東の湿原の調査の終了そして・・・
俺達が治療院に到着すると、ヘンリクが、サディナの治療を行っていた。
「ヘンリク、サディナ殿のほうはどうだ?」
「あ、皆さん・・・サディナさんの意識はまだ戻りませんね。何せどの位の期間仮死状態だったのか見当も付きませんから・・・。後は時間が解決してくれるのを待つしか無いですね。」
「サディナ・・・。」
それだけを言うとムースはサディナの手を握る。色んな思いがこみ上げているのだろう。その言葉の続きを聞く事は出来なかった。
「サディナ殿もきっと目を覚ます日が来る。それまで毎日手を握ってやる事だな・・・。」
俺はそう言うと、ムースから視線を外し、皆の方へと顔を向けた。するとムースは何を思ったのか、
「この竜帝の雫を使って、サディナの目は僕が覚まさせるんだ!」
そう言って、雫の形をした水晶を懐から取り出した。するとティニエは慌てたようにそれを止めに入った。
「それは違う!使ってはダメ!!」
ティニエが止めようとしたが間に合わず、ムースとサディナが繋いだ手の間にその雫型の水晶が当てがわれた・・・
それは一瞬の出来事だった。しかし、ムースにとっては50年近い年月を過ごしたような感覚だった。
そこには一人の美しい女性が寄り添っていた。その二人は夫婦だった。一緒に笑ったり、たまには喧嘩をしたり、苦楽を共にした50年・・・そして彼女は年老いていった・・・。彼女は手を握りしめ、「幸せだった」と言い残し、この世を去った・・・。男の受けたその喪失感の計り知れない物はムースの心に刻み込んだ・・・。
ムースはそんな幻を見た・・・。
「ティニエ殿あれは何だ?」
「あれは竜帝の涙という、今は無き竜帝の記憶が詰まった雫です。」
「と言う事は、ムースは竜帝の記憶を見ておるのか?」
「その一部と言った方が良いでしょうか・・・。竜帝は過去に一度、人族の女性と恋に落ちました。そして夫婦となり、幸せな家庭を築いていきました。しかし当然女性は年老いて亡くなったのです。竜帝はその喪失感とあまりの悲しみに涙し、自身も封印するという形でこの世界から姿を消したんです。その時残されたのが、竜帝の涙です。人によっては竜帝の雫と言う者もいます。」
「しかし何故ムースはそれをここで使う必要があった?」
「多分ですが、竜帝の雫が竜族に活力を与えるものと勘違いをしていたんじゃ無いかと・・・」
そこでムースが正気に戻った。
「・・・僕はいったい・・・あの喪失感は・・・。」
「あなたは竜帝の涙を使って、竜帝様の記憶を見てきたのよ。」
ティニエは呆れたような口調でムースに何が起きたのかを説明した。
「これは竜族に活力を与えるアイテムじゃ無かったのか?」
「それは違うわ。しかし、この竜帝の涙は宝物庫の奥に仕舞っていたはずなのにどうやって見付けてきたの?」
「宝物庫の目録に載っているのを見付けたんだ・・・。」
「その目録は古い方の目録ね・・・。」
「じゃあ、活力を与えるというのは・・・?」
ムースは希望に縋ったアイテムが、お門違いであった事に愕然としていた。
「元々そんなアイテムは存在しないわ。竜帝の涙の情報が勝手に一人歩きしたとしか言いようが無いわね・・・。」
「いや・・・竜帝の涙はサディナ殿には効果があったようですよ?」
ヘンリクはそう言ってにっこり微笑んだ。
えっ?と言う表情をしながら、サディナの方を見ると、わずかに目が開かれるのが解った。
「あ・・・私はいったい・・・何か夢を見ていたような気がする・・・」
「サディナ!」
ムースはそう言って握っていた手を両手で握り直す。
「ムース・・・ごめんなさい・・・」
サディナは力なく言葉を紡ごうとする
「今は良い・・・。とにかく今はゆっくり休んで体調を戻してくれ。」
ムースはそう言うと、暫くサディナの手を握りしめていたのだった。
「何やら竜帝の涙も良い方向に転んだようだったな。」
俺は一安心したとばかりに安堵していたのだが1つ気になる事が出来てしまった。
「ええ、まさか、竜帝の記憶で目覚めさせる事になるなんて・・・」
ティニエはこの竜帝の記憶を知っていると感じた。
「ティニエ殿も竜帝の涙で記憶を見た事があるのかの?」
これは俺のカンだった。
「ハハ・・・お恥ずかしい限りですが、若い頃に宝物庫を探検している時に見付けて、見てしまったのです。それ以来、恋愛は怖い物だと感じるようになってしまいました・・・。」
あっ!ヤバい。この先を言わせると、今度はこっちが墓穴を掘る事になりそうだ!
