世界が危機に瀕しているかもって話になってきた!?
「何で、魔族の娘が冒険者ギルドの本部じゃ無くて、ヨーン達の宿泊している宿にいるのかな?」
マーリンのこめかみにうっすらと青筋が見えるような気がする・・・。
しかしこちらとしても、拷問を受けている所に出くわしたのだ。そのまま返る訳にはいかなかったし、まして放置する訳にも行かなかった。何より、マーリンの居ないギルド本部が信用出来なかったのだ。
「マーリン殿、勝手な事をして済まなかったな。ワシたちが魔族の娘に面会へ行ったら拷問をしている所に出くわしたのだ。治療する為に部屋を貸すよう要請したが誰も取り合ってくれなかったのだ。」
俺は正直に話をした。魔族の娘と表現したが、実際は魔王領の王女だ。共存を願う魔族をそのままにしておく訳には行かなかった。
「しかし牢屋は1つ使い物にならなくなっているし、ギルドの職員も一人大けがをしちまってる。ギルドの連中も何も話さないし、ヨーン達が来たあと、いったい何があったんだい?」
やはりギルドの連中は魔族の事を良く思っていないようだ。自分達にとって都合の悪い事はだんまりを決め込んだという訳か・・・。
「マーリン殿、ここでは何だ・・・落ち着ける場所で話をしたい。」
そう言って、チラリとキュリーシアの方を見て促す。マーリンもそれを理解したのか、黙って指示に従ってくれた。
落ち着ける場所へ移動し、マーリンに事の成り行きを説明した。
俺たちが到着して、魔族の娘の居る場所へ案内させたら牢獄で会った事、そこでは尋問という名の拷問が行われていた事、それを見て俺がキレた事、介抱する為に部屋を貸すよう要請したが誰も取り合わなかった事。
そして先ほどマーリンが到着するまでに話した内容を掻い摘まんで説明した。
「てことは何かい?あの魔族の娘は、魔王領の王女でもあるってことかい?それに異次元へ転移させたと思った魔王領が実はすぐ近くにあったって?一番信じられ無いのは、魔族が文化を持って生存しているって所だね。とてもじゃないが信じられる話じゃ無いね・・・。」
言いたい事は良く解る。そもそも異次元転移という魔法だって疑わしい。もしそんな魔法を開発する事が出来るというのであれば、文化レベルはこちら側よりも上を行っている事になる。
「ワシもそう思う。しかし、次元転移の魔法まで開発してわざわざ王女が自ら、こちらの世界に来ると言う事は、それほど緊迫した状況ではあるはずだ。王女は国王と会って話をしたいと言っておったが、国王が会って話を聞いてくれるかも疑わしいしの・・・。」
魔族に会っても良いという国王がいるだろうか?それを引き出すにはそれなりの対価が必要になるはずだ。
「そうだね。国王が会うとは到底思えない。」
王女ともう少し話をする必要があるだろう・・・。
「申し訳ないが、この案件はワシ等の手には余る。まだ続けろというのであれば、これからもう少し詳しく話を聞いてはみる。忙しいとは思うのだが、マーリン殿も立ち会ってはくれんか?どのみち本部にあの子を返せば、同じ仕打ちを受ける事になるだろ?ワシ等はあの娘と話をして、既に魔族だからと行って放っておく事は出来ん。最終的に物別れに終わるとしても、あの娘を魔王領へ帰すまでは見届けたい。」
俺はマーリンに立ち会う事を要請した。俺たち一介の冒険者がどうこう出来る話では無いからだ。最悪は諦めて魔王領に返って貰う事になるだろう。
「解った。事が事だからね。各地の災害に対する精霊術士の派遣の手続きは終わったから少しは時間も出来た。こっちも付き合うとするよ。」
正直助かる。話をしていてもこちらの世界独特の問題で、解らない事などがあった場合マーリンが居てくれれば内容を租借出来るようになる。
「助かる。じゃあ、早速話の続きをしに向かうとしよう。」
そう言って、マーリンを連れて、キュリーシアのいる部屋へ向かった。
「待たせて済まんかったの。込み入った話をしていて時間が掛かってしまった。やはり、今の状態では国王と会う事は難しいようだ。」
俺はマーリンと話した事をキュリーシアに伝えた。
「それは何故なのでしょう?魔王領が滅ぶと言う事は、こちら側の世界にも何らかの影響が出るかもしれないのですよ?」
何となく想像していた事が言葉となって発言された。俺は心のどこかでやっぱりか・・・と思ってしまった。しかしマーリンは違った。
「それはどう言う意味だい?」
マーリンが眼光を鋭くして食いついた。
「私たちの研究では、元々1つの世界であった一部を強制的に分離し、隔離した事で、精霊の力が著しく損なわれていると出ています。魔王領では既に精霊の力が弱まりつつあり、災害が発生し作物も育ちにくくなってきています。それはこちら側の世界にも同じ事が起こりえる事だと結論が出ているからです。」
と言う事はやはり、世界各地で起こっている災害の原因は、精霊王の力が弱まっているか、もしくは暴走しかけていると言う事か?
