東の湿原でリザードマンと出会う
翌日、俺達は東の湿原に向けて出発した。
出発する前に、ティニエから、
「リザードマンは竜信仰の盛んな種族です。これは私の鱗を使ってペンダントにした物です。何かのお役に立つと思いますので、これを持っていって下さい。」
そう言って、昨夜の内に作ってくれたのであろう、人数分のペンダントを渡してくれた。
「スマンな。有難く使わせて貰おう。」
俺はそう言って、ティニエに感謝し、受け取った竜の鱗のペンダントを皆に配った。メイドゴーレム達の分まで用意してくれてあったのは、彼女なりの気遣いだろう。
全員がそれを身につけて、竜王の村を出発したのだった。
今日の御者番はヘンリクだったのだが、昨日は子供達の治療に頑張って貰った事もあり、次の番だったエリックが御者番をつとめてくれた。
竜王の村から東の湿原までは、東の湖の南にある東の街へ向かう街道沿いに、南東へ半日ほど進み、途中、東の湿原へ向かう脇道に入る事になる。
距離にしてちょうど1日程の道程だ。順調に進めば夕方には着く計算になる。しかし、村と言う事は宿泊施設が無い可能性もあった。
他にもリザードマンの村の情報が少なすぎる。馬車の中でもその事は話題になっていた。
「ねえ、リザードマンって、ハーピィ族みたいに、獣人族や亜人族が混在しているのかしら?」
ブリットはそんな事を聞いてきた。
「どうだろうな?以外と混在しているかもしれんぞ?」
俺も何とも言えなかったので、曖昧に答えるしか無かった。
「ん~・・・もし獣人族ばかりだと言葉も何処まで通用するのかしら~・・・?」
珍しくパンナコッタも会話に加わってくる。
「もし言葉が通じなかったら、身振り手振りでどうにかする。」
そんな珍回答をするのは、エステルだ。まるで英語が禄に出来ない添乗員が海外で対応するが如くだ・・・。
俺もそれには身に覚えがあったので、苦笑いしか出て来なかった・・・。
「でも、言葉が通じないだけじゃ無くて好戦的だったらどうしますか?」
ヘンリクも少し不安になったようでマイナス思考に入りかけている。
「その時は私たちがマスターをお守りします!」
正義感たっぷりに回答したのはエクレアだった。しかし、レベルをカンストしている俺達が対処出来ない相手というのも想像出来なかった。
「まあまあ、不安な気持ちも解るが、行ってみん事にはどうにも成るまい。ティニエからのお守りもあるわけだし、虎穴に入らずんば虎児を得ずだ!」
俺は皆の不安を払拭するためにそう言ったつもりだったのだが、他のメンバーはそうは受け取らなかったようだった。
「ふふふ・・・ティニエだって。もうお嫁さんで良いんじゃ無い?」
しまった!竜王と付けるのを忘れていた!と思ったがもう遅い。しかしこっちも何度もからかわれていたので慣れっこだ。
「どうとでも言ってくれ。それより、このままリザードマンの村へ直行となると、夕方になってしまう。いきなり押しかけて、寝床を貸して欲しいと言っても迷惑を掛けるかも知れん。」
「そ・・・そうですね・・・そうするとどこかで野営が必要でしょうか?」
チョコロールも俺の意見に同意のようだった。
「だね~・・・街道沿いで一度野営をして、リザードマンの村には明日の昼間に着くように調整した方が良いかもね。」
ブリットを含め全員がその意見に賛成してくれた。
「では、街道から東の湿原へ入る辺りでどこか広めの場所を見付けたら野営の準備をしよう。」
そんな会話をしながら街道を進めていった。適度な場所を見付けたのは、それから間もなく走った後だった。
まだ日は高い位置にある。しかし、このまま東の湿原へ向かえば、ちょうど夕方ぐらいになってしまうだろう。
「よし、ではここで野営の準備をしよう。」
そう言って、馬車を止めて野営の準備に入った。今はまだ冬だ風が吹くとやはり寒い。
もうひと月で春と言ったところだが、今日は天気も良く風さえ吹かなければ温かかった。
しかし狩りをするには獲物は見付けにくいだろう。だが今日は日の高い時間から野営の準備だ。ヒョッとしたらヒョッとする。
