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最果ての流れ星  作者: 谷池 沼
『泥だらけの流れ星』編
24/39

幕間2 遠雷

 「なんと言った?」

 アウディア宇宙軍首都直轄艦隊司令スペンサー少将がその連絡を受けたのは、昼食を済ませ、食後のコーヒーを楽しんでいた時だった。

 「ですから!小惑星が10日後にシュライクに衝突すると言っているのです!」

 連絡してきた危機管理局の局長は、顔色を失い額に汗をかいている。明らかに冷静さを失っていると見える。

 「結論だけではさっぱりわからん。ちょっと待て、こちらも準備をするから最初から説明してもらおう」

 スペンサー少将は他の司令部員にも声をかけると、会議室に移動し、改めて説明を聞くことにした。

 先方も、肩書だけで専門知識がない局長にかわり、実務担当レベルの者が通信用モニターに映っている。

 「では、改めて説明を頼む。小惑星の衝突とのことだが」

 「事前に申し上げておきますが、本件については既に宇宙軍司令部にも連絡を入れています。首都直轄艦隊と直接連絡を取ることについても了解を得ております」

 「問題ない、先ほど司令部から『危機管理局から連絡がある件については可能な限り協力すること』との命を受けている」

 「では、順を追って説明します・・・」

 危機管理局の職員が語ったのは次のような話だった。


 対象の小惑星は、『A000239』と識別符号が付された直径300mほどの岩石小惑星である。

 この小惑星は、惑星シュライクの公転軌道の近くで、楕円軌道をとりながら恒星アウディアの周囲を公転している。およそ30年に一度、シュライクに近づくことが知られており、現在は最接近する時期であった。

 今期最接近時のシュライクとの距離は800万km。衝突の可能性は全く考慮する必要はなかった。

 しかし、5時間前、この『A000239』に、恐らく星系外から『落ちて』来た高速の小惑星が衝突。『A000239』は複数の欠片に砕けつつも、その一部が衝突した小惑星に融合。軌道を大きく変更した。

 衝突を把握した国立天文台が詳細に軌道計算を行った結果、融合した小惑星はシュライクへの直撃コースに乗っていることが判明。接近速度は秒速10キロメートル足らず。衝突までの日数はおよそ10日。

 もし、そのままのサイズで衝突した場合、やっと開発が軌道に乗ったばかりの惑星シュライクは、広範囲にわたって壊滅的な被害を受けることが確実である。


 「もっと前にこの事態は予見できなかったのかね?」

 参謀の一人が棘のある口調で尋ねた。

 「星系外から『落ちて』来た小惑星はこれまで全くマークされていませんでした。国立天文台により半月ほど前に初めて観測され、『A000239』と軌道が交差することは把握していましたが、わずか300メートルの石ころに直撃する可能性は低いと判断されていた模様です。衝突後の軌道は完全に想定外です」

 なかなか肝の座った担当者だ。非難めいた質問にも堂々と答えている。

 「シュライクへの衝突を回避する方法は?」

 「対象の小惑星はかなり深い角度でシュライクに接近しています。一つの案ですが、接近する速度を減速させることができれば、シュライクの公転運動により衝突を免れることができます」

 惑星シュライクは秒速30km程度で公転運動をしているわけだから、小惑星の速度が落ちれば軌道は交差しなくなる。理論上はその通りなのだが・・・。

 「どうやって減速させる?そもそも小惑星の質量はどのくらいだ?」

 「現在接近中の小惑星は直径200m程度の歪な形状をしています。予想される質量は最大で1000万トン。減速させる手段は現在危機管理局でも検討中です」

 「アステロイド運搬用の核パルスエンジンを取り付ければいいだろう」

 確かに、それが最も一般的かつ確実な方法だ。

 「間に合いません。機材を準備する時間もないのですが、準備が間に合ったとしても、小惑星の状況を調査する時間がないため、効果的な減速は不可能です」

 「それほど大きく減速させる必要はないのだろう?」

 「シュライクへの直撃を避けることだけを考えるならばその通りです。しかし、軌道エレベーターや近傍のスペースコロニーの安全を考えるなら、条件はより厳しくなります」

 シュライク近傍のラグランジュ・ポイントには、複数のスペースコロニーや宇宙基地が存在する。シュライクへの直撃を避け得たとしても、小惑星がコロニー等に衝突するようなことがあれば、被害は衝突された施設だけに留まらない。小惑星と施設の破片が周辺に飛び散り、シュライクや衛星アカシア上の都市、周辺のコロニーにも多大な損害が出るだろう。

 となると、対象の小惑星がアカシアの公転軌道付近を通過するような事態はなんとしても避けなければならない。アカシアの公転軌道の直径は約70万km。守るべき範囲は極めて広い。

