国家転覆を目論む者②
白狐族の首領の話では、東の街のヴェルバーンとだけしか聞いていない。
魔王の見舞いに良く来たという穏健派のウィルという人物は、3年ほど前から魔王城には来ていないと言う。
ならば国家転覆を企む者は、ウィルという人物以外の、ヴェルバーンの身内と考えた方が合理的だろう。
俺はそんな事を考えながら、クシュラーデに案内されて取調室へと向かって行った。
今まさに取り調べが行われている、白狐族の首領は俺を見付けると、怯えた顔をした。
俺はそれを無視して、その取調室に入る許可を貰い、中に入った。
「なっ!なんだ!?まだ何かあるのか!?」
白狐族の首領は怯えた声で、俺に向かいそう言った。
「いや何、聞き忘れた事があってな・・・。ヴェルバーンが今回の国家転覆の首謀者とお前さんは言ったな?」
「ああ・・・。そうだ。間違いない!」
「そのヴェルバーンという人物の名前を聞いていなかったと思ってな・・・。」
「!!!うぁっっ・・・!」
「なんだ?名前は言えんのか?それとも何か言えない理由でも在るのか?もうここまで来れば東から攻めてこようが、西側が収まってしまっておるのだ。作戦は完全に失敗だろう?何を怯える必要がある?」
俺は国家転覆は完全に失敗だと、遠回しに告げた。
「・・・この作戦が失敗したら、俺の家族が皆殺しにされちまう・・・。」
「ほう?ならば尚のこと全て白状して家族を解放する作戦を練った方が良いのでは無いのか?」
「そ・・・それは・・・。」
すると、エステルが、
「そいつはトトやリリの父親を非情に利用したようなヤツ・・・。そんな言葉信じられ無い。」
と、そう言った。
確かにこいつはトトとリリの父親を利用して、西の樹海の瘴気を過剰に発生させ、森の動物を魔獣化させようとしたヤツだ・・・。
そこまでの事を何のためらいも無くやってのけたのだ。ここまで追い込まれても嘘を言っている可能性は高いだろう・・・。
ならば逆に自分の命は惜しいはずだ。ここはカマを掛けてみるか?
「のう・・・。もし真実を話してくれるというのであれば、お前の助命を頼んでやっても良いぞ?」
「ほっ・・・本当か!?」
「ああ。但し本当の事を言えばだがな・・・。」
「わっ・・・解った。本当の事を話す!だから助命の件は頼むぞ!」
「解っている。お前の知っている事を話せ。」
「・・・俺に依頼してきたのはルークだ。ルーク・ヴェルバーンだ。作戦の立案は、その仲間が行ったと言っていた。俺達は穏健派の推進しているような生ぬるい生活より、刺激がある生活を求めていた。この話を貰った時に俺は、喜んで参加する事を約束した!」
「ほう・・・。それで?」
「先ずは瘴気の発生させている石を、暴走させる事が必要だった。それには力の強い者に、取り付かせる必要があったんだ。それで、魔王都内を探してみると、丁度良い具合に、竜種の者がいた。そいつを騙して祠へ誘導して、石を取り憑かせたんだ。」
俺は怒りで殴り飛ばしたくなる腕を、もう片方の腕で押さえ込んでいた。
「そして、西の樹海の動物を魔獣に変えて、魔物に追い立てさせて魔王都を襲撃させようと画策したという訳か?」
「そ・・・そうだ。その混乱に乗じて、ルーク殿が東から魔王都を攻める作戦だった元々はもっと早く実行される予定だったが、あの竜種が思いの外瘴気を押さえ込んだ者だからその間に魔王は復活してしまうし、魔王領は元の世界に戻るしで、予定は大幅に変更する事になった・・・。」
「それで、ルークとの連絡役は誰がしておったんだ?」
「それは、俺の部下のユンだ。」
「西の樹海の瘴気の件が成功すれば、ルークに連絡する予定だったのか?」
「ああ。連絡は定期的に行っていた。しかしこれが失敗したんだからルークも雲隠れするかも知れないな・・・。」
「そうか・・・。まあ、そんな事はさせんがな。」
俺はそう言って立ち上がった。
「お・・・おい!助命の件頼むぞ!?」
「ああ、解っている。助命は頼んでやる。聞き届けて貰えるかは別だがな・・・。」
「なっ・・・!騙しやがったな!?」
「いや?騙してなんぞおらんぞ?頼んでやると言ったろうが?何なら今から聞いてみようか?近衛騎士長、クシュラーデ殿、こやつを助命してやってくれんか?」
俺はそう言って、クシュラーデの方を向いたのだった。そこには苦り切った顔をした、クシュラーデの姿があった。
「いくらヨーン殿の頼みとあっても、この願いは聞き届ける訳には生きません。国家転覆罪は極刑に相当します。」
「いやあ、スマンな。ワシの頼みでも聞いて貰えんようだ・・・。」
俺はそう言って取調室から出てきたのだった。取調室からわめき声が聞こえたが、俺はそれを無視したのだった。
「ヨーン悪人・・・」
「ヨーンあくどい・・・」
「ヨーン詐欺師になれますね・・・」
