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初めての冒険

 武具店へ行っていたブリットが戻って来た。

「防具は注文してる防具が出来上がるまでレンタルで貸してくれるって!」

「ほう、そりゃ良かった。」


「調整があるから明日の朝イチに取りに来いって言われたから、明日また行ってくるよ。」


 ブリットのテンションはかなり高い。遠足前の子供のような感じだ。

 そんな会話をしているとヘンリクも冒険者ギルドから戻って来た。


「馬車は明日の午前から3日間の予定で借りられるように手配しておきました。受け取り場所は南の大通りにある馬車の集合所です。貸出料は前金でしたので私が立て替えておきました。」


「では明日の午前に出発で良いかの?」

「「「「「異議無し!」」」」」


「念のため回復薬などは各自用意しておくこと。3日間の日程だから保存食のチェックも忘れないようにな。」


 そう言えば馬車の運転とか、自炊とかって出来るんだろうか?そう言うのってスキルとして持ってるのかな?少し疑問に思ったのでフェアリーのニーニャに訪ねてみる。


「冒険者としての基本スキルは皆さん取得されてますよ。馬車も操作出来ますし、鍋などがあれば、狩りが出来れば自炊も可能ですよ。」


 さも当たり前のように回答された。しかし、行くと決まってからのこの手際の良さは何だろう・・・


 ああ!そうだ!俺たち元々旅行会社で働いてたんだった。馬車の手配って言い換えればバスの手配と一緒か?世界が違っても旅をするのに必要な条件はそこまで大きく変わらないと言うことか・・・。


「なに?ヨーンがニヤニヤしてるよ?どうしたのさ?」


 ブリットが怪しげに俺の顔をのぞき込む。


「いやなに、手際の良さが旅行業やってる時みたいでついな・・・」


「あ~!確かに!必要なものとかは何となくわかっちゃうよね?まあ、この世界独自のものもあるだろうから油断は出来ないだろうけど。」 


 皆も納得したようにうなずく。


 そう言えば転生する前は、冒険の夢を見た朝は今日も頑張ろうって気になってたのに、いざ異世界転生して冒険が出来る環境になった途端にワクワクしなくなっていたな・・・。と、そんな事を思った。


「では最終確認だが、明日朝イチにブリットは防具を借りに言ってくれ。その他は足りないものの調達で良いな?午前の早い時間に南の大通りにある馬車の集合所に集合。目的地はここから西へ1日行った場所にある盗賊の元アジト。何があるか解らんからそこで1日。そして帰路に1日計3日間の予定で良いな?」


