ハレックの街に戻ってまったり・・・そして次の準備
翌朝、ハレックの街へ向かう定期馬車に乗り込んだ。
エリックの買った弓の件は案の定、昨夜の宿ブリットに突っ込まれた。
ハレックの街までは3日間の道程だ。道中の野営では相変わらず俺たちの準備に驚かれている。慣れないものだ。
やはりマイ馬車・・・そんな事を考えていると、色々とアイデアが出てくるのは不思議なものだ。
この世界にはまだスプリングが無いから、馬車の衝撃吸収をする方法は板バネしか無い。ならば、板バネや車軸、骨組みを魔鉱石で作ってしまえば、軽量化も出来て頑丈な馬車が出来るんじゃ無いかと考えてしまった。しかも板バネも魔鉱石製であれば鉄製よりも柔軟かつ丈夫だ!
設営を終えて夕食を食べていた時にそんな事を考えていたものだから、ブリットにジト目で睨まれた。
「また食事中に何か考え事してる・・・しかも何か悪い顔してた。」
グッ!バレた!俺は観念して何を考えていたかを皆に白状した。
「乗合馬車で移動するのも良いのだが、野営でこのテントと食料は周りの目が痛いと思っての・・・前にも話した馬車を、やはり購入してはどうかと考えていたんだ。」
「その話は前にも保留になったはずですよ。」
ヘンリクから追撃が掛かる・・・それは解っている。解っているが考えてしまったものは仕方が無い。
「でだ、ワシが考えていたのはここからだ、金属部分を全て魔鉱石製に出来ないかと言うことだ。そうすれば強度も確保出来るし長持ちもするんじゃ無いかとな・・・まあ、あくまでワシの想像の話だ気にせんでくれ・・・」
自分の考えを披露するも、段々とトーンダウンしていってしまった・・・
「だけど、この状況は確かに視線が痛いわよね・・・今回の長旅で乗合馬車の事情が良く解ったから、ヨーンの言いたいことも解る気がする。」
思わぬ所から援護射撃が入った!ブリットだ。やはり周りの視線は気になっていたか・・・続いてエステルも追撃してくれた。
「う~ん・・・私も今のヨーンの意見に賛成かな?ブリットと同じで周りの視線がヤダな・・・」
エステルも周りの視線に落ち着かないようだった。
「皆さんの言いたいことは解りますが、維持管理費のことを考えるととても賛成出来ませんね。」
ヘンリクは頑なだった。信仰の問題もあるのだろうか?贅沢は禁止とか?
「まあ、あくまでもワシの想像でのことだ。そんな都合良く魔鉱石製の馬車が作れるとも限るまい。この話は、本当に馬車が必要になった時にもう一度話し合おう。」
これ以上はマズいと思い、話を強引に締めくくった。
その後は特にトラブルらしいトラブルも無く、ハレックの街に夕方到着した。約20日間の長旅だった。上がったレベルは6と少ない。やはり適正な階層での戦闘は欠かせないのだろう。
宿へ戻り、一息ついてから食堂へ顔を出す。エイナルとヘンリクが先に来ていた。そのあと少ししてから全員揃った。
注文を済ませて、今回の反省会が始まった。新しい遺跡の最新情報は冒険者ギルドで確認するものとして、次にどう動くのかを確認しなければならない。
そんな事を考えていると、注文した食事が届く。テーブルいっぱいに広げられた料理と飲み物を前にして一言、
「「「「「「今回の長旅お疲れ様!」」」」」」
口を揃えて長旅の無事終了をねぎらった。
「さて、新しい装備一式はまだ10日程掛かるだろう。それまでは皆ノンビリするかの?それとも2・3日おいて新しい遺跡の様子でも見に行くか?」
今日は宿に直行したので、どちらも進捗状況は確認が出来ていない。武具に関しては通常よりも半月巻きで作って貰っているのだ。これ以上早めて貰うことは出来ないだろう。
遺跡の件も王都で貰った地図が最新であれば、まだ3日しか経っていない。そんなに更新は進んでいないだろう。
「ん~・・・10日間も何もしないってのもねえ・・・何か普通のクエストとかって無いのかしら?」
ブリットが体が鈍りそうだと言う。確かにこの世界に来て10日間も何もしない日が続いたことは無い。俺も同感だった。だが、この街には事件らしい事件が無い。
「前にコボルト退治をした時に、ギルドの依頼書をちらっと見てみたが、依頼の数は少なかったな・・・討伐系は特に無かった。」
討伐系以外なら少しはあるのだ。ただその内容が、ドブさらいとか草刈りとか、牛の世話の手伝い等だったりする。
「この街って平和だものね・・・陰謀なんて何処にもなさそう・・・」
良いことを言っているはずなのに、冒険者目線になると散々だ!
