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キュリーシアのプチ家出①

 キュリーシアはルーク・ヴェルバーンの国家転覆の後始末を終えた後、城の執務室を見て突っ伏していた・・・。


 たった2日城を空けただけだったのに、その机の上に積まれた書類の山に対してだ。


 確かにここ最近、キュリーシアの執務は激務だった。


 魔王領の世界への統合から始まって、文化交流、冒険者ギルド魔王領支部の創設、そして、4教の布教の許可だ。


 それら全てに関わっているのだから、進捗の報告や陳情など処理すべき問題が多岐にわたっている。


 それにしても、たった2日空けただけで、これだけの量が溜まるとは・・・。愕然とするのも無理は無い。


 それでも早く処理をしなければならないと思ってしまうのは、キュリーシアの正義感がなせるモノだった。


 父はヨーン様との会話が終わった後、ウィル・ヴェルバーン氏と話をしているはずだ。


 予想では、今回の首謀者の一人である次男のルーク・ヴェルバーンの温情の件だろう。その事は父に任せる他無い。


 私はこの目の前にある書類を、一刻も早く処理しなければならなかった。


 書類に目を通し、可否を決めていく。問題のある項目には注意書きを載せ、再提出を求める。


 深夜遅くまで机の上にあった書類の整理を行い、やっとこの日の分の書類を片付ける事が出来た。


 私頑張った!と、ガッツポーズをするのもつかの間・・・、執務室の扉がノックされる。


 嫌な胸騒ぎを感じるものの、ここは執務室。居留守は使えない・・・。私はそのノックに答えた。


「どうぞ・・・。」


 すると、専属の秘書が申し訳なさそうに、次の書類を持ってきたのだ。


「キュリーシア様、申し訳ありません。これは明日中に決済を頂きたいという書類です・・・。」


 そこには、先ほどまで処理していたほどには無いにせよ、膨大な量の書類の束を秘書が重そうにして持ってきたのだった・・・。


 私は、その書類を見た瞬間、何かが崩れるような気がしたのだった・・・。


「解りました。書類は机の上に置いておいて下さい。処理は明日中でしたね?」


「はい。書類の精査をしてはいるのですが、これだけの量はどうしても姫様に見て頂かなければならない書類となってしまうのです・・・。」


「解っております。これでも私も姫の端くれ・・・。公務をこなさなければ国は回りません・・・。お互い大変ですが、頑張りましょう・・・。」


 私はにっこり微笑んだつもりだったが、私の笑顔を見た秘書の顔は引き攣っていた・・・。何故だろう?私は何かおかしな事でも言ったのだろうか?