「何かツアーコンダクターみたい・・・。」


 エステルが珍しく突っ込んでくる。


「癖だ、癖!添乗員やってると皆そんなモンだろ?」

「まあ、確かに・・・。」

「せっかくの初冒険なのに、何か締まらないなあ・・・。」

「まあそう言うな。行き当たりバッタリよりマシだ。」


 皆のニヤニヤは止まらない。


 皆から口々に突っ込みを入れられるが、身についた癖はなかなか取れない。明日は初の冒険だ!緊張感を持って楽しむとしよう。



 翌朝はいつもより早く目が覚めた。俺も人のことは言えないようだ。

冒険の準備は昨日の夜に出来ている。回復薬や保存食などもゲーム中は使ったことがなかったのでそのまま魔法鞄の中に入っていた。


 それ以外にも基本道具というのだろうか?テント、寝袋、ロープ、火打ち石、ナイフ、ランタン、水袋、木のコップ、木の皿、フォーク、スプーン等の食器類等が入っていた。


 それらを昨日購入した上位互換の魔法鞄に仕舞いなおしてある。今までの魔法鞄は予備として持っておく。


 この魔法鞄も万能という訳ではない。入っている重量を10分の1に減量してくれるアイテムなのだ。小柄で筋力の無いエステルではたとえ10kgでも重く感じるだろう。


 それらを念のために再度確認しているとヘンリク、エリック、エイナルも起きた。


「おはようございます。早いですね。」


 ヘンリクが声を掛けてきた。


「おはよう。早く目が覚めてしまってな。俺も人のことは言えんようだ。」

「初めての冒険だからな。だからって気負いすぎるなよ?」


 エイナルも声を掛けてくる。


「ああ、今は気持ちも落ちついとるよ。皆も大丈夫か?」

「昨日のうちに荷物は確認してありますからね。大丈夫ですよ。」


 エリックもこれといった気負いもなく返事を返してくる。


「じゃあ、女性陣に声を掛けて出発するとしようかの。」


 そう言って、部屋を出ようとするとノックをする音が聞こえた。


「おはようございます。もう起きてますか?」


 エステルの声だ。既に支度も出来ていたのか、装備を調えニーニャと一緒に扉の前にいた。俺は扉を開けて部屋へ通す。


「何じゃ。早いのう。ん?ブリットはどうした?」


ブリットが一緒ではないことに気付き訪ねてみる。


「ブリットは「防具を受け取ったら男部屋に集合」と行ってもう武具屋に向かいました。」


 早!店開いてるのか?そんな心配をしていたら遠くからダダダダダ!!と走る音とともにブリットが来た。


「はあはあ・・・、お待たせ!待った?」

「いや、エステルから今話を聞いたばかりだ。防具は準備出来ていたのか?」


「ジャストタイミングだった!まあ借り物だけど3日ぐらい大丈夫でしょ?」


 元々中古だったものなのか、見た目は古く感じるが手入れはしっかり出来ているようだった。その防具をその場で装着したブリットは、


「じゃあ早く出発しましょう!」


 と、声を発したのだった。


 待て待て!男性陣はまだ防具を装着してない!慌てて男性陣も防具を装着し、南の大通りにある馬車の集合所へ向かった。結局皆で行動することになったか。


 南の大通りにある馬車の集合所へ到着すると、俺たちが使う馬車は既に用意されていた。


 そして馬車を受け取り西へ向かって出発させた。


 最初誰が御者をするかで揉めたため、じゃんけんで順番を決めた。1番エリック、2番ヨーン、3番ブリット、4番エイナル、5番ヘンリクの順になった。


 エステルはその見た目から御者をするのはマズいだろうことと、中級魔法書を読む時間が惜しいとのことで順番から外した。

 

 西へ向かう街道を荷馬車は順調に進む。俺は地図を片手に、エステルは中級魔法書を読んでいる。


「荷馬車の中結構揺れるのによく酔わないね・・・」


 俺が顔を上げて声のする方へ顔を向けると、ブリットがその光景に酔っているのか青い顔をしていた。


「添乗員が乗り物酔いなんて逆に恥ずかしいぞ?」

「うん!その通り!全然平気!」


 俺は添乗員の心得みたいなことを言い、エステルはそれに同意する。


 まあ、確かに馬車の中は揺れるが、オフロードコースを高速で駆け抜けている訳ではない。それに地図を確認しておかないと、山賊のアジトのある脇道を見逃す恐れがある。実際にこの街道を馬車で走るのは今回が初めてなのだ。


 午前中は何事もなく街道を進んでいく。午後は俺が御者台に乗った。操作は案の定体が勝手に反応する。頭の中ではどう手綱を操作すれば馬が動いてくれるのか理解が進んでいく。山賊のアジトがある脇道を見つける頃には自然と操作出来るようになっていた。ちなみに乗馬の技能は冒険者の技能ではないらしい。


 ここから北へ少し行くと山賊のアジトがあった場所だ。

 

 ここからはブリットに御者を務めて貰う。日が沈む前にアジトに到着出来れば良いのだが、そうで無ければ途中開けた場所で野営となる。本来なら余裕を持って準備する必要があるのだろうが、ギリギリで間に合いそうだ。


 どうにかこうにか日が沈む前に山賊の元アジトに到着出来た。荷馬車を止め、早速事前に決めた役割分担をこなす。


 ブリットとエイナルは夕飯になりそうな獲物を探しへ。

 ヘンリクとエリックはたき火用の薪拾い兼安全の確認。

 

