瘴気の正体と目的
浄化の方もこれで一安心だろう。それもあるが、先ほどあの竜族は気になる事を呟いた。トト、リリだって?
俺は急いで倒れた竜族の元へ駆け寄った。
「おい!大丈夫か!?アンタはトトとリリの父親か!?」
「ぐっ・・・トトとリリを・・・知っているのか・・・?」
「ああ、今ワシの所で預かっている。」
「つ・・・妻・・・は?」
「・・・昨年亡くなったそうだ・・・」
「・・・家族に・・・申し訳・・・無い事を・・・してしまった・・・」
「おぬしに何があったのだ?」
「私は・・・だまされたのだ。この洞窟の・・・竜帝の嘆きが・・・暴走していると聞いて・・・それを封印しなおして欲しいと・・・依頼を受けた・・・。」
「誰がそんな依頼を・・・。」
「白い狐の・・・獣人だった・・・。しかし・・・竜帝の嘆きは・・・暴走などしておらず・・・、逆に・・・私が来た事で・・・、竜帝の嘆きが反応し・・・私に取り付いてしまった・・・。私はこれを・・・抑える為に・・・今までこの洞窟に・・・籠もっていたのだが・・・もう限界だったようだ・・・。」
「しっかりせい!竜帝の嘆きは取り除いた!封印も、し直したからもう安全だ!」
「よか・・・た・・・。最後に1つ・・・私の刀を・・・トトに・・・数珠を・・・リリに・・・渡して・・・欲しい・・・。」
「何を言っておる!自分で渡せば良かろう!」
「もう・・・私は・・・持たない・・・子供達には・・・申し訳ないが・・・。」
見るとその竜族の足は塵となっていた。魔獣を倒した時と同じ現象だ・・・。
『ガサ・・・』
少し離れた所で物音が聞こえたような気がした。俺はすかさずエイナルを見る。エイナルはうなずき、狼に変身して音のした方へ向かって行った。
「解った。刀はトトに、数珠をリリに渡せば良いんだな?他には何かあるか?」
「見ず知らずの方に・・・お願いするのは・・・申し訳ないが・・・、トトとリリのことを・・・お願いします・・・。」
「解っておる。立派に育ててやる。安心して、あの世から夫婦で見守っておるが良い・・・。」
「ははは・・・、最後に二人に会いたかっ・・・た・・・。」
その言葉を最後に竜族の男、トトとリリの父親は、塵になって消えて行った・・・。
俺は完全に封印された竜帝の嘆きを、黙って魔法鞄に仕舞い込んだ。そして、鞘を拾い、刀がある所に向かうとそれをを拾い上げ刀を鞘に収めた。そこには数珠もあった。それらも魔法鞄に仕舞った。
その動作をしている間、他の皆も黙ってしまっている。トトは親父さんを見付けてぶん殴ってやると息巻いていた。しかしそれはもう叶わない。彼らにどう説明したら良いのだろう・・・。
ここまでのやり取りを、黙って聞いていたクシュラーデは、
「この竜族の御仁は一体・・・」
「この者は、今ワシ等の屋敷に住み込みで見習いをしておる、トトとリリの父親だ。出掛け際に見送ってくれた者の中に、小さな子供が二人おっただろ?」
「ああ!確かにおりました。」
「この父親は、5年前から行方不明になっておったそうじゃ・・・。」
「では、あの石の暴走を、5年も防いで来たというのですか!?」
「そう言う事になるな・・・。しかし、何の企みがあって今回こんな事を仕掛けたのか?今エイナルが不審な者を追っておる。連絡があるまで村で待機していよう。」
俺はそう言って、エステルにゲートの魔法をお願いした。エステルはクシュラーダの村へゲートを開く。
浄化が済んだこの洞窟にはもう用は無いだろう。浄化の作業に当たっていたダークエルフ達も引き連れて、村へと帰還したのだった。
ゲートの魔法を初体験したダークエルフ達は驚いていたが、一瞬で見慣れた村に戻ってこられたのだ。皆嬉しそうに家族の居る家へ戻っていった。
俺達はエイナルから連絡があるまで、客人用の屋敷にいったん入る事にした。
エイナルからの連絡はまだ無い。その間皆無言を貫いていた・・・。その緊張感に耐えられなくなったのか、族長のクシュラーダは果物を持ってきてくれたのだが、誰も口に付けようとしなかった。
エイナルからの連絡を待つ事1時間くらいたった頃だろうか?遠話の魔法バッジが鳴った。俺は直ぐさま受信に切り替えた。
「ヨーン聞こえるか?」
エイナルの静かな声が聞こえてくる。きっと敵の本拠地の近くに居るのだろう。俺も静かに応答した。
「ああ、聞こえているぞ・・・。」
「今的の本拠地を確認した。追っていた敵は本拠地の目の前で捕まえて中の様子は確認済みだ。ヨーン達は今どこにいる?」
「今はクシュラーダの村で待機している。」
「ちょうど良かった。その村から30分ほど南に行った所にある大きな洞窟が敵の本拠地だ。敵の数はおよそ70人ほどだそうだ。」
「そうか・・・。洞窟なら丁度良い。一人残らず締め上げてやる!」
俺がそう言うと、屋敷にいたメンバー全員が闘志むき出しに含み笑いをし始めた。
「クシュラーダ殿、その洞窟に心当たりはあるかの?」
「ええ、南にある小高い丘にある大きな洞窟で、誰も使っていないと言えば、1つしかないな。」
クシュラーダにはすぐに思い当たる場所がひらめいたようだった。
「具体的な場所を教えて欲しい。」
「それなら案内するが?」
