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最果ての流れ星  作者: 谷池 沼
『泥だらけの流れ星』編
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11 龍の宅急便

 「状況はわかりました。それで、本艦は何をすればいいのですか?」

 呼ばれた理由もわからないままルーデン基地へ急いでいたアナンタであったが、帰還途中、首都直轄艦隊司令部から音声による通信が入り、カツィールを含む艦橋要員は状況を把握することができた。

 「詳細は桟橋で待っている危機管理局員が説明するが、要は作業員とロケットブースターを大至急小惑星まで搬送してほしい」

 「送り届けるだけでいいのですか?」

 「いや、現地で君らができることは全てやってもらう」

 「・・・」

 「ともかく、今回は危機管理局に全面協力することが決定している。国家存亡の危機だと思って全力を尽くしてくれ。以上だ」

 通信が切れる。

 ベルタン大尉が艦長席の脇まで来ると、頭をかきながら呆れたように言った。

 「今度は宅急便ですか。相変わらず便利に使われるものですね」

 「そうとも言えん。現地でできることは意外と多いかもしれんぞ」

 「駆逐艦乗りに相応しい仕事が待っていることを願いますが・・・」

 「それは望み薄だな」

 二人の会話を遮るように、操舵手のペレイラ中尉の声が艦橋に響く。

 「港湾誘導ビーコンを受信。以降オートマチックで接岸します」

 「よし」

 出入港時のヒューマンエラーは大事故につながる。人間の手による操船にこだわるアウディアにおいても、この部分はAIによるオートマチック操船である。

 あとは接岸が完了するまで、操舵手も艦長も手順や機器に異常がないことを監視するだけだ。

 「接岸次第、待っているという危機管理局員を乗船させますか?」

 監視の任務すらない副長は艦長席の横から動いていない。

 「そうだな、ここで話を聞く方が早いだろう。クルーも集合させてくれ」

 「了解しました。手配します」

 ともかく、詳細な話を聞いてみないと計画の立てようがない。国家存亡の危機だそうだが、まだ今一つ危機感を実感できないカツィールであった。



 翌朝。アナンタはいつも停泊する埠頭を離れ、貨物積み込み用の埠頭に移動していた。

 「よーし!パワーローダーはそのまま飛行甲板まで飛び移ってくれ。ロケットブースター固定の手伝いを頼む!」

 埠頭にスミス中尉の大声が響く。

 桟橋上に立っている4機のパワーローダーの内、リーダー機らしい一機が手を挙げて了解のサインを出す。

 現在、アナンタは通常の停泊時より船体を下げ、飛行甲板と桟橋の高さを合わせているため、パワーローダーは数メートル程度水平にジャンプすれば飛び移れる。重力を0.2Gに設定された埠頭では空間機動ユニットを使うまでもない。