「まあ、取りあえず、これで一段落だな!子供達を迎える準備もしなければならんし、その段取りはティニエ殿に任せても良いかの?」
「え?あ・・・はい。解りました。段取りが出来しだいヨーン様にお知らせします。」
「スマンな。教えて貰えば、都の王城に連絡を入れてエステルのゲートで受け入れだな。」
俺は冷や汗をぬぐいながら次の段取りを決めていった。後ろでニヤついている女性2名は無視する事に決めた・・・。
その後の段取りで、都の王都に居る子供達も順調に回復しているとの事だったので、受け入れは2日後と決まった。
受け入れの前日、俺達はティニエに呼ばれて、彼女の自宅へ訪問していた。
「今回の子供達の奇病の調査についてのお礼ですが、キュリーシア殿より冒険者ギルド預かりの方が良いと言われていたので、報酬などはそちらから受け取って頂きたいと思います。」
「キュリーシアもそんな気を回さなくても良いのにな。ワシ等のレベルは既に100に到達しておる。経験値が増えてもレベルが上がらなければ意味が無い・・・。」
「その事なのですが、今回の達成報酬とは別に、特別報酬として竜族の秘宝を授けたいと思っているのです。」
?マークが付いた。それも冒険者ギルド預かりにすれば良いのにと、思ったからだ。
「それは物では無いという事かの?」
「はい。これは竜族に伝わる秘宝中の秘宝・・・認めた者にしか使ってはならないと言われる物です。」
「またそれは大層な事だな・・・」
「その秘宝の名はレベル解放の宝珠・・・。」
「「「「「「!?レベル解放!?」」」」」」
全員でハモってしまった!レベル解放とはいったい!?レベル100を超えられるというのか?
「これは、我々竜族が認めた者にしか使ってはならない秘宝なので、内密に願いますね。」
ティニエはそう言って神殿へ案内してくれた。そして、6人を神殿内へ案内すると、厳かな儀式が行われた。
ティニエの手にはその秘宝だろうか?直径20cm程の黄金の玉が儀式の最後に掲げられ、俺達6人を照らしたのだった。
「これで儀式は完了しました。皆さんのレベルは竜族と同じように縛りが無くなっています。今後も精進し、世の為に活躍される事を願っております。」
そう言って儀式は完全に終了したのだった。
少し気になって冒険者カードを見て見るも特に変わった様子は無い。経験値の数字のみが相変わらず自己主張しているのみである。
俺達はティニエに礼を言ったあと、サディナの様子を見に行った。病室にはムースも居たが気にする様子も無く具合を聞いてみた。
「大分話をすることも出来るようになりました。この度は命を助けて下さりありがとうございました。」
そう言うとサディナは頭を下げてきた。
「いや、サディナ殿の生きようとする力が強かっただけのこと。気にすることは無い。」
俺達はそう言って礼を言われるようなことはしてないと言った。
「しかし、サディナ殿が作ってしまった薬が何者かに持ち去られたようだったが、その時の記憶などは無いかの?」
「残念ながら私は、全身を鱗硬化症にかかった後の記憶はありません。」
「そうか・・・ならばそれで良い。早く動けるようになると良いな。大事にしてくれ。」
そう言って見舞いの品を置いて治療院を後にした。
あの洞窟にあった物は全てティニエに預けてある。薬の入った壺に関しても、ヘンリクの解呪の魔法を念の為に掛けて預けたのだ。
「う~ん・・・こりゃ完全な解決には至っておらんかもしれんの・・・。」
「あの壺を何の目的で東の湿原に放ったかって事?」
ブリットは考えすぎじゃ無いかという顔でこちらを見てきた。
「だけど、あそこで竜族に影響のある呪いの品が作られたって知っている人は居ないよね?」
エステルも同様だ。
「ただの盗掘なら良いのだが・・・」
