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リリの一人でお使い大作戦①

 最近リリの自立が目覚ましい。つい先日まで、兄であるトトの後ろに隠れるようにしていた子供とは思えないくらいに、一生懸命、家事の手伝いをしている。


 まだ8歳だから、出来る事と出来ない事があるが、そこは熟練の女中頭がしっかり面倒を見てくれている。


 また、時間があればエステルに初級の魔法の本の読み方を教わっている。本当に変わろうと思えば変わるものだと感心してしまう。


 そんなある日、女中頭から相談を受けた。


「リリのやる気は凄く喜ばしい事なんですが、何故か自分のやった仕事に自信を持てないようなんです。仕事が終わるとすぐに私に仕事の出来の確認を取って了解を求めようとする点が見受けられます。」


「それではいかんのか?」


 『ほう・れん・そう』と言う格言もある。良い事のように思っていたのだが、どうやら女中頭にとっては違ったようだ。


「いえ、初めての仕事ならばそれが普通だと思うのですが、何度も行っている仕事でも、その都度了解を得ようとするのです・・・。」


「う~ん・・・自分のこなした仕事に、自信が持てないか・・・」


 思い当たる節はある。多分、今までは兄であるトトの後ろに隠れるようにしていた。何かあれば兄が助けてくれた。その頃の癖が抜け切っていないのだろう。


「このままにしていてもいずれ理解出来るようになるとは思うのですが、折角本人がやる気に満ちているのであれば、早めに改善してあげるのも宜しいかと思いまして相談させて頂きました・・・。」


 そう言うと、女中頭は頭を下げて下がったのだった。


 俺にそう言われてもなあ・・・と、頭を悩ませながら縁側に続く廊下を歩いていると、トトがティニエに剣術を習っていた。


 トトは相変わらずティニエにやられ放題だ。ティニエがワザと作る隙に気付きもしない。


 まあ、仕方のない事だろう。レベル差で言えば100ぐらい離れているのだから・・・。


 それでもトトの腕前はメキメキと上達している。やはり、明確な目的が出来ると上達も早まるというものなのだろうか?


 俺がその姿を見ていると、ティニエが俺に気が付いたのだろう。攻撃が少し緩んだのだった。


 それまでビシバシと当てられていた木刀をトトは一発受け止めて見せた。


 しかしトトの喜びは一瞬だった。受け止めた木刀諸共、吹っ飛ばされてしまったのだった・・・。


「ティニエ殿・・・。程々にな。」


 しかし当の吹っ飛ばされたトトは直ぐさま起き上がり、


「師匠の剣を初めて受け止める事が出来た!」


 と、決して受け止めてはいないであろう事態だったにもかかわらず、トトは大はしゃぎしていた。今までの悲惨さが伺えるというものだ。


「一度受ける事が出来たからと言って、はしゃぎすぎです・・・。それではもう一段厳しくしごきましょうか・・・。」


 ティニエの顔は笑っていたが、目は笑っていなかった・・・。


「ティニエ殿・・・。程々にな・・・。」


 俺にはそれしか言えなかった。


 しかし、練習を再開した際のトトの動きが、先ほどよりも明らかに良くなっているのが解った。


 ティニエの攻撃を受ける事が自信に繋がったのだろう。僅かな違いではあるが、剣筋を見極めようとする姿勢から、体捌きまでに無駄が減っていた。


 それを見た俺は頭にひらめいた!そして、テーブルトーク同好会全員を招集したのだった。



 そして、その日の夕方、テーブルトーク同好会プラスティニエが集まると、


「それでは、リリに自信を付けさせる為の作戦を皆に提案したい。」


 と、発言した。ここには時間が空いていたらしく、キュリーシアまで来てくれていた。


「・・・何それ?」


 ブリットはぶっきらぼうにそう言ってきた。


「私たち何か緊急事態だと思って、ルステーゼから戻って来たんだけど?」


 エステルもウンウンと頷いている。


「それにリリはしっかりやってるじゃない。何を今更自信を付けさせるって言うのよ?」


 ブリットは俺を羽交い締めにして首元に爪を立てている・・・。相当お冠のようだ・・・。


「まあ、落ち着いて話を聞いてくれ・・・。リリの事で女中頭から相談を受けたんだ・・・。」


 そう言うと、やっとブリットは俺を解放してくれた。


「女中頭から?」


「そうだ、リリは何をするにしても、女中頭の最終確認を取らないと気が済まないらしい。それも、何度もこなしている仕事でもだ。普通なら、何度もやっている仕事であれば、そこまでの事はせんだろ?」


