冒険者ギルド本部のマーリン、ハレックの街へ来る
新しいお話の始まりです。
お付き合いの程、よろしくお願い致します。
街道はずいぶんと整備が進んでおり、予定通り2日後の夕方にはハレックの街に着く事が出来た。
気が付けば1ヶ月の長旅になってしまった・・・人数も12名になって、これからどうしようかと考えながら宿へ向かった。まずはメイドゴーレム達の部屋を確保しなければと思い、「鹿の角亭」に入った。するとマスターが出迎えてくれた。
「1ヶ月の長旅おつかれ!長かったな!」
マスターが労いの言葉を掛けてくれた。
「ああ、ワシもここまで時間が掛かるとは予想外だった。」
そうだ、あの第4号遺跡でチョコロールと出会って予定が変わったんだった。
「部屋はちゃんと取っといてあるから直ぐに使える。・・・で、その子達はどうするんだ?」
利用料はしっかり差し引かれているが・・・。メイド服を着た子供達が俺たちの後ろに付いてきていた。
「こいつらはワシ等の新しい仲間になったんだ。大部屋に空きがあれば借りたいがあるか?・・・しかしこう大所帯になると宿泊料もバカにならんなあ・・・空き家でも借りた方が安上がりかもしれんな・・・。」
ワザと聞こえるようにギリギリの声で発する。すると、
「いやいや、今ヨーン達が離れたらワシ等の宿がやっていけんっ!そんな事を言わずにこのまま何とかならないのか?何なら大部屋はタダでも良いぞ!?」
「鹿の角亭」のマスターは、冷や汗を流しながら提案をしてきた。
「マスターがそう言うのなら、もう少し様子を見ようか?」
俺は心の中でガッツポーズを決める。
「いやあ助かる、部屋は空いてるから問題ないが、冒険者じゃ無くてメイド?」
冒険者には見えないメイドを、仲間だと言った俺に疑問を抱く。
「その辺の話は追々とな・・・ちとワシは出掛けてくる。後は頼むぞ。」
そう言ってヨーンは宿を離れた。向かった先は「ヤンの武具店」だ。このあとで何か呼び出しがあっても馬車の製作が進んでいれば、いざとなれば利用出来ると踏んでいたからだ。
「ヤンの武具店」をくぐると、
「よう!ヨーン!生きてたか!1ヶ月も何処をほっつき歩いてたんだ?」
店に入ると親父さんが直ぐに声を掛けてくれた。
「酷い言われ用だな。全部の遺跡を20階層まで網羅してきたわい。」
俺はざっくりとした説明をした。詳細は今後の事もあるから話すのはよしておこう。
「!!そりゃすげえ!でレベルはどんくらいになったんだ?」
「レベルは43になったぞ。」
「英雄クラスじゃねえか!お前らの武具を作った俺も鼻が高えってもんだ!」
自分の作った武具を着た冒険者が、レベル40代になったのだ。それは喜ばしい事だろう。
「話は変わるが、馬車の件は皆の承諾が取れたから製作したい。」
遂に承諾が降りた事を伝えると、親父さんもやっとかという顔で言ってきた。
「お!遂に承諾が降りたか?てことは6人乗りで良いんだろ?」
「いや、12人乗りだ。」
「は!?お前らのパーティ6人だろうが。」
「それが12人になったんだ。」
親父さんは口をあんぐりと開けて驚いていた。
「1ヶ月で何があったか知らんが、12人が乗れる馬車だと大分デカくなるぞ。」
「その内身長150cm以下がエステルを含めて7人、みんな女だ。少し遺跡であってな・・・それが原因で全部の遺跡を回る事になったんだ。あと魔鉱石なら、まだ500kgはある。」
「そんなにあるのか!?取りあえず何があったかは聞かねえ。」
こればかりは察する事も出来ないだろう・・・。
「それよりもワシ等の持ってるテントに皆が収まらなくなった。野営をするような場合に備えて寝床を作れるような馬車にしたい。何かアイデアはあるか?」
「う~ん無くも無いが・・・。」
そう言いつつ、お互いにアイデアを出し合いながら、馬車のイメージを形にしていった。幌にするのか箱にするのか?軽量化は何処まで出来るか?1頭立てか、2頭立てか?細々と話をしていたら良い時間になっていた。
ブリットがイメージ図を見せろと言っていた事は忘れては居ない。
明日イメージを書いたものを用意すると約束を貰い「鹿の角亭」へ戻った。すると皆が食堂で夕食を取っていた。
「おそいっ!先食べちゃってるよ!」
俺が食堂に入ってくるのに気付き、ブリットが声を掛けてくる。
「ああ、すまん。馬車の件について「ヤンの武具店」に行っていた。明日には図面を用意してくれるそうだ。明日は冒険者ギルドにも顔を出してみる。」
ハレックの街の冒険者ギルドにも何かしらの要請が来ているだろうか?明日探ってみよう・・・。
翌日は昼過ぎまでゆっくりした。こんなにノンビリしたのは何時ぐらいだろう?個室になってからは皆の行動が把握出来ていない。皆には俺が冒険者ギルドへ顔を出す事は伝えてある。
支度をして、「鹿の角亭」を出る。その隣が冒険者ギルドだ。
「あ!ヨーンさん~、お久しぶりです~」
そう言って、垂れ耳犬娘受付嬢さんは応対する。
「ギルドマスターを呼んできますね~」
そう言って奥へ引っ込んでいった。暫くすると、セディット氏が姿を現した。
「ヨーンさん、ご無沙汰しております。今回は長旅でしたね。」
「予定外の事があってのう・・・。全部の遺跡を巡っておった。」
「全部ですか!?」
セディット氏は純粋に驚いている。ハレックの街には、本部のことは伝わっていないのだろうか?
