王都ルステーゼへ行く前に・・・
翌日冒険者ギルドへ顔を出す。何か手頃な冒険は無いか探す為だ。今日の昼には発注してあった防具が仕上がるので、今日の所は視察みたいなものだ。
具体的にどんな依頼があるのか?今まで自分のことでイッパイイッパイだった為、そんな冒険者としての基本も疎かになっていた。
今日のメンバーは自由行動だ。
朝の冒険者ギルドは賑やかだと思っていたが行ってみるとそれほどでも無い。何でだろう?
「あ!ヨーンさんおはようございます~」
いつもの間延びした反応になぜだかホッとする。
「ここのギルドはいつも閑散としとるのう・・・」
ぶしつけかと思いつつも、垂れ耳犬娘の受付嬢さんにそれとなく訪ねてみた。すると、
「この街を拠点にする冒険者は少ないですからね~」
との返事が・・・理由は簡単だ。ここから北へ3日程、東へ2日程行った所には遺跡が多く眠っている。
冒険者達はそちらへ泊まり込みで発掘に出掛けているのだそうだ。当然遺跡周辺にも村があり、そこを拠点に遺跡の発掘にいそしんでいるのだそうだ。
逆にこの街を訪れる冒険者は、夢破れて田舎に帰る途中に立ち寄った冒険者か、ひと当てした冒険者が豪遊する為に王都へ向かう途中に立ち寄る先となることが多いという。
俺たちみたいにここを拠点とする冒険者の方が珍しいのだとか・・・
「ワシ等もそろそろ拠点を変えた方が良いかのう・・・」
ちょっと意地悪をしてみた。
「えっ!?それは困ります!今中堅クラスの冒険者グループって少ないんです!ヨーンさんのグループに抜けられたら困ります!」
あ・・・間延びしたトーンが消えた。これは本気で困ってるな・・・。悪いことをしたと思いつつも、
「冗談だ。昨日の件もあるからのう。たまに長期で遺跡探索をするぐらいで、ワシ等はのんびり冒険が出来れば良い。」
垂れ耳犬娘受付嬢さんはホッと胸をなで下ろし、
「驚かさないで下さいよ~」
と、いつものトーンに戻ったのだった。
「ところで何か手頃な依頼とか無いかのう?王都へ行くにもまだ日程もハッキリしとらんから、その間にでもこなせる依頼があればやっておきたいのだが?」
俺は本題を切り出す。もちろん防具の受け取りがあるから依頼を受けるのは明日と言うことになるのだが。
「ん~討伐系が良いですかねえ~?それとも護衛が良いですかぁ?」
「護衛じゃと日数が掛かるだろ?王都へいつ出発するか解らんのに護衛はちとリスクが高くないか?」
「あ~・・・そうですね。では討伐系の依頼を確認してみますね。」
そう言って書類を引っ張り出してきた。が、その書類も結構薄い・・・依頼の少なさが窺える。
「ん~と・・・今緊急というような依頼は入っていませんが、最近牧草地でコボルトらしきモンスターに牛を数頭襲われたというのがありますね。そのいたずらするコボルトの排除もしくは討伐ですね~。」
「依頼主はどこからかの?その牧場主か?」
「いえ~。大地の神の神殿からです~。」
ん・・・?そうすると、ヘンリクもその情報を掴んだかもしれない。
「解った。依頼を受けるかどうかは皆に相談して決めるとしよう。」
そう言って、冒険者ギルドを後にする。
(少し早いが「ヤンの武具店」に顔を出してみるか・・・)
そう思い、向かいの「ヤンの武具店」へ行ってみると、そこにはすでにブリットが待ち構えていた。
「へいらっしゃい!ってヨーンか・・・この嬢ちゃんどうにかならんか?」
ブリットはカウンターに身を乗り出し、今か今かと自分の防具が出来るのを待っているようだ。
「嬢ちゃんには言ってあるが、魔法の付与は外注なんだ。物は出来ているからそれが届くまで、おとなしく席について待ってるように言ってくれ。」
