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王都ルステーゼにて魔族と邂逅

 マーリンと別れてから3日後、レンタル馬車を2台貸し切って王都ルステーゼへ向けて出発した。


 出発するまでの間に、色々と魔王領と魔法大国との大戦について調べた。さすがにこの知識は持ち合わせていなかったので、勉強しなければならなかった。


 大戦は2千年前にさかのぼる。今のルステーゼ王国のある地に魔法大国が存在した。魔王領は北の山脈を隔た先に存在していた。今は不毛の大地と呼ばれていて、草木も生えない荒涼とした大地が一面に広がる土地となっているそうだ。

 

 大戦の発端は魔王領からの侵略から始まったとされる。魔法大国はそれを防衛する為に戦ったのだ。


 その戦いは100年にも及んだという。戦いの行方は、魔法大国が最終兵器を投入し、魔王領をそのまま次元の彼方へ葬り去る事で、魔法大国の勝利で終結したのだそうだ。


 これは有名な話で、子供の絵本にもなる程だそうだ。そして、子供が悪さをすると、親は、「魔王領のある世界に送られる」と言って叱る程だそうだ。


 良くあるシチュエーションではあるが、実際次元の彼方へ送られた魔王領の住民がどうして、こちらの世界に来る事が出来たのかが不明だ。尚且つ、マーリンの話では共存したいと言ってきているのだという。


 と言う事は、こちらの世界で生き残った魔族が集まって、市民権を得ようと台頭してきたと考えるのが普通だろうか?


 しかし、2千年前から今まで表に出て来なかったのに、今更出てきて共存を訴えるだろうか?


 その辺の事はやはり直接会って、話を聞いてみないと解らないだろう。



 道中は3日間の日程だ。途中村などはあるが、宿泊施設がない。いつもの事だが、日が暮れる前に野営を行い、各自の役割に付く。


 俺とエステルはテントの設営や火起こしをする。今はチョコロールとパンナコッタも手伝ってくれる。


 薪拾いはヘンリクとエリックだ。こちらもエクレアとアプリコットが同行していった。


 狩りはエイナルとブリットが行く。これもガトーショコラとモンブランが同行した。


 メイドゴーレム達は食事を必要としないので、そこまでの大所帯で行動しなくても良いのだが、どうしても付いて行くと聞かないのだ。仕方が無いので各自に任せる事にしてある。