 作業用のパワーローダー達は、脚によるジャンプのみで次々とアナンタの飛行甲板に飛び移ってきた。

 飛行甲板に立っていたスミス中尉は、装甲宇宙服ー一般的には装甲機動歩兵と呼ばれるものーに駐機姿勢を取らせると、上半身だけを出して自己紹介した。

 「俺は整備班のデイビッド・スミス中尉。格納庫と飛行甲板の運用責任者みたいなもんだ。よろしくな」

 作業用のパワーローダーからは作業服を着た中年の男が降りてきて、こちらも自己紹介した。

 「今回作業班の副責任者役になったジム・ヘイラーだ。まあ現場監督みたいなもんだと思ってくれればいい。今回は世話になる」

 「責任者はまだ着いていないのかい?できたら挨拶しときたいんだが」

 「もう来るよ。こっちまで橋をかけるって言ってたから。・・・ああ、あれだ」

 埠頭入り口の方から、長いはしごを抱えた宇宙服姿の一団が歩いてくる。その宇宙服姿の4人は、見ている間に、はしごを桟橋と飛行甲板の間にかけわたし、簡易の橋を作った。

 危なげない足取りで橋を渡って飛行甲板に到着。

 スミス中尉と副責任者が顔合わせをしているのに気づいたのだろう。先頭の人物が寄ってきて、ヘルメットを脱いだ。

 50代位に見える白髪交じりの男だ。ただの偏見かもしれないが、いかにもベテラン作業員という風格を感じる。

 「作業班の責任者役になったボブ・スカリーだ。よろしく頼む」

 スミス中尉も改めて自己紹介をする。

 「あと、こちらが航空班の班長チェスター・ガービン中尉。戦闘機に乗って現場であんたらの支援を担当する」

 「ガービンだ。よろしく」

 「他は、装甲宇宙服を着ている二人がうちの整備班の若いの。ガービン中尉と揃いのつなぎを着てる3人が航空班の若いのだ。全員の自己紹介はまた落ち着いてからでいいか?」

 「ああ、それで頼む。とりあえずロケットブースターと資材を積んでしまいたい」

 「よし。作業にかかろう」

 整備班と作業員達は一斉に動き出した。


 「ねえ・・・、私たちは何をすればいいのかしら」

 格納庫のハッチ付近に立ち、状況について行けない若者が3人。

 「見とくしかないだろ。下手に手出ししに行っても邪魔になるだけだぜ」

 「同感。何か指示あるまで待機だな」

 昨日、つまり7月6日の夕方、アナンタのクルー達は今回の出動にかかる状況と任務内容を聞かされた。

 個体燃料ロケットブースター9本と、アステロイドの運搬・採掘に従事している業者の作業員8名、それに関連資材をシュライクに接近中の小惑星まで搬送すること。搬送後は、現場でできる限り作業員を支援し、小惑星の減速または変針を行うこと。

 指示された任務は以上だ。

 現場で作業できる時間は32時間。小惑星の減速・変針が成功したか否かに関わらず、時間が来れば離脱しなければならない。

 もし減速・変針に失敗すれば、最後の手段である小惑星破壊作戦が実行されるわけだ。

 搬送するロケットブースターは、衛星アカシアからの重量物打ち上げ時に使用されていたもので、1000トン級の推力を持つパワフルなブースターだが、全長がグリフィンよりも大きい代物だ。

 当然格納庫には収容できず、飛行甲板に固定して搬送することになっている。

 グリフィンの発艦スペースを確保するため、左舷側に寄せて3段に重ねて搭載するのだが、加速時に脱落しないよう念入りに固定作業を行わなければならない。

 しかも、ブースターを小惑星に据え付けるための資材―金属板やごつい鉄骨のような物―もその隙間に搭載することになっている。

 ユウキ達に手伝える仕事ではなかった。

 手持ち無沙汰なウィルは、格納庫の壁に背中を預け、クレーンに吊り下げられて甲板上に移動してきたロケットブースターを見上げている。

 「しっかし、あんなブースターで小惑星を動かせるのかね?でかいんだろ。その小惑星」

 「直径200mぐらいって言ってたな。5度ほど変針できればいいって話だからいけるんじゃないのか?」

 「200m!それなら楽勝じゃないのか?。200m級の船にあんなブースターを9本もつけたらシュライクの地表からでも打ちあがりそうだぜ」

 ウィルの楽観論に、呆れたような口調でエミリアが口を挟む。

 「あのね~。小惑星は船みたいに軽くないわよ。それに、ブースターが取り付けられないかもしれないって昨日言ってたじゃない」

 そう、目標の小惑星は、衝突の影響でまだかなりの熱を持っている上、その組成や重心位置、表面の状態などもはっきりしていないため、ロケットブースターを取り付けられるかどうかは行ってみないとわからないのだ。

 「最悪ぶつけて爆発させるとか言ってたな」

 「全く豪快な話だぜ。で、俺達が何をするかも行ってみないとわからないってわけだ」

 もちろん、大まかな役割分担は決まっている。ウィルの乗る一番機は、ロボットアームモジュールを装備し、ブースターや資材の搬送支援。ユウキ達のジークは貨物輸送モジュールを付けて作業員のパワーローダーを小惑星まで運ぶ役だ。

 但し、これはあくまで小惑星にブースターを取り付ける場合の役割分担である。それができないとなった場合、どのような任務が付与されるかはウィルの言うとおり全くわからない。

 「ビームで穴を掘れとか言うんじゃないだろうな」

 「あり得ない話じゃないところが怖いな・・・」

 「少なくとも戦闘機乗りらしい仕事にならないことは確かね」

 エミリアはもはやあきらめ顔だ。

 甲板上では、早くも一段目となる3本のロケットブースターの固定が終わり、二段目を積む準備が始まっている。

 「手際いいわね。この調子なら昼前には出航できるんじゃない?」

 「ま、早く出れれば向こうで作業する時間も長くとれるしな。でも、あんなん積んでたら最大加速でぶっ飛ばすってわけにはいかんのじゃないか?」

 「そりゃそうだろ。ゆっくり目に移動すると思うよ」

 駆逐艦の加速は甘くはない。ブースターの大きさと固定用ワイヤーの太さを見る限り、とても高加速に耐えられるとは思えなかった。

 「まあ今回は目的地が近いものね」

 前回の外惑星帯と比べれば『ほんのすぐそこ』である。とはいえ、それでも700万km近くは移動しなければならないのだが。

 3人よりも近くでブースター搭載作業を眺めていたガービン中尉が格納庫の方に寄ってきた。

 「手伝えるわけではないし、どうにも居場所がないね」

 「そうですね。もう中に入りますか?」

 「そうしよう、ここにいても邪魔になるだけだ。作業が終わったら皆の顔合わせをやるらしいから、コーヒーでも沸かして待っているとしようか」

 今はコーヒーを淹れる程度しか仕事がない。航空班の出番はまだまだ先のことであった。

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