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国家転覆を目論む者③

 翌朝エイナルは連絡役のユンに変身して、ヴェルバーンの屋敷に向かっていた。屋敷に到着すると、そこは物々しい雰囲気で、門扉は閉じられていた。


 入り口の門番はユン(エイナル)の姿を確認すると、素早く門扉を開き中へ通してくれた。


 中にいた係のものがユン(エイナル)を出迎えると、


「東の湿原はどうだ?」


 と、聞いてきた。姿は魔法使いのようなローブを身に纏っている。顔は狼牙族のものだった。


「はい。東の湿原の瘴気が遂に暴走しました!暫くすれば森の動物は全て魔獣になるだろうと言っております!」


「良し!遂にこのときが来た!長かった!あの竜種め!ここまでしぶとく持ちこたえるとは思いも寄らなかった!」


「仰る通りで・・・」


「その間に、魔王は復活し、魔王領は世界と統合し、当初の目的が大幅に狂ってしまったが、西の樹海の魔獣が暴走すれば、たとえ魔王軍であろうと、そちらに掛かり切りとなってしまうだろう。」


「・・・はい。」


「その隙を突いて我らが背後を取る!完璧な作戦だ!たとえ魔王とて、背後を取られればひとたまりもあるまい!私はこの事をルーク様に伝えてくる。お前は次の指示があるまで待機だ。」


「仰せのままに・・・。」


 そう言うと、その魔法使いらしき男は奥へと下がっていった。


 ユン(エイナル)は待機を命じられると、すぐに行動を開始した。先ずはウィル氏と長男達穏健派の人たちを見付けなければならない。


 どれほどの人数が幽閉されているか解らなかったが、この屋敷もそこまで広い訳では無い。


 まず屋敷をくまなく探してみたが見付ける事は出来なかった。地下牢などはあるのかとエイナルは心配になったが、この屋敷には地下牢を見付ける事は出来なかった。


 となれば、屋敷の外と言う事になる。エイナルはその事を遠話の魔法バッジを通じてヨーンに連絡した。


「ヨーン・・・取れるか?」


「エイナルか?ウィル氏達は見つかったか?」


「いや、屋敷をくまなく探してみたが、見付ける事は出来なかった。別の場所にいるのかも知れない。俺は取りあえず次の指示があるまで、屋敷に待機する事にする。ヨーン達も動くのは少し待ってくれ。」


「解った。くれぐれも悟られぬよう気を付けてな。」


「解っている。また動きがありしだい連絡する・・・。」


 そう言って遠話の魔法バッジを切った。


 それから暫くすると、遠くから高笑いをする若者の声が聞こえてきた。


「ハハハッッ!遂にこのときが来たか!」


 そして姿を現したのは狼牙族の青年だった。


「ユンよ。報告ご苦労だった!白狐族の首領にも労わなければな!しかしこの計画も長く掛かってしまったものだ。」


「その通りで・・・本来であれば、魔王が病床に着いている時を狙うはずだったものが・・・あの竜種のしぶとさには呆れてものも言えません・・・。」


 魔法使いの男は狼牙族の青年に畏まり、自分の計画がもう少しで破綻する恐れがあった事を伝えていた。


「まあ良い。こうして無事に、西の樹海の魔獣が大量発生するのだ!魔王といえど挟撃されれば対応出来まい。穏健派と共に歩もうとするような軟弱な魔王は、この魔王領には要らぬ!この俺ルーク・ヴェルバーンが、代わりに魔王となってやる!!」


 狼牙族の青年ルークはそう言って、この計画が失敗する事など微塵も考えてはいなかったようだ。


「父にも、このめでたい話をしてやろうでは無いか!」


「ハハッ!ユンよ、こちらの軍は10日後に出発させる。急ぎ西の樹海に戻り、今から5日後に魔獣を魔王領へ向かわせるように指示を出せ!」


「ハッ!5日後に魔獣を魔王領へ向かわせるよう伝えます。」


 ユン(エイナル)はそう言って、屋敷から出る事になるのだった。そして屋敷の外へ出ると直ぐさまきびすを返し、屋敷に侵入し直した。


 ルークが何処へ向かうか確認する為だ。隠密スキルをフル動員してルークを探し出し後を追う。


 ルークは魔術師の男と一緒に屋敷の外に出た。そして屋敷の裏側にある山へと入っていく。暫く進むと東屋のような建物が見えてきた・・・。


 よく見てみると、東屋の出入り口には、2人の兵士が見張りをしている。どうやらここで間違いないようだ。


 ルークと魔術師の男はその東屋に入っていった。暫く物陰に隠れて様子を見ていると、微かな物音が聞こえてくる。二人の言い争う声だろうか?