「何とでも言ってくれ。これでもワシはアイツをぶん殴りたい気持ちを抑えるので、精一杯だったんだ・・・。一泡吹かせて少しは気が晴れたわい。」
「まあ、気持ちは解るけどね・・・。私も話を聞いていて、腹が立ってしょうが無かったわ・・・。」
ブリット達も皆この会話を聞いていたのだ。トトとリリの父親は正義感から騙されて、竜帝の嘆きに取り付かれてしまったのだ。その騙したヤツを許せるはずも無かった。
「ヨーン殿もこうなる事が解っていて私に振ったのですね?」
クシュラーデも呆れ顔だった。
「まあな。何処の国でも国家転覆罪は重罪だ。それにワシの願いと言っても、そこまでの権限はワシには無いだろ?」
「いえ、ヨーン殿ご一行は、この魔王領においての発言権は大きいものです。今回も本気で助命となれば、検討する必要があったでしょう・・・。」
マジか!?俺達にそんな権限なんてあるのか?俺はその言葉に驚かされた。
「ま・・・まあ、クシュラーデ殿がワシのしようとしていた事を理解してくれておった事に感謝だな・・・。」
今度から自分の発言にはもう少し注意しようと俺は思った・・・。その後、魔王のいる執務室に戻り、話を再開させる事になった。
「魔王殿、ルーク・ヴェルバーンという人物はご存じか?」
「ん?ルークというのはウィルの次男坊だったような気がするが・・・?」
「今回の首謀者はそのルーク・ヴェルバーンという人物だ。」
「何だと!?ではウィルはどうしたというのだ!?」
「それは解らん。取りあえず、東の街に行ってみない事には・・・」
「ヨーン殿には申し訳ないが、このまま引き続き調査を続けて貰っても良いか?」
皆を見回すが誰一人不満そうな者はいない。
「乗りかかった船だ。最後まで面倒見よう。そうそう、キュリーシア殿も同行して貰っても良いかの?」
「それは構わないがどうしてだ?」
「やはり王族がいれば、いざという時に大人しく従うかも知れん。従わなくても彼女はレベル100だ。大きな戦力となる。」
「解った。だが、あまり我が娘に危険な事はさせんでくれよ?」
「解っておる。」
俺はそう言うと準備を整えた。当然連絡役のユンという獣人の顔も確認する。
そしてエステルに変身の魔法でエイナルにユンの役をやって貰うように声や癖などをしっかりと覚えて貰うように頼んだ。
そして別室で待機して貰っていたメイドゴーレム達と合流して早々に、東の街へ出発したのだった。道中は2日の道程だ。1回は野営を挟む事になる。
キュリーシアも、久しぶりの旅とあってかテンションが高めだ。野営の際にはキュリーシアも初めて見る、魔法のログハウスには驚いていた。
「この魔法のログハウスは凄いですね!私が一緒に旅をした時には普通のテントだったのに、何処でこれを手に入れたんですか!?」
と、大はしゃぎだったのだ。あまりのはしゃぎっぷりに、王城で何かあったのでは無いかと心配になるほどだった。
そして、東の街には2日目の夕方には到着した。宿を取り、1階の食堂で夕食を済ませる。
この街はリザードマンの亜人が多いと聞いていたが、確かに食堂に給仕や、道を歩く人物の肌には光に反射する鱗らしきものを纏った者が多く見られた。他にも白狐族や狼牙族と言った多くの種族が混在していた。
しかし、街に元気が無いように感じられた。そこで俺は食堂の給仕に尋ねた。
「人は多いように見えるが、何か街に活気が無いように感じるが、何かあったのかの?」
「はい。実はここだけの話ですが、近く戦争が起こると噂になっていまして・・・。皆いつ始まるのか怯えているんです・・・。」
「戦争?それはまた何処と戦争が始まるんだ?」
「それが良く解らないんです・・・。とにかく街の皆は戦争が起こるから避難した方が良いって・・・。」
「そうか・・・。そんな噂が広まれば街も元気が無くなると言う事か・・・教えてくれてありがとう。」
そう言って俺は給仕の女性にチップを渡した。
「いえ・・・。」
チップを受け取った給仕の女性は、嬉しそうに奥へ下がっていった。
食堂を見れば俺達以外に人はいない。本当に閑散としたものだった。旅人も寄りつかなくなっているのだろう。
俺達は明日の段取りについて、打ち合わせを行った。
まず、白狐族の首領から教えて貰った、連絡役のユンにエイナルがエステルの魔法で変身して貰い、ルークに近付いて貰う。そこで東の湿原の瘴気の発生に成功したと伝えて貰う。
その後、どこかにいるだろう、ウィル氏と長男など、穏健派の人たちを探し出して貰う。
こう言う作業はエイナルを頼る他無い。
見付けしだい、遠話の魔法バッジで連絡をして貰い、俺達がヴェルバーンの屋敷に乗り込むという算段だ。
予想外の事が起こった場合は、臨機応変に行うというのは、このパーティの鉄則だ。
俺達はそこまでの段取りを確認して各部屋へ戻っていった。
明日は決戦だ。




