魔王領の屋敷に家族が増えました
「えいっ!、やあっ!」
カンッ!カカンッ!!
「まだまだですね・・・ほら、また木刀を振り回している・・・」
俺は縁側でお茶をすすりながら庭先で行われている、いつもの見慣れた光景を眺めていた。そこには、元竜王ティニエと、竜種の子供トトの剣の稽古が行われていた。
実は今、期間限定ではあるが、トトとリリは俺達の屋敷に住み込みで、見習いをやっている。もうひと月ぐらい経つだろうか。これには色々と理由がある・・・。
桜の木の芽が大きくなってきているので、間もなく春になろうかという季節になった。まだ朝晩は冷え込むが、日中は暖かい。元竜王ティニエがこの屋敷に来てからも早ひと月が経とうとしていた。
ティニエがこの屋敷に来たある日、いつものように、トトがリリを連れてやって来た。
「おっちゃん!剣を教えてくれよ!」
玄関では無く直接縁側に乗り込んできているトトとリリの行動に、いつもの事と、俺も大分なれてしまったのか、条件反射で立ち上がると、側に居たティニエが反応したのだった。
「都に竜種の子供が居るとは珍しい・・・。」
そうティニエが言うと、俺よりも先にトトとリリの前に立ったのだった。ティニエの額に生える立派な竜の角を見たトトとリリは驚きながらも、トトはリリを庇いながら、
「おばちゃん誰だよ!俺はヨーンのおっちゃんに用があるんだ!」
と、言って俺の方に目をやる。しかしその目は、助けを求めるような目であったのは間違いない。
『ガシッッ!!』
「ほう・・・おばちゃんとは私の事か?まだおばちゃんと言われる歳では無いのだがのう・・・。」
ティニエはトトの額にアイアンクローを食らわし、そのままティニエの視線の高さまで持ち上げて、そう言った。
「お兄ちゃんっ!」
突然の出来事にリリは半泣きになりながらも、トトを助けようとその両足にしがみついていた。そして一緒に宙に浮かんでしまっている。
それってトトにとってはトドメでは無いだろうかと思いつつも、言ってしまった言葉の重みを知る良い機会だと、生暖かい目で見守った。ティニエも本気ではあるまい・・・。と思う・・・。
「っっっ!!痛い!痛いってっ!頭割れる!!・・・お姉さん!お姉さんでした!!」
「ふむ、よろしい・・・。」
ティニエはトトの額から手を離し、ドサリと地面に落ちたトトとリリにそう言うと、おもむろにトトに尋ねるのだった。
「お前達は都で生まれ育ったのか?」
ティニエは、トトとリリにそう尋ねた。トトはこめかみをさすりながら、
「うん。俺達はこの都しか知らない・・・」
「父親と母親は両方竜種なのか?」
「・・・父親が竜種で母親は亜人です・・・。」
この話は俺も聞いてみたかった事だったが、プライベートな事だったので、今まで踏み込む事はしてこなかった。
「そうか・・・で、ヨーン殿に剣を教えてくれとはどういう事だ?」
「俺は強くなりたいんだ!」
「強くなってどうしたいのだ?今流行の冒険者にでもなりたいのか?それとも竜種最強にでもなりたいのか?」
ティニエは冷ややかな目でトトを見つめた。
「違う!俺は妹を守る事と、母ちゃんを捨てた父ちゃんを見付けて、ぶん殴りたいんだ!」
「ほう・・・それはどう言う意味なのだ?」
「父ちゃんは5年前に突然居なくなったんだ・・・母ちゃんは何か大事な用があるんだろうから、その用事が済めば戻ってくると言ってた・・・。だけど今も戻ってこない!母ちゃんはもうすぐ戻るって言って信じて去年死んじまった・・・俺はそんな父ちゃんが許せねえんだ!」
そんな理由があったとは知らなかった・・・。俺も聞こうとしなかったのが、いけなかったのだろうが、こんな重い話だとは思わなかった。
しかしそれでは、今の二人の暮らしはどうしているというのだろうか?俺はそれが気になり、確認しようとしたところ、ブリットが口を挟んだのだった。
「ねえ、じゃあ二人は今はどうして生活してるの!?」
「・・・今は色んなところを転々としてる・・・」
「親戚とかは居ないの?」
「しんせき?俺達は血の繋がった人は知らないんだ・・・。」
と言う事は、夜は軒下で過ごしていると言う事か?だから妹をあんなに大事にしていたと言う事なのか?
