魔王領の魔物討伐作戦
視察を始めて1週間が過ぎた頃、もう視察の必要は無いんじゃ無いかと思い始めていた時、城内に不穏な空気が漂った。
「・・・魔物が現れた・・・」
「・・・すぐ討伐隊を・・・」
何やら、きな臭い話が漏れ聞こえてくる。
俺たちが部屋を出ると、クシュラーデと丁度出くわした。
「何やら城内が騒がしいようじゃが、何かあったのか?」
するとクシュラーデは、しまった・・・と言う顔をして、
「いや、お客人が心配するような事では無い。」
そう言って誤魔化そうとしていた。
「魔物が出たと聞こえたがのう・・・」
俺が聞こえた事をボソリと漏らす。
「すぐに討伐隊も・・・とか」
ブリットが追撃の一撃を放つ。
そこまで言うと諦めたのかクシュラーデは白状した。
「南のオリハルコンの採掘場近くに、魔物の群れが現れたんだ。それを今から討伐に行く。」
魔族の言う魔物というのが気になる。
「その魔物とは一体どんな魔物なんだ?」
「・・・ハグレの魔族だ・・・」
それは言い出しにくい事を言わせてしまったな。しかし、そこを黙っている訳には行かない。「ハグレの魔族」があちらの世界でも、悪さをする可能性があるからだ。
「言いにくい事かも知れんが、詳しく聞かせて貰えぬか?」
なおも言い淀み言葉を濁している所へ、タイミング悪くキュリーシアが駆け寄ってきた
「クシュラーデ!ハグレが現れたって・・・あっ!」
俺たちの存在に気が付いた時にはもう遅かった。クシュラーデも額に手を当て上を仰ぐ・・・。
「詳しく聞かせて貰おうかの。」
「解った。中で話そう。」
そう言って中に案内された。席に着いたキュリーシアとクシュラーデは説明を始めた。
「まず、ハグレというのは、今の我々に馴染めなかった者達の事を言う。要は強者は弱者から奪う事をして何が悪いと言う考え方だ。魔王様はこの世界が隔離された最初の内は、それを容認していた。しかし、魔法王国との大戦で疲弊していた状態で、なお世界が隔離されてしまった状態では最終的に全種族が滅んでしまうと考え、魔王様は直ぐさま方針転換を図った。それが今の暮らしだ。私たちはこの方針転換は正解だったと思っている。しかしそれを良しとしない者達が魔物と呼ばれる者達だ。魔物の中には、ゴブリンやオーガなど今一緒に暮らしている同族も多く存在するが、そこは割り切って討伐の対象としている。どちらにしても2千年前に袂を分かち、別の道を進んでしまった魔物は既に言葉も通じない。理解して貰えただろうか?」
「無理に聞き出して済まんかった。お詫びと言っては何だが、その討伐にワシ等も参加させて貰えんか?」
皆に振り向くが誰も異存は無いようだ。その姿にクシュラーデは戸惑う。
「客人にこのような事に参加させる訳には・・・。」
「ワシ等のレベルは43じゃ。メイドゴーレム達は64と言ったところかの?力不足でなかったら協力させてくれ。」
「解りました。レベルに不足はありません。今の我々は2千年前のような強さは正直無い。魔物の方が強い事もしばしばあります。」
悔しげな表情を作る。自分の力量不足を嘆いているのだろう。
「では案内を頼む。」
そう言って、魔物の出現したオリハルコンの採掘場近くへやってきた。既に戦闘は始まっていた。
詳しく聞くと、現れた魔物はゴブリン30匹、ホブゴブリン10匹、オーク20匹の合計60匹の大群だった。
こちらは混成軍で100人規模で当たっていた。その中には当然のようにゴブリンやホブゴブリン、オークもいる。戦場となってる採掘場は大混戦だ。
最初は見分けが付くのかと心配したが、混成軍はしっかり統率が取れている。また、装備も統一されていた。
魔物の方は装備という装備はせず、TRPGのイメージ画のままの姿格好だった。
間違ってこちらも攻撃されるかも知れないと一瞬思ったが、味方魔術師の魔法による識別支援魔法によって味方と識別された。これも同士討ちが起こらないようにするための、魔王領独自の魔法だそうだ。
最初の戦場を見た限りかなりの混戦が予想されたが、相手のレベルはさほど高くは無かったようだ。味方の混成軍は戦術の練度もしっかりしており、打ち漏らす事無く少しずつ包囲網を狭めていく。
俺たちも戦いに加わった。混成軍よりも個々のレベルが高かったのか、結構な大立ち回りとなったようだ。
最後に残ったホブゴブリンをバトルアックスで一刀のもとに両断すると混成軍から大歓声が上がった。
同族であるはずの混成軍のホブゴブリンからも歓声が上がっていた。ここからも、魔物と魔族は別物と認識して扱っている事がうかがい知れた。
戦闘も終わって帰路につくクシュラーデと合流した。
「無理言って戦いに参加させてもらって済まんかったな。」
「いや、参加してもらって助かった。最後にヨーン殿が相手にしたホブゴブリンは正直厄介な相手だった。まさか一撃で仕留めるとは・・・。向こうにはヨーン殿のような物が沢山いるのか?」
「いや、今のワシ等の半分のレベルが精々じゃろ?平和になりすぎて腑抜けておるわ。」
クシュラーデはホッとした顔をした。きっと強者ばかりがいたら、攻め滅ぼされるのでは無いかと心配したのだろう。だから少し安心させてやろうと思った。
「ちなみに魔術師も中級魔法までしか使えん。キュリーシア王女みたいに上級魔法は一般的には広まっておらんよ。」
「上級魔法が使えないのですか!?それはまた不思議な・・・。」