ブリットは最近狩りには出掛けていなかったが、今日は行ってくると言って張り切っていた。ここはお任せする事にしようと思う。
俺も魔法のログハウスを広げて設営の準備を始める。と言っても今では広げてお仕舞いだが・・・。
そのログハウスの隣に馬車を横付けさせて準備完了だ。
暫くすると、ブリットとエイナルが帰ってきた。
どちらも野ウサギを仕留めてきたようだ。しかしいつものように大漁では無い。獲物を捕って来られただけでも幸運の女神様の恩恵なのだろう。
夕食時、ブリットによる手の込んだ創作料理を堪能した俺達は、明日の事について最終打ち合わせを行っていた。
「取りあえず、リザードマンの村に着いたらどうする?」
エイナルはリザードマンの村に着いてからの行動について言及してきた。
「それは、堂々と村に入って、敵じゃ無い事をアピールするしか無いだろう?」
俺もそうとしか言いようが無い・・・。最初からリザードマンの情報が少なすぎるのだ。
「そうは言うけど敵対行動を取ってきたらこっちも反撃しなきゃならないよね・・・。」
ブリットも頭を悩ませる。すると、ガトーショコラから1つ忘れていた事を言及された。
「皆さん忘れているようだけど、竜王のティニエ様から預かった竜の鱗のペンダントの事を忘れていませんか?リザードマンは竜信仰が盛んな種族と言ってましたし、そのペンダントを見せれば少なくとも敵対行動は無いのではなくて?」
そう言って、「何で忘れているのかしら・・・」と呆れ顔になっていた。
「「「「「「あっ!」」」」」」
ティニエには申し訳ないが、ペンダントの事をすっかり忘れていた。確かに、これを見せればリザードマンからの敵対行動は無いはずだ。
「確かにティニエが言っていたな。取りあえず希望は見えてきた。明日は堂々とリザードマンの村へ行き、竜の鱗のペンダントを見せて相手の様子を見ようじゃないか。」
俺はそう言って、ペンダントを握りしめた。
「まあ、ペンダントの事以外は、いつもの行き当たりバッタリと言う事ね・・・。」
ブリットは「はあ・・・」とため息をつきながら、こめかみに手を当てていた。
「そう言ってくれるな・・・こっちには幸運の女神様も付いている。何事も上手く行く。」
俺はエステルの肩に引っ付いているニーニャに視線を向けた。すると、
「もうっ!そういう時ばっかり当てにして!・・・まあだけど、期待されたからには任せておきなさい!」
ニーニャはそう言って腕を組み、胸を反らして鼻息を荒くした。
「ん・・・期待している」
エステルもニーニャに声援を送るのだった。
さて、明日はどんな対応をされるか一抹の不安があるものの、後は行ってからの成り行き勝負だ!と俺は腹をくくった。
翌朝は昨夜の夕食の残りを平らげ、魔法のログハウスを魔法鞄へ仕舞えば準備完了だ。
御者番は昨日交代したヘンリクが乗る事になった。ここから東へ半日掛からない距離に東の湿原があり、リザードマンの集落があるはずだ。
俺達は緊張の面持ちで馬車を進めていった。暫く馬車を進めていくと、予定通り湿原に出る事が出来た。
道は湿原沿いに南に向いている。俺達の馬車はその道沿いに進めていった。
すると遠くに木の柵で出来た集落らしき場所が見えてきた。向こうには高見櫓があったので、こちらを視認しているはずだ。
俺達は辺りの警戒を怠らず集落へ向かっていった。柵の前まで馬車を着けると、腰布を巻き上半身裸の門番らしき獣人族のリザードマンが、槍を構えて行く手を止めてきた。
「お前達、何しに来た?」
少々訛りはキツかったが、共通語を話してきた。言葉が通じる事に一安心して俺は用件を伝えた。
「ワシ等は怪しいものでは無い。東の湿原の調査に来たのだ。」
そう言って、ティニエが渡してくれた竜の鱗のペンダントを門番のリザードマンに見せた。
そのペンダントを見たリザードマンは最初それが何か解らなかったようだったが、竜の鱗と知るともの凄い勢いで慌てだした。
「そっ!それは竜の鱗!!と言う事は、お前達は竜の使いか!?」
