「鹿の角亭」の夕食での一幕
王都ルステーゼの冒険者ギルド、ギルドマスターのマーリンは、ヨーン達が夕食を取っている、「鹿の角亭」に同席していた。
しかし彼女は食事が喉を通らない。何故かというと、ヨーン達の周りにゴーレムが6人も居たからだ。
「ヨーン・・・このゴーレム達は皆、お前達がそれぞれ契約しているのか?」
なんだ?マーリンがプルプルしてるぞ?
「ん?ああ、そうだが?6姉妹だそうだ。長女がエクレアで、次女がガトーショコラ、3女がアプリコッテ、4女がパンナコッタ、5女がモンブラン、末妹がチョコロールだ。」
それぞれ紹介するとメイドゴーレム達がお辞儀する。そこまで聞いていたマーリンは遂に我慢の限界に達したのか噴火した。
「名前などどうでも良い!何処でこれだけ状態の良いゴーレムを手に入れたんだ!?」
俺はワザととぼけている。が、ここが潮時だろう・・・。既に契約は完了している。解除はゴーレムの破壊と同義だ。
「第1号遺跡から第6号遺跡の20階層からだが?最初は偶然隠し通路を見付けてな。そこにチョコロールが眠っておった。起きた所で話を聞いてみたが、ほとんど記憶がなかった。ただ姉妹が居るから目覚めさせて欲しいと頼まれたから、各遺跡を巡って目覚めさせたという寸法だ。当然後日報告には行こうと思ってたぞ?」
でたらめでは無いものの、取りあえずこちらの都合の良いように、話は改ざんさせて貰っている。
「で、その記憶は戻ったのかい?」
マーリンはそう聞いてきたが、俺はその事をすっかり失念してしまっていた。マーリンの指摘で気が付いた。あ、そうだ!共有している記憶というのを聞いていなかった。
「はい。それは全て共有出来ました。しかし、マスター以外にはお話し出来ない内容もあります。」
代表してエクレアが話すが、守秘義務はしっかりしているらしく、話しても良い相手はマスターに限定されるらしい。その辺はしっかりしているな・・・。
「マーリン。何が聞きたい?」
このままでは間が持たないだろう。まして、6体ものゴーレムを目の当たりにしているのだ。古代魔法大国期の事についても聞きたい事は山程あるはずだ。
「そのゴーレムを作った研究者の名前を知りたい。」
それなら俺でも知っている。
「博士の名前はカヌレと言ったかの?」
その名前を聞いたマーリンは驚いた!
「古代魔法大国期最高の魔導機博士のカヌレか!?」
そうなのか?俺にはその価値は、旨い菓子の名前としか解らない。
「カヌレ博士とメイドゴーレム達が言っていたからな。間違いはないと思うぞ?」
エクレアも同意する。
「そのカヌレ博士の作ったゴーレムが何故あの遺跡に眠ってたんだい?」
それは俺も知らないから、回答を促した。するとエクレアはとんでもない事を言いだした。
「それは、30階層に封印されている精霊王の欠片を守護する為です。この国は魔法大国のあった場所と思われますが、魔王領からの侵略の防衛ラインでもあったのです。その守護を精霊王の力で守ってきました。」
とんでもない爆弾が投下された気がする・・・。
「マーリン。そう言う事らしいが理解出来たか?ワシにはさっぱり解らん・・・。」
マーリンは開いた口が塞がらないとばかりに唖然としていた。それでも口をパクパクさせながらも言葉を発してきた。
「って事は、30階層には精霊王の欠片が眠っていて、今でもこの国を守っているって言うのかい?」
その質問の回答をして良いのかという風に、エクレアはこちらに確認をしてくるので、回答を促した。
「その通りです。ただ、我々もあの遺跡に封印された後、魔法王国と魔王領の戦いがどのように決着したかは解りかねます。」
マーリンもこれ以上何を聞いて良いのか解らないとばかりに頭を振り、はあ・・・と、ため息をついた。
そして、マーリンは頭を切り換え、本来の目的である昼間の依頼の件をメンバー全員に話し出した。魔族という単語が出てきた時には、メイドゴーレム達が反応したがそこは大人しくさせた。