クシュラーダはそう言ってくれたが俺はやんわり断りを入れた。
「いや、今のワシ等の怒り具合を、クシュラーダ殿には見て欲しくないな・・・。」
「そうだね・・・。私も今回の事には堪忍袋の緒がとっくに切れてるから、何をしでかすか解らないよ?」
ブリットはそう言った。しかしそれは皆同じ気持ちだった。
メイドゴーレム達も同調している。それは屋敷でティニエから一生懸命剣術を教えて貰っているトトの姿を見てきたからだ。
「そいつらは取りあえずフルボッコにして、魔王都にしょっ引いてやる!」
俺はそう言うと、皆も同じ気持ちのようだった。
「・・・解った。それならば、場所まで案内しよう。中には同行しない。それでどうだろうか?」
「了解した。ならば案内をお願いしよう。」
そう言うと、エイナルに連絡を付け、30分以内にその洞窟に向かう事を告げて連絡を切った。
早速クシュラーダの案内の元村を出発して、洞窟の近くに居たエイナルと合流した。
「あの洞窟だ。人数はさっきも言った通り70人程度だそうだ。この人数でいけるか?」
「あ?外でバラバラになっていたら難しいかも知れんが、洞窟の中なら出口をふさげば殲滅出来る。今の怒り具合から考えると、返って殺さないようにする方が面倒だ。ところで捕まえた密偵はどこに居るんだ?」
「確かに・・・。ああ、それならそこに転がしてある。」
見てみるとそこには縄で縛られ、猿ぐつわをされた状態で気を失っている、狼の獣人が居た。フルボッコにされたところを見ると、エイナルも相当お怒りのようだ。
「では、クシュラーダ殿とクシュラーデ殿は外で見張っていてくれ。もし逃げ出してくる者がいたら、捕まえてくれんか?」
まあ、逃がすつもりは毛頭無いが。
それから俺達は堂々と洞窟に入っていった。洞窟に居た者達は最初密偵が戻ってきたとばかり思っていたのだろう。正直油断しきっていた。
「バカヤロウ!連絡が遅いじゃねえ・・・か?・・・ってお前ら何者だ!?」
そう言うのは、白い毛並みの狐顔をした獣人だった。驚くのも遅すぎる。
「気付くのが遅いなあ・・・。さっきはよくも、ワシ等の可愛い弟子の親を利用してくれたな?この報いは当然受けてもらうぞ?」
俺はそう言って、拳の指をバキバキと鳴らした。そして近くに居た獣人をぶん殴った!吹っ飛んだ獣人は壁に激突し、そのまま気を失ってしまった。
中を見渡すと洞窟内はかなり広かった。その中に70人ほどの獣人や、目つきの悪い亜人たちが居る。
「お前ら!その人数で俺達をどうにか出来ると思っているのか!?」
「あ?お前らのような雑魚、この半分でもどうにか出来るわい。」
洞窟の出口は、チョコロールとエクレアに守らせ、逃げ道は塞いである。俺は首領とおぼしき、白い毛並みの狐顔の男を常に視界に納めつつ、素手で相手を殴り飛ばしていった。
ブリットやモンブランは片刃の刃のない方を使って相手を気絶させていく。エイナルもナイフを巧みに使って致命傷にならない程度に足を中心に傷を負わせていった。
敵を殲滅するのに30分と掛からなかった・・・。最後に白い毛並みの狐顔の男に近寄って行くと、
「お・・・お前ら!こんな事をしてタダで済むと思うなよ!」
虚仮威しとは思えないぐらいの自信に満ちたセリフに俺も思わず、
「ほう?では何が出て来るのかな?」
と、尋ねてみる事にした。
「今日辺り、あの竜種が暴走する頃合いと踏んでいたが、アイツもなかなかしぶとくてな・・・、まあ今回魔獣を作る事には失敗したが、俺の背後でその魔獣を追い立てる役の魔物が200体控えているんだ!」
おうおう、ベラベラ喋ってくれること・・・。
この調子で全てゲロってくれないだろうか?俺はそう思ってワザと心にも無い事を口走ってみせる。
「ナッ!ナンダッテ!!200体モノ魔物ガ背後ニイルダッテ!?」
これに気をよくしたのか首領の舌の滑りは益々良くなった。
「ハ・・・ハハハッ!今更もう遅い!お前らはここで魔獣の餌食になって始末されるんだ!国家転覆の為の生け贄になるが良い!!」
首領はそう言って、自分の背後の壁を押し込んだ。どうやらそこは魔法仕掛けの隠し扉のようだった。
大きく扉が開き奥の方から魔物が出現してきたのだった。
おっと、まさかこんな近くに魔物を200体も隠しているとは流石に予想外だった!
とは言え、洞窟内に200体もの魔物が一度に展開出来るはずも無く、隠し扉の出入り口で糞詰まりを起こしている・・・。この首領はハッキリ言ってバカとしか言いようが無い・・・。
俺達は、隠し扉の出入り口を塞ぐように布陣し、魔物が出て来る順に切り倒していく。
エステルも援護射撃とばかりに、ウインドカッターなど、爆発しない系をチョイスして魔物の数を減らしていってくれた。それでもクリティカルすると奥の方では魔物が細切れのようになっていく姿が、遠目で見えるのだからエステルの魔法の威力には恐れ入る・・・。
魔物200体とは言っても所詮は烏合の衆。俺達の敵では無かった。手加減をする必要が無かった分だけ、こちらの方が楽な戦闘だったと言えよう。
全てを片付けた後、俺は首領に近付き、一発殴り飛ばす。
「さてと、お前ら何を企んでいる?」
睨みをきかせて俺はそう尋ねるのだった・・・。




