久しぶりの野営そして・・・
ちょうど西の平原に入った当たりで日が傾き始めた為、この日はそこで野営をすることになった。
今日は人数も多いからと、狩りには久しぶりにエイナルとブリットがガトーショコラとモンブランを連れて出て行った。
ティニエとクシュラーデも手伝うと言っていたが、ここはゆっくりして貰うことにした。
それにしても、ブリットが張り切っていたのがとても印象的だった。豹人族の血が騒ぐのだろうか?
流石に平原ともなると薪を集めるのにも苦労しそうだったが、予備の薪はしっかりストックされている。見付けられなくても問題は無い。
俺は、いつものように、魔法鞄から魔法のログハウスを引っ張り出し、馬車の横で固定する。
馬車の横に大型のテントを張った俺に、ティニエとクシュラーデは?マークを頭に付けていた。
「まあ、中に入ってみれば解る。」
俺はそう言って、中に入るように促した。エステルとニーニャが二人の手を引いて中へ案内した。
中に入った二人は、それは大層驚いていた。それもそうだろう。中に入った途端、そこは普通のログハウスだったのだから・・・。
二人はテントを何度も出たり入ったりして確かめている。その光景が何となく面白かった。
暫くすると、エリックとヘンリクが薪になる物を持って戻って来た。平原と言っても結構あるものだなと、関心してしまう量だった。
エイナルとブリットも大量の獲物を持って戻って来た。
「いや~、大量、大量♪食べきれなかったら、ストックすれば良いか?」
ブリットは久しぶりの狩りに張り切りすぎたのか、モンブランと二人で鹿3頭を持って帰ってきてしまった。これにエイナルがウサギや野鳥を人数分狩ってきてしまったのには驚いた。
「スマン・・・獲物が豊富でつい我を忘れて、狩ってきてしまった・・・。」
エイナルらしくも無いとも思ったが、狩ってきてしまったものは仕方が無い。美味しく頂くことにしようじゃ無いか。
早速調理に取りかかったのだが、ここでティニエが加わってきた。
「今回無理を言って参加させて貰ったので、料理ぐらいは手伝わせて下さい!」
そう言うと、ブリットとエステルに混ざって、料理を開始したのだった。
流石に鹿3頭は一晩では食べきれないので、2頭は解体した後、馬車の収納ボックスへ仕舞うことにした。
1頭は解体した肉に、香草を合わせて鹿肉のステーキにしていったようだ。ウサギは煮込み料理として、鳥はローストにしたものが振る舞われた。
野菜などの付け合わせや香料などは、魔王都の市場や王都ルステーゼで仕入れたものを使っている。
ブリットやエステルは頻繁に王都ルステーゼに出掛けるのだ。
その時に、魔王都では扱っていない食材を買ってきては、馬車の収納ボックスに仕舞い込んでいる。その中には、お酒も含まれていた。
久しぶりの野営に皆が張り切ってしまったのか、少しやり過ぎてしまった感は否めなかったが、賑やかな夕食となったのだった。
「しかし、ここが西の平原とは言え、ここまで狩りで食糧を確保するとは・・・」
と、クシュラーデは驚いていた。
まあ、普通ならここまで豊富な食材を手に入れるのは困難だろう。これは新米女神ニーニャ様のお陰なのだ。だがそれは言える話では無い。
「今日は運が良かったのだろう。それにブリットにエイナルも狩りには慣れている。こう言った野営で食糧に困らないことは良い事だ。」
俺はそう言って誤魔化すことにした。
「しかし、初めて見る食材もありましたね。アレは何処から仕入れた物なんですか?」
「ああ!あれは、王都ルステーゼの市場で仕入れた食材だよ。魔王都には無い食材や香草もあるからね。」
ブリットはそう言って、プチトマトのような物を口に放り込んだ。これも、魔王領には無い食材だ。
「魔王領とルステーゼ王国で交易が出来れば面白くなるのにのう・・・。」
俺は思わずそう呟いてしまっていた。しかし、そこには大きな壁が・・・いや、山脈がある。標高3,000m級の山脈だ。これを超えての交易は困難を極めるだろう。何か良い方法が無い者かと思ってしまう。
「確かに、このような魔王領には無い食材が手に入れば、民の食もまた豊かになるでしょう。」
う~ん・・・クシュラーデは真面目だ。俺が言いたいのは、交易による文化交流と経済発展だ。
「クシュラーデ殿の言う事もそうだが、逆に魔王領にはあって、ルステーゼ王国には無い食材という物もある。お互いに無い物は欲しいと考えるものだ。だが、魔王領は四方を山脈か海に囲まれておる。交易を行うにしてもなかなかに課題が多い・・・。」
「何、難しい話をしてるのよ?本当に必要になったら、誰かが知恵を絞って何とかするわよ。」
ブリットはそう言って、果実酒をクイッと煽った。クシュラーデやティニエも進められて果実酒を口にする。
「ほう・・・これもルステーゼ王国の飲み物か?」
ティニエはそう言うと一気に果実酒を飲み干した。
「そう。魔王領には無いお酒でしょ?」
「確かに・・・これはこれで興味深い酒です・・・。」
ティニエは感心しきりだった。クシュラーデも、
