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最果ての流れ星  作者: 谷池 沼
『泥だらけの流れ星』編
23/39

9 凛々しい(?)軍人達

 月日が過ぎるのは早いもので、アナンタ一般公開の日はすぐにやってきた。

 アナンタは、アプリコット・エレベーターの宇宙ステーションに入港し、日ごろあまり使われていない第11埠頭に係留されている。

 既に艦の前の桟橋にはグッズを販売する業者のテントや、気合いの入りまくった人事部員―採用活動担当者―が詰めるテントなどが既にスタンバイしている。

 時刻は午前8時50分。会場解放10分前だ。

 「今情報が入った。11埠頭前はもうかなりの行列らしいぞ」

 スミス中尉が艦橋からの情報を伝えてくれる。

 「そんなに多いんですか?」

 ユウキは鏡で自身の服装を再点検しながら尋ねた。

 いつものパイロット用つなぎにアナンタのエンブレムが入ったキャップ。このキャップは、ウィルとシャルミナがデザインしたものだ。業者との折衝の前に、デザイン案をクルーに示して購入希望者を募ったところ、注文が殺到したため、事前にクルー分を納入してもらったのである。

 「ああ、広報担当者が言うにはこれまでの一般公開で最高の人出になるかもしれんってことだ」

 「なかなかハードな任務になるかも知れないわね」

 同じく服装の再点検をしているのはエミリアだ。二人は今回、飛行甲板上に駐機されたジークの横で、説明や案内を担当する役である。

 一般公開の時間は夕方4時まで。二人交互に休憩をとれるとはいえ、かなりの長丁場だ。

 「でも~、私達って質問とかされるまで黙って立ってたらいいんですよね~」

 こちらは格納庫内で展示された装備品の説明を担当するシャルミナ。ロドマン軍曹とコンビで任務に就く予定だ。

 「そうだよ。シャキっとした顔で立ってりゃ声もかけて来にくいだろう。顔引き締めとけよ」

 ウィルはガービン中尉とともに、飛行甲板からの転落防止を目的とした雑踏整理要員だ。

 「間もなく開門。総員配置につけ」

 艦橋からのアナウンスが入る。

 「さあ、長い一日の始まりだな!」

 ユウキは改めて気合いを入れると、ジークのもとへ向かった。



 すでにエミリアの前は黒山の人だかり状態だった。

 エミリアとユウキは、ジークの回りに張った立ち入り禁止ロープの内側に立ち、ロープ内に人が立ち入らないよう、また機体に触れられないよう見張りをしている。

 グリフィンのコクピットハッチは閉じているため、どの方向から見られても機密保持の観点からは問題がない。

 それにしても、先ほどから、グリフィンではなくエミリア自身に対する視線を感じる。女性士官が珍しいわけでもないと思うのだが・・・。

 「お姉さん、あんたこの戦闘機に乗ってるのかい」

 中年男性が一人声をかけてきた。

 ここは親切に、かつ凛々しく対応しなければ。

 「はい、私はこの機体の兵器システムオペレーターです」

 わざとらしくない程度の笑顔を作り、意識してハキハキした言葉で答える。

 「ほ~、若いのにたいしたもんだのう。で、兵器システムオペレーター?っていうのは何する人?」

 おっと、そこから説明が必要だったか。

 「この戦闘機グリフィンは二人乗りですので、私は後ろの席に乗ってミサイルなどの兵器のコントロールをするんですよ」

 「へぇ~・・・」

 何やら関心しつつ、その中年男性は去って行った。

 今の対応は上々だったはずだ。エミリアは短く息を吐くと、再び背筋を伸ばして『休め』の姿勢に戻った。

 ふと、相棒のことを思い出し、エミリアの左側、機体を挟んだ反対側に立っているユウキの方を窺う。

 ユウキの回りには、ハイスクールの生徒らしい制服姿の少女達が5人ほど集まり、何やら話をしている様子だ。女生徒らの楽し気な話し声が聞こえる。

 そういえば、採用募集活動の一環で、複数のハイスクールに一般公開の招待状を出していると言っていた。おそらくその招待により見学に来た生徒らだろう。

 ユウキを観察していると、時折視線が下の方を向いているのに気づいた。視線の先にあるのは女生徒達の腰から脚あたりだ。女生徒らの制服は膝丈のスカートなのだが、0.8Gに維持された埠頭の重力では、身をひるがえす度に健康的な太もものあたりまでが見えてしまっている。