不思議と言いながらも、クシュラーデの顔が安堵したのが解る。顔に出やすいタイプなのだろう。
「しかし、魔物はここまで大規模に攻めてくるものなのか?」
「ここまで大規模は珍しいですね。いつもは大体20匹程度です。あとは種族によってもマチマチで・・・オーガ辺りは単体か多くて3体くらいと言った所でしょうか?」
「オーガ辺りの魔物だとレベルも高そうだのう・・・。」
「良くお解りで。その通りです。オーガを相手にする場合は1匹に対し5人で囲うように訓練しています。」
「世界が一緒になったら、魔王領にも冒険者ギルドを作った方が良いかもしれんのう・・・。」
「冒険者ギルド?」
クシュラーデの頭には?マークが並んだ。
「ワシ等みたいに世界中を冒険して色んな依頼をこなす連中の事じゃ。ただ、こっちと向こうでは色んなもので価値観が違いすぎる。代表的なものではオリハルコンやミスリルとかじゃ。向こうでは希少金属だが、こちらでは資源が豊富にある。逆に文化では向こうの方が一歩先に進んでおる。交流しようにもそういった所をしっかり調整せねばお互いに損をしてしまう。まあその辺はキュリーシア王女がしっかりしとるじゃろ。」
クシュラーデの頭には?マークが増えるばかりの内容だったようだ・・・。俺たちのいる向こう側の世界を知らなければ当然の事だろう。
城に戻るとキュリーシアが待っていた。
「討伐お疲れ様でした。先に帰った者から聞きましたよ。ヨーン様が大活躍されたと。」
「よしてくれ。活躍したのはワシだけではない。皆活躍しとった。」
俺は気のない返事で手のひらをヒラヒラと振った。
「さて、ワシ等が知りたい事は粗方知る事が出来た。予定より早いがあと3日くらいでお暇するとしようかのう・・・。キュリーシア王女はどうする?ワシ等の方は向こうの国王と会うための段取りをさせておる。叶うかどうかは向こうに行ってみなければ解らんが、どのみちワシ等はこの世界を1つに戻す方向で動く。これは確定だ。」
「私も付いて行きたいのですが、父の様態が先ほど急変して・・・」
「良くないのか?」
「はい・・・元々この魔王領が隔離されてから、元に戻すために次元転移の魔法を研究開発したのは魔王である父なのです。何度も試行錯誤を繰り返し次元転移の魔法を完成させたのですが、その時には魔力欠乏症という病に倒れ、父の魔力は既に枯渇し欠けていたんです。このままでは近いうちに・・・。」
魔力が底をつくと言う事か。魔法を使いすぎると昏睡状態になるが、それが永続的に続くとなるとそれは死亡と同じか・・・。
・・・って待てよ?魔力が補充出来れば良いんだよな?
「キュリーシア王女、魔王様はまだ意識はあるのか?」
「目を覚ましたり昏睡したりを繰り返してはいますが、今はまだかろうじて意識はあります。」
「なら、あれを使ってみるか・・・。」
俺は馬車へ向かい魔石のキューブを持ち出した。
「5つくらいあれば足りるか?魔王様にこの魔石で魔力の欠乏を押さえられないか担当医と相談してみろ。」
それが何を意味しているのか理解したキュリーシアは、キューブを両手に抱えて走って行った。
翌朝、魔王様の様態が安定したとの報告が上がった。ある程度魔力が回復すれば、時間が解決してくれると言う事だったので、取りあえずはひと山は超えた、と言うところだろう。
こちらも次の手を考える。視察の結果は良好だ。魔物の出現は頂けなかったが、魔王領の暮らしは安定している。世界を戻す事に何の問題も無いと俺は考えた。よってこの案件は確定事項だ。
ならば早い段階で各遺跡の30階層の転移ポータルを押さえておく必要が出るのでは無いだろうか?
万が一、各遺跡を国が封鎖してしまうと後が厄介だ。
30階層まで直接転移する事が出来れば、精霊王の欠片の確保は難しくない。
ルステーゼ王国が頑なに最後までノーを貫いてくる場合を想定した方が良いだろう。
マーリンとの約束の期限まであとひと月と3日ある。それを利用して先手を打つか・・・。そんな事を考えていると、
「・・・ヨーンがまた何か悪い事企んでる・・・。」
ブリットが呆れた顔をして訴えてきた。
ん?顔に出てたか?
「いや、悪い事なんて全然考えてないぞ。ただ、ここを早めに切り上げて、遺跡の30階層のポータルだけ登録しておこうかな?って考えてただけだぞ?」
「それを悪い事って言うの!で・・・?何で30階層の転移ポータルを押さえようと考えたの?」
呆れと信用が入り交じったような顔をしている?
「冒険者ギルド本部のギルドマスターマーリンが、国に働きかけているものの、相当苦労しているみたいでな?リミットは2ヶ月と言われたが、3日後で丁度半分の1ヶ月だ。なら、マーリンの方が最悪の答えが出る場合を想定して、動いた方が良いだろうと思ったんだ。何も、メイドゴーレム達に精霊王の欠片を取り込ませておく必要は無いぞ。」
「・・・呆れた。そんな事考えてたんだ。」
「ちゃんと考えがまとまったら皆に相談しようと思ってたぞ?」
「どうだか?」
ブリットはため息をつきつつ何だかんだと賛同してくれた。他のメンバーからの了解も得た。
「キュリーシアはどうする?」
「父の容態が安定した以上、最後まで責任は持ちます。」
最初の時のように強い意志でキュリーシアは参加を表明した。
「よし、じゃあ出発は3日後!それからは遺跡巡りが始まるぞ!しっかり英気を養っておいてくれ!」
「あぁ~また遺跡かぁ~~・・・」
ブリットは諦めの深いため息をついた。