翌日、エステルのゲートの魔法で、都の王城で看病を受けていた子供達を、竜王の村に迎え入れた。子供達とその親はその後各村へと戻っていった。
「ふう・・・、これで無事任務終了だな。」
子供達の元気な姿を目の当たりにして俺達も一安心したら、気が抜けてしまったようだ。
ティニエも子供達の元気な姿に破顔していた。
「ティニエ殿もお疲れだったな。」
「いえ。この度は竜の住む山脈に関わる大事に対して多大なる貢献を下さりありがとうございました。」
周りの目もあるからだろうか?ティニエの今までに無いほど畏まった挨拶だった。
「帰りはどうする?馬車で帰るか、エステルのゲートの魔法をお願いするかだが・・・?」
「エステルには悪いけど、ゲートの魔法を使って欲しいかな~」
とブリットは言って、エステルに抱きついてきた。
「私は別に構わないよ。」
エステルも何ともないように振る舞っていた。
「ではスマンが頼らせて貰おうかの。」
そう言うと、エステルはゲートの魔法を使って都にある俺達の屋敷に繋いでくれた。
屋敷に入ってゆっくりしたかったが、俺達は冒険者ギルド魔王領支部へ顔を出し、依頼達成の報告を行った。
そして冒険者カードを提出して報酬の均等分配を行う。受け取った冒険者カードを見ると、レベルが100を超えていた。
魔王領に来てからの魔物討伐などで得た経験値が積み上がっていた関係か、レベルは114となっていたのだ。
これ以上のレベルアップは俺達に何をもたらすのだろうか・・・。
竜の住む山脈での一件から一週間が過ぎた。
相変わらず、手に負えない魔物の討伐のお鉢がこちらに回される日々と、竜族のトトとリリの相手をして過ごしていたある日、一人の女性が尋ねてきた。
聞き覚えのある声だった・・・。そう!ティニエだ。
「テ・・・ティニエ殿?その格好はどうなさった?」
ティニエは自分の資財一式を持って屋敷にやって来たのだった。
「ヨーン様達が村を去ってから考えておりました。やはり私はヨーン様を受け入れたく存じます!」
「そこは種族の問題もあろうと言ったでは無いか。」
「大丈夫です。一時は竜帝の涙の影響で、恋愛には臆病になっておりましたが、それも乗り越えました!」
「乗り越えたと言われてものう・・・。」
俺はそもそも恋愛経験は無いのだ。ここまでグイグイ来られると、どう対応して良いのか解らない・・・。
「それにブリット殿も仰っていたではありませんか!私はヨーン様の心の支えになりたいのです!」
「いやしかし、竜王としての立場はどうするのだ!?」
「それでしたら弟のガストに任せてきました!」
そんな簡単に任せられるものなのか!?俺の前に現れたティニエはテコでも引きそうに無かった・・・。するとブリットが、
「取りあえず中に入ったら?私の言った言葉で動かされちゃったんなら、私にも責任あるし・・・。」
ブリットは頬をポリポリと掻きながら玄関で問答するのも何だからと居間へと通したのだった。
コタツで暖まりながら、俺はティニエに対しハッキリと言う事にした。
「ティニエ殿、申し訳ないがワシはまだ結婚をする気は無い。冒険者として冒険をしたいと思っている。それは承知してくれ。」
「はい。解っております。私は皆さんが冒険に出ている間、この屋敷を守らせて頂きます。それで宜しいでしょうか?」
むむむむ・・・・これでは納得するしか無いではないか・・・。
「ティニエさんは結婚しなくても、ヨーンの側に居たいって事でしょ?ならそれで良いじゃ無い。」
ブリットはそう言って自己完結してしまった。
「わかった。ティニエ殿がそれで良いというのであれば、ワシもこれ以上何も言わん」
「はい!ふつつか者ですが、よろしくお願いします。」
ティニエはそう言って、三つ指ついてお辞儀をしてきた・・・。竜王が押しかけ女房としてやって来るとは思いもしなかった・・・。
心の中で頭を抱えるヨーンだった。




