ダークエルフの村にて
クシュラーデから紹介して貰った族長、クシュラーダは俺達に向かって挨拶をしてきた。
「この村の族長を務めるクシュラーダだ。この度は遠路遙々、西の樹海まで来て頂き感謝する。」
「俺はこのパーティーでリーダーをしているヨーンだ。見ての通りのドワーフだが、よろしく頼む。」
俺はそう言って挨拶をした。
「ドワーフを見るのは2千年以上前だったが、今のドワーフは髭を生やさないのか?」
「いや、髭を生やさないのが、ワシのトレードマークだ。他のドワーフ達は昔から変わっておらん。クシュラーデにも同じ事を言われたわい。」
「それは失礼をした・・・。しかし、こうしてドワーフやエルフに人族と出会うと言う事は、本当に世界が元の在りように戻ったと言うことの真実みを感じるな・・・。」
クシュラーダは感慨深げに両腕を組み合わせ頷いていた。
「逆にワシ等は、魔王領が別次元に飛ばされておったことに驚いたわい。こうして世界が元の姿に戻ったことを喜ぶとしようでは無いか。」
そう言って俺はクシュラーダに握手を求めた。クシュラーダもそれに応じてくれたのだった。
「外で話すにしてはもう日も暮れ始めている。客人用の屋敷に案内しよう。少々手狭だが勘弁して欲しい。」
クシュラーダはそう言って、屋敷に案内してくれた。
それに馬車を引き連れて同行したのだったのだが、よく見ると、他の建物はほとんど地上には見当たらなかった。
精々炊事洗濯の場が在るくらいだ。今は炊事場で何か料理をしているようだった。印象としてはチョット大きめのキャンプ場と言ったところだろうか?
そんな事を思いながら何気なく上を見てみると、立派な樹木の上に家らしき建物が在る。いわゆるツリーハウスと言うものだ。
しかし、その家の建っている木も不自然に枝が広がっていて、いかにもここに家を建てて下さいと、言わんばかりの広がり方をしているのだ。
木の精霊に働きかけて、そうしているのだろうか?
そして、今居る場所は広場のようになっていて、その周りを取り囲むように樹木が生い茂っている。
と言っても、ここは樹海の中だ。村を外れれば樹木しか無いのだろうが・・・。こう言う光景を見ると改めて異世界なんだと実感する。
屋敷に案内された俺達は、改めて今回の状況を聞くことになった。
「既に話はクシュラーデから聞いていると思うが、ここから北西に徒歩で2時間ほど進んだ先に在る洞窟に今までに無い程の瘴気が噴出するようになった。」
「そこは元々何かあった場所なのか?」
俺は王城で聞いた時から気になっていたことを確認した。
「そこには祭壇がまつられていた。元々瘴気を発する石があり、浄化しようとしても全く効果が無かったという。」
「言い伝えのように聞こえるが、その石というのは、いつからこの樹海にあったのだ?」
「少なくとも私が生まれるよりも前よりあった。しかし、定期的に浄化をしていれば何の問題も無かったと聞く。私たちの代でもそれは行われていた。それが突然浄化のまじないを受け付けなくなり、瘴気が溢れ出すようになったのだ。」
クシュラーダが生まれる前と言う事は、少なくとも2千年以上前と言う事になる。流石に女性に年齢の事を聞くのは憚られたので、おおよその見当を付けることにした。
後は実際に現場を見てみなければ解らないだろう。
「了解した。明日実際に現場を案内して欲しい。」
「現場の洞窟には私が案内しよう。」
クシュラーダはそう言った。
「族長自ら危険な場所へ赴いて、村の皆は心配せんのか?」
俺はてっきり案内の村人を紹介されると思っていたので、村に何かあった場合のことを考え少し心配になった。
「なに、心配には及ばん。それにあの瘴気に耐えられるものは、今の村人にはほとんど居ない。耐えられるものは皆、洞窟の方へ行ってしまっているからな。」
なるほど、族長自ら行くと言う事は、それ以外に人員が既に居ないほど、切羽詰まっていると言う事か・・・。
「解った。では案内を頼むとしよう。」
「ではちょうど頃合いだ。料理を用意している。今日はゆっくりしていってくれ。」
クシュラーダがそう言うと、室内に数々の料理が置かれていった。そこには肉料理も沢山在る。他にも山で取れたであろう山菜や、木の実、果実などが皿に盛られていた。
その料理を見たブリットが馬車へと駆けていった。きっと果実酒を取りに行ったのだろう・・・。
それよりも気になったことがあった。ティニエがずっと、難しい顔をしているのだ。
「ティニエ殿、何か気になる事でも?」
「あ・・・いえ、まだハッキリとしたことでは無いのですが、族長殿が仰っていた瘴気を放つ石という物が気になりまして・・・」
いつものティニエらしくない歯切れの悪さだ。
言葉の続きを促そうとしたのだったが、間の悪いことに食事が始まってしまった。
ブリットは早速、果実酒を皆にも注ぎ、ティニエも果実酒を飲み始めてしまった。
族長のクシュラーダにもブリットは果実酒を勧めていく。その果実酒を飲んだクシュラーダは初めて飲む酒に感心しきりだった。
「魔王都には、このような酒があるのだな?」
「これは南にある国、ルステーゼ王国のお酒よ。」
