いつもの行き当たりバッタリ・・・
ニーニャと目が合い、自信ありげなサムズアップを見た瞬間に、俺達の覚悟は決まったも同然だった。
いわゆる行き当たりバッタリ作戦だ・・・。
洞窟の岩を開けて貰い、出て来た相手を殲滅する・・・。ただそれだけの作戦だ。しかし、何も準備をしないという訳にも行かない。
「クシュラーダ殿、これからこの岩を開けて貰うが宜しいか?」
「!この瘴気の元を浄化しようとでもいうのか!?」
「その通りだ。このままでは数日も持つまい。ならば一度、瘴気の元を拝んでいく他あるまい。そして、消滅出来そうならば消滅させる。無理そうであれば最低限瘴気を減らして再度封印する。」
「それはそうだが、一度開けてしまえば、再度封印する事は不可能かもしれんぞ?」
「そうとも限らんぞ?こちらには精霊王と契約をしている精霊使いもおる。それに超級クラスの魔術師もおるからな。手はいくらでもある。」
「なんと!精霊王様と契約を結ばれている、精霊使い殿がおられるのか!?」
「ああ、あそこにな・・・。」
そう言って、エリックを紹介した。エリックは片手をあげて返事をしていたが、ダークエルフ達の目の色が変わったのを感じた・・・。
「あの者が精霊王様と契約を結ぶ者・・・」
クシュラーダのエリックを見る目も、明らかに変化している。尊敬の眼差しだろうか?
「ヘンリク。浄化の魔法は問題ないな?」
「はい。念の為と思って、魔石のキューブも持ってきています。多少の無理は出来ますよ。」
そう言って魔法鞄から魔石のキューブを取り出して見せた。するとエリックも、
「僕もこうなるんじゃ無いかと思って、持ってきています。」
同じく魔法鞄から、魔石のキューブを取り出して見せた。
皆用意の良い事だ。この調子ならエステルも持ってきているのかも知れないと思い、チラリとエステルの方を見ると、やはり魔石のキューブを持っていた。
「皆、用意の良い事だな?こうなる事を予想しとったんか?」
「常時一個は備えていますよ」
こう言ったのはヘンリクだった。それにエリックとエステルは同時に頷いて見せたのだった。
「では、多少の無茶も頑張って貰うとしようかの?」
俺はニヤリと後衛部隊に笑ってみせると、皆嫌な顔をした・・・。
そんな顔をされても浄化や封印は、魔法の専売特許である。俺達前衛はどう足掻いても対処出来ない。頑張って貰うとしよう。
そんなやり取りに族長のクシュラーダも呆然としていたのか、呆れていたのか良く解らない顔でこちらを見ていたが、
「では、封印の岩を開けても宜しいですね・・・?」
と、再度確認をしてきた。俺達は戦闘の準備を整え、
「「「「「「おうっ!」」」」」」
と答えるのみだった。
族長のクシュラーダは、ダークエルフ達に指示を出し、封印された岩を開ける魔法を唱えさせる。
すると、封印された岩はゆっくりと横に大きくずれていく。と同時に大量の瘴気が溢れ出してきた。
「ヘンリク!この瘴気を散らせてはならん!」
「解っています!大地の神よ!かの瘴気を浄化したまえ!!」
ヘンリクは浄化の魔法を唱え、あふれ出てくる瘴気を次々と浄化していくが、いくら浄化してもキリが無いくらいに瘴気があふれ出てくるようだった。
俺は、洞窟の方に目をやるが、瘴気が濃すぎて奥が良く見え無い。これでは洞窟の中へ侵入する事もままならない。
暫く、ヘンリクの浄化の魔法と、洞窟からあふれ出てくる瘴気のぶつかり合いが続いたが、徐々に洞窟の中の様子が見えるようになってきた。
中の様子を見てみると、洞窟というよりも、祠と言って良いほど、奥行きは無かった。奥の方に祭壇のような者が見える。
しかし、その手前に真っ黒な球体の塊が浮いていた。そのサイズは直径170cm位の大きさほどだろうか?
その真っ黒な球体が、徐々に大きくなっていくように見える・・・。が、違った!こちらに近付いてきているのだ。特徴の無い真っ黒な球体に、遠近感が狂わされる・・・。
ヘンリクにその黒い球体へ、浄化の魔法を唱えて貰うように合図を送ろうとしたが、それよりも早くヘンリクは浄化の魔法を黒い球体へ放っていた。
『ジュワッッッッ!!!』
何かが溶けるような音が聞こえる。そして黒い球体は徐々に浄化されていく。
そこで露わになったのは、一人の竜族とおぼしき人物だった。なぜ自信が持てないかというと、全体がまだ黒いからだ、ただ、そこにはハッキリと額に竜の角が見える。
まさか昨夜ティニエと話をしていた、竜帝の何かなのだろうか?俺はティニエの方を向くと、
「おそらく彼は竜族ですが、竜帝に意思を乗っ取られているように感じます・・・。」
そう言って、武器を構えていた俺達も武器を構え直す。すると瘴気を纏った竜族も腰に携えていた剣を抜き放ち、一気に間合いを詰めてきた。
俺は先頭に立ち、盾で瘴気を纏った竜族の攻撃に備えた。そして放たれる一撃。目で追うのが精一杯の早さだった。ティニエの攻撃よりも早い!
