると、反時計回りの回転である。

 「形はともかく、あの回転はやっかいだな」

 作業員のボスであるボブ・スカリー班長が小惑星の拡大映像を見ながら唸る。

 場所はアナンタ艦橋。作業手順を決定するため、艦のクルーと作業員が集合してミーティングを行っているところだ。

 「ブースターを取り付けるなら、先に回転を止めたいところだな。問題はブースターを付けれるような状態かどうかだが・・・」

 「表面温度はだいぶ下がってますし、一度降りてみますか?」

 そう言ったのは現場担当のジム・ヘイラー氏。

 今回の作業では、ヘイラー副班長以下四人が作業用パワーローダーで小惑星に降り、スカリー班長は艦橋から作業を指揮・監督することになっている。

 具体的な作業手順については作業員達に任せるしかないため、現時点でユウキ達は口を挟む余地がない。

 「そうだな、見てみないと何とも言えん。とりあえず地盤の調査だ。ブースターをどう使うかはそれからだな」

 「わかりました。一人連れて降ります」

 作業員の搬送はユウキとエミリアの担当だ。物資搬送モジュールに作業用パワーローダーや資材を積み込み、小惑星まで運ぶことになっている。

 「降りるなら急いで搬送モジュールを付ける。少し時間をくれねえか」

 今にも格納庫へ向かいそうな作業員達を見て、スミス中尉が口を挟んだ。

 グリフィンは物資搬送モジュールを装着するとサブスラスターを畳めない。

 サブスラスターを畳んだ状態でないと、格納庫内に2機並べて搭載することができないため、モジュールはまだ取り付けられていなかった。

 作業員達を載せるには、まず一番機を甲板に出し、広くなった格納庫内でジークのサブスラスターを展開した上で、搬送モジュールを取り付ける必要がある。

 「一番機を動かすなら、ついでに小惑星を近くで見てこよう。何かわかることがあるかもしれん」

 「そいつはありがたい。こちらに映像を送ってくれたら参考になるな」

 ガービン中尉の言葉に深く頷くスカリー班長。

 「アナンタはどのくらいの距離に着けますか?」

 今度は操舵手のペレイラ中尉だ。カツィール艦長が視線でスカリー班長に意見を求める。

 「今は近けりゃ近いほどありがたいですな」

 「進行方向左側。100メートルの位置に着ける」

 それならぱ飛行甲板から小惑星までパワーローダーの空間機動ユニットだけで行き来できそうだ。

 「とりあえず、現時点の検討事項はそんなところかな?他に懸念のあるものはいるか?」

 副長が一同を見渡す。誰も声を挙げない。

 「よし、ではかかろう。航空班と整備班は直ちに準備を開始してくれ。それでは解散!」



 「よーし!まず一番機を出すぞ。すまんが一番機の後ろのパワーローダーをどかしてくれ」

 格納庫にスミス中尉のだみ声が響き渡る。

 毎度思うが、すでに全員宇宙服を着用して通信機を使って会話しているのたから、別に大声をあげなくてもいいのに・・・。

 作業員らがパワーローダーに乗り込み、ジークの側に寄ってきた。作業用パワーローダーは、整備班の装甲宇宙服より一回り小さいが、4機もいるとさすがに場所をとる。

 ウィルとガービン中尉はすでに一番機のコクピットだ。

 一番機が出た後、ジークを格納庫中央に寄せなければならないため、ユウキもジークのコクピットに着く。

 「格納庫、減圧します。各員は注意」

 ユウキはヘルメットのバイザーを閉じると、周囲に減圧への備えができていない者がいないか、目視で確認した。

 問題なし。後席のエミリアも既にバイザーを下ろしている。

 減圧開始。コンプレッサーが作動し、轟音をたてて空気が吸い出されていくが、気圧の減少とともにすぐに音は聞こえなくなった。

 「減圧完了。格納庫ハッチ開放します」

 格納庫のハッチは二重になっており、内ハッチは中央で分かれて両横に、外ハッチは上にそれぞれスライドして開く構造になっている。

 「一番機、発進位置へ」

 一番機が音もなく後退し、飛行甲板に出ていく。

 飛行甲板の向こう、艦の後方は白く光って見える。メインスラスターによる減速がまだ続いているのだ。

 飛行甲板に出た一番機はサブスラスターを展開し、カタパルトに接続。発進準備を終えた。

 通信機からは、艦橋との発進時のやりとりが聞こえてくる。

 「格納庫ハッチ閉鎖します。ジークは格納庫中央へ」

 一番機の発進をゆっくり眺めている余裕はなさそうだ。

 「周辺に障害物なしです~。ゆっくり右移動してください~」

 機の前方には、装甲宇宙服を着こんだシャルミナが立ち、手信号で誘導してくれる。

 旧世紀の航空機と異なり、ホイール部分にモーターを内蔵しているため、自力で真横に移動するのもお手のものである。

 格納庫中央に移動し、駐機作業を完了。