「魔王領の酒に慣れているとこの味は新鮮ですね。」
と、絶賛していた。果実酒は特に女性陣には好評に思えた。
「さて、酒も程ほどにな。明日のダークエルフの村に直行すれば夕方には到着するはずだ。」
俺はそう言って、夕食をしめた。部屋割りは、メイドゴーレム達、女性用、男性用で分かれることになった。
翌朝、夕食の残りの肉をパンに挟み朝食にして、出発の準備を進めていく。
全員が支度を済ませテントから出たことを確認すると、魔法のログハウスを畳み、魔法鞄へ収納した。
今日は午前の御者番はエリックだ。御者台にはエリックとアプリコットが乗り込み、それ以外の者は車内に乗り込み出発した。
西の草原横断ルートだ。流石に馬車道も無いところを走るのは初めてのことだったが、足回りの改造が効果を発揮してくれている。
それでも所々大きく揺れるのは致し方の無いところだろう。これ以上改善しようとするのなら、車体を宙に浮かせるしか方法が無いのではないかと思う。
その為、いつもよりスピードはゆっくりとなってしまう。西の草原を半日掛けて走り抜けると、西の樹海の入り口付近で御者番も交代した。
ここからはダークエルフの村まで、樹海を抜けて向かって行く。
樹海は鬱蒼と生い茂る樹木があり、とても馬車が通れそうに無かったのだが、クシュラーデが教えてくれた秘密のルートを使い、村まで安全に馬車を通すことが出来たのだった。
この秘密のルートは、行商人の馬車を通す為のルートとして確保されているものだと言う事だ。
確かに、森の恵みだけで生活するにも限度がある。行商人が徒歩で商品を運ぶはずも無い。知らない者は馬車では近づけず、知っている者だけが通ることが出来る秘密の道とは実に理に適った話だ。
俺達もクシュラーデが居なかったら、馬車でダークエルフの村まで行く事は出来なかっただろう。
もう少しでダークエルフの村にたどり着こうかと言う時、俺は外から微かな戦闘の音を感じ取った。
それは御者をしていたエイナルの方にも解ったようだ。ブリットも耳を震わせている。
「ねえ!これって・・・。」
ブリットが警戒の声を強めた。
「ああ、どこかで戦闘が行われているな」
俺もそれに同意する。
「この先だ!馬車をこのまま進める!いつでも戦闘が出来るように用意しておいてくれ!」
エイナルが俺達に注意喚起してきた。
言われるまでも無く俺達は武器を用意して、いつでも飛び出せるようにしていると、
「この先だ!ダークエルフと魔獣らしき動物が戦闘をしている!魔獣は熊型5頭ダークエルフは人数は解らないが、弓で応戦しているようだ!」
「解った!危険の無いところで馬車を止めてくれ!」
俺はそう言うと同時に馬車が停車した。このときには既に戦闘の音は間近まで迫っていた。
俺達は馬車から飛び出し、進行方向へ顔を向ける。そこには全長2mを超える巨大な熊が、ダークエルフが居るらしき木に向かって、体当たりをしているところだった。
その衝撃で巨木が大きく揺さぶられている。とても普通の熊に出来るような攻撃では無い。明らかに異常だ。
俺達は魔獣に応戦すべく、陣形を組み突撃を敢行する。
先制はエステルのサンダーアローだ。流石に森の中でファイヤーアローは放てない。
エリックもそれに続いて風の上位精霊による真空刃を発生させていた。
前衛組はその間に魔獣に組み付いた。俺は魔獣の攻撃を受け流し隙を作り、バトルアックスを脇腹に叩き付ける。
魔獣はその攻撃を気にした様子も無く反撃をしてきた。痛みを感じていないのだろうか?
俺はそれでも慌てること無く盾を使い魔獣の攻撃をはたき落とし四つん這いにさせると、そのまま首をたたき落としたのだった。
こちらの攻撃が終わり、加勢出来るところは無いかと、周りを見渡すと皆もちょうど戦闘が終わったようだった。
足下の魔獣を見下ろすと、塵になって消えて行くところだった。そしてそこには俺達が見慣れた鉱石が残ったのだった・・・。
「これは、魔鉱石?」
俺はその鉱石を拾い上げ確認をする。どう見ても魔鉱石だ。チョコロールにも見て貰ったが、やはり魔鉱石で間違いなかった。
「どうして魔獣から魔鉱石が出て来るんだ?」
俺が疑問に思っていると、ダークエルフ達が木から下りてきた。
「加勢して下さり感謝する。ひょっとして、魔王都から来られる予定の冒険者の方達か?」
「ん?ああ。クシュラーデ殿に案内されてここまで来たのだが、戦闘音が聞こえて加勢させて貰った。」
「いや、あの魔獣を苦も無く倒されるとは!我々は皆さんを出迎える為にここまで来たのですが、運悪く魔獣と遭遇してしまって・・・。先ずは村までご案内します。」
そう言って、ダークエルフ達は村まで案内してくれたのだった。
村に到着すると、族長が既に待っていてくれた。馬車から降りると、クシュラーデが族長に挨拶をしている。そしてハグをしていた。
「紹介します。こちらが族長のクシュラーダ。私の姉です。」
そう言って俺達に振り向いたクシュラーデは、族長を紹介したのだった。




