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東の湿原の調査②

 俺達はリザードマンの集落を後にし、竜王の村へとエステルのゲートの魔法で一気に移動した。いつもなら馬車を通す前に安全を確認しているのだが今回はそうも言っていられなかった。


 突然竜王の村の広場に馬車が現れた事で村人が驚いていたが、馬車から俺達が飛び出してくると、何かあったのかと、数名の竜族が駆け寄ってくる。


「今急患を運んできた。大至急治療院に搬送してくれ!」


 東の湿原で発見した竜族の娘の衰弱が激しい。俺は早口で語りかけた。


「はい!」


 俺の剣幕に緊急性を感じ取った竜族の若者は端的に回答する。


「ではこの娘を治療院へ運んでくれ!」


 俺が用件だけ伝えると、


「!!この娘はサディナでは無いですか!?何処で彼女を?」


 この村の娘だったのか?しかし今は彼女の治療が最優先だ。回復して貰わねばならない。


「取りあえずその話は後だ。衰弱が激しい。急いで手当を頼む。」


「解りました。このまま運んでも?」


「構わん。それと、竜王のティニエ殿は今どこに?」


「自宅に居るかと思われます。」


 そこまで話を済ませると、ヘンリクとエクレアは治療院へ、その他はティニエの自宅へ向かった。


 ティニエの自宅へ行くと、ティニエ本人がにこやかに出迎えてくれた。


「お帰りなさい!だんな・・・」


 何か言い出そうとしていたようだが、俺達の表情に何かを察知し、彼女も真剣な表情で応対してくれた。


「・・・何か解りましたか?」


 この空気を読んでくれるところには好意が持てる。


「ああ、今回の子供達の奇病の原因が何となくだが解った。」


 そう言って、洞窟から持ってきたサディナの研究ノートを、魔法鞄から取り出した。ティニエはその膨大な研究ノートを一読して驚いているようだった。


「この研究をしていたという者は今は一体・・・」


「ヘンリクの魔法で一命は取り留めた。衰弱が激しいから、今はここの治療院で預かって貰っている。名前はサディナと言うそうだ。」


 俺がそこまで言うとティニエは心底驚いていた。


「あの子が何故そんな事を!?」


「この事態を招いたのは本人の本意とするところでは無かったようだ。原因は第三者によるものと思われる。」


「と言うと?」


「そのノートにも書かれている通り、彼女はその研究とともに心中しようとしていた。本人も鱗硬化症で全身覆われておって仮死状態だったのだ。だがワシ等がその洞窟に行った時には、その研究の結果・・・出来た物はそこには無かった。本人の衰弱も激しかったから、詳しく調べる余裕が無かった・・・湿原にはまた明日向かって調査する事にする。」


「解りました。しかし昔サディナがこの村を飛び出していった原因が、硬化症の研究の為だったなんて・・・」


 そう言えば研究ノートにも頻繁にムースの名前が出ていたな?