トカゲのような顔をしているので、表情は良く解らないし、相変わらず訛りは酷いが、慌てている様子は解った。
「竜の使者というのは解らんが、ワシ等は竜王の村からやってきた。」
俺がそう伝えると、門番のリザードマンは慌てている様子で、
「今、族長を呼んでくる!そこで待っていて欲しい!」
そう言って門番は、もの凄い勢いで村の中へ消えて行った。
門は開け広げられているので中の様子がよく見えたのだが、建物は木造建築ではあるが、屋根がヤシのような葉で覆われている。皆同じ形とサイズの建物ばかりだった。
「何か一昔前の南国リゾートにあったコンドミニアムの建物みたい・・・。」
そう言ったのはブリットだった。俺も何となくそんな感じがした。
暫くすると、神輿に担がれた族長らしきリザードマンと、その神輿を担ぐリザードマンがやってきた。そして俺達の前まで来ると、神輿から降りる事無く俺達に話掛けてきた。
「ワシはこの部族の族長をしておる者じゃ。門番から竜の使いがやって来たと聞いたのじゃが・・・」
そう言うので、族長にも竜の鱗のペンダントを見せる事にした。
それを見た族長はガタガタ震え始め、その勢いで神輿から落ちてしまった。族長は神輿から落ちた事よりも、竜の使いがやって来た事の方が衝撃だったようで、その場で俺達に平伏してしまった。
それを見ていたリザードマン達も同様に平伏してしまったのだった。
「遂に・・・遂に我らが信仰する、竜の使者様がご降臨なされた!」
族長は感激のあまり咽び泣く程だ。他のリザードマン達も俺達に向かって祈りらしき仕草をしている。
昨日からの不安を一発で払拭する、ティニエが渡してくれた、竜の鱗のペンダントの恐るべき威力であった。
この調子で東の湿原の異変を調査しようと思ったのだが、リザードマン達はお祭りムード一色になってしまっていた。
馬車を誘導され、集落の中央にある広場に案内されると、そこには既に歓迎用の席が設けられていた。
「ささ、竜の使者様、歓迎の宴の用意をさせて頂きましたじゃ。」
族長は低姿勢でそう言って、ヤシのような葉であしらえた座布団のような席へ案内をしてくれた。
もうこうなっては従うしかあるまい。俺達は誘導されるがままに席に着いたのだった。
それからは、地酒を振る舞われ、東の湿原で取れたであろう魚料理に、肉料理まで出て来るもてなし方だった。
それらは冬の間の蓄えを、出してしまっているのでは無いかと、心配になってくる量だった。
それらを振る舞われている間には、民族衣装に身を包んだリザードマン達の踊りを鑑賞する事にもなった。
ファイヤーダンスや、リンボーダンスなどを見せられた時には、思わず飲んでいた酒を吹き出しそうになってしまった。
まるで、ハワイアンディナーショーにでも来ているような感じだった。
そんな宴は夜まで演じられる事となってしまった。もてなしてくれるのは大変有難いが、こちらとしても東の湿原の情報が欲しい。宴をも要してくれている間にもそれとなく族長に聞いてみる事にした。
「族長殿、今東の湿原で何か変わった事は何か無いかの?」
「はて?特に変わった事はありませんじゃ。ただ昔から、湿原の北では魚が死んでしまう死の湿原と呼ばれておりますじゃ。」
族長が気になる発言をする。
「死の湿原とはどういう事を意味しているのかの?」
「そのままの事ですじゃ。死の湿原では魚も草も全て死んでしまうですじゃ。ワシ等も近づく者はおりませんですじゃ。」
皆もその会話を聞いていた。そして確信したようだ。竜族の子供の奇病の原因の可能性はそこにある。
「族長殿、スマンが明日そこに案内してくれんかの?ワシ等は竜族の使者として使命を果たさねばならん。協力して欲しい。」
俺は使者という部分を協調して協力を仰いだ。
すると族長は感極まったように、
「使者様のお手伝いが出来るとは幸せ以外の何物でも無いですじゃ!明日は部族一の者を案内に付けますのじゃ!」
こうして俺達は明日の約束を取り付ける事に成功したのだった。




