情報収集と竜王の村での一幕
「あ・・・そんな・・・人前でなんて・・・」
竜王のティニエは、頬を赤らめて照れている・・・。
あちゃ~・・・俺は慌てて手を引っ込めたがもう遅かった。身長差を考慮して手を伸ばしたのだが、それが失敗だった。腕を掴んだつもりだったのだが、ティニエの角を掴んでしまったのだ。
そして何よりマズかったのは、周りに居た竜族の男性も女性も、この現場を目撃してしまっていた事だった。
「きゃ~っ!あんな大胆に竜王様の角に触れるなんて!」
とか、
「今の動き見えたか!?どうやって竜王様の角を掴んだのか全く見えなかった・・・」
など、反応は人それぞれだったが、女性からは黄色い声。男性からは驚きの声が聞こえてきた。
俺は周りの声を気にしながらも、ティニエに謝罪した。
「す、すまん!まさか竜王殿だと思わなかった!1度ならず2度までも大切な角に触れてしまい申し訳ない!」
俺は、婚姻の事には一切触れず、謝罪一辺倒で謝った。しかし、その謝罪を受けるティニエに関しては、
「いえ、お気になさらずに・・・。もう既にそう言う仲ですから・・・ただ人前ですと恥ずかしいので、出来れば人の居ない所で・・・」
またもや頬に手を当て、クネクネしながらそう言ってきた・・・。
もう俺には逃げ場は無いのか・・・。そんな事を思いながらその光景を見ているしか無かったのだった。
ティニエはそんな調子だったが、暫くすると、はたと我に返り、
「ウッカリしておりましたが、皆さんが情報のまとめをしたいので、一度集まりたいとの事でした。私の住まいを提供していますので、そちらまでご案内しますわ。」
「解った。案内を頼めるかの?」
俺はそう言って、ティニエに案内を促した。暫く進むと、大きな洞窟に行き当たった。ここが、ティニエの住まいだそうだ。
他の住民も住まいも同じなのだが、山脈の傾斜に巣窟を掘り、そこを住まいにしているらしい。
等間隔に掘られた洞窟のパッと見は中国の敦煌にある莫高窟に似ている感じがする。
中に案内されると奥では、ブリット、エイナル、エリックの3人と、そのメイドゴーレム達がすでに待っていた。
ヘンリクとエステル、そのメイドゴーレム達は都の王城で、竜族の子供の治療と看病に当たっている。
「ヨーン、遅い!何してたの!?」
ブリットは何やらご立腹だ。しかしここで、ティニエの角を掴んでしまった事など言えようはずも無い。ここは素直に謝る事にした。
「すまん・・・。今回の情報収集は何の役にもたてんかった・・・」
「解ってるわよ。私たちが情報収集していても、ヨーンと竜王様の関係について聞かれるし、まともな情報収集どころじゃ無かったわ。当事者じゃ尚のことでしょうけどね。」
ブリットの機嫌が悪かったのはこれが原因だったらしい・・・。
「それで、ワシの噂話とは別に、情報らしい情報は何かあったかの?」
「ん~・・・その事なんだけどね、東から吹く呪いの風に、身に覚えは無いって口を揃えて言っているのよ・・・。」
「俺の聞いた所でも一緒だった・・・。ただ、東と言えばここから1日ほど行ったところに、『東の湿原』と『東の湖』があるらしい。その更に東には海がある関係で、この辺り一帯に吹く風は東寄りの風が多いらしい。」
エイナルが追加情報をもたらしてくれた。『東の湿原』と『東の湖』か・・・。特に『東の湿原』が気になる・・・。
「『東の湿原』には何か住んでいる獣人や亜人は居ないのか?」
俺がそう尋ねると、見知らぬ青年が声を掛けてきた。
「『東の湿原』にはリザードマンの村が多く点在しているぜ。」
爽やかな青年と言った雰囲気を纏っている印象だが、底知れぬ力強さも感じられた。誰だろうと思っていると、ティニエが紹介をしてくれた。
「あっ!紹介が遅れました!彼は私の弟で、長男のガストと言います。もう一人弟にムースが居るんだけど引っ込み思案なものでなかなか表に出て来ない質なの・・・。」
紹介されたガストは、
「ガスト=エネディクトだ。姉貴を落としたってのはアンタかい?」
そう言うと気安げに、俺に握手を求めてきた。
「いや~アンタ大したモンだな!姉貴は、竜帝の血を色濃く受け継いでいるせいか、気は強いし、実際に強いしで、いつまで経っても嫁にも行けなかったし、婿も貰えなかったんだ!俺も弟も心配でし・・がふっっっ!!!」
ズドンッッッ!!!
と言う音とともに、ガストが吹っ飛んでいった。そこにはいつの間にやらティニエが立っていた。
俺には見えていたが、ティニエが一瞬のうちにガストの間合いに入り、肘鉄を脇腹に打ち込んでいたのだ。
打ち込まれたガストは、くの字に折れ曲がり、その体勢のまま洞窟の奥まで吹っ飛ばされていた。
「全くガストったら・・・そんなに力は込めてないわよ?」
さらっと流すように言っているようだが、とてもそうには見えなかったんだが・・・?