 その内にルークと魔術師の男は東屋から出てきた。ルークは不機嫌そうにしていたが、魔術師の男は素知らぬ顔をしていた。とても印象的な光景だ。


 暫く様子を見て戻ってこない事を確認したエイナルは、見張り役の兵士に気付かれないように東屋へ近づいて行く。


 そして裏手に回り込み屋根伝いに表に回り込み兵士の正面へ躍り出た。面食らった兵士達にエイナルは首筋へ手刀を入れ気絶させた。


 気絶させた兵士達を東屋の裏手に引きずっていき、縛り上げた上で猿ぐつわをはめて騒がれないようにしておく。


 表に戻ると、エイナルは扉越しに、


「ウィル・ヴェルバーン氏はおられるか?」


 そう尋ねた。すると、


「ウィル・ヴェルバーンはワシだ。」


 と言う答えが返ってきた。


「私は、魔王様からの依頼で東の街の調査に来た者です。今この街では何が起こっているのでしょうか?」


 エイナルはそう言いながら、東屋の鍵を開けてウィル氏と対面する。中には他に数名の人物がいた。


「全てはあの魔術師がワシの息子を誑かした事!国家転覆を唆すとは!こうしてはおれん!すぐに息子を止めねば!!」


 ウィル氏は興奮してしまい、事情が聞ける状態では無くなってしまっていた。息子を止めねばの一点張りである・・・。


「大丈夫です。私の仲間が屋敷の周りに来ています。この騒動もじきに収まるでしょう。」


「何と!それでしたら早くお願いします!」


 ウィル氏はそう言って頭を下げた。エイナルは、遠話の魔法バッジを使い、ヨーンと連絡を取った。


「ヨーン、ウィル氏を無事に確保した。ウィル氏は屋敷の裏山にある東屋に監禁されていた。監禁されていたのはウィル氏以外に4名計5名だ。」


「エイナルか?良くやってくれた。さっき、ルーク氏と男が屋敷から戻ってきた。場合によってはこれから大立ち回りになるかも知れんが大丈夫か?」


 ウィル氏はコクコクと頷いている。


「問題ない。俺も5名を連れて屋敷に向かう。あと、ルーク氏と一緒にいる男に気を付けろ。そいつが今回の首謀者だ。」


「解った。」



 エイナルからの連絡を聞いた俺は屋敷の近くの物陰に隠れるように待機していた。その隣には当然のようにチョコロールがいる。


 今回はエイナルが隠密行動と言う事もあり、ガトーショコラも一緒だ。他のメンバーもそれぞれの場所で待機している。


 俺は、遠話の魔法バッジを使って、作戦開始の合図を一斉送信した。


「作戦開始だ。全員屋敷正門前に集まれ。」


「「「「了解!」」」」


 合図と共に皆、隠れていた場所から一斉に、屋敷に向かいだした。屋敷の門番から見たら不思議な光景だっただろう。四方から集まってきた冒険者が集合しそのまま屋敷に向かって進んでくるのだから・・・。


 当然その中にはキュリーシアもいる。屋敷の正門前まで来るとキュリーシアが門番に向かって第一声を上げた。


「私は魔王領現魔王ギュレイドスの娘キュリーシア。領主ウィル・ヴェルバーン殿に用があり参りました。」


 キュリーシアはそう言って、魔王の直系を意味するその角をさらした。それを見た門番は慌てだした。


「いっ!今取り次ぎますので少々お待ちを!」


「待ってはおれんな・・・。」


 俺はそう言って、門番を押しのけて中に入ろうとする。すると、門番はそれを止めようとするのだが、全く止まる気配が無い。


 そのまま俺は門に取り付き強引に門を押し広げた。閂が掛かっていたのだろうが関係ないその閂をへし折り門を開けてしまった。


 そして中へ押し入ると、ちょうどルークと魔術師の男が驚いてこちらを見ているところが見えた。


「おっと、そこにいたか?二人とも国家転覆罪の容疑で、王城まで来て貰おうか。」


 俺がそう言うと、二人は何が起こっているのか全く理解出来ないといった風に呆然としていた。そこにキュリーシアが割って入った。


「あなた方のやろうとしていた事は、既にこちらで把握済みです。大人しく従って下さい。」


 二人はキュリーシアの事を知らなかったのだろう。


「何を小娘が偉そうなことを・・・」


 この続きが言えなかった。魔王直系の証の角を見てしまったから・・・。


「クッ!魔王の娘がわざわざ来たのなら、捕まえて魔王に今の座から降りて貰う材料にするまで!!」


 苦し紛れも甚だしいが、騒ぎを聞きつけてやって来た衛兵達に、俺達は取り囲まれることになった。


 しかしこちらも特に慌てた様子は無い。それを観念したものと勘違いしたルークはご機嫌になって言ってしまった。


「魔王の娘だからと言っていい気になるのもここまでだ!俺は今の時代を終わらせて戦闘が自由に行える国を作るんだ!!」


これに一番キレたのはキュリーシアだった。余程普段の国家運営の事で、溜まっているものでもあるのだろうか?


「そんなに国の運営をしたいのなら貴方がやってご覧なさい!どれだけ大変かも知らないのに、何を偉そうに言っているんですか!!」


 『ズドンッッッ!!!』


 そう言うと同時に、キュリーシアのファイヤーボールが、ルークと魔術師の男の背後で炸裂して爆風で二人は吹っ飛ばされる。それが戦闘の合図とばかりに俺達は、衛兵を片っ端から倒していく。


 キュリーシアは魔術師の男と対峙していたが、両者の技量が違いすぎた。


 魔術師の男がファイヤーアローを10本出したのに対し、キュリーシアが20本出して応戦して見せた。当然数の差で圧倒する。10本は相殺し、残りの10本で魔術師の男を取り囲み、火あぶり状態にしてしまった。


 ルークはただ呆然と、事の成り行きを見ているだけしか出来なかった。本当の戦いなど経験したことが無かったのだろう。


 手にした剣は立派なものだったが、剣先が震えている。俺はルークと相対し、バトルアックスの一太刀で、その剣をへし折ってやった。


 折れた剣先を見たルークは、ヘナヘナと崩れ落ちていった。


 これで今回の国家転覆を企んだ犯罪は決着した。

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