「まあ、確かに・・・それだとただ褒めて貰う為にやっているようなものかも・・・。」


「それもあるかもしれんが、多分リリは自分自身に、自信が持てていないのかもしれんとワシは考えた。」


「「「「「「自信が持ててない?」」」」」」


 皆が怪訝そうな顔をした。


「よく考えてみろ。今まで、トトの後ろにくっついて、何でもトトがやってくれていた。今はそうじゃ無い。誰の後ろにも着かずに一人で何かをしようとしているが、どうして良いのか解らないのでは無いか?」


「ああ!だから承認欲求が先に来てしまうと言う訳ですね!」


 ヘンリクが納得したように頷いてくれた。


「そう言う事だ。そこで、女中頭にも相談しようと思うのだが、リリに一人で買い出しをさせてみてはどうかと考えておる。」


 ここで俺の思いついた案を発表した。


「要するにお使いをさせるってこと?そんなんで自信着くかしら?」


 ブリットはお気に召さないようだ。


「リリはまだ8歳かも知れんが、魔王領の子供では8歳の子供でも親の手伝いぐらい、いくらでもしておる。」


 魔王領では幼い子供でも親の手伝いは普通にこなしているのだ。ただ、トトとリリは竜種の出で、少し特殊ではあるが・・・。


「何かしら理由を付けて、リリを一人で買い出しに行かせて無事に帰ってきて貰う。一人で街を歩いた事がないリリにとっては、かなりの難易度だと思うぞ?」


「それはそうかも知れないけど・・・」


 ブリットは失敗してしまった場合を心配しているのだろうか?


「今のリリのやる気を信じようではないか?ワシ等は少しリリの背中を押してやるだけだ。」


「む~~~・・・。」


 ブリットだけは何か納得出来ないと行った感があったが、他の皆は納得してくれた。


 ブリットは何かこれ関連のトラウマでもあるのだろうか?何故かそっちの方が気になってしまった・・・。


「で、買い物の内容は、どうするんですか?」


 エリックが聞いてくる。


「取りあえず、ワシが考えておるのは、食材が足りないと理由を付けて、大通り沿いの八百屋と魚屋、肉屋に行って貰おうと思う。路地裏の店などは、流石に迷ってしまうかも知れないからな。」


「それが無難ですね。ここから大通りまででも、子供の足だと結構な距離がありますから・・・。」


 ヘンリクも納得する。


「分量も気を付けないとな。リリが持ちきれる量を間違わないように、女中頭とも打ち合わせをしておかないとな・・・。」


 俺達が具体的な話をしていると、


「・・・後ろからこっそり後付けちゃダメ?」


 ブリットが上目遣いでこう言った来た・・・。


「・・・好きにすれば良い。ただ、リリの為にならん事はするなよ?」


「わかった!」


 ブリットの機嫌はここでどうにか回復したのだった・・・。



 その後、女中頭とも打ち合わせを行い、翌日決行となったのだった。リリが厨房で手伝いをしている時、女中頭が突然、


「あらいけない!食材が足りないわ!誰か街まで買い出しに行ける人はいるかしら?」


 棒読みな女中頭のセリフに対して周りを見ると、他の女中はわざとらしくバタバタと忙しそうにしている。唯一動けるのはリリだけだった。


 リリは息を飲んだが、女中頭に、


「私が行きましょうか?」


 そう言ってきた。


「そう?行ってくれるかしら?買ってくるものはメモしておくから支度してきなさい。」


 リリは言いつけ通り身支度を調える為に部屋へと戻っていった。


 女中頭は事前に用意してあったメモと買い物かごを用意してリリが戻って来るのを待った。


 暫くするとリリが身支度を調えて厨房へ戻ってきた。


「じゃあ、これをお願いね。お店の名前と場所、必要な食材はメモに書いてあるから、お金はこの巾着に入っています。無くさないようにね。」


 そう言ってリリに、買い物かごとメモ、お金の入った巾着を手渡した。


 リリは早速巾着を首に下げて無くさないようにと懐へ仕舞い込んだ。メモを一読して、これも懐にしまった。


「では行ってきます!」


 こうして、リリの初めての一人でのお使いが始まったのだった。

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