そして、精霊王の解放
2日後の当日、予定通り午前中に、自前の馬車で王宮前へ乗り付けた。話は付いていたらしく、警備の兵に場所を指定され待つように指示された。
暫くすると数台の馬車が門から出てきて、俺達の馬車の後ろに着いた。俺達の馬車も入れると全部で4台だ。最後尾からマーリンが降りてきて俺達の馬車に向かってくる。
「ゲートを使うと言っていたが、この隊列で良いかい?」
その質問に、エステルは、
「問題ない。ゲートは地上の神殿から1時間移動するくらい手前に開くから、完成したら私たちの馬車に付いてきて。」
「解った。ではよろしく頼む。」
そう言って最後尾の馬車に戻っていった。マーリンが馬車に乗り込むのを確認してエステルはゲートの魔法を使った。真っ暗な空間に向けて馬車を進めさせる。
進んだ先は王都ルステーゼとハレックの街を結ぶ街道から、盗賊団のアジトのあった脇道へ入って1時間ほど行った辺りだ。
馬車はそのまま盗賊団の元アジト、地上の神殿へ向けて進んでいく。30分ほど進むとその先に人垣が出来ているのが見て取れた。まだ離れているのでよく見えないが100人以上は居るだろうか・・・。
それを確認すると皆は、
「「「「「やっぱりフラグが立ってたか」」」」」
一斉に声にした。
「え~っ!私のせい!?」
ブリットは半泣きだ。
さてどうしたモノか・・・。
馬車は人垣のある場所まで100mまで近付き停車した。
エイナルには後方へ伝令に向かって貰い、エステルやキュリーシア、エリックに眠りや麻痺などの無力化魔法の準備をするように伝え、俺は相手の出方を待つ事にする。
すると向こうの代表者らしき人物が、こちらに向かって歩いてくる。俺もその例に従い前に進み出した。お互いが顔まで認識出来る所まで進み出ると、相手が名乗ってきた。
「私の名はカーリット。魔王領の復活に反対する者である。直ちに引き返し精霊王の復活以外の方法で検討する事を求める!」
「ワシはヨーンだ。魔王領を実際に見て魔王領の復活に賛成しておる。お前さんは何故魔王領の復活にそこまで反対するのだ?」
「そんな事は当然だろう!魔王領が復活すれば、この国どころかこの世界の安全が脅かされる!そんな魔物が跋扈する世界など断じて認める事は出来ん!!」
俺は心底呆れ返っていた。多分どこぞの反対派貴族が吹聴して、この反対派を集めたのだろう。それ以前の問題で、国の方針に逆らっているのだから、反逆罪が確定だ。
「ヌシはその魔物が跋扈している魔王領を何処で見たんだ?すまんがワシが魔王領に行った時にはそんな光景は目にしなかった。素晴らしい文化が根差した良い国だったぞ?」
「そんな事が信じられるか!俺達は2千年前に魔王領の魔物に苦しめられてきたんだ!」
「子供でもあるまいし、その年で魔物を恐れて魔王領の復活に反対?魔物が現れても追い返してやるという位の気概は無いのか?小僧!」
そこまで俺が挑発すると、馬車から人が降りてくる気配を感じた。この気配はキュリーシアだ。そして、俺のすぐ隣まで進んでくる。
「私は魔王ギュレイドスの娘、キュリーシアと申します。ここを通して貰えないでしょうか?もう、世界の滅亡は時間の問題なのです。これはルステーゼ国王も納得しているのです。」
「嘘だ!魔法王国の末裔であるルステーゼ国王が、魔王領の復活を認めるはずが無い!」
ここまで来ると意固地になっているとしか思えない。どうしたモンかと頭を抱えていると後ろから援護射撃が飛んできた。
「私はルステーゼ王国第一王子ソリューシュ=ルステーゼ。キュリーシア王女が言っている事は本当だ。国王は魔王領の復活を認めた。その上で世界の存亡の危機を救う選択をされた!」
王子の援護だ。ぐうの音も出まいと思っていたら、とんでもない事を言いだした。
「第一王子と名乗るあの者は偽物だ!王家がそんな事を言うはずは無い!!」
ここまで来て俺の堪忍袋の緒が切れた!
「バカモンがっっっ!!!」
大きな声でそう言って、カーリットと名乗った青年の顔面を殴りつけた。手加減はもちろんしたが、レベル差がありすぎる。軽く数m吹っ飛んで気を失った。
相手側の陣営がどよめいている。俺はそこにエステルの魔法を頼んだ。目標は固まっている場所を中心とした睡眠魔法だ。
集団は全て効果範囲に入っていた。今のエステルの魔法に抵抗出来る物はいない。その場でバタバタと倒れていく姿が目に映った。
俺達は馬車に戻り、その集団を迂回して地上の神殿を目指した。足止めを受けた場所から更に30分ほど移動すると、懐かしの盗賊団の元アジトの近くまでやってきた。するとメイドゴーレムのエクレアが馬車を止めるよう指示してきた。
「神殿はこの奥にあります。」
そう言うと、メイドゴーレム達は揃って鬱蒼と生い茂る森の奥へ進んでいった。俺達や立会人、護衛達も彼女たちに付いて行く。
そこでエリックはメイドゴーレム達を呼び止める。
「精霊王の欠片を解放する時はゆっくり、深呼吸するように時間を掛けて解放していくんだ。自身の動力炉に負担を掛けないよう、決して慌てて解放しないように。良いね?」
「?はい。解りました。」
何でそんな事を言うんだろう?と疑問に感じながらも、メイドゴーレム達はエリックの言葉にしっかり頷いた。
そして徒歩で30分ほど歩いて行き着いた先は、何も無い平坦な更地だった。地面は土で出来ており周辺は鬱蒼と生い茂る木々の中、そこだけがポッカリと円を描くような空き地のようになっている。直径はおおよそ50m程だろうか?