「まあ、そう言う話だが皆どうする?ただ話を聞くだけなら良いが、場合によっては国家規模の戦争行為になりかねん。一介の冒険者がその片棒を担ぐ可能性もあると言う事を承知して欲しい。これはマーリン殿にも承知しておいて貰いたい。」
「そこまで難しく考える必要は無いと思うけどねえ・・・」
マーリンはそう言うが、言葉の通じる相手としかも共存したいと言ってきた相手に相対さなければならないのだ。
「マーリン殿は魔族は倒すべきだと考えておるのか?もしそう言う考えで居るのであれば、ワシは今回の依頼は受ける気は無い。」
ハッキリと断言した。周りを見るとメンバーも同様に頷いてくれた。
「マーリン殿や周りの人たちが、共存したいと言ってくる魔族を受け入れても良い、と考えて、前向きに動こうと考えているのであれば、協力は惜しまん。」
マーリンはため息をつきつつ、
「2千年前の喧嘩の相手に対して憎いも悔しいも無いさね。私としては、冒険者ヨーン達に事の真相を確かめて、白黒ハッキリさせてきて貰う為の依頼だ。それで納得して貰えないかな?」
「解った。その魔族に会って、話を聞こう。そして、本気で共存を望んでいるのか、ただ言葉だけなのか白黒ハッキリ見極めてこよう。・・・しかし責任重大だな。」
こんな重大な事を、俺たちに任せてしまっても大丈夫なのか?他に手が回らない事があるとは言っていたが、そこは信頼の重さと思って、こちらも責任を持って依頼を受けようじゃ無いか。
「万が一の時は私があんたらのケツを拭くさね。ヨーン達が来るまで、魔族は冒険者ギルド本部の預かりにしておくから、よろしく頼むよ。」
しっかりフォローはしてくれそうだ。
「では、王都に何時向かえば良いのだ?こっちは今、12人の大所帯だ。馬車も貸し切らにゃならん。って、そうだ、ブリット。馬車の設計図が出来たぞ。」
そう言ってすっかり忘れてしまっていた馬車の設計図をブリットに渡した。他のメンバーと確認し合って貰いたいが、かなりの自信作だ。
「問題なければ作って貰うぞ。」
その設計図をメンバーがのぞき込みながら、マイ馬車の事で喧々囂々している間に、マーリンと今後の事の打ち合わせを進める。
「出来れば明日にでもこっちを経って貰いたいのは山々だが、その大所帯となると参ったね。その馬車が出来るのはどのくらい掛かりそうだい?」
「発注もしておらんからな。詳しくは聞いていないが、さすがに最低半月は掛かるだろう?それに馬だって用意せにゃならん。とは言え乗合は難しいだろうな。馬車を借りられるか明日調べてみよう。目的地は冒険者ギルドの本部で良いんだろ?」
「ああ。すまないが頼むよ。」
「ヘンリク、スマンが明日、12人が乗れる馬車をレンタル出来るか確認してもらえんか?あと、マーリン殿、これは必要経費と言う事で構わんな?」
「解りました。だけどレンタルで12人が乗れる馬車って聞いた事がありませんね。最悪、2台でも良いですか?」
ああ、その手もあったか。
「構わない。よろしく頼む。」
「貸切2台分かい・・・仕方が無いね。請求はギルド本部にしておくれ。」
「ねえねえ、この馬車本当に作れるの?これが作れるなら私は賛成に1票入れるよ!」
そんな話をマーリンとヘンリクとしていると、ブリットはマイ馬車の事で大はしゃぎになっていた。どうやら相当お気に召したらしい。
「これならプライベートも守られて良いですね。」
ヘンリクが同調した。
「あ!僕も1票!中の構造が小型のバスみたくて良いですね!」
俺はそれをイメージして親父さんに伝えたんだから当然だ。
「これなら寝床の心配もしなくてすむな。それに乗り心地も良さそうだ。」
エイナルも賛成してくれた。
「私も1票。もう見合い席はヤダ・・・。」
エステルは妖精族だからと言って良くジロジロ見られてたものな・・・。
新馬車の反応は概ね良好だ。
「じゃあ明日親父さんに発注しておく。何時完成するかもその時確認するが良いか?」