しかしエイナルも冒険者ギルドの本部が、俺たちを探しているという情報を掴んでいた。と言う事は本部だけが俺たちを探していたって事か?
「お陰で1ヶ月も掛かってしもうた・・・宿代はそのまま引かれるし、踏んだり蹴ったりだ。」
「まあまあ・・・それで今日は何かご用件でも?」
「いや、1ヶ月も急に街を離れたからな。何か変わった事は無かったか聞いておこうと思ってな。」
「ハレックの街は平穏そのものですよ。」
「そうか。なら、レベルもそこそこ上がったし、暫くはゆっくりしようか・・・。何か討伐系の依頼があれば引き受けるが?」
「今のところ討伐は無いですね~・・・。」
最後はそんな他愛も無い話で終えて、冒険者ギルドを後にした。
俺はその足で、「ヤンの武具店」に顔を出した。
「図面は出来たか?」
「挨拶も無くそれか?ざっとしたものなら出来たが・・・どうだ?」
そう言って見せて貰った図面は、昨夜話した内容を極力組み込んだ内容になっていた。
「・・・実際作れそうか?」
「う~ん・・・。正直やってみないと何とも言えんな・・・。」
その馬車の図面を見せて貰った。長さは御者台まで含めて約5m幅2m高さ2.5m程の、2頭立ての箱馬車だった。
座席は前向き2席真ん中に通路があり5列だ。右側の座席の通路側には二つ折りの板が下がっているが、これはバスの補助席みたいなものだ。これを引き上げると3人掛けになる。そして人の出入りは後ろから出来る用になっている。
窓も付いていて、電車の窓のようにレバーを使って窓を上げるように、開ける事も出来るし、窓を開けずに、光を取り込む為の格子としても使用が可能にしてある。
座席の上には棚も用意して、荷物を収納出来るようにした。
また、座席は水平に倒れるようにして貰ってある。倒すと後ろの座席とピッタリ重なるようにしたのだ。補助席を引き上げ二つ折りの部分を広げるようにすれば車内が1つの個室となる。
野営をする時、棚に毛布や寝袋を完備しておけば、便利な宿泊所に変身可能だ。
材料は、軽量化と乗り心地重視の為に、魔鉱石をふんだんに使用する。付与魔法も、軽量化、剛性、耐火、耐熱、防火を付与して貰う予定だ。
「親父さん!もしこれが出来るなら、素晴らしいぞ!わしの発想を全て取り入れているじゃ無いか!」
俺は素直に感動した。結構無茶を言った気はしていたのだ。意見を取り入れて貰っても、半分ぐらいしか聞いて貰えないと思っていた。それをほぼ全て聞き入れてくれたようだった。
「図面は出来たが、これを本当に作るとなると、魔鉱石をかなり使う事になるぞ?それに製作費もそれなりの額になるぞ?」
「大丈夫だ予算はある。まずはこの案を今夜皆に見せてくる。製作の準備はしておいて貰って構わんぞ。」
そう言って、「ヤンの武具店」を後にした。
一度「鹿の角亭」へ戻ると、チョコロールが手持ち無沙汰で困っていた。
「あの・・その・・・な・・・何かお手伝いする事は無いでしょうか?」
う~ん特に何も無いなあ・・・。口には出さないがそんな事を思いつつも、他のメイドゴーレム達が、どうしているのか気になり確認してみた。
「えっと・・・その・・・それぞれマスターと外出していきました・・・。」
ああ、チョコロールだけ留守番みたいになっちゃった訳か・・・悪い事をしたな。
「すまんな。今、冒険者ギルドと武具屋に行ってきたんだ。そうだ、今皆で使う馬車の設計図を貰ってきたんだ。見るか?」
「え?あ・・・はい!見せて貰っても良いんですか?」
「ああ、皆の使う馬車だ、今ここに居るのはチョコロールだけみたいだしな。一番乗りだな。」
いくらメイドゴーレムとは言え、見た目は若い女の子だ。やはり気を遣ってしまう・・・。
しかし、設計図を見せたら意外と喜んで、車内の構造について細かな所まで質問をしてきた。ヒョッとしてこの子はメカオタクなのでは?そんな事を思ってしまった。
「鹿の角亭」の食堂で新馬車の話で盛り上がっていると、突然思いもよらない人物が顔を出した。
