いきなり金持ちになる?
午前中にハレックの街に到着し、宝箱を下ろすために馬車は冒険者ギルドへ向かった。荷を下ろし終わると、最後の御者登板だったヘンリクは、そのまま南の大通りにある馬車集合所へ返却に向かった。俺たちは重い宝箱を持って、冒険者ギルドの門をくぐる。
「あ!ヨーンさん冒険お疲れ様でした~・・・って!その宝箱は何なんですか!?」
いつもの垂れ耳犬娘の受付嬢さんが、驚いた様子でカウンターから飛び出して駆け寄ってくる。
「いや何・・・先日の盗賊団のアジトで見つけてきた。」
「え?だってあそこのものは全部ヨーンさん達が回収したって・・・」
あまりの驚きのせいか、いつもの間延びしたトーンが無くなっている。
「あの洞窟、奥が有っただろ?ずっと気になっておったんだ。で、試しに調べてみたら隠し扉があっての。そこで発見したんだ。」
立派な装飾の施された宝箱だった為か、受付嬢さんも息をのむ。そして、自分の手に負えない代物だと判断したのか、
「ギルマス(ギルドマスター)呼んできますんで、先日の広間まで運んで貰えますか?」
「おう。了解した。今、ヘンリクが馬車を返しに行っているから、合流したらそうしよう。何せ重すぎてワシの力だけじゃ持ち上がらんのだ。」
「そんなにですか?」
俺の筋力を知っている受付嬢がまたもや驚く。
「とにかくギルマス呼んできますね!」
そう言って、代わりの猫耳受付嬢さんに後を託し奥へと引っ込んでいった。相当慌てていたのだろう、奥の方で何やら『ガッシャーンッ!』ってぶつかる音が聞こえていた。
そうして、ギルドマスターが慌てた様子でこちらに現れるのと、ヘンリクが冒険者ギルドに合流するのはほぼ同時だった。
ギルドマスターと話をするイベントは過去に無かったはずだ。今回が初対面と考えて間違いないだろう。そんな事を考えていると、一緒に来た受付嬢さんが紹介してくれる。
「こちらは冒険者ギルド、ハレック支部長のセディット支部長です。そして、こちらがこのパーティのリーダーのヨーンさんです。」
ギルドマスターから声が掛かった。
「冒険者ギルド、ハレック支部長のセディットです。」
歳は50代中程の男性だ。眼光も鋭く意志の強うそうな眉からは年齢より若く見える。元冒険者だったのだろう。
「初めまして。このパーティのリーダーを務めるヨーンだ。よろしく。」
簡単な挨拶をする。
「早速だが、その宝箱をいつまでも入り口に置いておくのも問題があるから、奥の広間へ運んでしまおう。」
そう言うと、皆で先日利用した広間へ運んでいく。こういう時、台車が欲しいとつくづく思う。
そして鑑定の絨毯の上に載せる。すぐ鑑定という訳では無いようだ。そのすぐ横にある応接用のソファーに案内される。
「これは、古代王国期のの宝箱ですね・・・素人目で見ても劣化防止、強度拡大の付与が掛かっているように思われます。大した代物だ。よくこれだけのものがあると気付きましたね。我々支部のものが捕らえた盗賊を回収に向かった時には、誰一人そんな違和感に気付かなかった・・・」
何か疑っているのか?そこはかとなく不安を感じるものの、出来事だけを正直に話す。
「ワシ等は盗賊を退治して、王都に運ぶ品物を奪還しついでに、盗賊のため込んでたものを頂いた。ここまでは報告したとおりだ。盗品の奪還が主な目的だったから、洞窟の奥までは意識しておらんかった。戻ってからと言うものの、それがどうしても気になっての・・・」
「で、確かめに行ってみたと?」
「その通りだ。隠し扉の仕掛けは巧妙に隠されていた。素人目ではただの洞窟の行き当たりに見えただろう。」
「うちのバカ力が宝箱ごと運び出そうって言わなければ、私たちは罠に掛かって生き埋めだったわ。」
ブリットがそのとき起こった洞窟の光景を思い出しながら、身を震わせた。
「罠があったのか?」
「ああ、重量が減ると隠し部屋を含めた洞窟全体が崩落するように仕組まれていた。その罠に気付けなかったのは俺のミスだ。」
エイナルが悔しそうに唇をかむ・・・