 そして私は翌朝、王都ルステーゼに来ていたのだった・・・。



 所変わって、ヨーン達の屋敷には朝早くから、玄関をノックする音が聞こえてきた。


 皆が起きている時間とは言え、こんなに早くに誰だ?と俺は思いながらも、そのノックのけたたましさから、タダならぬものを感じ取り、玄関へ向かった。


 玄関先には近衛騎士長のクシュラーデだった。しかし彼女は顔面蒼白だった。何があったのかと驚いて、俺はクシュラーデを居間へ通した。


「クシュラーデ殿、こんな早くから何があった?魔物の大群でも出たのか!?」


 慌てて駆けつけたのだろう。息を切らしていたので、女中に水を持って来させ、クシュラーデにわたす。それを彼女は一息に飲み干すと、一息つき、


「キュリーシア様が家出なされた!」


 クシュラーデはそう言って、一通の手紙を俺に見せた。


『少し一人になります。探さないで下さい。

                   キュリーシア』


 紙の切れ端にそう書かれたメモだった。遠話の魔法バッジも置いて行ったとなると、本気度が伺える。


 俺はそのメモを見て、先日のウィル・ヴェルバーンの屋敷での出来事を思い出していた。


 彼女は公務の大変さに憤っていたように思えたからだ。キュリーシアは確か・・・、


『そんなに国の運営をしたいのなら貴方がやってご覧なさい!どれだけ大変かも知らないのに、何を偉そうに言っているんですか!!』


 そんな事を言っていたな・・・。


 しかし彼女も子供では無い。それにレベルもカンストしている。余程の事が無い限り何かに巻き込まれる事は無いだろう。


 俺はそんな風に思い、


「まあ、キュリーシアもここ最近の忙しさにガス抜きが必要なんだろう。その内帰ってくるのでは無いか?」


 俺はそんなに心配していなかったのだが、


「はい。私もそこまで心配はしていません。しかし魔王様が取り乱してしまいまして・・・」


 あ~・・・そっちか・・・。


「解った。今から魔王殿に会って話をしてくるとしよう。」


「ヨーン殿・・・。話が早くて助かる。申し訳ないがよろしく頼めるか?」


「まあ、娘を心配する父親ってのは立場が大きくても一緒と言う事だな。」


 俺は苦笑いをすると、支度をして王城へ向かった。



キュリーシアは王都ルステーゼに来ていた。本人にとっても無意識に近いものだった。それでも、魔族と気付かれないようにするメイクは、忘れてはいない。


 ハタと気が付くと、懐かしい石造りの建物と朝市でのやり取りが行われる、賑やかな喧噪が聞こえてくる。すると、その喧噪に混ざって、聞き慣れた声に声を掛けられた。


「あれ?キュリーシアじゃ無い?」


 えっ!?と思い、声のする方へ振り向くと、そこにはブリットとエステル、そしてメイドゴーレムのモンブランとパンナコッタがいた。


 まさか王都ルステーゼで遭遇するとは思ってもみなかった。


「えっ!?ブリットさんにエステルさん、メイドゴーレムさん達も!どうしたんですか?」


「どうしたの?は、こっちのセリフよ?キュリーシアこそ、どうしたのさ?」


「私はチョット視察に・・・」


 キュリーシアは言葉を濁す。まさか家出して来たとは言えるはずも無かった。話題を逸らすようにキュリーシアは、


「ブリットさん達こそ朝市で何をしていたんですか?」


「私たちは食材やお酒の補充だよ。この間馬車のストックしてあった分や、屋敷に置いてあった分を結構使っちゃったから。」


 ブリットはそう言って、魔法鞄の中身をキュリーシアに見せた。そこには、魔王領では手に入らない食材やお酒が詰め込まれていた。


「へ~・・・確かに魔王領では見ない食材ばかりですね。」


「これなんてオススメだよ。」


 そう言ってブリットは赤いトマトのような実を1つキュリーシアに手渡す。ブリットの手にもその実は握られていた。


 そしてブリットはガブリとその実を囓って見せた。キュリーシアも真似してその実を口にする。それは酸味と甘みが合わさったような、不思議な味わいだった。


「美味しいでしょ?」


「はい!魔王領には無い味です!」


 そんな会話をしていると、ブリットの遠話の魔法バッジが鳴った。ブリットは遠話の魔法バッジを取ると応答した。


『ブリットか?今どこにおる?』


「ん?ヨーン?私とエステルは今王都ルステーゼで買い出し中。どうしたの?」


『いや、実はキュリーシアが家出してしまって、今王城が・・・と言うより魔王殿が大混乱なんだ。ブリット達はキュリーシアの居所とか知らんよな?』


 それを聞いたキュリーシアは、しまったという顔をしていた。


 ブリットはチラリとキュリーシアの顔を見つめて、


「ん~知らないかな?もし王都で見かけたら保護しておくよ。」


『スマンがよろしく頼む・・・。』


「あ!私ら今夜は王都に泊まっていくからよろしく。」


『・・・了解した。』


 そう言うと遠話の魔法バッジが切れた。


「私を庇ってくれるんですか?」


 遠話の魔法バッジの会話を聞いていた、キュリーシアは驚いていた。


「たまには息抜きも必要だよ!さっ!今日は魔王都の事は忘れて遊びましょ!」


「そうそう!女子会だね♪」


 ブリットもエステルも乗り気だった。キュリーシアも、その気遣いがとても嬉しかった。

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