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最果ての流れ星  作者: 谷池 沼
『泥だらけの流れ星』編
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幕間1 アウディア人の矜持

 アウディア宇宙軍航空部……。


 厳密な意味での「空」―――つまり、惑星大気圏内の空中―――とは無縁の宇宙軍において「航空」という名称は冷静に考えれば奇妙なものなのだが、違和感を感じる軍人は意外と少ない。

 理由は単純。そこが、戦闘機・攻撃機の運用や開発を所管する部署だからだ。

 それらの機体は、活動の場を宇宙空間に移した現在でも、伝統的に「航空機」と呼称され、かつての「飛行機乗り」達の伝統は、今なおパイロット達の間で脈々と受け継がれている。


 航空部は、アウディア宇宙軍内における、彼ら「飛行機乗り」達の本丸だ。

 航空作戦部長をトップとする部員の内、本部に詰めているのは幹部級を中心に50名程度で、ルーデン基地司令部棟の1フロアを丸々使用している。

 この比較的小ぢんまりした部署において、各基地・艦隊への航空機の配備計画の策定や戦技の研究、機体や武装の開発・改良、さらには搭乗員の教育・訓練など、航空部隊の運用にかかるおよそ重要な事項が全て決定されるのである。


 さて、その航空部。先日の『レン事変』以降、フロア全体が重苦しい雰囲気に包まれ、連日眉間に皺を寄せた幹部達が様々な部屋で会議を重ねていた。


 先般の『レン事変』は、アウディア宇宙軍にとって初の実戦であり、多くの戦訓をもたらした。

 造船、兵装、ミサイルや装甲など、各部・各課においてそれぞれ戦訓が分析されており、今後の兵器開発や訓練カリキュラムに順次反映されていくことだろう。

 航空部も、国産新鋭戦闘機『グリフィン』が初めて実戦投入され、その戦訓を分析しているわけだが・・・。


 レン事変において、グリフィンは合計7機が戦闘に参加。3機の敵戦闘機に対して5機が撃墜され、2機が大破するという惨敗を喫した。

 『敗者は勝者よりも常に多くのことを学ぶ』の言葉通り、おおむね戦闘において問題が見られなかった造船・兵装などの各部と比べ、航空部の戦訓分析は徹底していた。

 今日も今日とて、幹部達が会議室で難しい顔を突き合わせているのだった。


「装甲の件は以上だな。対船艇用大型リニアキャノンによる被害については対策を立てようがない。あれを防げる装甲を被せたら戦闘機として成立せん」

「それに、機体側面や下面の被弾についてもそうだな。あの辺りはもともと『被弾角度によっては耐弾できる』という程度の装甲だ」

「問題はアラクネ一番機の損傷だよ。ほぼ正面からの射撃を受けて機体後部を破壊されている」

姿勢制御機(アポジモーター)に飛び込んだ弾だぞ。それこそどう対策しろというんだ!?」


 幹部達の議論を、一団高くなった席上で航空作戦部長が黙って聞いている。机をコツコツと叩く指が内心の苛立ちを表していた。


「コクピットのシステムについてパイロットから不満は出てないか?」


 幹部の一人がデータを見ながら答える。


「パイロットからの聞き取りの結果、特に不満は出てないな。サポートAIについても問題なしだ」

「AIといえば、『フェイロン』タイプは積極関与型だったな」

「そうだ、パイロットの操作に対する補整だけではなく、操縦への割り込みも行う。戦闘機動自体をAIに任せることも可能だ」

「ミサイルを見て『かわせ!』と指示すればAIが回避操作をやってくれたりするわけか」

「それどころか、機動パターンを口頭指示することで機体制御をやっている者もいるらしい」


 というか、多くの星系国家にとってはその方式が主流である。近傍の星系で人間が手で操縦することにこだわっているところは、アウディアの他、出自を同じくするアルビオン星系だけだ。


「我が軍も戦闘中のAIによる機体制御を考慮すべきではないのか?」

「それはアウディアの思想そのものに関わる部分だな。軽々しく結論は出せんよ」

「いや、何も完全AI制御を考えているわけではない。今すでにやっている範囲を少し拡大するだけだ」

「考慮の余地はあるが軽々しく結論は出せんと言った」

「そういえば、思考によるダイレクトな機体制御の開発をやってなかったかね」

「あのプロジェクトは実用化に耐える成果を出せなかったので打ち切った」


 髪の毛の薄い一人の高官が苦々しげに言った。


「何故だ、あの方式こそ我々の思想に合致したものだろう。性急に打ち切る必要があったのかね?」


 複数の賛同の声が上がる。


「機器の反応に個人差があったのも問題だが、何より戦闘機動中の安定性に著しい問題があった。大体だな諸君、戦闘中に機体の操作を全て考えながらやっているか?」

「・・・なるほど、脊椎反射で操作している部分には対応できないわけか」

「そういうことだ。テストパイロットに確認しても、通常の操縦装置で操縦する方がよほど確実かつ素早い対応ができるということだった」

「フーム・・・」


 会議室に沈黙がおりた。やはり機器・装備の面からの検討では今回の敗北を原因にはたどり着けないらしい。

 それまで黙って議論を聞いていた航空作戦部長が立ち上がった。一同を見渡し、口を開く。


「諸君、ここ数日装備や運用の面から、問題の発見と改善について議論してもらったわけだが、明確な回答は得られなかった」


 確かに、グリフィンの装備や装甲について、マイナーチェンジをする程度の結論しか出ていない。


「つまり、今回の敗北の要因は機体ではないということだ。誰もが最初に考えた通り、パイロットの技量が足りなかったのが原因だ。これだけ議論して他の要因が見つからない以上、もはやそう断定しても良いだろう」


 そう、誰もがわかっていたことだ。戦闘記録を見ても、未熟なパイロットがあっさり撃墜される一方、ベテランパイロットはかなり善戦している。

 だが、敗北の要因を見逃さないためにも、敢えて他の要因について検討していたのだ。


「AIによる機体制御の話も出ていたが、これは却下だ。我々は自らの手と脚で宇宙船を動かすことを選んだ民族だ」


 会議室内で、数名の高官が無言で頷く。


「さて、問題に対する対策だが、どうすべきかは明らかだな」


 航空作戦部長は会議室内の一同を鋭い目で見回すと、張りのある声で言い放った。


「諸君! 訓練しろ! 訓練しろ! もっと訓練するんだ!」


 鋭い声に気圧されて背筋を伸ばした幹部達に対して、さらに言いつのる。


「戦場ではベテランもヒヨッコも関係ない。経験未熟な者が弱かったと言うなら、まずそいつらを鍛え直せ! 頭で考えずとも手と脚だけで機体の制御ができるまで訓練させろ! 我が軍のパイロット達がそこいらのAIよりよほど優秀だと思えるぐらいに訓練させるんだ!」


 そこまで言うと、航空作戦部長は、幹部の一人に視線を向ける。


「全航空部隊に対して訓練強化の命令を出せ。明日までにだ!」

「了解しました!」


 視線を向けられた幹部は、反射的に立ち上がって即答した。


「それと、部隊間の対抗演習の計画だ。今回実戦を経験したアイギス級搭載部隊は必ず入れること。来週から早速始められるように準備したまえ」

「了解です!」


 今度は部隊の運用・調整担当が立ち上がって返事をした。

 部長はそれからも立て続けに指示を出す。全てパイロットの技量向上に向けた対策だ。

 機械を動かす『人間』を強化する。それがアウディア人の矜持に基づく航空部の結論であった。

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