「ムースの名前もそのノートには良く出ていたが彼女と彼は一体?」


 ああ・・・とため息交じりにティニエは答えてくれた。


「幼馴染みというものですね。彼女の方が年上でしたけど、ムースは私より彼女を慕っていました。」


 そう言う事か・・・。慕っていた彼女が突然村から飛び出してしまったのだ。それが引きこもりになった理由という訳か・・・。


 ティニエとも一通り話を終えたところで、ヘンリクが戻って来た。


「彼女の様態は安定しました。意識は戻っていませんが、もう大丈夫でしょう。」


「そうか。それは良かった。」


 これで一安心だ。彼女の意識が回復すれば、何か解る事もあるかも知れない。


 俺達は明日もう一度、東の湿原にあった洞窟へ行って調査しないとならない。それと湿原そのものの浄化だな・・・


 そんな大規模な事出来るのだろうか?そんな不安に駆られたのだった。


 そうこうしている内に日も傾き始めてしまっていたので、今日は竜王の村で一夜を明かす事にした。


 ティニエが夕食に招待したいと言ってきたので、お言葉に甘える事にしたのだった。ティニエが腕によりを掛けて作った料理だったらしい。


「胃袋を掴む気満々ね。」


 ブリットは冷やかしてきたが、確かにティニエの作った料理は旨かった。


 竜族というと肉食だとばかり思っていたが、夕食の時は、コース料理のように、前菜から始まって、スープに魚料理と肉料理、最後に果実のデザートまで用意してくれていた。


 これを人数分だ。大変な作業になった事だろう。素直に感心してしまった。


 夕食後のお茶を飲んでいるとティニエが、


「明日は私も付いて行ってはいけませんか?」


 と尋ねてきた。正直、呪いの濃度が濃い為、たとえ竜王でも影響を受けるかも知れない。俺はそれが心配で、


「気持ちは解るが、呪いの濃度が濃すぎるようだ。たとえティニエ殿としても影響を受けてしまう恐れがある。ワシはおすすめ出来ん・・・。」


「そうよ。もし竜王のティニエさんに何かあれば、竜の住む山脈の竜族全体にも影響を及ぼしちゃう!」


 ブリットもこればかりはオススメ出来ないと、ティニエの意見に反対した。


「大丈夫です。私は呪い除けの宝珠を持っていますから。」


「しかし・・・。」


 それでも俺は渋ったが、ティニエの意思は堅いようだった。


「こうなったら隠れても付いて来そうですね・・・。もし変調が現れたら私の魔法で解呪しますから。」


 ヘンリクは諦めたような口調でそう言った。


「ヘンリクがそう言うのなら仕方あるまい。しかし無理はしないでくれ。少しでも変調を感じたなら、すぐにワシ等の誰かに報告する事。宜しいかな?」


「ありがとうございます。決して無理は致しません。サディナは私にとっても妹当然の子でした・・・そのサディナがどんな所でこの研究をしていたのか、確かめたいんです。」


「解った。明日の朝には出発する。馬車は使えんから、エステルのゲートの魔法で直接東の湿原の洞窟へ向かう。ティニエ殿も準備を怠らないよう万全を期してくれ。」


 そう言って、俺達はティニエの自宅を後にして、中央広場に止めてあった馬車へ向かった。魔法のログハウスを広げ今夜は休むのみだ・・・。


 翌朝、出発の準備をしていると、ティニエがやって来た。いつもの普段具では無く、皮鎧の装備に身を包んでいた。準備は万端のようだ。


「今日はよろしくお願いします。これが呪い除けの宝珠です。」


 そう言って見せてくれたのは、直径5cm程の透明な水晶だった。それを腰のポシェットに仕舞い込んだ。


「くれぐれも無理はせんようにな。」


「解っております。」


 全員の準備も整ったところで、エステルがゲートの魔法を唱える。行き先はサディナが居た洞窟の前だ。ゲートを潜ると、湿原の前に出た。


「クッ・・・!これほどまでとは!」


 ティニエはその呪いの濃さに驚いていた。


「大丈夫か?」


 俺は心配になり声を掛けた。


「呪い除けの宝珠が無ければ、硬化症が発症していたかも知れません。」


 呪い除けの宝珠のお陰で大丈夫だと言って、ティニエは、無理はしていないアピールをして見せた。


 俺達はまず昨日の打ち合わせでも話していた、湿原の周りに呪いの原因になりそうなものが無いか探すことにした。


 これはどう考えても、湿原の水に混ざった呪いの成分が気化し、風に紛れて竜の住む山脈まで届いている事が原因だと考えられるからだ。


 しかも発症するのが子供のみで、成人した竜族には発症しない事からも、成分が弱まって届いている事が推測される。


 根拠は無かったが全員の一致した見解だった。メイドゴーレム達も同様の見解だったのが後押しになっている。


 俺やエイナル、ヘンリクは足を使って探し、エステルは捜し物の魔法、エリックは風の妖精や水の妖精にお願いして探した。


 そして、2時間ほど探し続けた頃だろうか、エリックからそれらしき物を湿原の湖底から発見したと報告が上がった。


「この下に、何か壺のようなものがあるって、水の妖精が教えてくれてる。」


 その場所を見てみれば、洞窟の出口から真っ直ぐ下った場所になる。


「その壺を引き上げる事は出来んか?」


 俺はダメ元でエリックに聞いてみた。


「流石に妖精の力だとそこまでの事は出来ないよ・・・」


 元GMゲームマスターなら解るでしょ?と突っ込みを入れられる。


「なら私の魔法で持ち上げる。具体的な深さとか位置を教えて貰えるかな?」


 エステルはそう言うと、詳細な位置情報を元にマジックハンドの魔法を使った。本来目に見えるものを動かす魔法だ。


 それを目隠しして掴もうとしているのだ。何度かの失敗の後に遂にその壺を掴む事に成功した。


 その壺を陸に引き上げて確認する。


「これは私の村に昔からある伝統的な壺ですね。彼女が運び込んだ物と考えて間違いないかと思います。」


 ティニエはそう断言した。壺には蓋を開けられないように、厳重な封印がされていたのだが、壺の底に数カ所穴が開けられていた。そこから原液が漏れ出したのだろう。


 それをこの東の湿原へ捨てていった・・・。推測でしか無いが竜族を狙った確信犯と思えてしまう。


 さて、原因の壺は回収した。中身は空っぽだったがこれ以上汚染させない為に、俺の魔法鞄に仕舞っておく。


「ヘンリク、エリック、東の湿原の浄化と周辺の空気の浄化は出来そうか?」


 俺がそう尋ねると、


「「難しくてもやるしか無いでしょう!」」


 そう言って二人とも、魔石のキューブを引っ張り出してきた。いつの間に用意していたのか!?


「私が呪いの浄化を行います。」


「で、ボクがヘンリクの呪いの浄化魔法の効果を上乗せさせた状態で、水の精霊王に、東の湿原の水を浄化して貰えるようにお願いする。その後、風の精霊王に空気の浄化をお願いすれば何とか行けるでしょ?」


 ヘンリクとエリックは簡単そうに言っているが、かなりの難易度だぞ!?そう思ったが口には出さない。


「信用している。」


 俺はそう言った。


「「任せなさい!」」


 二人はそう言うと魔法の準備に取りかかった。ここからは二人の力量に掛かっている。パーティとして信用しよう・・・。

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