 設営の準備を済ませ、適当な乾いた枝で火をおこすと丁度薪拾い組が戻って来た。


 案の定明日の薪拾いが必要ない位に大漁だ。


 ブリットとモンブラン、エイナルとガトーショコラもそれぞれの方角から戻って来た。こちらも大漁だった。鹿肉3等分、ウサギ肉10匹分あった。


 これも明日は狩りの必要は無いだろう。モンブランは自分のマスターを自慢するように、


「ブリットお姉ちゃんは凄いんだよ!鹿の直ぐ側まで気付かれずに近づいて行って一撃で仕留めちゃうんだ!」


 と、身振り手振りを踏まえて説明する。すると、ガトーショコラも負けじと、


「あら?エイナル様は相手に近づかなくても投げナイフで一撃ですわ。」


 と応戦する。マスター自慢は良いのだが、二人のメイドゴーレムが火花を散らしている背後で、困った様子のブリットとエイナルが見ていられない・・・。


 微笑ましいのか何なのか・・・。しかし、明日の分まで調達出来たと前向きに考えれば、今回の事は決して悪い事では無いはずだ。そう思って俺は言った。


「これだけあれば、明日の薪拾いや狩りは必要なさそうだな?お疲れ様。食事の準備はブリットに任せて良いか?明日の分の肉の加工も必要になるな。」


「大丈夫よ!この魔法のナイフがあればちゃちゃっと美味しい料理を用意しちゃうから。」


 ブリットの腕では無いか?と心の突っ込みを飲み込みつつ、後は任せる事にした。


 焚火の周りに捌かれたウサギの肉が炙られていく。真ん中には鍋が置かれる。最近ではお馴染みの煮込み料理だ。


 それら料理に舌鼓を打ちつつ、俺は対魔族用決戦兵器として作られたと言うメイドゴーレム達に、魔族の件について聞いてみる。


「メイドゴーレム達(俺は心の中で勝手に洋菓子スターズと言っている)は、魔族は倒すべき敵だと今でも思うものなのか?」


 先日もマーリンから魔族と聞いて反応していた。もし倒すべき敵であると答えるのであれば、魔族と会話をする際には同席させず、宿に残しておこうと考えていた。するとエクレアが代表して回答してきた。


「私たちは確かに対魔族用決戦ゴーレムとして作られました。しかし優先順位の最上位はマスターをお助けする事です。魔族に攻撃しては為らないとお命じになるのであれば、攻撃しません。しかし、魔族以外でもマスターに攻撃を加えようとする者が有れば、私たちは容赦なく反撃致します。」


 きっと作られた時代が悪かったのだろう。その当時は魔王領との戦争の真っ最中だった。だから、対魔族用決戦ゴーレムと言う名称になってしまったのだろう。元は、契約した主人を守る事が主な使命だと考えた方が自然だと思えた。


 俺はそれ以上の事は何も言わず、当日は彼女たちも魔族のいる席へ同席して貰おうと心に決めた。


 夕食を済ませ、火の番を決めると、各自就寝に入った。テントは2張りとも女性専用だ。男性陣は馬車の中で仮眠を取ったが、これも揉めた。


 ブリットとエステルのメイドゴーレムは同じテントに寝る事になったのだが、それ以外のメイドゴーレム達が暫く納得しなかった。どうにかなだめすかして4人にテントに入って貰ったのだった。


 守ってくれるのは良いのだが、見た目が年頃の女の子では、こちらが困ってしまう。


 翌朝は日の出とともに出発し、2日目も順調に馬車は進み初日の野営の残りを食料として過ごした。


 3日目も順調に馬車は進み、夕方には王都に到着した。早速宿に馬車を預けてチェックインを済ませる。


 今回はギルドの依頼なので個室では無く、男女別に大部屋を3つ用意して貰ってある。


 明日は冒険者ギルド本部に居るという魔族とご対面だ。



 翌日、冒険者ギルド本部の受付に挨拶に行った。マーリンは別件の調査で、既に居ないとの事だった。きっと他国の災害についての件だろう。


 俺たちの事については話が通っていたので、魔族の元へ案内される事になった。

 案内されるがままに付いて行くと、少しずつ違和感を感じるようになったのだ。


「おい、魔族を保護していると聞いたのだが何処へ向かっているのだ?」


 俺は違和感を感じながらも質問を飛ばす。どう見ても向かう先は地下だ。石の壁に石の通路。まるで牢獄では無いか。


 実際にそこは牢獄の一角だった。暫く歩くと声が響いてきた。男の怒鳴り声だ。耳を澄ますと内容が聞こえてくる。


「・・・何が目的だっ!」

「・・・また大戦でも起こすつもりなのか!」


 など、会話というよりも、一方的にまくし立てているように思える。


 もしそれが魔族相手に話しているのなら問題だ。それ以前の問題に、その裁量権は俺たちにある。他の者が入る余地は無いはずだ。


 俺は急いで声のする方へ駆け出す。皆も同様に付いてくる。その場所は牢獄だった。


 中には全身に傷を負った、頭の付け根に2本の角を生やした魔族の娘の姿があった。


 もう一人は鞭を振り回し、目を血走らせた男がいた。もはや何を言っているかも解らない奇声を上げながら、鞭を振り下ろそうとした所を俺はありったけの声で怒鳴り声を上げた。


「そこで何をしているっっっ!!!」

 