じっと様子を見守っているとメイドゴーレム達は無言で予め決められていた動作のように配置に着いていく。6人のメイドゴーレム達が、円形に等間隔に並んでいく。
そして、精霊の欠片の解放を始めると、メイドゴーレムの目の前に白色、黒色、赤色、緑色、茶色、青色の、高さ1.5m、幅1mのクリスタルが徐々に形を成していった。
完全に形を取り戻すのに1時間は掛かっただろうか?そのクリスタルが完全に形になると、地上から光がほとばしった。
そしてメイドゴーレム達の居る場所の6点を起点に地面が徐々に隆起していく。1分ほどで隆起は収まったがそこには6本の高さ50m程の円筒形の柱が出来上がっていた。
それは上から見れば、きっと六芒星に見えた事だろう。
暫くすると、それぞれのクリスタルの色と同じ色の光の粒子が周辺から集まりだして来た。
それは各属性の精霊なのだろう。綺麗な光景に思える。
その精霊は徐々に纏まっていき、身長が30mはあろうかという人の形に変貌した。
そして、各精霊の胸の中に精霊王の欠片を吸収していった。その後更にどこからか、力を取り込むように一際精霊王の輝きが増したのだった。きっと魔王領にある自信の欠片を引き寄せたのだろう。
そこに佇む6柱の精霊王は、
光の精霊王は光り輝き全てを照らすがごとく眩しく、
闇の精霊王は深淵の見えぬ何処までも続く闇を纏い、
火の精霊王は炎を纏い噴き出す炎は雄々しく、
風の精霊王は風を羽衣のように纏って中性的な姿に、
土の精霊王は岩石を全身に纏ったような猛々しさに身を包み、
水の精霊王は流麗な水流が全身を循環するように、
それぞれの特徴を現した姿へ変貌していった。それは男性のようにも見えるし女性のようにも見える・・・。
エリックはその光景に見とれていたが、精霊語で精霊王に話しかけているようだった。
すると、各精霊王はエリックに小さな精霊の御霊を授けていた。どうやらエリックのお願いは、聞き届けられたようだった。
暫くすると、精霊王は細かな粒子となって世界へ戻っていった。
隆起した円筒形の柱も元に戻り、メイドゴーレム達は俺達と同じ高さまで戻って来た。しかし、動力炉の消耗の影響かその場で倒れてしまった。
俺達は、慌ててメイドゴーレム達を受け止め、馬車へ連れて行き横にさせて休ませた。
メイドゴーレム達を馬車で休ませた後、俺はエリックに精霊王とどんな会話をしたのか確認した。
「精霊王は「確かに力を帰して貰った。」と、そう言っていました。」
「では、魔王領もこちらに戻ったという認識で間違いないな?」
「それで間違いは無いと思います。」
立会人達も精霊王の復活を確認した事で、王都への帰還をする事となった。
帰りの途中、反抗勢力達はまだ眠りの中に居た。
エステルはそこにゲートを開き、第一王子を先に帰らせると同時に衛兵を呼び集め、全ての反抗勢力を捕まえる事にした。
反抗勢力が残っていない事を確認した俺達は、そのゲートで王都へ帰還したのだった。
これから反抗勢力を先導した者の追求が待っているだろう。
俺達は一仕事を終えたとばかりに宿へ戻ってきていた。キュリーシアは魔王領がこちらの世界に戻ってこれたのか、気になって仕方が無いはずだ。
「キュリーシアよ。遠慮せずにゲートを使って魔王領がこちらの世界に来ているか覗いて見てはどうだ?」
「そんな勝手な事をしてしまっても宜しいのでしょうか?」
キュリーシアは遠慮がちにそう言った。
「向こうでは魔王殿や、クシュラーデ殿、カリオス殿も心配しているだろう?繋がるのであれば、報告がてら行ってくると良い。魔王領とルステーゼ王国との今後の事もあるから、明日また戻って来れば良いぞ?」
そこまで言うと、キュリーシアは、
「それではお言葉に甘えさせて頂きます!」
そう言って早足で部屋に戻っていった。暫くしても戻ってこなかった所を見ると、魔王領はこちらの世界に戻って来られたのだろう。
まだこれからの事について雑務が待ってはいるが、大きな山は越えたと見て良いだろう。
こうして、精霊王の復活とともに、魔王領の復活、そして、世界の滅亡の危機は回避された。