「まあまあ、ワシも気持ちがわからんでも無い。好きにさせてやってくれ。」
「商売の・・・まあ解った。レンタルの防具も返却されてるしな。出来上がった武具を楽しみにされるのは俺としても悪い気分じゃなあ無い。」
そんな話をしていると、店に大きな荷物が届いた。
「お!そんな話をしてたら届いたようだぞ!今開けるから待ってろ。」
「わぁっ! は・や・くっ!は・や・くっ!」
ブリットがはやし立てる。
「ほれ。これが軽量化と切れ味、血糊浄化の付与をした剣魔法鉄の剣だ。」
「で、こっちが、皮鎧と鎖帷子だな。向こうで試着してみてくれ。」
ブリットは早速試着室へ防具を抱えて飛び込んでいった。
「ふう・・・で、こっちがヨーンの防具だ。軽量化や防御力の魔加工も大丈夫だな。シールドはお前さんに合う目一杯のサイズにしておいた。合わない所は微調整するからお前さんも試着してみてくれ。」
「すまんな。」
そう言って、ブリットとは逆の試着室を借りる。お約束のバッティングは無い!
実際に鎖帷子を着てその上にプレートメイルを着込むプレートメイルの内張にはなめし革が貼り付けられており、鎖帷子とプレートメイルが擦れる音は殆どしない。
重量感も見た目に見合わない程軽い。今まで来ていたスケールメイルと同じくらいか?シールドも一回り大きくなったが軽くなった分取り回しがしやすい。
ヘルムも今までと視界は変わらないので違和感は感じない。申し分無しだ!
そのまま試着室から出て、特に問題ないことを伝えると、親父さんにプレートメイルの手入れの仕方などをレクチャーされた。
ブリットも既に試着は完了しており、こちらも問題ないようだ。今は新しい剣を見てニマニマしている。
「着心地はどうだ?」
そう訪ねると、
「バッチリ!鎖帷子なんて装備したこと無かったけど、魔法の付与のおかげで今までの防具と変わんないよ。むしろ軽く感じるかな?」
「剣の方はどうじゃ?」
「へへへ・・・ヤバいね・・・早く使ってみたい・・・」
怖い怖い!目が鋭くなってる!
「ヤバいヤツに見えるからその顔はやめろ!まんま肉食獣の顔だ!」
「え?そう?まあまあ~気にしないで~」
よっぽど嬉しかったんだろう。大目に見るか・・・俺たちはヤンに礼を言って店を後にした。
「さっき冒険者ギルドで何か手頃な依頼が無いか調べてきたんだが、コボルト退治というのがあったぞ。依頼主は大地の神の神殿だった。」
「ヘンリクが信仰してる神だよね?そこの教会って事?」
「今日は自由行動にしてあるからヘンリクも教会に行っているだろう。そうなると同様の話を持ってくるかもしれん。」
「受けるの?」
俺は討伐系はまだやっていないから受けても良いと思っている。ただ、皆が反対すればその限りじゃ無い。
「皆が反対しなければ受けても良いと思っとる。」
「私は賛成で良いよ。」
「まあ、夕飯の時にでも皆と相談しよう。」
そう話しながら、俺は新装備の着心地を確かめながら街を歩いた。
夕方頃には、メンバー全員「鹿の角亭」に集まっていた。俺は、今日確認した冒険者ギルドでのことを話す。すると、ヘンリクも同様の案件であると説明してくれた。
より詳細な話も得られた。死んだ牛は居ないものの、ストレスで牛乳が出なくなってしまっているとのこと。コボルトが出没するとおぼしき場所を閉鎖してしまっている為、牛が十分な牧草を食べることが出来ないというのだ。
ヘンリクも、大地の神を信仰している以上、無視は出来ないという意見だ。
他のメンバーからも特に反対意見は出なかったので、この足で冒険者ギルドへ行き、依頼を受ける旨を伝えた。依頼主は大地の神の神殿と言うことなので、明日朝一に神殿へ向かうことにする。
