キュリーシアのプチ家出②
一方王城の方はと言うと、魔王の混乱振りが最高潮に達していた。
「うお~っっ!娘が帰って来なかったらどうする~!」
とか、
「変な男に拐かされてはいないだろうか~!」
など、心配する気持ちは解るのだが、だったら何故、キュリーシアがこうなる前にケアをしなかったのかと疑問に思う。
俺は魔王の狼狽えぶりにゲンナリしながらも、思い切り魔王のケツをひっぱたいた。
『バチーッンッッ!!』
「あ痛あぁっっ!!」
魔王はひっぱたかれたお尻を押さえて飛び上がった。
「魔王ともあろう者が、娘の事で狼狽えてどうする!」
魔王の尻を叩いたのは、頭に俺の手が届かなかったからだ。他意は無い。
彼女の執務室を見させて貰ったが、もの凄い書類の山だった。そして、今日までに必要な書類は全て処理されていた。
大したものだと思う。もしこれを俺がやるとしたら、とっくに逃げ出していた事だろう・・・。
俺達の世界で言えばブラックも良いところだ。管理する側だからブラックとは言えないのか?そんな事を思いつつも、
「魔王殿、キュリーシア殿はしっかりしたお方だ。魔王殿の心配するような事など万が一にもありはしまい・・・。」
それに、さっきの遠話の魔法バッジでのブリットとのやり取り・・・。
普段のブリットならキュリーシアが家出したと聞いたら、すぐにでも探しに駆け出すだろう。
それが今回無かった・・・。と言う事は故意か偶然かは解らないが、多分ブリットはキュリーシアを見かけているか、見付けている。そんな気がした。
魔王は近衛兵を使い捜索を行ってるが、その範囲は魔王領のみだ。もしルステーゼ王国に行っていれば、見つかる可能性は0%と言う事になる。
「しかし、親として娘の心配をするのは当然だろう!」
魔王は親として、心配しているのだった。
「結婚もしていないワシが言っては、説得力には欠けるが魔王殿の気持ちは解る。しかし、娘を信用してやるのも親の勤めでは無いのか?小さな子供ならばいざ知らず、彼女は魔王領をこの世界と統合させる事までした。そうでは無いか?」
「・・・確かに、キュリーシアはワシの為し得なかった事をしてのけた・・・」
「だろ?世界が統合された魔王領は、もっと色々な変化が起こる事になるだろう。その時、全てを彼女に任せてしまっては、それこそキュリーシアが倒れてしまうぞ。」
「うっ・・・!」
「その為にも、キュリーシアに全負担が掛からん様な体制作りを魔王殿が父親として動くべきでは無いのか?」
冷静さが少しは戻ったのか、魔王は「ふう・・・」とため息を漏らした。
「ヨーン殿の言う通りだ。魔王領が変化しているというのに、今まで通りの事をしていては、キュリーシアに過大な負担となってしまうだろう。先ずは部署の見直しなどをして行こうではないか!」
まあ、これで王城の方は落ち着いたかな?そんな事を考えつつも、魔王にフォローを入れる事は忘れない。
「魔王殿、一応、キュリーシア殿がルステーゼ王国に行っている可能性もある。今、王都ルステーゼにブリットとエステルがそっちに行っているから、捜索をしてくれるように言っておいた。」
「本当か!?」
「ああ、もしあっちで見つかれば、ワシの遠話の魔法バッジに連絡が入る。連絡が入りしだい。魔王殿には知らせよう。」
「スマンがよろしく頼む。」
魔王はそう言って頭を下げてきたが、「気にするな・・・」と言って、俺は王城を後にして屋敷に戻った。
ブリットとエステル、そしてキュリーシアは昼間、王都を散策したあと、ルステーゼの屋敷に来ていた。
屋敷で夕食を皆で済ませた後、3人とメイドゴーレムの2人は1つの部屋に集まっていた。いわゆるパジャマパーティーと言うヤツだ。キュリーシアパジャマは昼間、王都で買い求めている。
おのおの昼間市場などで買ってきた、お菓子や飲み物などを持ち寄って、ベットの周りではワイワイと話が盛り上がっていく。冒険での失敗談や、パーティへの愚痴など、その内容は多岐にわたった。
盛り上がりも最高潮になろうという所で、キュリーシアはおもむろに、
「皆さんは何で私が城を飛び出したか聞かないんですね・・・。」
そう言ってきた。するとブリットは、
「まあ、言いたくない事の1つや2つあるでしょ?言いたくない事を無理に聞こうとは思わないわ。」
そう言って、キュリーシアの頭をそっと撫でた。するとキュリーシアはポツポツと今回のあらましを語ったのだった。
「私は、王城の執務が嫌になって逃げ出したんです・・・。いくらこなしても減らない書類が嫌になったんでしょう。気が付いたら王都ルステーゼに来ていました・・・。王女として失格です・・・。」
キュリーシアが涙目でそう呟くと、
「そんな事無いよ・・・。王女だって一人の女の子じゃない。たまには息抜きだって必要よ。」
ブリットは、キュリーシアを抱きしめて慰めた。
「たまにはこうして息抜きをしなかったら、どこかで爆発しちゃうよ。ん~・・・それじゃあ、ここからはキュリーシアの不満ぶちまけ大会と行きましょうか!」