「ティニエ殿、スマンが二人の相手をしていて貰えんかの?」
「?ええ・・・構いませんけど・・・」
ティニエは即答してくれた。と同時に俺は皆に呼びかけた。そして、コタツを囲って全員で内緒話を始める。
「緊急案件だ!あの子供達は家なき子だ!今まで通り来た時だけ相手にするのか、それとも他の方法を模索するかだ。」
「この国には教会が無いからたしか、孤児院等も在りませんよ?」
ヘンリクはそう言った関係は、詳しく調べているようだった、布教活動が出来ないか早い段階から熱心に動いていたのだ。
「しかし、こう言った子供は、他にも居るんじゃ無いのか?この子達だけ特別扱いというのは・・・」
エイナルは言い淀むも、この先に第2第3の事案が出てしまわないか、疑問を投げかける。
「だけど、知らなかったとは言え、もう顔なじみですし・・・」
エリックも、このまま放置は流石に放ってはおけないようだ。
「そうよ!部屋は空いているんだし、この家で預かる事は出来ないの?」
ブリットは受け入れ体勢万端のようだ。
「私もそれで良いと思うけど?」
エステルも同意のようだ。
多数決で考えれば、受け入れ派3、保留3と言ったところか・・・。反対は誰も居ない。
どうする事が一番良い方法なのかを考える。暫く皆でウンウン悩んでいると、俺の頭に突如閃いた!
「1つの案だが、もし受け入れるとしても、タダ飯を食わせるわけには行かない。この屋敷で預かるのであれば、住み込みで働いて貰うというのはどうだろうか?」
トトもリリもまだ幼い。見習いで良いのだ。
「それナイスアイデア!二人には見習いで働いて貰うって事ね!」
ブリットは指を鳴らして、俺のアイデアに賛同してくれた。
「ああ、で、トトは時間のある時に、剣の稽古を付けてやれば良い。リリには、裁縫や掃除洗濯を覚えて貰えば、大きくなった時にも役に立つだろう。」
俺の意見に皆も色々イメージしている。反応は悪くない。暫く様子を見た後、俺は皆に反対が無いか確認を取る。
「これはあくまでも、トトとリリへの提案だ。本人達が断ればこの話は無かった事にする。それは承知してくれ。では、それも含めて反対の者はおるか?」
「「「「「異議無し!」」」」」
コタツ会議は以上で終了した。
そして俺は皆を代表してトトとリリの方へ向かって行って話しかけた。
「のう・・・。トト、リリ、お前さん達、今住むところは在るのかの?」
「・・・いや、無い。」
「それでリリを守る為に強くなりたいって、最初は言っていたのだな?」
「父ちゃんをぶん殴りたいのも在るけど、それは今でも変わらない!」
「そうか・・・でだな、今皆とも相談したのだが、トトとリリが良ければじゃが、ここに住み込みで働かんか?もちろん、お前さん達の父親が見つかるまでの間だがな。」
「え?どういう事だ?」
「ようは、お前さん達はここに住んで、この屋敷の仕事をする。当然見習い修行からと言う事になるがの。」
トトは自分が何を言われたのか、頭はパニックになっているようだった。理解が追いついていないように見える。
「ここには沢山の人が働いておる。その人達から色々な事を教わると言う事じゃ。そんで、時間が出来た時には剣の修行もしてやる。リリも、裁縫や掃除、洗濯、行儀見習いも学べるし、一石二鳥では無いか?」
「俺達がここに住んでも良いって言うのか?・・・やる!やらせて下さい!俺達頑張るから!」
母親を亡くしてから1年もの間、二人だけで、どうにか食いつないできたのだろう・・・。
その緊張の糸が切れてしまったのかトトの目には涙が浮かび、泣くまいとしているのか、唇が僅かに震えていたが、俺は見なかった事にした。
リリはその兄の背中に顔を埋めて泣いていた。余程辛かったのだろう・・・。もっと早くに気付いてあげる事が出来ていたらと、悔やまれた・・・。
「よし!早速今日から頑張って貰うとするかの!先ずは風呂に入ってこい。何をしてもらうかは、その後にしよう。」
俺はそう言って、二人に風呂に入るように促した。
二人が風呂に入っている間に、女中頭を呼び、事の経緯を説明した。
あくまでも二人は見習いとして、将来的には自立出来るようにして欲しいと、お願いもしておいた。女中頭は笑顔でその願いに応じてくれたのだった。
二人が風呂から上がると、新しい服が用意されていた。しかし二人ともダブダブだ・・・。
子供用は元々無かったので、取りあえずのつなぎとして着て貰っている。
子供用の服は今、女中さんが用意してくれている。その間に、子供達は女中頭からこれから何をするのかを色々と聞いているようだった。その姿勢は真剣そのものだ。
今まで着ていた服は、大分すり切れて汚れていたので、処分しようとしたのだが、これは母親が作ってくれた服だったというので、綺麗に洗濯して保管する事にした。
俺も何だかんだと情にホダされやすいようだ・・・。
これで今日から屋敷に住む家族が、2人増える事になった。
それからは二人は見習いとして、この屋敷に住み込みで働く事になった。時間がある時には、(ワザと空くように仕向けているのだが・・・)トトの剣術の相手をする。
最近は俺では無く、元竜王のティニエが相手にする事の方が多くなっていた。
何でも、俺の剣術はバトルアックスの癖が見え隠れしていて、トトに悪い癖が付いてしまうといけないと言う事らしかった・・・。
自称、嫁というだけあって、俺の事を、良く見ていらっしゃる・・・。