「「「「「異議無し!!」」」」」
ニーニャを含めた全員の可決で製作が決定した。
マーリンも興味を持ったのか設計図をのぞき込んでいた。
「こりゃあ凄い!良くこんな事思いついたね!長旅をするにはもってこいだ!」
ここまで絶賛されるとさすがに照れる。
本当はドリンクホルダーや編みポケット、飲み物をまとめて収納するボックスなども備え付けたかったが、さすがにスペースが確保出来なかった。
ましてやドリンクホルダーなどがあっても、この世界にペットボトルは存在しない・・・。
直ぐにでも発注を頼みに行きたい所だが、今は夕食の真っ最中だ。馬車の話や最近の近況も含めてマーリンや俺たちの席の場は盛り上がった。
そんな中、昨日マーリンが言っていた、世界規模での災害と言う言葉が何なのか少し気になった。
「そう言えば昨日マーリン殿が言っていた世界規模の災害って言うのは何の話だ?差し支えなければ聞かせてもらえんか?」
すると、何やら言葉を探しているのか、差し障りの無い部分を掻い摘まんで説明してくれた。
ルステーゼ王国は西の隣国のリスタニア王国と友好関係にある。そのリスタニア王国の西側領土が徐々に砂漠化が進んでいるというのだ。
リスタニア王都からは離れている為、今のところ目に見えた被害は出ていないが、砂漠に埋まってしまった村人達が難民として増え始めているという。
その砂漠化も進行速度が徐々に速まってきていると言うのだ。
また、リスタニア王国最大の湖、フェルゼ湖の水位も徐々に下がってきているという。リスタニア王都はそのフェルゼ湖の畔にあるのだ。
それを聞いたメイドゴーレム達が、精霊の力のバランスが狂い始めているのでは無いかと指摘した。
砂漠化や水位の低下などは火の精霊の力が強まり、水や風、土の精霊の力が弱まっていると良く起こる現象だという。
また、洪水が発生する場合は水の精霊が強まり、嵐が起こる場合は、水と風の精霊が強まる。
と言った風に、本来は精霊の力のバランスが取れて初めて自然との調和が取れるが、どれか1つでもバランスが崩れるとそれが災害に直結するのだという。
マーリンも災害として認識してしまっていたようで、精霊の力には気が回っていなかったようだ。
「いや~・・・参考になった。現地には精霊術士にも同行して貰って再調査してみるとするよ。」
そう言って、マーリンは次の調査団についてまとめたいからと席を立った。俺たちも夕食を終え各部屋へと戻っていった。
夕食後、俺は、もしやっていればと淡い期待を持って、「ヤンの武具店」へ顔を出した。丁度店を閉める所だったようだ。
「店を閉める所すまんな・・・」
ギリギリ間に合ったようだ。
「何だ。ヨーンか?馬車の話は決まったのか?」
「おかげさまで全員から素晴らしいと絶賛を受けたよ。」
「そりゃあ何よりだ。じゃあ、早速作業に入らないとな。」
「で、どのくらいで出来そうだ?」
「日数か?金額か?」
親父さんはニヤリと笑って聞いてくる。オヤジのヤツ、ワザと聞いてきたな・・・
「日数だ」
「大体半月ぐらいだな」
おおよそ予想通りだな。そんな事を考えていたが、場合によっては直ぐに必要になるかもしれない。その時に箱だけでは困る。
「馬の用意も頼めるか?ヒョッとしたら直ぐに使う事になるかもしれん。」
「また急な話だな。馬は詳しくないが、知り合いに居るから良い馬を用意させよう。」
「スマンがよろしく頼む。ワシ等は本部ギルドの依頼で、多分明日か明後日には王都に向かう事になる。」
今回の依頼は特殊だ。何時戻れるか皆目見当が付かない。
翌朝、ヘンリクが早速レンタル馬車の借りられる日程を確認した。やはり12人乗りの馬車は無かった。
仕方なく、2台を2週間借りる事の出来る日程を確認したが、3日後になるとの事だった。それを確認したマーリンは王都に帰っていった。
3日後俺たちは王都ルステーゼに向けて出発した。




