5 VS 306飛行隊
「さぁて! いっちょう行くか!」
「俺達の出番はまだだぞ」
気合の入りまくったウィルに冷静に突っ込むユウキ。
「気合が入っているのはいいことだが、空回りだけはせんようにな」
いつもの光景に笑みを浮かべつつも、ガービン中尉が釘を刺した。
今日は306飛行隊との戦闘演習の日。
既に、アイギス、アラクネ、アナンタの3艦は、演習宙域の脇を遊弋しつつ、グリフィンを発艦させる準備を整えている。
今日の訓練では、306飛行隊のより多くのパイロットに演習機会を与えるため、午前中に2対2の戦闘を3回、午後からは4対4、6対6の戦闘をそれぞれ1回ずつ実施することになっている。
午前中の演習では、アイギス隊が1回戦、アラクネ隊が2回戦、アナンタ隊が3回戦を担当する予定なので、ユウキ達の出番はまだまだ先だ。
先方には、こちらのパイロットの階級、経験年数などを伝えているため、ベテランクラスはアイギス・アラクネ隊と当たり、ユウキ達の相手は、ちょうど似たような経験年数を持つルーキークラスが出てくるだろう。
訓練開始時間が近い。ユウキはできればベテラン達の訓練を見ておきたかった。
「中尉、アイギス隊、アラクネ隊の演習を見たいんですが、先に出撃して艦の近くから見ててもいいですか?」
「そんなことをせんでも、艦橋に行ったら見れるよ。艦橋要員も興味津々で見てるだろうしな」
「本当ですか? 私もぜひ見たいです」
「俺も!」
エミリアとウィルも賛同の声を挙げた。
結局、全員で艦橋に行くことになった。
艦橋では、ガービン中尉の言ったとおり、メインモニターに演習宙域を拡大表示し、CICの立体ディスプレイで各機の機動をトレースできる態勢までとって、全員が観戦モードで準備完了していた。
艦長に一声かけて許可をもらい、航空班も観客の一部に混ざる。
ちょうど、アイギス隊の演習が始まるところだ。
演習機が、両端から演習宙域に侵入する。演習宙域に入った時点で戦闘開始である。
旧世紀の航空戦であれば、敵を先に発見できるか否かも実力の内だったのだが、航宙戦闘機同士の戦闘の場合、スラスターを使用した時点で赤外線センサーにより確実に発見されるため、索敵に関しては演習の対象外となっている。
そのため、演習機は双方とも遠慮なくスラスターを吹かし、冒頭から鋭い機動を見せていた。
戦闘はセオリー通り、序盤のミサイルの応酬から格闘戦へと移る。さすがにこのレベルのパイロットになると、ミサイルを回避し損ねることはほとんどない。
ほどなく、双方が一機ずつ撃墜を記録し、1対1の戦闘になった。
単座機がほとんどの306飛行隊に対し、複座のアイギス隊機は、武装を二人で分担して操作できる強みがある。現に、アイギス隊機は、主兵装のリニアキャノンに加えて機首ビームガンを併用し、確実に相手を追い詰めていた。
最後は、ビームガンで姿勢制御機を潰され、機動性が落ちたところにリニアキャノンの長い連射を浴びて、306飛行隊機は沈黙した。
アイギス隊の勝利である。
アナンタ艦橋でも歓声があがった。
「さすがだな」
ガービン中尉が短く称賛する。
状況終了の通信とともに、両陣営の機体が演習宙域から撤収していく。
「おいユウキ! そろそろ行くぞ」
こちらもそろそろスタンバイしなければならない。次はアラクネのベルクマン中尉達の戦闘なのだが……。
艦橋を出ようとするユウキ達に、艦橋要員から「頑張れよ!」「負けるなよ~」等応援の声がかかった。
「任せてください! 3分でぎゃふんと言わせてやりますよ!」
大口を叩くウィルの足を踏んでおいてから、「頑張ってきます」と控えめに告げ、艦橋を後にする。
「いいじゃねえか。負ける気はないんだから」
格納庫に向かう通路を歩きながらウィルがぼやく。後ろから諫めたのはエミリアだ。
「口じゃなくて結果で示す、でしょ」
「そういうことだ。気を引き締めていこう」
待機室でヘルメットを取り、乗機に向かう。
ユウキは、いつもどおり、乗機の胴体をポンポンと叩きながら声をかけた。
「さあ、頼むぞジーク」
エミリアが先にステップを上る。その形の良い尻に一瞬吸い寄せられかけた視線を理性で引きはがし、続いてコクピットに上った。
シートに腰掛けたところで艦橋から通信。
「グリフィン各機、スクランブルだ!」
「スクランブル!? どういうことだ?」
ガービン中尉が聞き返す。抜き打ちの演習か? それとも演習以外で何かあったのか?