「そうすると第5号遺跡で、鳥退治でもしてた方が良いかの?最新のマップもたぶん10階層までは出来ておらんだろう。明日は冒険者ギルドと「ヤンの武具店」に顔を出して進捗を確認してみよう。」
そう言って、料理をつつく。やはり食べ慣れた味というのが一番落ち着く・・・
「そう言えば、レベル上げはどうする。最低でも40まで上げなければ20階層の隠し通路にはたどり着けん。」
何せあの「球体」を何時までも持っているのも、気持ちにしこりが残る感じがして気持ちが悪いのだ。あれの正体を早く解き明かしたい。そんな気持ちの焦りからか、愚痴がこぼれてしまう。
「それは新しい装備が整ってから、第4号遺跡を重点的に攻略すれば良いんじゃ無いですか?」
エリックの意見は至極まっとうだった。
「まあ、今焦ってもしょうが無いじゃ無い。取りあえず、少し休んだら第5号遺跡へ調査に行くって事で良いわよね?」
ブリットがそう締めくくった。
「じゃあ、第5号遺跡までの定期便が出ているかの確認とかはヘンリクに頼む。ワシは明日冒険者ギルドで詳しい話を聞いてこよう。」
そのあとは、夕食を交えてこの20日間の思い出に、特に第2号遺跡と第3号遺跡の愚痴を散々聞かされた・・・
翌日冒険者ギルドに顔を出した。もちろん新しい遺跡についての進捗を確認する為だ。
決して垂れ耳犬娘受付嬢さんを愛でる為では無い!
「あ!ヨーンさんお久しぶりです~!長旅お疲れ様でした~」
決して愛でる為では無いがこの間延びしたトーンが和む・・・
「急でスマンがセディット氏はおるかの?」
「おりますよ~。少しお待ち下さいね~」
そう言って、セディット氏を呼び出してくれた。セディット氏はもの凄い勢いで俺の前に現れた。そして、応接室に案内してくれた。
「長旅お疲れ様でした。各地の第5層の隠し扉の件、何か知っているんじゃ無いかってウワサで持ちきりですよ。」
「本部でもそう言われたがのう・・・うちにはフェアリーがいるからな。運が良かっただけだ。各遺跡の第5層で隠し扉が見つかれば重点的に探すだろ?」
誤魔化しながらも話を逸らす。こっちの本命は新しい遺跡なのだ。
「それよりも、新しい遺跡が見つかったようだな。情報提供者としても安堵しておる。」
「こちらとしても、最初は半信半疑でしたが、第5号遺跡が見つかったという知らせが入った時には、第6号遺跡については疑う余地も無く捜索に集中しました。」
やはり半信半疑だったか・・・だけど良く調査隊を派遣出来たな・・・
「ヨーンさん達冒険者一行が各遺跡で次々と隠し扉を見つけたという知らせが入り、そのヨーンさんの情報であれば可能性は高いのでは無いかという結論になったんです。」
うわ~・・・予想よりも信用の重さが急上昇している気がする!
「あくまでも村人の情報が元だからのう。ワシ達の信用と言われても責任は持てんかったぞ?」
取りあえずセディット氏の羨望の眼差しを逸らそうとするが、俺の目がツイっと横に逸れてしまう。
「いやいや、レベルの方もこの短期間でベテラン一歩手前まで上がったその手腕は、今やこの国の冒険者の憧れのようなものですよ!」
キャーーッ!!そんな話は聞きたくない!俺たちに向ける期待度がストップ高だ!