 「針路をずらせばいい。その方が簡単じゃないのか?」

 「簡単かどうかは現時点では判断しかねますが、もちろん針路変更でも効果はあります。その場合は針路を4度から5度ほどずらしてやれば安全は確保できます」

 それまで黙って会話を聞いていたスペンサー少将が静かに口を開いた。

 「そもそもうちへ話を持ってきた時点で、小惑星の破壊が視野に入っているのではないかな?」

 危機管理局員はモニターの中で頷いた。

 「破壊した後の破片の影響を考えるなら、それは最終手段です。ですが、今回はあまりにも時間がない。核弾頭魚雷の使用も視野に入れて破壊作戦の準備をお願いしたい」

 「核魚雷だけで小惑星を破壊できるのか?」

 「いや無理だろう。どの道至近距離で炸裂させるだけだからな。表面をいくらか蒸発させることはできるだろうが・・・」

 「徹甲弾頭の魚雷をぶち込んでやればいい。大概の小惑星なら割れるだろう」

 「それだと破片が飛び散るぞ。数十メートルサイズでも大気圏に飛び込んだら相当の被害が出る」

 軍人達の議論を聞いていた危機管理局員が口を挟む。

 「進行方向側の表面を蒸発させれば、気化した物質が推進力となって小惑星を減速させることができます。あと、破片については、数メートルサイズまで小さくできれば、シュライク地表への被害は殆ど無視できる程度になると見込まれます。また、そのサイズならばコロニーなども対応できるでしょう」

 各コロニーや宇宙ステーションは、微惑星・スペースデブリから施設を守るため、高エネルギーレーザーで対象物を継続的に照射し、蒸発させたり軌道を変更させたりするシステムを備えている。あまり大きな破片には対応できないが、数メートル程度のものなら被害はほとんど防げるだろう。

 「なら徹底的に砕く方向でいくか」

 「しかし小惑星を破壊するために弾をばら撒いては意味がない。後々掃除が大変だぞ」

 「核魚雷とプラズマビームだけでやればいい。それなら後の掃除は必要ない」

 「ビーム兵器搭載艦が少なくないか?アイギス級とハウンド級はビームを一基しか持ってないぞ」

 通常の砲塔型のプラズマビームを搭載しているのは、首都直轄艦隊旗艦でもある重巡航艦『ウォリアー』だけだ。アイギス級駆逐艦とハウンド級フリゲートは、ともに艦首埋め込み型の単装同軸ビーム砲搭載である。

 「戦闘機隊を投入すればいい。細かな破片への対応もできるから好都合だろう」

 「それはいいな。対船艇用プラズマビーム砲をかき集めよう。なけりゃ無いで固定武装のビームガンだけでも使える」

 先ほどの発言以降、黙って話を聞いていたスペンサー少将が再び口を開いた。

 「『壊す』のは元々我々軍人の本分だからな。聞いての通り、小惑星の破壊については目途が立ちそうだ。軍はその方向で準備を進めたいが、危機管理局の意見はどうなのだ?」

 「少々お待ちを」

 モニター画面の中の職員は、画面の外の誰かと打ち合わせを始めた。ちらりと背後に見える危機管理局の職員達は、相変わらず殺気立った表情で何事かを大声で怒鳴っている。

 まあ、わからなくもない。宇宙軍などというものがなかった旧世紀であれば、10日後に人類が滅亡しますと言われるに等しい事態なのだから。

 「お待たせしました。宇宙軍の方では今しがたの方針の通り、小惑星の破壊作戦の立案をお願いします。熱核反応兵器を使用することも考えて、できる限り遠方で破壊してください。こちらで概算した作戦開始期日は4日後です」

 「4日?もう少し早めることも可能だと思うが?」

 「小惑星の破壊は最終手段と申し上げました。先ずは小惑星を減速または針路変更させる方策を実行します」

 「なるほどな。ではこちらは4日後の作戦開始に合わせて万全の態勢を整えるとしよう」

 話を打ち切ろうとしたところ、突然モニター内で担当者の袖が横から引っ張られた。そちらに向かって何事か言葉を交わした後、再びモニターに向き直る。

 「申し訳ありませんが、前段の作業の関係で、足の速い艦を一隻派遣願えませんか?できればアイギス級が良いのですが」

 「どういうことだ?何をさせるつもりかな?」

 「個体燃料ロケットブースターによる減速または針路変更を試みます。技術者とブースターを小惑星まで至急搬送し、可能であればその作業の支援もお願いしたい。技術者とブースターは今日中に揃えます。明日の朝一番に艦に搭載し、完了次第出発するというスケジュールになります」

 スペンサー少将は、隣に座る主席参謀のエノモト大佐に顔を向けた。

 「対応可能なアイギス級はあるか?」

 エノモト大佐は手元の端末を手早く操作する。各艦のスケジュールなどをチェックしているのだろう。答えはすぐに出た。

 「アナンタがいますね。現在ルーデン基地近傍の訓練宙域で訓練中。直ちに呼び戻せば先のスケジュールに対応できるでしょう」

 「ということだ。アナンタを出す。積み込みの詳細などは実務担当者間で調整を頼む」

 「ありがとうございます。では一旦これで失礼します」

 通信が切れた。

 スペンサー少将は一つ短く息を吐くと、同席している司令部員を見まわして力強く宣言した。

 「さあ諸君!今一つ実感できないが、どうやら国家存亡の危機らしい。一つ気合を入れて準備することにしよう」

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