「いや、先のアラクネ組の演習がもう終わってしまったんです。時間が空くから早く出てくれって話です」
なんだそりゃ? と思いつつ、気になる点を確認する。
「で、アラクネ隊はどうでした? 勝ちましたか?」
「圧勝だね。余裕勝ちもいいところだよ」
ユウキにとって師匠達でもあるパイロットの活躍に、思わず頬が緩む。
「幸先いいぜ、俺達も続こうか!」
ウィルもさらに気合が入っているようだ。
「一番機、二番機ともに発艦位置へ」
艦橋からの指示でほぼ同時に動き出す2機のグリフィン。一番機が右舷側、二番機は左舷側のカタパルトに向かう。
「一番機、発進準備よし」
「二番機、ジーク、発進準備よし」
「了解、一番機から順に射出する、ご武運を!」
2機のグリフィンは戦闘宙域に向けて勢いよく飛び出した。
「状況開始、状況開始」
訓練開始の合図を受け、急な機動に対応できるよう、ユウキはジークを一番機から少し離した。2機でルーズな編隊を組み、『敵機』に接近する。
「敵のリーダー機をまず墜とすぞ。こちらが先制ミサイル。ジークは追撃でミサイルを頼む」
ガービン中尉の指示に「了解」と返す。航空班の中で、二番機=ジークが定着しつつあるようだった。
双方正面から接近しており、距離は急激に縮まっている。距離50、40……
「ミサイル発射!」
一番機から2発のミサイルが時間差で発射された。同時に、敵機2機からは4発同時にミサイルが発射される。
「回避!」
中尉の声を合図に、回避機動を開始。相対速度の大きな正面からのミサイルは比較的回避しやすい。ユウキは左に大きくバレルロールを行い、追尾してきた2発のミサイルを回避する。
バレルロールの頂点付近でエミリアの声。
「ミサイルいくわよ、時間差で2発」
回避機動をユウキに任せて、敵の一番機の動きを目で追っていたようだ。
さらに距離が近づいた敵機の内一機から、2発のミサイルが発射される。今度は機敏に機を滑らせ、デコイも使用してミサイルを回避。
「こっちは敵の二番機を見ておく! リーダー機を頼む」
「了解だけど、あんまり見とく必要なさそうよ……ほら勝負ついた」
ユウキが視線を巡らすと、敵の内1機が既に被撃墜機を示す灰色枠になっていた。
どうやら、ミサイル回避に集中している間に接近した一番機が、リニアキャノンの一撃で仕留めたようだ。
「よし、じゃあこっちも仕留めるぞ」
「了解! ミサイル発射! いくわよ!」
残っていた4発のミサイルが1発、2発、1発と時間差を置いて発射される。敵は回避で手一杯だ。
この敵機は、激しく回避機動を行いつつもあまり機体を回転させない。それに気づいたユウキは、敵機の腹側にジークを潜り込ませた。
コクピットのモニターは、シートの下にあたる部分がどうしても死角となる。だから、回避機動の際は積極的に機をロールさせ、死角を作らないようにしなければならないのだが……。
ミサイルをなんとか回避し終えた敵機がその腹をこちらに見せる。ほぼ真正面。このタイミング、この距離でエミリアが的を外すことはない。
思ったとおり、胸のすくような一連射。たっぷり1秒以上の連射を浴びた敵機は、撃墜判定を受けて灰色枠に変わった。
「あれ? もう終わりか?」
ウィルの声が通信機から聞こえる。少し意外そうな声色である。
「そうらしい。なんかちょっと拍子抜けだな」
ユウキも返事をしつつ、少し意外に思っていた。偉そうな言い方になるが、手ごたえがなさすぎる。
「ホントのルーキーパイロットだったのかしらね?」
「状況終了、状況終了」
演習本部からの状況終了の合図。
一番機がアナンタに機首を向け、その左下至近にジークが付いた。そのまま編隊飛行でアナンタを目指す。
「まあ君らも上達したということさ。逆に言えば、レン事変の時はあの程度の練度で実戦に臨んでいたということだがな」
「え、俺らあんな感じだったんですか?」
「そりゃカモにされるわけですね」
ガービン中尉の言葉に、驚きつつも内心納得するユウキ。確かに、自分の操縦技量はあの程度だったのだろう。ガービン中尉やエミリアがフォローしてくれたから生き残れただけなのだ。
「ともかく、一度母艦に戻って一息入れよう。演習は午後もあるからな」
「「「了解!」」」
2機は並んでアナンタに向かう。駆逐艦とはいえ、彼らにとってアナンタは間違いなく『母艦』であった。