「レベルがあれだけ上がったのは、あれらダンジョンに挑んだからじゃ。そうで無ければ、今でもレベルは20に届かんだっただろ?他の冒険者も適正な階層で挑戦すればワシ等よりももっと強くなれるだろ?」
「今のこの国の冒険者は少し向上心が足りませんからね・・・そう言う意味でもヨーンさん達冒険者一行の快進撃は、この国の冒険者の向上心にも一役買ってますよ!」
・・・もうやめて・・・これ以上プレッシャー掛けないで・・・褒められ慣れていない俺は身悶えする・・・とにかく気を取り直して、
「ところで、第5号遺跡と第6号遺跡の調査は何処まで進んでおるかの?地図があれば見せて貰えんか?」
「今地図が埋まった階層は8階層までですね。15階層まで進んでいるようですがフロア全体は網羅出来ていません。」
そう言って地図を広げてくれる。おや?ずいぶんと進んでいるようだ。本部で見せて貰った地図より大分フロアの攻略が進んでいた。
「ワシ等も第5号遺跡に行ってみようと思っているが、定期便は出ているのか?」
「定期便は今のところ4日おきに出ています。最終的には他の遺跡と同じように毎日出す予定ですが、今はまだ準備に時間が掛かっています。」
「次に出る定期便は何時になる?」
「次は2日後ですね。行かれるんですか?」
「メンバーと相談してからになるが、多分行くことになると思うぞ。」
「ならお願いしたいのですが、地図の空きを埋めるのに協力して貰えませんか?」
一応こちらとしても、10階層までは挑戦しようと思っている。さっき見た地図では、脇道である隠し通路のある場所までは到達出来ていない。協力しても問題ないか?そう思いつつも、
「メンバーに相談してみよう。」
と、返答した。多分協力しようと言ってくれるだろうけど。
「では、地図を用意しておきますので、協力して頂ける時には、その地図に未到達の通路を書き込んで貰えますようにお願いします。」
一応の約束を取り付けて冒険者ギルドを後にした。
次は、「ヤンの武具店」に顔を出す。
「お!帰ってきたか!旅の成果はどうだった?」
鍛冶焼けして真っ黒になった親父さんが顔を出す。
「各遺跡の10階層を網羅してきた。第2号遺跡と第3号遺跡のモンスターが問題でな、女性陣に大不評だったわい・・・それよりも武具の方はどんな感じかの?」
そう言って、各遺跡での出来事を愚痴を含めて話していく。それを聞いた親父さんは、いつものようにガハハと笑い飛ばす。慣れ親しんだ人物と話をすると盛り上がるものだ。武具の製作も順調のようだ。
「武具の製作も順調に進んでいるぞ。予定通り10日後には渡せるだろう。楽しみにしてろよ。俺の自信作だ!」
そう言ってニヤリと笑う。相当自信があるのだろう。
全く関係ないことのはずなのに、ふと棚上げしていた事を思い出してしまった。
「のうオヤジ・・・親父さんのとこで馬車は作れるのか?」
誰が聞いているか解らない。つい小声で尋ねてしまった。
「ん?依頼があれば作るぞ?」
「例えば、金属部分を全て魔鉱石を使った場合どうなる?」
「はあ!そんな贅沢な馬車聞いた事ねえよ!」
驚きと呆れが半々の顔だ。
「例えばの話だ!どのくらい魔鉱石があれば作れる?」
「幌馬車か?使う部分にもよるが今の残りの魔鉱石だとちっと足りないかな?」
「あと100kgあれば足りるかの?」
「本気か?なんで魔鉱石にこだわる?普通の馬車じゃダメなのか?魔鉱石100kgを金にすれば馬車を何台買えると思ってんだ?」
「まあそうなんだが、ふっと思いついてしまったが、話す相手が居なくてのう・・・聞いてくれそうなのが親父さんな訳だ。」
「俺は相談屋じゃねえぞ?」
「まあそう言うな。前に言うっとったろ?魔鉱石は鋼より丈夫で粘りがあって軽いと。それを馬車の板バネに使ったら乗り心地が良くなるだろうと思ったんじゃ。」
それを聞いた途端に親父さんは、俺が何を言いたいか理解したようだ。
「そして鋼で使っている骨組みや車軸、車輪の重量は魔鉱石に変われば全体的に軽くなって馬の負担も減る。長旅になる場合には打ってつけじゃろ?」
「まあ、言いたい事は良く解った。だけど、もしやるとしたら受注生産だな。しかも魔鉱石は全て持ち込みってとこだろう。面白い話だった。もしやるなら言ってくれ。」
そう冷静な対応を取った親父さんだったが、端から見てもニヤニヤしている所が節々で見て取れる。多分頼めば作ってくれるな・・・。という確信を経て「ヤンの武具店」を後にした。
宿で夕食時での事、今日確認してきた事を報告した。第5号遺跡に向かう馬車が2日後と言うことはヘンリクの方でも確認が取れていたようだ。よって2日後に第5号遺跡へ調査兼10階層の「球体」の回収を行う事でまとまった。
翌日冒険者ギルドへ赴き、セディット氏に了解の旨を伝えた。但し、こちらの目的は別にある。それは秘密にした上で、全部を埋める事が出来るかは保証しかねるという但し書きが付いての事でだ。




