新馬車初乗りそしてローランの街へ
ハレックの街で1日ゆっくり過ごした翌日、俺たちはハレックの街から南へ2日ほど移動した所にある、ローランの街を目指した。
もちろん下ろし立ての新馬車での移動だ。御者の順番はいつものように、じゃんけんで決めた。
「じゃあ、いくわよっ!」
と言うブリットの掛け声とともに、
「「「「じゃ~んけ~ん・・・・ポンッ!」」」」
何度となく繰り返されたじゃんけんの結果、俺、ブリット、エイナル、ヘンリク、エリックの順番となった。交代は午前と午後に分かれる。
エステルは身長120cmの小柄な体型から、端から見ると子供が御者をしているように見えてしまうので、御者の順番から外している。
洋菓・・・じゃなかった、メイドゴーレム達はマスターが御者になると、その隣に着きたがっていた。俺の隣にも現在チョコロールが座っている。
「中に入っていても良いんだぞ?」
「え・・・いえ・・・大丈夫です。」
そんな弾まない会話になってしまい、どうしようかと悩んでいたが、ふと、隠れメカヲタク説を思い出し、この馬車の乗り心地などを聞いてみた。
「この馬車の乗り心地はどうだ?結構快適では無いか?」
「そ・・・そうですね。前向きの座席も斬新ですし、頭上の棚の工夫も素晴らしいと思います。あと、足回りは今まで乗った馬車でも一番良いと思います。板バネに何か工夫でも?」
おっと、チョコロールの滑舌が予想以上にとても良くなったぞ。
「板バネや骨組み、金属部分には魔鉱石とミスリルの合金を使っておる。特に板バネは気を使って貰ったよ。」
「な・・・なるほど!これほどの人数が乗って重量が重くなっては、鉄や、鋼の板バネではここまで衝撃を吸収しきれませんね。」
「これでショックアブソーバーがあれば申し分なかったんだが・・・。」
「しょ・・・しょっくあぶそーばー?って何ですか?」
しまった!、元の世界の知識をうっかり言葉にしてしまった!こうなれば自分のアイデアとして言うしか無い!
「ショックアブソーバーというのは板バネで吸収しきれない衝撃を補助するものだ。」
そう言って掻い摘まんで説明をした。チョコロールは目を輝かせながら、その話を聞き入っていた。
「と・・・と言う事は、そのショックアブソーバーを取り付ける事が出来れば、もっと乗り心地が良くなると言う事なんですね!?」
「ま・・・まあ、そう言う事になる。」
冷や汗をかきながらも、そのあともこの馬車にあんな事やこんな事が出来れば良いとお互いに話を弾ませた。
そしてチョコロールのメカヲタク説は、俺の中で確信に変わった。
午後に入り、御者はブリットに交代となった。もちろん隣にはモンブランが一緒だ。
動き出した直後から、ブリットとモンブランは話に華を咲かせていた。どんな話で盛り上がっているのだろうか?
俺は動き出す馬車の振動を直に感じていた。新しい馬車が動いている時に、中にいるのはこれが初めてとなる。
今車内にいるのは11人だ。御者台も含めると13人となる。車内の補助席を全て展開すれば、15人プラス御者台2人で、17人までが乗る事が出来る計算になる。
馬車道を進む馬車は、当然舗装された道を進んでいる訳では無い。所々デコボコがある。その衝撃もフワリとした感覚は有るものの、がつんとした衝撃にはならなかった。確かに今まで乗ってきた馬車の中で、一番快適な乗り心地だ。
「良い仕上がりになったな。」
俺がそう言うと、
「そうですね。僕も意固地にならず、もっと早く馬車を持つ事に賛成すれば良かったと思いました。」
ヘンリクは馬車の乗り心地に感動したのか、今まで反対した事を反省しているようだった。
「いや、ヘンリクの反対していた期間があったから、ここまでこだわった馬車がイメージ出来たんだ。感謝しているよ。」
俺もヘンリクが反対し続けた事については、何とも思っていなかった。
「しかしこれで何処にでも行けるね。」
エステルもお気に召したようだ。
座席は前後は普通のバスと同じくらいの膝距離と言えるが、横幅は広くなっている。
通路は普通に歩けるくらいには確保したので、御者の交代も一度外に出なくても、正面の扉から交代が可能となっている。
基本的には一番後ろが出入り口になっているが、万が一襲撃などがあった場合、出入り口が一カ所だと対応が出来なくなってしまうからだ。
