表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最果ての流れ星  作者: 谷池 沼
『泥だらけの流れ星』編
20/39

6 流れ星の勇名

 ユウキは、指定された駐機スポットにジークを降ろすと、短く息を吐いた。

 このところ、アナンタの飛行甲板にばかり着艦していたので、低重力に保たれた基地の駐機スペースでの機体制御にはかなり気を遣った。

 ここはガラハド基地。以前ユウキが所属していたマーカス基地と同じく、首都防衛の一翼を担う戦闘機・攻撃機隊の基地である。

 そして、つい今しがた合同演習を行った306飛行隊のホームベースでもある。

 演習に関するデブリーフィングを行うため、アイギス・アラクネ・アナンタ搭載の各機は、ガラハド基地に順次集合している。ちょうど、隣のスポットには一番機、ウィル・ガービン組が着陸したところだ。

 「さて、楽しみね。相手さん、どんな顔してデブリーフィングに出てくるのかしらね」

 後席から、黒い笑みを含んだエミリアの声が聞こえてくる。

 「あんまり顔に出すなよ。アイギス級搭載機の搭乗員の評判がまた下がるぞ」

 「あら、あなたこそ流れ星に撃墜された人を見つけて笑いに行ったりしないようにね」

 「しないよ、そんな意地悪なこと」

 午後からの多数機による戦闘演習は、4対4演習ではアラクネ・アナンタ隊が、6対6演習では3隻の戦闘機隊全員が参加し、その両方で勝利を収めた。

 306飛行隊にしてみれば、午前中の2対2演習も含めて全敗という有様であり、飛行隊幹部が怒り狂っていることは想像に難くない。

 ユウキ自身も午前・午後を通じて2機の『撃墜』をマークし、自身は一度も撃墜されなかった。信じがたい程上出来といえる戦果である。

 ちなみに、ユウキとウィルが師匠と仰ぐアラクネのベルクマン中尉は、3度の演習参加で合計4機の『撃墜』をマークし、実戦経験者の圧倒的な技量を見せつけた。

 そうした演習の結果を踏まえての、306飛行隊主催のデブリーフィングとなれば、明るい雰囲気で実施されるはずがない。

 しかし、どのような話が聞けるのか、またどのような反省がなされるのか楽しみでもある。ユウキは機を降りると、ガービン中尉達と連れ立ってブリーフィングルームに向かって歩き始めた。

 と、駐機スポットの隅で306飛行隊の隊員らしい若いパイロットが、数名整列してなにやら指示を受けているのを見つけた。

 距離は遠いが、指示する上官はかなり頭に血が上っており、怒鳴るとまではいかないまでも、かなり大きな声で指示をしているため、断片的に内容が聞き取れる。

 「アナンタのパイロット・・・・お前らと同じ年数なのに・・・・」

 ユウキは、隣を歩くウィルがそちらを見て悪い笑顔になっているのに気づき、肘でつついて真顔に戻させる。

 「でもよ、ユウキ。散々俺らを馬鹿にしてた連中だぜ。いい気味だと思ってもいいじゃないか」

 「否定はしないけど、顔に出すなって」

 「特に、あの『流れ星』に撃墜された・・・・。恥を知れ!明日から特別訓練だ!」

 今度は、エミリアがユウキの頭を後ろから両手で掴み、隊員らの方を向いていた顔を正面に戻す。

 「あなたも相当悪い顔になっているわよ」

 「そうは言うけどなエミリア。流れ星勲章であれだけ馬鹿にされたんだから・・・」

 「お前も人のこと言えんじゃないか。自重しろよ」

 3人の会話を背中で聞いていたガービン中尉は、一つため息をつくと振り向いて言った。

 「頼むからアナンタ隊の品位を下げるようなマネはせんでくれよ」



 訓練デブリーフィングは粛々と進んでいる。

 演習中の各機の挙動はシミュレーターシステム上で記録されているため、立体モニター上で完全に再現できる。それを見ながら、良好な点、問題があった点をお互いに指摘する。

 ユウキ自身は、発言をガービン中尉に任せ、ひたすら互いの指摘を聞き、自身に照らして改善すべき点がないかを探している。

 かつて次兄ヒデキに教わった『効率の良い努力』。上手な者をしっかり観察し、良いところを吸収する。この行動はユウキの中ではもはや当たり前の習慣として定着していた。

 特に、ベテラン同士の戦闘は本当に参考になる。その場しのぎの機動を行うのではなく、互いに数手先を考えて理論的に相手を追い詰めようとしているのがわかる。

 すぐに真似はできないだろうが、覚えておいて損はない。いや、覚えておかなければならない。

 そうこうしている内に、6対6の演習まで再現と検討が終わり、自由意見を言う場となった。

 306飛行隊の面々からは、レン事変での実戦についての質問が立て続けに出た。

 曰く、フェイロン型戦闘機の機動性について。

 曰く、グリフィンの装甲強度について。

 曰く、リニアキャノンの貫通力について

等々。

 それらの質問には、ベルクマン中尉とガービン中尉が丁寧に答えていく。

 質問が一段落したところで、小隊長らしい人物が挙手し、発言を求めた。

 「流れ星勲章を受章したシェリング少尉はどの方かな?」

 またネタにされるのが嫌なので黙っていたかったが、そういうわけにもいかない。手を挙げて「はい、私です」と名乗り出る。

 小隊長はユウキに向き直ると、真面目な顔で意外なことを言い始めた。

 「まずは謝らせてもらいたい。流れ星勲章の件を聞いた時は罰ゲームのようなものだと思っていた。一番多く撃墜された腕の悪いパイロットが見せしめとしてあの勲章を背負うのだと思っていた」