 その声で正気に戻ったのか、鞭を振り上げたまま男はこちらに振り向いた。


「!っこれは今、尋問をしている所でして・・・」


「何が尋問だっ!!」


 俺は怒りのあまり、自分の持つバトルアックスで牢屋の格子を切り裂き、中へ入っていった。


「ヘンリク、回復魔法をっ!」


「っ!はい!!」


 そう指示をしながら、鞭を持つ男の方へ詰め寄り、着ている鎧を掴んだ勢いで俺の目線まで自身の腕力にものを言わせて強引に引き寄せた。


「その尋問も含めた裁量権はワシ等にあるはずだが?何を勝手な事をしているっ!」


 俺は怒りのあまり自分がどんな顔をしていたか解らなかったが、男は目を白黒させて、


「皆さんが来る前に、少しでも情報を聞き出す為に尽力したしだいです・・・」


 などとの賜った。白々しい言い訳も甚だしい。俺は、


「冒険者カードを出せ。このことはギルドマスターのマーリン殿へ報告する。今回の事が切っ掛けで本当に戦争にでもなったら、お前は最前線でしっかり責任を取るんだな!」


 そう言って冒険者カードを引ったくり、思い切り男の鎧を突き飛ばした。俺の筋力は最大値だ。レベルの差を差し引いても、男は宙を舞うように牢屋の壁に激突して気を失った。


「誰か、こいつを空いてる牢屋に放り込んでおけ!」


 ギルドの職員が慌ててその男を引きずっていくのを目にしながらも、俺の怒りがまだ収まらない・・・するとブリットが、


「ヨーン、深呼吸・・・。」


 そう言って背中を叩いてくれた。フーッと息を吐いて気を落ち着かせる。


「すまんな。頭に血が上りすぎた。ヘンリク、魔族の娘はどうだ?」


 心配になりそちらに顔を向ける。


「怪我の方は大丈夫です。既に完治しました。しかし精神的疲労の方が・・・。」


 あれだけ鞭で打たれたのだ。俺たちがもっと事の重大性に気付いて、迅速に行動するべきだった。そうすれば、彼女はこんなところで鞭に打たれずにすんだかもしれない。


「誰か彼女を休める場所へ案内できんか?」


 すると、誰も近付こうとしない。・・・そうか、魔族は忌み嫌われている存在だ。俺たちがここまでする方がおかしいのかもしれない。ならばと、


「お前達が動かないのであれば、ワシ等が勝手にやらせて貰うが文句は無いな?」


 そう言って、誰も動こうとしない事を確認し、角や破れてしまった服を目立たないようにマントを被して隠し、冒険者ギルド本部を後にした。そして魔族の女性を宿へ連れて戻った。


 魔族の娘は女性部屋の一室へ連れて行き、看病は女性陣に任せる事にした。


 翌朝、魔族の娘が目を覚ましたと、エイナルが報告しに来てくれた。魔族の娘の居る部屋へと入ると、そこには年の頃は20才位で、耳の裏から額に掛けて沿うように生えた角、肩より少し長いぐらいの黒い髪の魔族の女性がベッドに腰を掛けていた。


 魔族娘は俺たちが入ってくると、怯えるように震えていた。俺は直ぐに、


「昨日はスマンかった・・・。もっと早く駆けつけておれば、こんな事にならずに済んだのだが・・・。せっかく共存出来ないかという提案もこれでは台無しじゃな・・・」


 謝罪とともに、共存の提案を知っている事を示唆する発言をした。すると魔族の娘は怯えた顔に力を取り戻し、話をし始めた。


「昨日は助けて下さり、ありがとうございました。」


 そうお礼を言ってきた。


「いや、当然の事をしたまでの事だ。気にせんでくれ。それよりも、魔族と人族の共存を望んどるのは本当かの?」


「はい。私たち魔王領の魔族は皆、人族の居るこちら側へ戻る為の異次元転移を希望しています。2千年もの長きにわたり、異次元で魔族のみの生活をしてきた事で、独自の文化を発展させてきました。2千年前のように戦闘で物事を解決するような事はありません。」


 ん?魔王領?異次元転移?言っている事がさっぱり解らない。こちら側で生き残った魔族の市民権を認めるレベルの話では無くなってきたぞ!?