窓から飛び出すという方法もあるがそれは最終手段だろう。
夕方近くなり、野営の出来る場所を探す。適当に広くなった場所を見付け野営の準備を始めた。
早速馬車の寝床の準備だ。シートを倒し、補助席を広げ、背もたれを倒す。それらを留め金で固定すればフラットな寝床の完成だ。
この馬車には、エクレア、アプリコット、パンナコッタ、チョコロールのメイドゴーレム達4人とキュリーシアに使って貰う。
そしていつものように慣れた作業で各自役割をこなしていく。俺は、この馬車の設営とテントの設営、焚火の準備だ。鍋や食器類も魔法鞄から出していく。
それらの準備が整う頃には、ヘンリクとエリックが焚火用の薪を持って帰ってくる。火をおこし火力の調整をしていれば、ブリットとエイナルが大漁の獲物を持って帰ってきた。
う~ん・・・メイドゴーレム達も同行してくれるおかげで、狩りが捗るのは有難いが、食べきれる量じゃ無い。これからは交代制にしようかと思ってしまった。
調理はブリットとエステルが行う。これもいつもの役割だ。今回は鳥の姿焼きと、ウサギと豆の煮込み料理だった。
食事も一段落して、明日の予定を確認する。明日の夕方にはローランの街に到着する予定だ。
「明日の到着の予定は夕方だ。宿を探してその日は休むとしよう。カヌレ博士の研究所に繋がる転移ポータルの情報収集は、翌日からにしようと思うがどうだ?」
「まあ、夕方からせわしなく情報収集するよりも、翌日1日使って情報収集したものを吟味した方がより確実性は高まるな。」
エイナルは最も効率の良い結論だと言わんばかりに賛同してくれた。俺にはそれ以外にも、そうしようと思った理由がある。
「まあ、情報収集の為だけに専念せず、初めて行く街でもある。各自しっかり見て回って欲しい。キュリーシアもブリット達と一緒にローランを巡ってみてくれ。」
するとキュリーシアは、
「解りました!」
と責任感をにじませるように返事をした。情報収集をしっかりやるんだと決意を滲ませてしまったらしい・・・。
すると俺の隣にいたブリットは俺の背中を軽くバンバン叩いて、
「任せなさい!」
と言ってウインクした。ブリットは俺の意図を理解してくれたらしい。
翌日、午前の御者はエイナルだ。俺は馬車の中を堪能している。やはり座席の前の編みポケットは欲しかったかも知れない。そんな事も考えていたら、ブリットが、
「もしこれから四季が復活するなら、夏や冬用にエアコンが欲しいよね。」
と言ってきた。それに即座に反応したのはチョコロールだった。
「ぶ・・・ブリットさん!そのえ・・・えあこん?って何ですか?」
かなり食いつき気味で迫ったものだから、モンブランがガードした。
「チョコ!僕のマスターに失礼しないで!」
ブリットはチョット引き気味だ。それにチョコロールがハッと気が付いてシュンとしてしまった。
「も・・・申し訳ございません・・・。」
そう謝るチョコロールに、俺がエアコンの意味を説明した。
「エアコンというのは、温度を一定に保つ装置の事だ。例えば馬車の中が暑くなりすぎないようにしたり、寒くなり過ぎないようにする。と言う意味だ。」
「え・・・あ・・・なるほど、それなら魔法でも出来そうですね・・・。」
魔法と聞いて、今度はエステルが食いついてきた。
「温度を一定に保つ魔法なんてあるの!?」
「え・・・あ・・・博士の研究所は、一定の温度に保たれていましたから、魔法の効果だと思います。」
チョコロールはそう答えた。するとそれに追随するように、キュリーシアがその魔法について回答してくれた。
「確かにそう言う魔法はありますね。確か・・・上位魔法の季候を操る種類の中に含まれていたと思います。」
エステルは上位魔法と効いて、ガックリと肩を落としてしまった。
それもそのはずで、この国では上位魔法の取り扱いは国の管理する所にあるのだ。一介の冒険者が取り扱えるものでは無い。
そんなエステルを不思議に思ったのか、
「何をそんな残念そうに、肩を落としてるんですか?」
と聞いてきたものだから、俺が代わりに説明した。すると、
「魔王領ではそんな制限は無いですよ。街に行けば上位の魔法書も取り扱ってますよ。」
と、驚きの発言をした。危険な魔法が多くあるから、国の管理する所にあると言っていたものが、魔王領では普通に取り扱われているというのだ。