「いや、崩落してしまったことは確かに残念だが、皆が無事戻ったことの方が重要だ。まして、これほど完全な状態で古代王国期の宝箱を目にする機会に恵まれたことは、私にとっても貴重な経験になった。でだ、中身は確認したのか?」
「まあ、ざっと確認しました」
「今ここで開けてもらっても良いか?」
「盗難防止用の閉錠の呪文を掛けてある。解錠する?」
帰りの道中何かあったり不意に開いてしまわないようにとエステルに閉錠の呪文を掛けて貰っていたのだ。だからここで解錠するかエステルが確認してくる。
「ああ、エステル。解錠してやってくれ。」
エステルが解錠の呪文を唱えると『カチン』という音が響く。
そして俺はおもむろに宝箱は開けてみせる。中に入っていたのは、古代王国期の金貨と宝石類。そして装飾の施された指輪やブレスレットなどだ。
「おおっ!」
ギルマスのセディットは感嘆の声を上げた。そうなるだろう。俺たちも明るい所で中を確認したのはこれが初めてだ。中には指輪やブレスレット以外にも装飾品が他にも見受けられた。
「これは確かに、古代王国期の金貨!こんな完全な状態の物を見るのは初めてだ。他にも魔法が付与された装飾品もあるようだな・・・」
「魔法の品もあるのか?」
「ああ、何が付与されてるかまでは解らないが、この指輪や短剣は間違いなく魔法の品だ。このネックレスもそうだな・・・」
ギルドマスターが興奮気味だ。興奮も一息ついた所で、ギルドマスターは俺たちに相談してくる。
「今回皆が発見した宝は歴史的価値から見てもとても重要な物だ。本来冒険者ギルドのルールでは、手に入れた冒険者がその所有者となる。しかし、今回の発見は希少価値が高すぎて、支部の独断では判断しかねる。よって、王都にあるビルド本部に判断を仰ぎたいと思う。勝手なこととは思うが了解して貰えないだろうか?」
ギルドマスターは俺たちに頭を下げてくる。それはそうだろう。本来なら好きに使って良いはずのお宝をギルド預かりにしたいというのだから・・・
「と言うことは、ここでは換金出来ないという事かの?」
「そう言うことになる。了承して貰えるのであれば、王都のギルド本部に今回のことを早馬で通知し、それ相応の迎えを出させよう。」
換金出来なければ意味は無い。皆とも相談したが概ね了承だ。ただ、いつ王都に向けて出発するのかなどが解らない。
「了解だ。王都には我々も同行すると言うことで良いのか?」
「それはもちろんだとも!今回の功労者はなんと言ってもヨーン達一行なのだから!」
「何やら気恥ずかしいんだが・・・迎えの日程や細かなスケジュールがわかり次第教えて欲しい。ワシ等は隣の『鹿の角亭』を拠点にしておる。」
「了解だ!早速したためて早馬を出そう!」
王都まで通常で3日、早馬であれば2日。往復の行程で考えると4日後くらいか?もう2往復するとなると8日から10日くらいの時間が必要だろうか?インフラが整っていない世界では仕方の無いことかもしれないが、待たされる方としてはヤキモキする。
「では、何かあってもいけないからもう一度閉錠の呪文を掛けて貰えんか?」
そうエステルに声を掛ける。ギルドマスターは残念がるが、何かあってからでは遅い。それに、エステルの魔法は高い確率でクリティカルする。今回も魔法を唱えると一際大きな音で『ガチンッ!』と鍵の掛かる音が鳴り響いた。たぶんクリティカルしたのだろう・・・こういう時は便利だ。
宝箱はそのまま冒険者ギルド預かりとなった。
「いや~まさか希少価値が高すぎて換金出来ないとは思わなかったよ~・・・」
エリックはそう呟きながら頬を膨らませる。エルフの美青年がすると絵になるな・・・
「まあな・・・俺も予想外だった。」
俺なんて、大金が入ったら家でも買っちゃおうかとか変なことを考えていた。あっ!みんな操作出来るからマイ馬車も良いかも・・・そんなレベルだ。
「だけどいきなりお金持ちになっちゃったら、何もしたくなくなっちゃうかも?」
ブリットは相変わらず現実を見ている。確かに大金が手に入れば人間なんてどこの世界でも贅沢をしたくなるだろうしな・・・
「あり得ますね・・・異世界にまで来て引きこもり?ってのも残念すぎますね」
ヘンリクも同じ事を思っているのだろうか?