 「オーケーです~。物資搬送モジュールを取り付けます~」

 「了解。任せたよ。こちらはヘイラーさんと打ち合わせしとく」



 「では、パワーローダーは左翼のモジュールに2機とも入ってください。右翼には資材を」

 「わかった」

 「高いGはかけませんので、固定は簡単でいいですよ」

 格納庫内で通信機を使って打ち合わせをするのは面倒だったので、ユウキ達はエアロックをくぐり搭乗員待機室で打ち合わせを行っている。

 「小惑星にぎりぎりまで寄せてくれたら、あとはパワーローダーの機動ユニットで取り付く。とりあえずは表面の調査をやって、それからソナーと電波探査で中身がどうなってるか調べたいな」

 ヘイラー副班長の言葉に、ユウキとエミリアは顔を見合わせた。

 「着陸して問題あると思うか?」

 「いいえ、まったく」

 パワーローダーが表面で活動できるのであれば、グリフィンを接地させても全く問題はないだろう。資材の出し入れを考えたら、作業員も断然その方が動きやすいはずだ。

 「調べたい地点を指定してもらえたら、そこにグリフィンを降ろしますよ。急斜面とかでなければ問題なく接地できるでしょう」

 「そいつはありがたいが、小惑星は回転してるぞ。接地できるのか?」

 「映像で見る限り回転速度は大したことありませんでしたし、問題ないでしょう。そちらこそ作業の時大丈夫ですか?」

 ユウキの心配顔に、ヘイラー副班長は不敵な笑みを浮かべて見せた。

 「回転してる足場なんて日常茶飯事だよ。あの程度なら屁でもねえ」

 経験から来る自信なのだろう。その回答には気負いも力みも感じられない。

 「ヘイラーさんはいつもどんな仕事をしてるんですか?」

 興味を抑えられず、聞いてみた。

 「アステロイドベルトで採掘やってるのさ。あっちに採掘基地があってな。手頃な小惑星をそこまで運んで鉱物を採取するんだよ」

 「アステロイドベルトに常駐してるんですか?」

 「作業員は輪番制だよ。一月ほど行って、交代して帰ってきてしばらく休み。んでまた行くって感じだ。あっちは純度の高い鉱脈があるからな。採掘の効率は断然いいぜ」

 確かに、鉄などを豊富に含む小惑星は数多い。採掘後の運搬に要するエネルギーを考えても、惑星や衛星上で採掘するよりは効率が良いのだろう。

 「アステロイドの運搬っていつもはどうやってるんです?」

 今度はエミリアからの質問だ。

 「でかいやつは核パルスエンジンを取り付けて動かすよ。小さいやつは船で押すかロケットエンジンを取り付けるかだな」

 「今回の奴は小さい部類ですよね?」

 エミリアの質問に、ヘイラー副班長は声を上げて笑った。

 「小さい小さい!核パルスでやるのは直径1kmを超えるクラスだよ。今回みたいな小さいのを運ぶことは少ないな」

 そんな話を聞くと、小惑星の針路を少しずらす程度楽勝ではないかと思えてしまう。しかし、ヘイラー副班長の顔は冴えない。

 「しかし、今回は準備期間がないからな。しかも個体ロケットブースターで動かすなんざ初めての経験だよ」

 「準備っていつもは何をするんですか?」

 「まず、小惑星の形と材質を調べて重心位置を把握するんだ。そんでそれに基づいて核パルスとかロケットとかを取り付ける位置を決める。他には小惑星の強度についても確認するな。割れたら後始末が大変だからな」

 「結構時間がかかりそうですね」

 ヘイラー副班長は肩をすくめた。

 「そりゃそうだ。普通は2~3か月はかけて調査するからな。今回みたいなぶっつけ本番は初めてだよ」

 どうやら楽勝ではなさそうだ。ユウキは先ほどの感想を心の中で訂正した。

 「俺自身の感覚を正直に言えば、たぶんロケットブースターを取り付けて動かすのは無理だと思うよ。せめて出力調整ができるロケットだったら何とかなったかもしれんがな。点火から燃え尽きるまで最大出力でしか運転できないブースターじゃコントロールも何もあったもんじゃない」

 「・・・」

 その時、壁のインターホンが呼び出し音を鳴らした。ユウキがインターホンに近寄り、通話ボタンを押す。

 「あ、繋がった。シェリング少尉~。搬送モジュールの取り付け終わりましたよ~」

 思ったよりもかなり早い。毎度思うが、この艦の整備班はかなり手際が良い。

 ヘイラー副班長の方を振り向くと、すでにヘルメットを着け始めていた。

 「了解。すぐ行くよ。パワーローダーと資材の積み込みを始めよう」

 今度のミッションも一筋縄ではいかないようだ・・・。

 「とりあえず行ってみるか・・・」

 嘆息しつつ、ユウキもヘルメットを被り、エアロックに向かった。

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