ブリットはそう言うと、果実酒を勧めて、キュリーシアの悩みや不満を聞き出していったのだった。
キュリーシアも相当溜まっていたのだろう。その不満の量には、流石のブリットやエステルも驚きを隠せないものだった。
キュリーシアは一通り愚痴を言い終えると満足したのだろうか、寝息を立てて眠ってしまっていた。
それを見たブリットやエステルもお互いに顔を見合わせると、彼女の苦労を思わずにはいられなかったのだった。
ブリットは部屋から離れると、遠話の魔法バッジを使って、ヨーンに連絡を取った。
「ん?ブリットか?キュリーシアの件か?」
「あ・・・。やっぱり解ってた?」
「そりゃあ・・・な。何時ものお前さんなら真っ先にキュリーシアを探しに出掛けるものを、そのままにしていたからな・・・。」
「あ~・・・確かに・・・。まあ、さっきまでキュリーシアと色々話をしていたけど、明日中には戻ると思うわよ?」
「その根拠は?」
「女の勘?」
「ブリットの女の勘?・・・当てにならんなぁ~・・・。」
「何よ!文句あるっての!?」
「まあ、その勘を信じるとするか。こっちも魔王殿には色々と言っておいた。キュリーシアの仕事の量も少しは改善されるだろう。」
「おっ!流石ヨーン!話が早いね♪私たちも明日の昼間まではキュリーシアと一緒にいるから。出来れば一緒に帰れるようにするよ。」
「そうして貰えると助かる。キュリーシアの件よろしく頼むぞ。」
「任せなさい!女の子の事は女の子にしか解らないものよ。」
そこまで話を終えると、遠話の魔法バッジを切った。明日はもう少しショッピングでも楽しんで、気分転換でもしようとブリットは思った。
翌日はキュリーシアが顔面蒼白だった。いわゆる二日酔いというヤツだった。愚痴を言う度にガブガブと果実酒を飲んでいたのだから仕方あるまい・・・。
「キュリーシア・・・。大丈夫?」
エステルが心配そうにして、水をキュリーシアに渡す。
「これが二日酔いというものですか・・・。頭がグラグラします・・・。」
「大丈夫、大丈夫!半日もすれば元に戻るから♪」
「ブリットも経験してるから言える事だね。」
エステルの鋭い突っ込みが入った。
「うっ・・・エステル、ここではそう言うのは内緒にして貰わないと・・・。」
そう突っ込まれたエステルはツツッとブリットから視線を逸らした・・・。
お昼ぐらいになり、キュリーシアの体調も良くなったので、王都の散策を楽しむ事にした。朝市には間に合わなかったが、商店街や出店などを見て回った。
すると出店で変わったアクセサリーのお店を見かけたキュリーシアは、そこで足を止め、商品を眺めていた。するとブリットは、
「何か気になる品でも見付けたの?」
と声を掛けてきた。店のおばさんも、
「このアクセサリーは運気や恋愛、金運の上がるおまじないを掛けたものだよ。」
そう言ってきた。こう言ったアクセサリーは、魔王領にもある。ただ、デザインが根本的に違うのだが、女性としては魔王領のデザインより、王都ルステーゼのデザインの方が目を引きやすい。
何かお土産に買っていこうと品定めをしていると、不意に強い風が吹いてきて、キュリーシアの角を隠していた帽子をさらって行ってしまった。
キュリーシアは慌てて角を隠そうとしたが、その角を見た出店の主人は、
「おや、魔王領から来た娘さんかい?その若さで冒険者をしてるなんて凄いね!最近じゃ魔王領からの文化交流って言うのかい?色んな人たちがこの王都にも来てくれて、私の商品を贔屓にしてくれるから有難いよ。」
そんな事を言われてしまった。キュリーシアは初めて王都ルステーゼに来たときのことを思い出してしまっていた。あの時は気味悪がられて、誰も自分に手をさしのべてはくれなかった。
それが今では少しずつ変化が起こっている。魔王領の事が認知され、受け入れられつつある。キュリーシアは涙がこみ上げてくるのを堪えていた。私のしてきた事は間違いでは無かった。それを実感した瞬間だった。
キュリーシアはそのアクセサリーのお店で1つの商品を買い求めた。それは幸せを象徴するお守りのアクセサリーだった。
その日の夕方、ブリット達に連れられて、キュリーシアは王城へ戻った。魔王や城の者に心配を掛けた事を謝罪した。
魔王も、キュリーシアに任せきりだった執務について、業務の分散を行う事を約束したようだった。
これでキュリーシアの執務が少しでも軽減されればと思う。
キュリーシアも今回の事で自信を取り戻したようで、精力的に執務に公務とこなしているようだ。
こうして、キュリーシアのプチ家出は幕を閉じた。
しかしタダでは転ばないのがこの魔王領のお姫様だ。俺達の所にも時間が出来ると遊びに来る事が多くなったある日、そこで相談された事があった。魔王都と王都ルステーゼとの物流の交流が出来ないかというものだった。果たしてそれが可能かどうかは要検討と言う事になるだろう・・・。