「今調査をしている所だが、確かに緑地が砂漠化したり、湖の水位が下がるなどの現象が起きている。それは、魔王領が別次元に行ってしまった事が原因だというのかい?」
「断言は出来ませんが、どちらの世界にも似た現象が起こりつつあると言うのであれば、その可能性は高いと考えます。2千年の長い年月を掛けて徐々に弱まっていったと考えるか、ここに来て急に弱まったのかは解りませんが・・・。」
ふう~・・・と、マーリンはため息をついた。俺はこの会話でもう一つの要因を思いついた。
「マーリン殿、これは遺跡の30階層の件も何か関わりがあるのでは無いのか?」
俺がそこまで言うと、何を言いたいか察したようにマーリンのため息がさらに深いものとなった。
「その可能性は捨てきれないね。他国の災害と比較してこのルステーゼ王国の平穏な状態、まだ、各地に散った精霊術士の調査報告を見てみないと結論は出せないが、放置出来ない内容である事は間違いなさそうだね。」
俺とマーリンは頷いた。
「何か他にもこの現象に関わる要因があると言う事ですか?」
そこにキュリーシアが訪ねてくる。話して良いものか悩んだが、マーリンは問題ないだろうと行って説明をする。
「2千年前の大戦で魔王領を別次元へ飛ばした装置に使われたのが精霊王のかけらだ。そのかけらは今もこのルステーゼ王国に眠っている。直接原因があるかと問われればそれは解らないとしか答えようが無いけどね。」
しかし、可能性はあるだろう。場合によっては精霊王のかけらも解放する必要が出てくる。
「結論を出すのに2日から3日、時間をくれないかい?それまでには調査隊の第1陣が返ってくる。その報告を元に国王へ報告をして、この先どうするかを決めたい。それまではヨーン達と行動を共にすると良い。」
謁見出来るかは解らないがと付け足された。
「キュリーシア殿をこちらで預かれと?」
俺が確認する。
「ギルドが預かればまた同じ事になりかねない。それならヨーン達に預かって貰った方がキュリーシア殿も安全だろう。」
マーリンが答えた。確かにギルド本部には預けていられない。だけど連れ回す訳にはいかないだろう。頭にある角が目立ちすぎてしまう。
「しかし連れ回す訳にはいかんだろうな・・・」
そんな事を口にすると、ブリットが何でも無い事のように言った。
「別に角が見えなくなれば良いだけの事でしょ?それなら簡単よ!」
そう言って席を立ち、自分の魔法鞄の中から色々な洋服などを引っ張り出した。そしてその中から帽子を取り出す。それを被せると角が目立たなくなった。
「服も着替えさせるから男性陣はチョット外に行っててね。」
そう言われると、部屋から追い出されてしまう。
暫くワイワイ声が聞こえていたが、中に入って良いと許可が下りたので室内へ戻ると、見慣れない綺麗な女性が立っていた。
それは間違いなくキュリーシアだ。角は可愛らしい帽子と髪型のアクセントで見えなくなっており、服装も年相応のものを着ていた。
「これなら街を一緒に散策しても問題ないでしょう?」
ブリットは胸を張って自慢した。俺はマーリンへ顔を向けると、
「まあ良いんじゃ無いか?」
と言って散策の許可を出してくれたのだった。キュリーシアも、
「表に出ても良いんですか!?」
そう言って喜んでいる。やはり、王女としては他国の王都の景観は興味があったのだろう。
「じゃあ、早速出掛けましょうか?」
ブリットはそう言ってキュリーシアの手を引いて出掛けていった。エステルやニーニャも同行する。当然メイドゴーレムのモンブランとパンナコッタもその後を追ったのだった。