 俺は周辺から少し大きめの石を集め、たき火用の風よけを作り、薪に火をおこす。山賊が使っていた洞窟なので残骸となっていた石と木っ端を集めれば簡単に用意が出来た。


 暗くなる前には戻るように言ってあるので、そろそろ皆戻って来るだろう。

最初に戻って来たのは、ヘンリクとエリックだ。薪を両手に抱えている。


 その後、ブリットとエイナルが戻って来た。両方何か持っている。


「ただいまぁ~!近くの川で魚取ってきたよ!」

「俺はウサギを捕まえてきた。」


 エイナルの持ってきたウサギは既に血抜きも終わっているようだ。


「早速夕飯の支度をしましょう!」


 そう言って、ブリットとエイナルは手際よく獲物を捌き始める。


「エイナル、ウサギの捌き方ってスキルなのか?」


「そうだな。体が勝手に動いてる。ただ血抜きとか捌く時脳がシャットダウンしている感じだぞ」


 と苦笑いしながら言った。 

 エイナルは、狩人兼シーフだ。ナイフの扱いも様になっている。


 ブリットも手際よく塩をまぶした魚に枝を通し、たき火の周りに刺していく。


 エイナルも準備が出来たのか、ウサギの肉をたき火で焼いていく。


「初冒険の初野営でこんなに順調に進むなんて・・・」


 俺は正直に言ってしまえば今夜の野営は干し肉の盛り合わせになると考えていた。それどころか、モンスターに遭遇しないのか?今日中にたどり着けるのか?不安はいくらでもあった。


「ふふん!これは私のおかげなのよね!」


 そこにニーニャが声を掛けてきた。


「幸運値が上がっているおかげと言うことか?」


 俺が驚いてニーニャを見ると、


「全部が全部とは言わないわよ?モンスターに遭遇しないとか、魚が人数分捕れたとかそのくらいよ?川を近くに引き寄せるとか、日が沈むのを遅らせるなんて出来ないし。」


 ニーニャは目を逸らしながらそう言った。


 モンスターに遭遇しなかったから予定より早く目的地にたどり着けた。その分余裕が出来たから狩りも出来たと言うことか。ニーニャ様々だな。


「いや、素直に感謝する。」


 俺はニーニャに礼を言った。


「さあ!魚が焼けたわよ~!」


 そう言われて、メンバー全員でたき火を囲い焼き魚を口にする。初めての冒険1日目、初めての野営の味は旨かった。


「明日は、この洞窟の奥へ向かうが、確か突き当たりになっているはずだ。その突き当たりに隠し扉がある。エイナルはその隠し扉を見つけて欲しい。」


「解った。難易度は高かったのか?あと罠だな?」


「いや、レベルさえ達していればそんなに難しいと言うことは無かったはずだ。罠も無い。今のエイナルならたやすく発見出来るだろう。ただ、ゲームとの齟齬も考えられるから、本番は慎重に頼む。」


「じゃあ、今日は早めに休みますか?火の番はどうします?」

「やっぱりじゃんけん?」

「火の番は念のため2人制で3交代にしよう。」

「そうねうっかり寝ちゃうってこともあるものね。」

「ああ、じゃあ始めようか!じゃ~んけ~ん・・・ポン!・・・・・」


 結果は、1番はエステルとヘンリク、2番はエイナルとエリック、3番は俺とブリットの順番になった。



 俺はエイナルに起こされ目を覚ます。俺とブリットの番になったようだ。日が昇るまで火の番をする。たき火のはじける音が妙に耳につく。遠くからは狼らしき動物の遠吠えも聞こえる。よくこんな状況で眠れていたなと今更ながらに思う。不意にブリットから小声で話しかけられた。


「ヨーン、またニヤニヤしてるよ?」


 そうか?・・・そうかもな。今俺は冒険をしているんだ。その実感が今も体の中を駆け巡っている。夢にまで見た冒険を今しているのだ。そう思うと自然とニヤニヤしてしまうのだろう。


「良かった。やっとテーブルトークをしている時の顔になった。」


 ブリットはそう言って膝を抱えた上に顔を乗せてこちらを見ている。そして楽しそうな、ホッとしたような顔で言った。


「え?」


「今までのヨーンって何か私の知っているヨーンじゃ無かったんだもん。テーブルトークをしてた時は、皆をどうやって楽しませようか一生懸命考えてくれてたことがゲームをしていても伝わってきてた。だけど、異世界に来てからのヨーンは全然楽しそうじゃ無かった。だけど今のヨーンは凄く楽しそう。」