「ほう・・・。これは味わい深い・・・。ならば私も、秘蔵の酒を出さなければな。」
クシュラーダはそう言うと、5リットルほど入る樽を給仕のダークエルフに持ってこさせた。
「これはこの村で作っている酒だ。少し強いかも知れんが、なかなかいけるぞ?」
そう言うと、クシュラーデが慌てたように、それを止めようとした。
「姉上!それは村秘伝の酒ではありませんか!?神事の時以外に使うなど!」
「堅いことを言うな。明日はその神事にも近いことを、しなければならないかもしれんのだ。そう言う意味では、今飲まずして何時飲むというのだ?」
そう言うと、皆の空いたコップに注ぎだした。クシュラーデが止めようとするほどの酒だ。興味が湧かない訳が無い。
木のコップの為酒の色は解らない。香りは甘くて良い香りがする。果実酒の一種だろうか?魔王領では、日本酒のような醸造酒が多い中で果実酒は珍しい。
一口煽ると鼻を抜ける甘い香りが、ほのかに漂った。果実のようだが違うような気がする。
何よりアルコール度数がかなり高い様に感じる。何が元になっているのだろうか?俺は興味を引き、クシュラーダに聞いてみた。
「これは何とも・・・、今まで味わったことの無い素晴らしい酒だが、元は何で出来ているのだ?」
「申し訳ない。秘伝の酒故、何かとは言えないが、この森で採れる木の実で出来ている。と言う事だけ教えておこう。」
「いや、こんな貴重な酒を飲ませて貰い感謝する。」
「いやいや、この果実酒という酒も、また飲みたいと思わせる良い酒だった。」
そして周りを見てみると、他の皆も貴重な酒、という部分に影響されたのか、少しずつ味わって飲んでいた。アルコール度数も高そうだし丁度良いだろう。
夕食も和やかに終わり、明日の確認を済ませた俺達は、各自の装備の点検を行っていた。そこにティニエがやって来た。
「先ほどは話の途中になってしまい申し訳ありませんでした。あまり人の多い所では話辛い事だったもので・・・。」
「いや、ワシも無遠慮だったかも知れん。スマン。」
「いえそんな事は・・・。先ほどの話なのですが、瘴気を発する石というのはひょっとしたら、竜帝様にまつわる物では無いかと思っているのです。」
「竜帝というと、前にティニエ殿の弟殿が使った竜帝の涙の竜帝と言う事か?」
「はい。竜帝様は世界各地に色々伝説がございます。今は失伝してしまっているほど古い時代を生きた方ですので、今回の事も何かしら竜帝様が絡んでいるのでは無いかと思ったのです。」
「だが、もし竜帝の何かが絡んでいたとしても、ここ最近急に瘴気が濃くなる理由にはならないと思うが・・・?」
「そこなのです。私も確信が持てないのは・・・。何が原因でこのような事が起こっているのか、この目で確かめた方が対処もしやすいと考えたのです。」
なるほど、確かにもしそれが竜帝がらみの品であったとすれば、元竜王としても放っておく訳には行かないだろう。破壊するなり、封印しなければ、何かに悪用されてしまう恐れもある。
「はあ・・・竜帝がらみの品でない事を祈るばかりだな・・・。」
「そうですね・・・。」
俺はそう言って話を切り上げると、まだ終えていない装備の手入れを念入りにするのだった。
翌朝、族長のクシュラーダに案内されて瘴気の吹き出す洞窟へ向かった。
元々儀式も行っている場所だったので、道はしっかりしていた。そこを約2時間ほど移動すると、例の洞窟にたどり着く事が出来た。
今は封印の為に洞窟の入り口には岩が覆い被さり、その前には10人ものダークエルフが交代で何かの術を発動させていた。まるで天野岩戸のようだ。しかし中にあるものが違いすぎる。
見た目にも解る瘴気が、その術によって霧散していくのが解るが、岩の隙間から次々と抑えきれない瘴気があふれ出てくる。
これを見た俺も流石に厄介なものだと思わざるを得ない・・・。俺は族長のクシュラーダに確認する。
「こんな状態が一体何時から続いていたんだ?」
「ここまで酷くなったのは、ここひと月ぐらいだが、瘴気そのものが増し始めたのは4年ほど前からだ。」
と言う事は4年掛けて徐々に酷くなっていったと言う事か?俺はティニエを見た。
「ティニエ殿は何か感じるか?」
「いえ、瘴気が酷くて中の気配が全くわかりません・・・。」
続いてエステルやエリック、ヘンリクを見て、
「どうにか出来そうか?」
と、尋ねる事しか出来なかった。するとヘンリクは、
「もうこうなっては、浄化の魔法を使うにしろ何にしろ、元を絶つしか方法は無いかと思います・・・。」
「封印の魔法はあるけど、対象を視認しないと魔法が掛けられないよ・・・。」
と、ヘンリクもエステルも、もっともな意見を述べたのだった。
「しかし、その元を絶つ事が出来る確証が無ければ、岩を開けて貰う事も出来まい・・・。」
俺が諦めのため息をつこうとしたその時、ふと新米女神様のニーニャと目が合った・・・。するとニーニャは、自信ありげにサムズアップして見せた。
はあ・・・、ここは俺達の運に任せるとしようか・・・。
思わずため込んだ為息を吐き出し、最後は結局、神頼みとなったのだった。