多分ブリットなりの気遣いなのだろう。危険を冒してまでこちらの世界へ来たのに、理由もわからず閉じ込められ拷問を受けたのだ。
今も、魔王領の領民がどうなっているか気が気では無いだろう。
少しでも気持ちを前向きにさせてやりたいのだろうと、今まで俺もいざというときに背中を押してくれたブリットの性格を何となく察し、程ほどにな。という注意をしながらも許可を出した。
「さて、調査団が戻ったらとは言ったが、間違いないだろうね・・・。」
ブリットがキュリーシアを連れ出したのを確認してから、マーリンはそう言った。
「また遺跡巡りか?もうこりごりだぞ?」
30階層まで行くとなると気が滅入る。
「その前に精霊王のかけらの解放の仕方も解らんし、そもそも国王がそれを許可するのか?」
多分精霊王のかけらを解放すればルステーゼ王国の季候が変わってしまうだろう。そうなれば、国民も皆途方に暮れるだろう。もし解放するとなってもその解放の仕方が解らない。
「限界突破してるんだから30階層までなんて問題ないさ。それよりも確かに解放の仕方だね。そもそもその精霊王のかけらとやらがどんな形をしているのかすら解らない・・・。国王も・・・ん~・・・そう簡単には許可はしないだろうね・・・。」
・・・だろうな。流石のマーリンも歯切れが悪い。
「それに、あの王女は魔王領が文化を持ったと言っていたが、それはあくまで彼女が言っているだけの話だ。実際にどれだけ種族がいて文化を持っているのかを知る必要も出て来るだろうな。」
エイナルが話に加わる。確かにそうだ。魔族とひとくくりにしているが、どれだけの種族がいてどれだけの文化を発展させているかは誰かが確認しなければ解らない。
「魔族が文化を持つと聞いて信じられるか?」
俺は、残ったメイドゴーレム達に聞いてみた。
「私たちが戦っていた頃では信じられません。魔族は弱者から奪う事を当たり前と思っていたのですから。しかし、先ほどのキュリーシア様との会話を察するに、この2千年で魔族にも変化が有ったものだと考えられます。」
代表してエクレアが答えてくれた。
確かに知的な受け答えだった。それに今回の問題も自ら解決しようと動いていたようだ。それは弱者から奪う者の行動とは結びつかない。
「なんだか大事になってきましたね・・・。」
「僕ついて行けない・・・。」
ヘンリクとエリックがゲンナリしていた・・・。俺もついて行けないよ!
取りあえず、頭の中を整理しよう。魔王領の復活をどうするのか?遺跡にある精霊王のかけらをどうするのか?どうするかという所はこの2点で良いな?
続いてそれに付随する問題点だ。魔王領には本当に人族の共存が出来るほどの文化があるのか?精霊王のかけらを解放する方法は何処にあるのか?
どちらにしても、さっきまでの話が本当なら、精霊王を正常化しなければこの世界の先は無いと言う事だ。
友好国でルステーゼ第1王女を嫁に出すほどの関係国、リスタニア王国が砂漠化で困っているのを無視して自国の利益を優先すれば、当然リスタニア王国を含め世界中から非難の的にされるだろう。そう考えれば精霊王のかけらの解放は最終的に受け入れるはずだと思う。
ただこれには大きな問題がある。それはここに居るもの達だけの推測に過ぎないと言う事だ。
「精霊王のかけらを解放する方法にしても魔王領の復活にしてもその根拠が必要だ。それが出来なければルステーゼ王国は2千年続いた安寧を捨てる事は出来んだろうな・・・。」
俺はそう結論づけた。前途は多難だ・・・。