「申し訳ない。ワシの勉強不足なのかもしれんが、魔王領は2千年前の大戦で異次元に飛ばされたとこちら側の記述にも載っておったのだが、娘さんはその魔王領から来たというのか?」


 もしそうだと言うのであれば、この魔族の娘は異次元から、こちらの世界を渡ってきた事になる。


「はい。魔法大国の攻撃で確かに異次元へ魔王領ごと転移してしまったと、こちら側の記録にもあります。しかし、その次元の先は、こちら側とわずか薄皮一枚で隔てただけの異次元でした。行ける範囲は限られましたが、魔王領から出てこちらに来れば人族の発展は限定的に見る事が出来ました。しかし、不思議な事に人族は私たちを認識する事はありませんでした。知恵のある魔族は長い年月を掛け、次元を渡る魔法を編み出しました。しかし、魔王領全域を跳躍させる程の魔力を集めるには至りませんでした。」


 しかし、そうであればその異次元で、魔族だけで平和に暮らせば良いだけの話では無いのか?その事を聞いてみる事にした。


「何故、次元跳躍の研究までしてこちら側に戻ろうとしたのかの?今、娘さんが危険を冒してまで、こちらの世界へ来て共存の道を選ぶ必要があったのだ?そのまま魔族だけで平和に暮らす道があったのでは無いかの?実際に2千年もの間そうしてきたのだろ?」


 俺にはこの娘が無理をする道理が解らずにいた。


「もしこのまま何も無ければ、そうしていたかもしれません。しかし次元の歪みに限界が訪れてきているのです。このままでは魔王領は次元の彼方へ漂流してしまう事になるでしょう。そうなれば、魔王領内も今の状態を保つ事は出来なくなってしまいます。そうなる前に元の状態へ戻したいのです。」


 ここまで話をしてやっと何となくだが理解出来たような気がする。


 ようはこちらの世界と魔王領のある世界は、シャボン玉がくっついたような状態なのだ。


 ただし、元は1つのシャボン玉だったと考えるならば、こちら側の世界から無理矢理引き離されたのが魔王領だから、当然シャボン玉のサイズも小さい。


 これが離れてしまえば、はじけてしまう恐れがあると言う事か?だが、その理屈から言えばこちらの世界も何かしら影響が出るのでは無いだろうか?


「しかし、何故君がこんな危険を冒してまでこちらの世界に来て、共存したいと申し出たんだ?それこそ、魔王本人がその話を持ち出したというなら理解も出来るが、そもそも君にその権限が与えられているというのか?」


 この娘が魔王とは到底思えない。とは言え、魔王からの特使として派遣されたとかなら考えられる。


「大変申し訳ありません。申し遅れましたがわたくし現魔王ギュレイドスが娘、キュリーシアと申します。父は重い病に倒れ病床についており、名代としてわたくしがこの交渉役に買って出たしだいです。是非、魔法大国の代表にお取り次ぎ頂きたいのです。」


 ・・・・大きな話になってしまった!俺は皆を見回してみる。すると皆は俺に向けていた目線を一斉に逸らした・・・。これは任せたという意味に捕らえよう・・・。


「申し訳ないが、魔王国は既に存在しない。今キュリーシア王女がいるここはルステーゼ王国と言う。一応、魔法大国の末裔が国王だとは聞いているが・・・」


 言葉を濁す。俺には国王に取り次ぐ程の権限は無い。せめてマーリンがいてくれれば・・・


「私の事はキュリーシアで構いません。是非ルステーゼ国王に会わせて頂けないでしょうか?」


 俺はどうしようか悩んでいると・・・


「魔族がここに運ばれたって聞いたが、間違いないようだね・・・。」


 颯爽とマーリンが現れた。タ・・・タスカッタ・・・

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