「やあ、ハレックの街に帰っていたか。てっきり王都に立ち寄ると思っていたんだがな・・・。」
冒険者ギルド本部ギルドマスター、マーリンその人だった。
正直焦った・・・。まさかハレックの街に、本部のギルドマスターが来るとは思いもしなかった。
しかし、さっきハレックの街の冒険者ギルドでは、俺たちを探している事は伝わっていない。なら、王都がらみと考えた方が自然だろう。
「なんだ?本部のギルドマスターが、わざわざハレックの街まで来るとは。ワシ等に何か用事でもあったのか?」
内心冷や汗をかきながらも、冷静をつとめて質問してみた。チラリとチョコロールに目をやるも、
「10日ぐらい前に、第3号遺跡に来ていると聞いていたから、てっきり王都経由でハレックの街に戻ると思ってたんだが、どう言う訳か第6号遺跡に戻って、直接ハレックの街に戻ったって言うじゃないか。」
マーリンはため息をついてそう言った。
「いや?その足で第5号遺跡も行っとったぞ?パーティで20階層を全てコンプリートしようと盛り上がってな。その勢いのまま第5号遺跡と第6号遺跡まで、20階層を攻略したんだ。ハレックの街までわざわざ来たと言う事は、何か用事でもあったのか?」
「何とまあ・・・。他の冒険者にも見習わせたいね・・・。ところでそのメイド、ゴーレムだね?」
マーリンがチョコロールを見つめつつそう言った。突然核心を突かれ俺は次の言葉を出せなくなった。
「なっ!・・・知っていたんだな?」
「ああ、私もかつてはゴーレムのマスターだった。まあ、こんな可愛らしい子じゃあなかったけどね。」
「なら、限界突破の事も?」
「もちろん知ってるさ。でだ、今絶賛活躍中のヨーン達一行に緊急の依頼だ。」
何か碌でもない事のような気がして、自然とシブい顔になった気がする・・・。
「どんな依頼だ?内容によっては受けかねるぞ?」
ヨイショしてきてから来る依頼だ。俺は警戒する。
「魔族が発見されて捕獲された・・・。」
俺はそれを聞いて驚いた。TRPGでは、作成出来るキャラクターに魔族があったからだ。当然市民権も有る物と思っていた。
「!?それはどういうことだ?犯罪を犯したとか、そういう訳では無いのだろうな?」
「魔族は古代魔法大国期に滅んだはずだ。その魔族がこの世界に居る事自体がおかしいんだ。」
「それは間違いない事なのか?」
「今王都のギルド本部で取り調べられている。タダでさえ他にも大きな問題も抱えているというのに、次から次へと色んな事が起こって、こっちも対処しきれないんだよ。」
マーリンがうんざりした顔でこちらを見る。この魔族の件をこちらに丸投げしたいのだろう。どれだけメイドゴーレム達の事を知っているのやら・・・。
「これは王国にも関わる事だが、出来れば直ぐにでも王都に来て貰えないだろうか?文献によると、魔族は最大レベルが100まで存在する。今のヨーンのレベルなら、その子はレベル60相当って事だろ?魔族に会って話をして貰いたい。」
「話によっては討伐も視野に入れると言う事か?」
「いや、その魔族だが、我々と共存の道を歩みたいと言っているそうだ。ただ、滅んだはずの魔族が、何故生き残っているのか?どれだけ魔族が居るのか?その辺の詳しい話を聞いて調査して貰いたいんだ。」
「解った。まずは皆に話をしてみないと何とも答えられん。今夜はこっちに泊まっていくのか?」
「必要ならそうさせて貰うよ。こっちも今、世界規模で災害が発生して、その調査でてんてこ舞いなんだ・・・。」
マーリンはウンザリしたように、両手を持ち上げて首を横に振る。
「この街を見てるとそんな感じは一切しないがな・・・。」
「この国が特別過ぎるのさ。」
「じゃあ、忙しい所何だが、今夜にでもさっきの話を皆にしてくれんか?ワシでは旨く説明出来そうにない。」
「解った。じゃあ今夜はここに泊まらせて貰うとするよ。」
そう言ってマーリンは「鹿の角亭」のマスターに宿泊の手配を行ったのだった。