エステルの目が輝いた!そして、
「今すぐ魔王領へ行きましょう!」
と言い出した。
「流石にそれは出来ない。」
と答え、もう少し我慢するように宥め賺したのだった。
そんな一幕もありつつも、無事に一行は港町ローランへ予定通り夕方には到着した。
流石に港町と言うだけあって、潮の香りが漂う賑やかな街だった。
街には北から入る事になる。大通りは北から南へ向かう一本道がある。その先はキラキラと光る光景が見える。きっと海なのだろう。南北に延びる大通りの賑わいを、馬車越しに眺めながら海へ向かって行くように移動した。
宿泊先は海にほど近い、馬車を預かってくれる宿にし、大部屋を3部屋取った。
夕食は1階の食堂で取る事にした。注文した料理は当然魚料理が中心だ。と言うより魚料理以外のメニューが無かった。
運ばれてくる料理は、どれも美味しそうだった。
よくよく考えてみれば、川魚以外で魚介類は、この世界では初めて口にする事になる。もう既に何ヶ月もこちらの世界で生活していたのに、今更ながらに気が付いた・・・。
皆もそれに気付いたようで、運ばれてきた料理に舌鼓をうった。
それぞれ注文した料理に満足したところで、改めて明日の段取りを確認する。
「明日はカヌレ博士の研究所に関係しそうな情報が無いか調べてみてくれ。急ぐ必要は無い。集まった情報を精査する必要もある。よって、明日もここに泊まる予定だ。皆もそのつもりでいてくれ。」
こうして夕食を兼ねた再確認は終了した。
翌日は男性陣は各自、女性陣はまとまって情報収集という名の散策を開始した。もちろんメイドゴーレム達は同行している。
街を散策していると潮の香りもさることながら、嗅ぎ覚えのある臭いがあちらこちらから漂ってくる。
チョコロールも気が付いたのか、鼻をスンスンさせている。
種類も様々だが、第一にピンときたのは元の世界で伊豆へ行った時に嗅いだ干物の臭いだ。
よく見ると色々な魚が天日干しにされている。ふと懐かしく思い、干物を扱っている店に顔を出す。
そこでここには初めて来た事を伝え、魚の種類の話や最近の変わった話、ここまで来たなら絶対に見に行くべき場所などを聞き出していった。
そんな中、絶対に近づいては為らない場所の話が出てきた。それが気になり詳しく聞いてみる事にした。
「それは何処にあるんだ?うっかり近付いても困る。」
そう店の亭主に言うと、
「ここから東へ馬車で2時間ほど行った所にある森だ。地元じゃ『迷いの森』って言われてる。その森に入ると、入った場所に戻って来ちまったり、全然方向違いの海に出ちまうらしい。」
そう言って場所を確認する。それはチョコロールが先日言っていた場所と重なる。取りあえず気を付けようと言う素振りで、
「そんな危険な場所があるなら、近付かない方が良さそうだな。良い情報をありがとう。」
と、そう言って、土産用の干物を購入して店を後にした。そのあとも観光をしながら情報を集めたが、共通して、「東の森には近付くな。」という話題が上がった。
夕方になり宿へ戻ると、皆も帰ってきていた。
丁度良い時間だったので、夕食を注文し全員の食事を取りながら、情報のすりあわせを行った。
結果はここから東に馬車で2時間ほど行った迷いの森が、カヌレ博士の研究所に繋がる転移ポータルのある場所だと結論づけた。
「問題はその森にどうやって入るかだが・・・我々も弾き出されんか?」
俺のその疑問にエクレアが答えた。
「その問題はありません。カヌレ博士が作ったメイドゴーレムシリーズやそのマスターは転移ポータルまで移動出来ます。その迷いの森というのは、対象外の人物などを特定して森の外へ催眠魔法で誘導する魔術です。」
「そう言う事ならば問題はなさそうだな。ちなみに馬車はどうする?」
新車の馬車を置いて行って盗難に遭ったら目も当てられない。そんな心配をすると、
「馬車ごと行っても問題ない広さです。当時カヌレ博士も馬車で乗り込んでいました。」
「他に何か気になる情報はあったかの?」
皆に確認するが、やはり『迷いの森』以上にカヌレ博士の研究所に関わるような情報は無かったようだ。
「よし、では明日の朝出発して、カヌレ博士の研究所を目指すとしよう。」
そう言って、明日の準備の為食事を終えて解散となった。