「コボルトか~・・・普通は洞窟とか薄暗い所に生息していなかったっけ?」
確かにTRPGでは、コボルトの生態は概ねそうだ。雑食であるとか特殊な鉱石を食べるとか色んな伝承もある。
「ハグレとかそんなんだろうか?」
「あの牧草地の周辺に洞窟は無かったよな?」
「聞いたことがありませんね。」
「実際被害が出ている以上放っておく訳にはいかないだろう。明日は現場の確認をしてみよう。万が一遭遇しても良いように、道具の手入れはしておいてくれ。」
そう言って、今日は軽めの夕食を取り明日に備えることとした。
翌日、皆で大地の神の神殿に向かった。出迎えてくれたのは女性神官と神官長らしき人物だった。するとヘンリクが紹介する。
「こちらは神官のピリカとティーレ神官長です。」
「初めまして、ヨーンです。」
簡単な自己紹介を済ました。
「早速ですが被害に遭った現場を教えて貰えないでしょうか?」
そう尋ねると、神官のピリカがその牧場主を伴って現場を案内してくれた。
早速、エイナルは足跡などを探索する。暫く捜索していると、エイナルはコボルトの足跡を見つけたようだ。
「コボルトの足跡を見つけた。方角からすると北西に向かっているな・・・」
「追えるか?」
「やってみる・・・」
暫く足跡を追跡していくと牧場を越え森に入っていく。その先には真新しい洞窟があった。穴は直径は決して大きいものとは言えない、ぱっと見120cmと言った所か?俺たちでは入ることは出来ない。
「いぶり出すか?」
う~ん・・・そう旨く行くだろうか?奥が深ければ煙は届かないだろう。
するとエステルが手を上げる。
「私の魔法でいぶり出す?」
ああ!その手があったか!
「出来るか?」
「ん!任せて!」
そう言って呪文を唱え出す。完成した魔法はファイヤーアローだった。それを洞窟の中へ投入する。
少しすると『ズンッッッッ!!!』と言う地響きとともに、40m程先の土と木が吹き飛んだ。
そのときに気が付く。あっ・・・これ、全力のファイヤーアローがクリティカルしたんだ・・・そしてコボルトとおぼしき物体が宙を舞う。
ちらりとニーニャに目をやると、その視線に気付いたのか、そっと視線を逸らす。
後は掃討戦だ。コボルトは全員ボロボロとなっていたが、それでも武器を持ってこちらに攻撃を仕掛けてくる。
俺は真新しいシールドを構えてコボルトの攻撃を、ことごとくはじき返していく。その隙を突いてブリットとヘンリクがトドメの一撃を放つ。
エリックも、精霊魔法では無く弓で後方のコボルトを屠っていく。
エリックは遊撃だ。逃げだすコボルトを容赦なく短剣で急所へ致命傷を与えていく。
洞窟に生き埋めになったコボルトも居たかもしれないが、地上に出てきたコボルトの数は全部で15体だった。
実にあっけない幕切れだった・・・
急に牛たちが襲われ始めたことを考えればハグレのコボルト達で間違いないだろう。そのコボルトが、近くの森に巣を作り、牧草地の飼い牛を狙った。獲物が大きすぎて奪えなかった(狩りが出来なかった?)のだろう。
俺たちは、夕方前には教会へ報告し、冒険者ギルドへ戻った。ギルドでも同様の報告を行い報酬を受け取る。
依頼達成が認められると、討伐したモンスターの経験値とは別に、ギルドから経験値が入る。
今回の依頼は本来初級冒険者の受けるような依頼だったので、レベルが上がる程得ることは無かった。
本格的にレベル上げを考えるのであれば、迷宮探索でのモンスター討伐の方が効率が良いだろう。
王都へ行く案件が一段落したら迷宮へ向かうのも良いかもしれない。