 ああ・・・おれは異世界に来て現実の冒険に対して臆病になりすぎて、皆に心配を掛けてしまっていたのか・・・


「ブリット、ありがとう。冒険に引っ張り出してくれて。・・・手段は強引だったが。」


「どう致しまして。皆も心配してたんだから、街に戻ったら皆にもちゃんと言いなさいよ?」


「ああ、そうする。」


 その後は皆を起こしてしまう心配もあり、二人とも沈黙を守った。その間この3日間の出来事を振り返っていた。


 翌朝頃合いを見て全員を起こす。今日はこの洞窟の奥を探索だ。記憶違いで無いことを祈る。緩やかな下り坂の洞窟を100mほど進むと、予想通り突き当たりにぶつかる。素人が見ればただの突き当たりだ。途中枝分かれする場所も無かった。


「エイナル、たぶんここで合っていると思う。解るか?」

「どれ・・・チョット待ってろ。」


 そう言ってエイナルは壁や床を念入りに調べ始めた。


「・・・あった!これだな。」


 エイナルはそう言って岩の一部を押し込む。それと同時に突き当たりの壁が横へずれていく。やはり隠し扉はあった。中に入ると部屋が一つ。真ん中には宝箱が置かれている。エイナルは宝箱に罠が無いことを確かめ鍵を開ける。中に入っていたのは、古代王国期の金貨と宝石類。そして装飾の施された指輪やブレスレットなど。俺が予想していたよりも多くの財宝が眠っていた。


「おいおい!これでレベル相当の金額か!?どう見てもひと財産だぞ!」

「いや・・・俺も驚いてる。」

「とにかく持ち帰って鑑定して貰おう。」


 そう言って、宝箱を数人がかりで持ち上げて馬車へ運び込む。中程まで進んだ所で、かすかな地響きが聞こえてくる。ゴゴゴゴ・・・奥の方から聞こえるこの音はまさか!?


「ヤバい!洞窟が崩れるぞ!急げ!!」

 

 そう言って大急ぎで宝箱を運び出す。そして運び出した直後、洞窟の出口から大量の砂埃が巻き上がってきた。


「ああ・・・これトラップだ。宝箱の重量が減ると発動するヤツ・・・」

「あぶねぇ・・・ヨーンの筋力が無かったら箱ごと運ぶ発想は無かったな。」

「その場でのんびり小分けにしてたらあっという間に生き埋めだったな。」


 みんな洞窟の出口でひっくり返っていた。間一髪だった。

 振り返って見てみれば洞窟は跡形も無くなってしまっていた。


「ハハッ・・・!ハハハハッ!」


 仰向けになり空を見上げていたら、自然と笑いがこみ上げてくる。続いて皆も笑い出す。トラップに引っ掛かかりながらも生き残った!


 帰るまでが何チャラと言うが、ある意味目的の半分は達成した。


 引っかかる点はある。このトラップは設定には無かった。やはり違いがあるってことだ。だけど今は生き残ったことを喜ぼう!


 そう言えばニーニャは?と思って辺りを見渡すと皆と同じく仰向けになって笑っていた。彼女ももう立派な俺たちの仲間だな・・・そんな事を思いつつも誰とも無く帰りの準備を始めて行く。


 馬車には無事に宝箱を積み込んだ。後は帰路につくだけだ。もう一晩洞窟で野営をと考えていたのだが、その洞窟は無くなってしまった。


 空を見上げると太陽はほぼ真上にある。と言うことは丁度昼頃と言うことだ。街まで直行しても深夜になってしまうだろう。今日は帰りの道中で野営となりそうだ。


 馬車の真ん中に豪華な装飾の施された宝箱があるのは目立つこと極まりない。目立たないように毛布を被せて帰りの道中を進めていく。御者はエイナルだ。案の定街まで後半日というところで夕方になってしまった。夜中になってでもイチ早くハレックの街に帰り着きたかったが、生憎到着する予定の時間では返却の窓口は開いていないだろう。


 そう結論づけて開けた場所を見つけ野営を行う。野営の順番は初日と同じ組み合わせと順番で行った。ただ、宝箱のことを考えると簡単には寝付けない。皆も同じだったのだろう。皆寝不足気味な顔だ。翌朝は早めに出発しハレックの街には午前中に到着した。


 さて、この宝箱の中身を見たら冒険者ギルドの方々はどんな反応を見せるやら・・・見せても居ないのに今から不安がいっぱいだ。


こうして俺たちの初めての冒険は幕を閉じた。

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