 なんだか無性に腹が立つ。エミリアは、ちょいちょいとハンドサインを出してユウキを呼び寄せた。

 「どうした?何かあったのか?」

 ユウキはすぐに寄ってきた。

 「若い女の子のスカートばかり見てたらクルーの品位が下がるわよ。真面目にやってよ」

 周りの一般人に聞こえないよう、ひそひそと小言を言った。

 「え、そんなに見てたか?いや、ちょっと視線が吸い寄せられたのは確かだけど・・・」

 ユウキは少し驚いた顔で、こちらもひそひそと答えた。

 「丸わかりよ」

 と言ったところで、エミリアの右斜め前にいた若い男性客から「この戦闘機って単座型ですか?」という質問。

 瞬時に営業スマイルに切り替えたエミリアは

 「いえ、アイギス級に搭載されているグリフィンは全て複座型です」

 ときびきびした声で答える。

 その間に、ユウキは元の配置箇所に戻っていった。

 先ほどの女生徒達はまだ残っており、戻ってきたユウキに早速何か質問をしているようだ。断片的に声が聞こえてくるが「彼女」とか「独身」とか言う単語が混ざっている。

 ユウキは困ったような顔でなにか返事をしているようだが、見た感じ態度が煮え切らない。

 まったく、ヘラヘラしてないでシャキっとしなさいよ、とエミリアは心の中で毒づく。

 「旦那の浮気を心配する嫁さんみたいな顔になってるぞ」

 声をかけてきたのは、雑踏整理の合間に近寄ってきたウィルだ。

 エミリアは意思の力を総動員して表情を凛々しい女性士官の顔に戻す。

 「女の子に囲まれてチャラチャラしてる相棒にイラついてだだけよ」

 「まあ本人はあんまり喜んでなさそうだがな」

 ウィルは一つ肩をすくめると、元の任務に戻るため離れて行った。

 エミリアは凛々しい女性士官の顔のままで、ウィルの指摘について考えていた。

 ユウキが女子生徒らと親しげに話しているのを見ると、確かにイライラする。これは嫉妬?それこそまさかだ。ユウキに恋愛感情を覚えたことはない・・・つもりだ。

 確かに悪い男ではない。見た目も標準以上だと思うし、誠実で常識もある。相棒として信頼もしている。何より、人としての芯の強さを感じる。

 うん、そう考えればなかなか『いい男』かもしれない。

 でも恋愛感情と言われると・・・わからない。

 剣術道場の姉弟子を見て育ったエミリアは、大抵の男が姉弟子よりも軟弱で下品で無能に見えたため、男性に興味を持たなかった。結果、22歳になった今でも恋愛未経験だ。

 まあわからないことは悩んでも仕方ない。ユウキは悪い男ではない。が、今の段階では『相棒』以上の存在ではない。それでいい。先でどうなるかは先にならないとわからないのだから。

 今度は目の前に来た中年女性から声をかけられた。エミリアはユウキの顔を頭から振り払う。今は凛々しい女性士官としての対応に集中しなければ・・・。



 「一般人の退艦が完了した、総員展示品の撤収作業を開始せよ」

 「終わったー!!」

 「お疲れー!」

 艦内アナウンスが入った直後、格納庫と飛行甲板の数か所から解放を喜ぶ大声が響いた。

 ユウキも一つ伸びをすると、固まった両足をほぐすために屈伸運動をする。エミリアと交代で休憩を取りはしたが、立っている時間が長かったので足腰に疲れがたまっている。

 横を見ると、エミリアも体を前後屈させてほぐしている。

 ユウキは首と肩を回しながらエミリアに近寄ると。

 「お疲れさーん。結構質問とか来たな」

 エミリアは体を起こすと、なぜか棘のある視線を向けてくる。

 「そうね、誰かさんは若い女の子と随分仲良くお話してたみたいだけど」

 そういえば、やたらとハイスクールの女子生徒に絡まれたような気はする。

 「君のところにも大勢行ってだろ。あの世代の女の子のノリにはついて行けないよ。妙に疲れた」

 「シャキッとしてないからよ」

 何故か今日はエミリアの態度がキツイ。立ちっぱなしで疲れたのだろうか。

 「おう、お二人さん。痴話喧嘩はそのぐらいにして、ジークを入れる準備してくれ」

 「ちょっ・・・スミス中尉、痴話喧嘩じゃありません!」

 「はいはい、カリカリしない」

 エミリアをなだめておいて、スミス中尉に返事をする。

 「了解です!もう動かしていいですか?」

 「今うちの若いのが装備品を片付けてる。それが終わったら入れてくれ」

 「了解しました」

 ユウキはジークのハッチを開ける。自動的に収納式タラップが展開された。ジークの回りの立ち入り禁止ロープはウィルが手際良く回収してくれている。

 エミリアが無言で乗り込もうとするので、後ろから声をかけた。

 「格納庫へ入れるだけなら俺がやっとくよ。先に上がったらどうだい?」

 「先に待機室に戻っても一人だけ休めないわよ。私も乗っていくわ」

 「ならいいけど」

 ユウキもジークに乗り込む。

 「ジーク、サブスラスター折り畳んで」

 「了解しました。サブスラスター、収納します」

 エミリアの音声指令にジークが落ち着いた女性の声で答える。

 『ジーク』の名前が定着して以降、エミリアの手で指令キーワードが『ジーク』に変更されていた。『ジーク』と言った直後に命令と受け取れる言葉を続けると、ジークが反応してくれる。日常会話の中で『ジーク』の名が出ても、直後に命令や指示がなければジークは反応しない。

 つまり、

 「ジークもお疲れさん」

 などと声をかけても、ジークは反応しないわけだ。

 そうこうしている内に、展示していた装備品の撤収作業が終わり、シャルミナが誘導役としてジークの前に来た。

 誘導に従い、格納庫にジークを入れる。

 駐機手順を完了。

 「エミリア、ジーク、お疲れさん。これで今日の任務は完了だな」

 「あなたもお疲れさん」

 「任務完了。了解しました」

 ユウキとエミリアはコクピットから降りる。

 「よし、みんな、作業はこんなもんだな。待機室へ戻って一息いれよう」

 ガービン中尉の呼びかけに、格納庫のそこかしこから「了解」の声が上がった。

 今晩はこのまま第11埠頭で係留したまま一泊予定なので、撤収作業が終われば後は終業時間を待つだけだ。

 今日は本当にハードだった。終わったらまずはシャワーを浴びてさっぱりして、寝酒でも飲んで早めに寝ることにしよう。終業時間まではまだ1時間近くあるが、もはや終わった気持ちになっているユウキであった。

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