「ぐふっ・・・姉ちゃん・・・もう少し加減してくれ・・・」
そう言うと、ガストはその場に倒れ伏してしまった。今回復担当が不在な為助けてあげる事が出来ない。
俺達はその光景に呆然と立ち尽くすのみであった。
「姉さん・・・もっと加減をしてあげないと・・・。兄さんの身が持たないよ・・・。」
騒ぎを聞きつけて来たのか、奥の方からもう一人の青年が出てきた。
雰囲気はガストに似ているが、ガストとは違い、気の弱そうな青年だ。きっとこの青年がムースという弟なのだろう。
ガストがイケイケの体育会系とすれば、ムースは典型的な文系の雰囲気を纏っている。
「あら、ムースが出て来るなんて珍しいわね。」
ティニエはそう言って俺達にムースを紹介した。
「初めまして。ムース=エネディクトです。あまり騒がしいのは苦手なので、静かにして貰えると助かります・・・。」
そう言って、出てきた部屋に戻ってしまった。
「ごめんなさい。ムースは昔からああなの・・・。竜族としては珍しいというか何というか・・・。」
「いや、竜族にも色々な性格があっても良いでは無いか。気にする必要もあるまい。」
そんな話をしていると、ガストが復活してきた。
「弟ももう少し外の光を浴びてくれると良いんだがな・・・」
ガストも大概打たれ強いようだ。
「さて、話が逸れてしまったが、その『東の湿原』辺りが、どうやら怪しいようだな?」
「そうね・・・先ずはそこを調査してみた方が良いかも。」
ブリットが同調する。
「しかし、王城で子供達を見ている、ヘンリクとエステルのことを考えると、戻ってから一度休ませてやりたい。どこかで休めるような施設は無いだろうか?無ければ、大型のテントが開ける広場でも良いのだが?」
俺がティニエに相談すると、
「もともと、ここに滞在するような旅人もおりませんから、宿屋と言った施設はありません。広場であれば、私の権限で開ける事は出来ますが。」
「申し訳ないが、そうして貰えるだろうか?仲間が戻るまでには、もう少し時間が掛かると思う。それまでには用意して貰えると助かる。」
「いえ!旦那様の仰る事でしたら、何でもこなして見せますわ!」
そう言って、広場へ掛けだして言ってしまった・・・。
「はあぁ・・・」
俺がため息をつくとブリットが、
「ティニエって、これが初めての恋愛なんでしょ?浮かれちゃってるけど、可愛いじゃない。」
「ワシも恋愛経験なんぞ無いぞ。それにしても重いんだ・・・。」
「まあ、最初だけよ。我慢して付き合ってあげなさいな。」
「そんなモンかのう・・・。」
ブリットは大丈夫、ダイジョウブ!と言って手をヒラヒラさせて言った。
暫くするとティニエが広場の準備が出来たと言って、戻って来たのだった。
早速俺達はテントの設営準備を始めた。設営が終わると日も傾き始めた。そろそろヘンリク達が戻って来る頃だろう。
すると、程なくしてヘンリクから遠話の魔法バッジ経由で、これから戻るとの報告が入った。細かな詳細は戻ってから話すとの事だった。
それからすぐに、エステルのゲートの魔法が広場に開き4人が返ってきた。
魔法のログハウスに入り、リビングのソファに腰を掛けるヘンリクは見るからにヘトヘトのようだった。
「ヘンリク、お疲れだったな。子供達はどうなった?」
「無事に皆さんの呪いは解けました。呪いの重かった子供は衰弱が激しかったですけど、命に別状はありません。後の事はキュリーシアさんに任せてきましたので、後はこちらの呪いを解決するのみです。」
「そうか。それは良かった。こちらも情報収集の結果、『東の湿原』が怪しいとふんでおる。今日はゆっくりと休んで、明日調査のため出発するとしよう。」
「ヨーンは、情報収集の役には立たなかったけどね~」
ブリットは戯けてからかってくる。
「ヨーンさんは何かあったんですか?」
ヘンリクの頭の上には?マークが付いているようだった。俺もその件については言いにくいものが有る。
「い・・・いや・・・まあ・・・」
俺は言い淀んでしまった。
「ティニエの件よ。この村じゃその話題で持ちきりよ!」
するとブリットがあっさり、俺が言い淀んでいた事を暴露してしまった。
「ああ!なるほど!それは情報収集になりませんね・・・。」
ヘンリクも合点がいったとばかりに笑い出した。
「まあ、ヘンリクもエステルも今日は疲れただろう。食事が終わったらゆっくり休んでくれ。」
俺はそう言って休息を取るように促した。
明日は『東の湿原』に向かう事になる。