俺は盾で受け止めるのが精一杯だった。それにとても重い一撃だ。受け流す事が出来なかった。
少しずつ後退し、洞窟の外まで出てきた所で、ブリットやモンブラン、エクレアやチョコロールも戦闘に加わる。
しかし、その全ての攻撃を瘴気を纏った竜族は、いなし、受け止めて、はじき返していく・・・。とても尋常とは思えない身体能力だ。
どうにか体勢を崩して隙を作らなければ・・・。
そう思い、こちらに攻撃を集中させるように仕掛けていく。何度も攻撃を受け続けていく内に、俺の左腕は痺れてくる。この盾も特注で無ければとっくに破壊されていた事だろう。
『ギャリンッッ!!』
何度目かの攻撃を受けた時、遂に受け流し体勢を崩す事に成功した。
前衛組はその隙を逃さず攻撃を仕掛ける。しかし、その攻撃は竜族の纏った瘴気により阻まれてしまった。
『ギャリ ギャリ ギャリッッ!!』
「なにこれっ!瘴気が邪魔して刃が通らない!」
ブリットもたまらず悲鳴を上げた。
「エステル!封印は出来んか!?」
俺は頼みの綱の封印が出来ないか、エステルに怒鳴り飛ばす。
「そのサイズじゃ無理!それにこのままだと効果を拡大したら、みんなを巻き込んじゃう!」
何てことだ!武器は通じないし、魔法も使えないときた!神頼みは失敗か!?俺はそんな事を瞬間的に考えたのだった・・・。とその時、
「元となった竜帝の石があるはずです!それを取り除く事が出来れば、何とか出来るかも知れません!」
ティニエがそう叫んだ。
俺達は瘴気を纏った竜族と攻防を繰り返しながら、その石を探した。何十手と攻防を繰り返していく中で、ヘンリクの浄化の魔法も降り注ぐ。
その浄化の魔法を受け、瘴気が薄まった瞬間、その石を発見出来た。その石は竜族の胸に張り付いていた。
そして薄まった瘴気は、またその胸に付いた石を中心に広がり、竜族を覆い尽くしてしまう。
俺は石を取り除く為の段取りを、攻防を繰り返す中で考え抜く。
「ヘンリク!竜族が攻撃をしてくる瞬間を狙って、浄化の魔法を掛けろ!ブリットとモンブランは俺が竜族の攻撃を受け止めた時の隙を突いて、両腕を切り飛ばすんだ!」
「だけど瘴気が邪魔してまた通じないかも!」
「いや、ヘンリクの浄化の魔法を信じろ!」
「わかった!やってやるわよ!絶対成功させる!!」
全ての段取りを済ませた直後、大ぶりの剣撃が振り下ろされた。
「ヘンリク!」
「はい!!」
俺がその攻撃を受け止める瞬間に、ヘンリクの浄化の魔法が降り注いだ。予想通り受け止めた時の衝撃は、先ほどの半分にも満たないものだった。
「ブリット!モンブラン!」
「「はあっっ!!!」」
『ザシュッ!!』
ブリットとモンブランの攻撃は、瘴気を通り抜け、竜族の両腕を切り飛ばし、俺の盾に当たった剣ごと、後方へ飛んでいった。
俺は両腕を失った竜族へ接近し、素手で竜帝の石をつかみ取る。完全に癒着していたが、無理矢理引きはがす事にした。
竜帝の石はなおも抵抗するかのように瘴気をまき散らし、竜族の失った腕の代わりとなる、瘴気の腕を作り出そうとしていた。
瘴気の腕が出来てしまったら、また一から仕掛け直さなければならない。場合によってはミッション失敗だ。
そんな事になれば、魔王領にも迷惑が掛かってしまう。俺は自分の持てる全力で、竜族から竜帝の石を引きはがした!
『ブチ・・・ブチブチ・・ブチンッッ!』
俺は竜族から引きはがした竜帝の石を、誰も居ない場所へ放り、エステルに指示を出す。
「エステル!封印魔法を!!」
「了解!!」
エステルは直ぐさま封印魔法を唱えた。すると、石の周りに不可視のキューブが現れ、竜帝の石を封印する。
『ガキンッッ!!』
おっと、久しぶりにエステルのクリティカルの音を聞いたような気がする・・・。
竜族の方に目をやると、そこには直立不動になっている姿に目がとまる。
「・・・・・ティナ・・・トト・・・リリ・・・済まない・・・」
そう言って竜族の男は仰向けに倒れたのだった。そして、体内に蓄積されていたのであろう大量の瘴気が、上空に向かって一斉に吹き出したのだった。
それはもの凄い量の瘴気だった。この瘴気が西の樹海に広がれば大変な事になる!俺はヘンリクとエリックを見た。
「私が浄化の魔法を使います。エリックは風の精霊王にお願いしてあの瘴気が拡散しないようにまとめて下さい。」
「解りました!」
エリックはそう返事をすると、直ぐさま風の精霊王を呼び出し、瘴気の拡散を防ぐよう竜巻を呼び起こした。その竜巻の中に瘴気を閉じ込めている。
ヘンリクは浄化の魔法をその竜巻に混ぜるように注いでいった。そうするとみるみるうちに混沌とした真っ黒な竜巻が、正常な風に変化していったのだった。
こうして、二人は竜族から漏れ出した瘴気の浄化に集中していった。
精霊王を呼び出したエリックはダークエルフ達が驚きと共に賞賛を浴びていた。それもそうだろう。精霊王と契約出来る者は、ほんの一握りの限られた者のみなのだから。
族長のクシュラーダはその光景に、うっとりとした眼差しで頬を染めていた・・・。
浄化の方もこれで一安心だろう。それもあるが、先ほどあの竜族は気になる事を呟いた。トト、リリだって!?
それは俺達の知る二人の事を指しているのだろうか・・・?