「私は買えなかった中級魔法書が欲しかったなぁ・・・」
などなど、皆の感想もそれぞれだ。
「だが王都へ行った時、ギルド本部がどんな対応をしてくるかでも、まだまだ大金が舞い込む可能性は捨てきれないぞ?」
冒険者は一攫千金を狙って冒険をしている。特に遺跡探索を専門で行っている冒険者の目的は顕著だ。
じゃあ俺たちの冒険はこの先どんな事を目標にすれば良いんだろう?そんな事を考えていたらブリットが思い出したように声を掛けてくる。
「ねえ、注文してた装備って、今日受け取りじゃ無かった?」
「いや、明日だろ?」
「ブリットが借りてる防具が今日いっぱいなんだから・・・」
「え~・・・カレンダーが無いからよくわからなくなる~!」
「じゃあちょっと覗いてくるか?皆も一緒にどうだ?」
そう言って皆で「ヤンの武具店」に押しかけた。やはり武具簿受け取りは明日で間違いは無かった。ブリットは気持ちが前のめりになってたので心底残念そうだ。その表情を見て店の親父も明日の午前中に仕上げると約束してくれた。受け取りはお昼と言うことになった。
エイナルは予備にと、短剣を購入していった。
その日の夜、いつものように「鹿の角亭」の食堂では、メンバーが揃って夕食を取っていた。初の冒険の興奮もあってか皆のエール酒の進みが早い。エイナルも普段はチビチビとしか飲まないのに、今日は珍しく1杯空けていた。
「さて、王都に行くことは確定したが、まだいつ出発するか解らん。ワシの予想だと、5日後か、10日後じゃないかと睨らんでおる。でだ、その時間を使って、また冒険の依頼を受けたいと思うのだがどうだろうか?」
「お!遂に石橋は叩いても渡らないヨーンが目覚めたか!」
ブリットに冷やかされる。
「とは言っても、明日はワシとブリットの防具が昼に届く。実際に出掛けるのは明後日と言うことになるとは思うがの。エステルの中級魔法書の進捗はどうだ?」
「ん。後一冊で全部読み終わるよ。これで私もパワーアップ!」
右手を突き出しブイサイン。心強いことこの上ない。
「あー・・・えっと・・・みんな、この世界に来てからの間、皆に心配掛けてスマンかった。一番異世界に憧れを持っていたワシが、一番この世界に臆病になっておったようだ。今回、初の冒険を終えて、冒険の楽しさを思い出せた。これからはもっと冒険のことを皆と相談したいと思う。よろしく頼む。」
そう言って俺は皆に頭を下げた。
「先輩!今更っすよ!いつもシナリオを作る時は慎重には慎重にと、作ってたじゃ無いっスか!」
エリックは、後輩に戻ったかのような口調に戻り声援してくれた。
「それでいて、冒険が始まると一番楽しそうにプレイする。」
エイナルは不敵にそう呟く・・・
「3日前まではシナリオ作りの期間。そしてこの3日間がプレイ期間。そんなところでしょう。」
ヘンリクはそう纏めてくれた。
「もっとみんなを頼って良いんだからね?」
「うん!もっと頼るべき!」
ブリットとエステルも、もっと頼るべきだと言ってくれる。
「ありがとう・・・でだ、舌の根も乾かない内でなんだが皆に報告がある。」
そう言って、俺は懐から一つの黄金の鍵を取り出した。
「なにそれ?」
皆一斉にのぞき込む。
「これはあの宝箱に入っていた鍵だ。何の鍵か解らんかったが、少し気になっての・・・黙って持ってきた・・・」
「うわ~・・・ホント何してくれちゃったのか・・・」
と、みんな呆れた様子だが、顔がニヤついている。
「ヒョッとしたらこの鍵が何かの役に立つこともあるかもしれんだろ?」
俺もこの鍵が何の役に立つのかさっぱり見当がつかない。ただ、厳重に保管された宝箱の中に入っていた鍵だ。この世界のどこかにこの鍵に合った扉があるかもしれない。そう思うとワクワクしてくる。
俺はもうこの世界ではGMじゃない。いち冒険者としてみんなと一緒に冒険をするんだ!その手がかりとなりそうな物はしっかり確保する。と改めて心に誓った。