 ちなみに、ユウキは今もそう思っている。

 「だが、今日の演習を見る限り、君が撃墜されたのは特別腕が悪かったわけではないことがよくわかった。現に君に『撃墜』されたうちの部隊員もいるしね」

 いや、撃墜されたのは本当に腕が悪かったせいだと思う。それから少しは上達したというだけで。

 「君を笑い者にしていた若いのも目が覚めただろう。君に『撃墜』されるということは、戦場に出れば確実に撃墜される腕しかないということだからな」

 俺が上達した分は計算に入らないの?それに撃墜されるかどうかは運もあると思うけど?反論したいことはいくつかあるが、多分ここは口を挟むところではない。

 「うちもこれから若いのをどんどん鍛えていくつもりだ。また相手してくれたらありがたい」

 言いたいことだけ言って、小隊長は腰を下ろした。特に返事を求められたわけではないので、ユウキは会釈だけ返しておく。

 「他に発言はないか?」

 進行役を務める中隊長の声。新たに挙手をする者はいなかった。

 最後に飛行隊長が立ち上がり、締めの挨拶。

 「それでは、これで合同演習を終了する。アイギス級の搭乗員の面々は本当にご苦労だった。またいずれともに訓練を実施しよう。それでは、解散!」



 ユウキ達は帰艦のため、駐機スポットに戻ってきた。

 「あ~、終わった終わった。今日は美味い酒が飲めそうだな」

 ウィルの言葉に、エミリアも同意の声を挙げる。

 「そうね~、帰港するのは遅くなりそうだから飲みに行く時間はなさそうだけど、艦で祝杯をあげましょうか」

 アウディア宇宙軍では、作戦行動中以外は艦内での飲酒は禁止されていないので、艦内に居住する独身組は『家飲み』の感覚で集まって酒を飲める。

 「それも悪くないな」

 確かに、気持ちよく酒が飲めそうな気分である。

 「あの、ちょっといいですか?」

 突然、若いパイロットが声をかけてきた。その後ろには数名の若いパイロットが続いている。パイロット用のつなぎに付いている部隊章を見ると、306飛行隊のパイロットではない。戦闘機『セイバー』や攻撃機『ランサー』を装備する部隊のパイロットのようだ。

 「はい、なんですか?」

 その若いパイロットは明らかに緊張しているようで、表情が硬い。同じ階級の、同じ若手パイロットなのに何を緊張することがあるのだろう、とユウキが不思議に思っていると、そのパイロットは堅い口調を崩さずに意外なことを言った。

 「あの、流れ星勲章を受章したシェリング少尉ですよね?ちょっと一緒に写真を撮らせてもらっていいですか?」

 「はい?」

 またネタにされるのかと警戒感が生まれ、顔から漏れ出た。

 ユウキの表情を敏感に察知したエミリアが横から助け舟を出してくれる。

 「あなた達、どうしてシェリング少尉と写真なんて撮りたいの?同じ若手パイロットなのに」

 「同じ若手だなんて・・・。シェリング少尉は実戦を経験して撃墜されても生還したパイロットじゃないですか。僕ら若手パイロットの間では有名なんですよ」

 ユウキの表情から微かな不快感を読み取ったのであろう、若いパイロットは慌てた様子で説明する。

 少なくとも悪い意図で写真を欲しがっているわけではなさそうだった。

 「うん、まあ写真ぐらいいいけど」

 「やった!ありがとうございます」

 そして、ジークに描かれた流れ星マークとユウキを中心に、若手パイロット達が周囲を固めて一枚。

 浮かれた様子で一礼しつつ去っていく若手達を見て、ユウキは肩を落としてため息をついた。

 「よう!有名人だな、流れ星!」

 となりの駐機スポットからウィルが声をかけてくる。

 「あんまり嬉しくないな。できればお前に変わってやりたいよ」

 「いいじゃねえか。一応生還したお前を尊敬してるみたいだったしさ」

 「尊敬されるだけの腕を身につけないと笑い者に逆戻りだ」

 「それも含めていい話じゃない。私はあなたの腕が上がるなら大歓迎よ」

 既にコクピットに座っているエミリアが、ユウキを見下ろしながら明るく言った。

 「やれやれ、有名になるとプレッシャーも厳しいね・・・」

 ユウキは嘆息し、流れ星マークが描かれたジークの胴に触れた。流体装甲を展開したジークは、むにゅっとした柔らかい感触だ。

 「一緒に頑張るか、ジーク」

 ジークはいつも通り何も答えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