第11話上陸
第11話上陸
「ほれ、起きろ夏」
アダムは夏の頬を指でリズム良く突っつく。
夏は顔をしかめながらゆっくりと目を開いた。
「おい、セクハラで訴えるぞ。 指をどけろ」
「はーい、元気そうで良かったです」
アダムは素早く指を引いてコップを渡した。
夏は1号に固定されていた座席から、手を伸ばし水を一気に飲み干した。
「状況は?」
「状況は俺と夏と勇気以外は衝撃で気絶、部屋で休ませている。 船の状況は俺が計器の味方がよく分からなくて何がどうなってるかわからない」
夏は話を聞くとすぐにコントローラーに向き合い操作を始めた。
夏がコントローラーの操作をし始めしばらく経つと。
「無い!ない!ない! 重力を起こすのに必要な電池がない!」
「あわてるなよ、どうしたんだよ」
アダムは慌てる夏を落ち着かせるように声をかける。
「無いんだよ! 重力を発生させる為に電磁波を放射している装置があるんだけど、その装置の核となる電池が無い」
「電池ってそんなの変わりがいくらでもあるでしょ」
「ただの電池じゃない、強力な小型の黄色い宝石のようなものなの。 私の研究所の全ての技術を搭載した、この世に1つしかない物なの」
「じゃあとりあえずこの辺りを飛んで宝石が事故の衝撃で落ちてないか調べてないとだな」
「それも無理。 損傷はどうにかするとしてこの船は電磁波で周りの重力を歪ませて、そこからパチンコの要領で後退して、重力が元に戻ろうとする力で飛んでるの。
今電磁波発生装置が使えない状況ではせいぜい船内の重力を地球上重力に合わせるぐらいしか出来ないよ」
「そんな大事な宝石だったのか、俺が外に出て宝石を探してくるっていうのは?」
「それも良いかも知れないけど半径20キロに宝石の反応は見られなかったから無駄だと思う」
「そうか、なら最初の予定通りここでの月面発展生活を始めて、資材が揃い次第探索に出かけるっ事にしよう」
「わかった、幸いにもここでのスタートを切るために必要な物は全部無事みたい」
「良し、勇気! 君がこの隊で月面に上陸する第1号だ!」
「正気なの!?」
夏は驚いた様子でアダムにそう言った。
「この月面において、重力を操れるのはものすごく大事な事だ。 勇気なら大丈夫だ」
◆◆◆◆◆◆◆
「ハッチ展開まで5秒前、4.3.2.1.0」
事故から回復したりんごは勇気の月面への上陸の為のアナウンスを行なっていた。
「ロボット1号による宇宙服の各種調整最終確認中…………クリア、異常無し」
勇気は1号によって宇宙のボルトを締められ、
月面に空気は存在するが濃度の調査が必要なので良くテレビで見るような金魚鉢のようなガラスのヘルメットを被らされた。
宇宙服に関してはテレビで見るやつよりかはだいぶスマートになり、白いジャージを着てるぐらいの感覚で、頭と体のバランスはおかしいものになった。
靴はサイズの大きい長靴を履いてる感覚だ。
「勇気、宇宙服の感覚になれるのに最初は苦労するだろうが、焦らずゆっくり、一歩一歩踏み出していってくれ」
「わかりました。 俺行きます! こんなチャンスを与えてくれてありがとうございます。
今俺が踏み出すこの一歩は何気なく毎日一歩一歩、歩くたびに思い出す。 そんな一歩になると思います」
こうして勇気は人間にとっては小さな一歩だが人類にとっては大きな一歩のような一歩を月面に踏み出したのだった。